村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋社) を読む
村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋社) を読みました。いうまでもありませんが、話題の本です。それなりにメディアに目を通す教養ある日本人であれば、この書名は何度か耳にしたことがあるんではないかと思います。
ジェットコースターのように目まぐるしく起伏に飛んだストーリーだった前作の『1Q84』と違って、淡々と物語が進みます。タイトルにある名前が主人公で、この主人公を除いて姓に色が入っており、アカ、アオ、シロ、クロと呼ばれるが、ミスター・ブルー、ミス・ホワイトなどとも表記されている場合もあり、ポール・オースターの『幽霊たち』を思い出しました。主人公の多崎つくるは高校生のころに他の男女2名ずつの友人と「乱れなく調和する共同体」(p.20) を形成してボランティア活動をしていたんですが、つくるだけが東京の大学に進み、名古屋の地元に残ったほかの4人から大学2年生の時に絶縁されます。それから16年を経て、つくるは36歳の鉄道の駅を作るエンジニアとなり、2歳年上の女性と結婚まで視野に入れた真剣な付き合いをするうち、なかなか進展しない2人の関係の突破口的に、過去の絶縁の理由を探り始め、名古屋で、また、フィンランドに行ってまでかつての友人達と直接話をして過去を解明して行きます。自分自身では特徴がない(=色彩のない)と考えているつくるが、実はどのように仲間から見られていたか、興味深い観点です。ミステリタッチの要素はあるんですが、謎解きミステリのような読み方はオススメ出来ません。あるがままに読むべきです。また、大学の後輩の灰田やその灰田の父の話に出てくる緑川など、無理やりに色彩を持つ名前の人物のエピソードについては、結局、やや消化不良的に終わったりします。このあたりは気にしてはいけません。
今までの村上作品の中で強引に関連付ければ、やや『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』のラインに近い気もしますが、私はこの最新作よりも『1Q84』の方を評価します。でも、近々ノーベル文学賞を授賞されるかもしれませんし、これだけ話題になって売れまくっている本ですので、私のような村上ファンでなくても読んでおいて損はないと思います。
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