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2013年7月12日 (金)

今週、今日までに読んだ経済書から

今週になって今日まで、各地の図書館から借りて読んだ経済書のご紹介です。3連休の読書案内には遅過ぎますが、何ら、ご参考まで。

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まず、安倍総理の経済ブレーンの1人の著書で、本田悦朗『アベノミクスの真実』(幻冬舎)です。中身はタイトルの通りにアベノミクスを極めて平易に解説しています。安倍内閣の経済政策の3本の矢のうち、明確に第1の矢である金融政策がアベノミクスの本質である点を主張しており、世間一般の理解と異なって、また、安倍総理もそのように発言している、第3の矢の成長戦略を重視する立場を一蹴しています。これは重要なポイントだと私は受け止めています。特に、第2章の Q&A を私は興味深く読みました。バブルについては、これまた明確に、p.124 からヨーロピアンな BIS ビューを否定して、アメリカンな FED ビューを支持しています。リフレ派のエコノミストである私にもほとんどに同意できる内容です。特に、p.134 にあるように、リスクのない政策はないわけで、何もせずにデフレのまま沈没するよりはリフレ政策で日本経済の再生を図る方が明らかにリスクは小さいと私も考えています。ただ、ほぼ完全に同意できる内容であるという前提で1点だけ疑問に感じるのは、p.86 で展開されている日銀法の改正です。私もホンワカとそう思わないでもないんですが、まだ確信する段階には達していません。それから、上の画像にも見える通り、表紙にデカデカと「安倍総理公認」の文字が踊っていますが、「はじめに」の p.10 でも、「あとがき」の p.217 でも、この「安倍総理公認」は否定していて、あくまで著者の個人的な見解と断っています。私のように「当然そうだろう」と受け止める向きにはいいんですが、こういった宣伝ベースの売上げ極大化を図らんとするがごとき表現に戸惑う読者もいるかもしれません。なお、この本と同様に、安倍総理の経済ブレーンの1人といわれる著者の作になる高橋洋一『アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる』(講談社) も話題なんですが、図書館の予約待ちの順番がまだ回って来ていません。

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次に、著者が日銀副総裁に就任する直前に出版された岩田規久男『リフレは正しい』(PHP) です。黒田総裁と岩田副総裁らが発令されたのが、白川総裁の辞職した3月19日の翌日の3月20日だったんですが、この本のいわゆる奥付けを見ると第1版第1刷は3月18日となっています。この本もアベノミクスのうちの第1の矢である金融政策を論じたものですが、返す刀で財政政策についても第3章において消費税率引上げに対する懐疑論を展開しています。財政についてはドーマー条件などを論じて、税率の引上げにより税収増を図るよりも、名目GDPの増加から自然増収も含めて税収の増加が実現されると主張しています。確かに、来年4月の消費税率引上げを待たずに、2012年度の税収が1.3兆円上振れしたと、例えば、日経新聞の記事「アベノミクス影響じわり 昨年度税収1.3兆円上振れ」産経新聞の記事「12年度の税収1.3兆円上ぶれ アベノミクスで法人税収増」などで報じられているところです。一定の説得力を持つ議論ですが、現時点ではまだ実証的な研究成果が出ていませんので、どこまでの消費税率の引上げが必要かは議論の分かれるところかもしれません。
それから、この『リフレは正しい』でも、先の『アベノミクスの真実』でも、「先進国の中でデフレに陥ったのは唯一日本だけ」という観点から日銀批判を展開していますが、実は、スイスが消費者物価上昇率のベースで一昨年10月からマイナスを続けており、もうすぐ2年に達します。最近、同業者エコノミストとの意見交換で知ったばかりで、私も何ら詳しい情報があるわけではありませんが、今後の研究が待たれるところです。以下はスイス国立銀行 Swiss National Bank の Monthly Statistical Bulletin からの引用です。ご参考まで。

