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2013年5月18日 (土)

カーラン & アペル『善意で貧困はなくせるのか?』(みすず書房) を読む

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ディーン・カーラン & ジェイコブ・アペル『善意で貧困はなくせるのか?』(みすず書房) を読みました。上の画像に見られる通り、副題は「貧乏人の行動経済学」、英語の原題は More Than Good Intentions です。日本のような先進国の国内の貧困問題ではなく、世界経済における開発経済学から見た発展途上国の貧困をテーマにしています。まず、出版社のサイトから本書の紹介を引用すると以下の通りです。

善意で貧困はなくせるのか?
マイクロファイナンスのパンフレットにきれいな女性の写真を載せると申し込みは増える? 検査を受けた人にお金を払えばHIV感染率は下がる? 貴重な善意を最大限に活かすためにはどうしたらいいの?
ガーナ、ケニア、南アフリカ、インド、フィリピン、ペルー、メキシコ……理論と現実が一致しない途上国の複雑な世界にわけいって、そこから「クール」な答えを、次々と導き出している <新しい経済学> のいまを紹介。
人間心理が陥りがちな落とし穴をやんわりと回避させるための後押し(=ナッジ)の手法をふんだんに盛り込み、開発経済学の新しい知見を一般向けにやさしく語ります。
その新しさの特徴は、開発プロジェクトの「なにがうまくいって、なにがだめなのか」を社会実験ではっきり実証する点、そして人間の非合理性を考慮した新しい発想に基づいている点にあります。

昨年7月13日付けのエントリーで同じ出版社のバナジー&デュフロ『貧乏人の経済学』を取り上げましたが、『善意で貧困はなくせるのか?』の著者たちの大学院での指導教員がバナジー&デュフロになりますので、ほぼ同じラインの本であるといえます。訳し方はいろいろあるんでしょうが、本書では「ランダム化比較試験」と訳されている Randomized Controlled Trial (RCT) を途上国で実験し、マイクロクレジット、貯蓄、農業、教育、医療などについて貧困撲滅のための分析結果を提示しています。
開発経済学にもいろいろな考え方があって、『貧困の撲滅』などで示されたサックス流の無償援助を重視する方向と、『エコノミスト南の貧困と闘う』で示されたイースターリー流の市場を活用する方向があります。『貧乏人の経済学』では供給ワラーと需要ワラーと表現して、また、本書では、いずれも p.279 において「価格のせいで保護を受けられない人を作ってはならないというサックス」と「資源とそれを動員するのに必要な意志は、どちらもあまりにも貴重で希少だから無駄にはできないというイースターリー」と表現して、やや対立的に考えられがちですが、実験経済学の手法でベスト・プラクティスを追求しようとするのが本書の、そして、『貧乏人の経済学』の立場です。なお、ついでながら、私はサックス教授の近い考え方であることはすでに書いたような記憶があります。
本書の末尾に、東京大学の澤田教授による解説が収録されていて、開発経済学の一般向け入門書として、5年前であれば、ジェフリー・サックス『貧困の終焉』、ウィリアム・イースタリー『エコノミスト南の貧困と闘う』、ポール・コリアー『最底辺の10億人』となろうが、今では、バナジー&デュフロ『貧乏人の経済学』、モーダックほか『最底辺のポートフォリオ』、そして本書カーラン&アペル『善意で貧困はなくせるのか?』であろうと喝破しています。実は、私は専門分野でありながら『最底辺のポートフォリオ』は未読だったりしますので、非常に興味深い指摘だと思いつつ読み終えました。

ミステリの世界に安楽椅子探偵という分野があり、日本を代表するような開発経済学に基づく援助実施機関に属したこともある私なんぞも、開発経済学の分野ではフィールドワークに出ることもなく、データを取って数量分析をするに限られた活動なんですが、最近では、言葉は悪いものの、地べたをはいつくばるような臨場感にあふれ、最前線のフィールド研究から得られる知見に目を奪われるものがあります。そのひとつの成果が本書といえます。国際化の進んだ現代社会で海外の貧困に接する機会も格段に増えたことですし、専門分野にかかわりなく大いにオススメです。

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