ジョイス・キャロル・オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』(河出書房新社) を読む
ジョイス・キャロル・オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』(河出書房新社) を読みました。この作者らしい不思議な雰囲気をたたえ、少し不気味で恐怖感を与えるようなストーリーを集めた自選の中短篇集です。まず、出版社のサイトから本の紹介を引用すると以下の通りです。
この本の内容
有名私立中学生が一学年下の美しい少女を誘拐する表題作のほか、「私の名を知る者はいない」「化石の兄弟」「タマゴテングタケ」「頭の穴」など計7篇を収録。短篇の名手による傑作選。
ミステリー! ホラー!! ファンタジー!!!
心の暗闇にある何かから目が離せない。
現代アメリカ随一の短篇の名手が自ら編んだ傑作集
ブラム・ストーカー賞、世界幻想文学大賞受賞
世界がひどく残酷だということを、
また思いだしたい気分の夜。
ぜひこの本を読んでみてほしい。
きっと満足できるから。 ——桜庭一樹(小説家)
美しい金髪の下級生を誘拐する、有名私立中学校の女子三人組(「とうもろこしの乙女」)、
屈強で悪魔的な性格の兄にいたぶられる、善良な芸術家肌の弟(「化石の兄弟」)、
好色でハンサムな兄に悩まされる、奥手で繊細な弟(「タマゴテングタケ」)、
退役傷病軍人の若者に思いを寄せる、裕福な未亡人(「ヘルピング・ハンズ」)、
悪夢のような現実に落ちこんでいく、腕利きの美容整形外科医(「頭の穴」)……
1995年から2010年にかけて発表された多くの短篇から、著者自らが選んだ悪夢的作品の傑作集。
ブラム・ストーカー賞(短篇小説集部門)、世界幻想文学大賞(短篇部門「化石の兄弟」)受賞
副題は「ジョイス・キャロル・オーツ傑作選」となっています。自選の短篇集ですが、表題作の「とうもろこしの乙女」はこの本の半分近く、356ページのうちの146ページを占め、圧倒的な存在感を放っています。誘拐という犯罪行為を軸に、被害者の母親と加害者の中のリーダー格の少女を含め、それぞれの立場の登場人物の心の動きと個別具体的な行動を克明に描き出していて秀逸としかいいようがありません。双子の兄弟を主人公にした「化石の兄弟」と「タマゴテングタケ」も、双子でありながらここまで異なった個性を持つ人物を想定するオリジナリティにびっくりします。
恥ずかしながら、私はこの著者の作品をまとまった作品集で読むのは初めてです。それまでは、何らかのアンソロジーの中のひとつの短編作品として読んでいたような気がします。おそらく、最も直近で読んだのは、岸本佐知子さんの翻訳で『野性時代』に掲載されたいくつかの作品を訳者自身がアンソロジーに編んだ『居心地の悪い部屋』に収録された「やあ! やってるかい!」だと思うんですが、上の引用した出版社のコマーシャルにもある通り、「ブラム・ストーカー賞受賞」が売り物となっているわけですから、それなりの不気味さを含む作品であることはいうまでもありません。でも、オーツの力量を遺憾なく発揮した短篇集ですし、私の知り合いに従えば、「オーツの入門編として最適な1冊」ともいえそうです。
ここ数年、ノーベル賞の季節になれば、文学賞では決まってオーツと村上春樹の名が上がります。残念ながら、この2人のような「小さな物語」の作家にはなかなかノーベル賞は回らず、ついつい「大きな物語」の作者に授賞されがちなんですが、今年こそオーツか村上あたりが受賞するかもしれません。期待したいと思います。
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