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さらに、メディアなどで人気のエコノミスト著書である井上哲也『異次元緩和』(日本経済新聞出版) です。著者は日銀OBであり、野村総研において「金融市場パネル」を運営しています。ノッケの第1章のタイトルが「日銀は負けたのか」でしたので、いかにも日銀OBらしい発想のタイトルだと感心してしまいました。黒田総裁と岩田副総裁が乗り込んだ日銀の反応は、旧来の翁理論に心服して面従腹背で臨む、あるいは、完全に総裁や副総裁ら執行部の主導する政策委員会の意向に従って淡々とテクノクラートに徹する、のどちらかではないかと私は想像していたんですが、どちらでもなく冷静に対応する著者のような日銀マン的な心情も興味深く受け止めました。疑問に感じたのは、アベノミクスのうちの第1の矢の金融政策と第2の矢の財政政策は「時間を買う政策」であって、第3の矢の成長戦略だけを重視する、いわば、メディアも含めて多くの誤解と同じ見方をしていて、アベノミクスの本質が第1の矢の金融政策にあることを見落としている点です。昨夜のエントリーでも書いたように、第2の矢の財政政策はこの本のお説の通り長いラグを有する第1の矢の金融政策の効果が出るまでの「時間を買う政策」なんですが、第1の矢と第2の矢をいっしょにして第3の矢までの「時間を買う政策」と見るのは正しくありません。
逆に、今までの議論で見かけたことがなく、「金融市場パネル」の運営者の立場からのポジション・トークであることが明らかなんですが、第5章で展開されている独立性と国民の視点に関する議論はとても興味深かったです。すなわち、金融政策の独立性を重視するか、金融政策にもっと国民の意見を反映させるスキームに転換するか、の議論です。私自身はかねてより国民主権の下で金融政策やその実施主体である中央銀行も主権者たる国民のチェックからは逃げられないし、国民生活に直結する物価を政策目標にしている限り、専門家にすべてを任せるのではなく、国民の意見が適正に反映される金融政策決定システムが必要、と考えています。ただし、この視点を突き詰めると日銀法改正に帰着します。おそらく、私のゲスの勘ぐりで、著者は日銀法改正なんて視野になく、ご自身の運営する「金融市場パネル」の意見が日銀の金融政策決定に何らかの影響を及ぼすようにしたい、という程度の認識だろうと勝手に推測しているんですが、繰返しになるものの、日銀法改正までは私はまだ確信できません。

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最後に、経済書というよりも伝記のたぐいかもしれませんが、シルヴィア・ナサー『大いなる探求』(新潮社) です。著者はドイツ生まれでニューヨーク・タイムズの経済記者として活躍したジャーナリストなんですが、世界や日本で有名になったのは『ビューティフル・マインド』の作者としてではないでしょうか。映画化されてアカデミー賞を授賞されました。ゲーム理論を創始した数学者・経済学者のジョン・ナッシュを主人公に、重い統合失調症になって酷い幻覚や幻聴に悩まされながらノーベル賞を受賞するまでを描いた伝記です。映画が封切られた2001年、我が家はジャカルタに住んでいて、私はビデオを借りて見た記憶があります。クラブの部屋でみんながペンを置く場面が印象的でした。この本も何人かの経済学者の伝記の形を取って、経済学史をひも解いています。でも、視点が経済学にあるのではなく、『ビューティフル・マインド』と同じで経済学者、というかその周囲の人も含めた人物にスポットが当てられています。
この本は3部18章から成り立っていますが、第2部から第3部の冒頭、すなわち、第1次世界大戦後の対独講和交渉から第2次世界大戦後のブレトン・ウッズ体制の成立まで、ほとんどケインズが主役です。その当時のことで、シュンペーターやハイエクなどは完全に脇役です。せいぜい、米国のアーヴィング・フィッシャーが1929年に始まる大恐慌との関係でそれなりに大きく取り上げられているくらいです。今年2月15日のエントリーで取り上げたニコラス・ワプショット『ケインズか ハイエクか』(新潮社) も同じ趣旨でケインズとハイエクに注目して経済政策論争を取り上げていました。もっとも、始まりはアダム・スミスではなく、マルクスとエンゲルスであり、やや奇妙な気もします。最終章を飾るエコノミストはやや強引にアマルティア・センです。強引なんですが、私は納得です。ほぼ経済学の本流を取り上げており、最近のノーベル経済学賞で注目されているゲーム理論や実験経済学やメカニズム・デザインなどは『ビューティフル・マインド』で十分だったのかどうか、あまり見かけません。

世の中の本屋さんにはアベノミクス本とアンチ・アベノミクス本がいっぱい並んでいます。何度か同じ趣旨を書きましたが、アベノミクスについては経済の現実でもうすぐ評価が決まると私は考えています。特に、アンチ・アベノミクス本については、このブログの2月26日付けのエントリーでも紹介した吉川教授の『デフレーション』から賃金をターゲットにした論調がメディアでも、出版界でも増えた気がします。もちろん、吉川説の前から賃金を重視していたエコノミストも少なくありません。日本総研の山田久さんなんかがそうです。でも、吉川教授の『デフレーション』の後から尻馬に乗ったように賃金説を唱え出したエコノミストについては、眉に唾をつけてチェックする方がいいかもしれません。いずれにせよ、事実によってアベノミクスの評価が出るまで2-3年でしょうから、それほど時間はかかりません。アンチ・アベノミクスのエコノミストがどのような言い訳をするのか、趣味が悪いながら私は今からとっても楽しみです。

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