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2013年7月19日 (金)

今週読んだ経済書、専門書、教養書など

先週末の3連休くらいから今週にかけて読んだ経済書、専門書、教養書などのノンフィクションの本です。フィクションの小説は、芥川賞や直木賞が決まりましたが、また別途、日を改て取り上げたいと思います。一応、経済書が中心ですので、「経済評論の日記」に分類しておきます。

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まず、小野亮・安井明彦『やっぱりアメリカ経済を学びなさい』(東洋経済新報) です。著者はおふたりともシンクタンク勤務のエコノミストで、当然ながら、米国経済を専門にしています。その昔に「米国がくしゃみをすると、日本が風邪をひく」といわれた時代がありました。現在はそれほどでもありませんが、私が計量モデルで分析・研究していたころも、米国の政策変更は日本経済にかなりの影響を与える反面、日本の政策変更は米国にはほとんど何も影響を及ぼさないとの結果を得たこともあります。特に、この先、シェール・ガスやオイルの生産増加で米国がエネルギーを自給どころか、我が国などへ輸出できるようになれば、世界経済や国際金融にかなりのインパクトを及ぼすことも確かです。基軸通貨国であり、軍事的にも世界の安全保障に大きなプレゼンスを示し、何といっても経済大国である米国をよりよく理解するためのとても優れた入門書だと思います。米国と何のビジネス関係も持たない人にも何らかの意味で一助となると思います。ついつい勢いと距離的な近さで中国経済に目が行きがちですが、米国経済を理解する重要性を改めて認識させられました。

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次に、天達泰章『日本財政が破綻するとき』(日本経済新聞出版) です。著者は日銀から内閣府の経済分析部局に出向しているエコノミストです。いくつか、時系列分析の手法を用いた財政の持続可能性に関する検定を実施しながら、結論として、我が国の国際は外国人保有の割合が小さいので、国債のボラティリティ伝播は生じておらず、短期では国債は安全資産と見なされていて財政破綻の可能性は低いが、長期では危険資産とも考えられ、特に、外国人が売買の中心になっているソブリンCDSでは財政リスクが意識され始めている、との極めて常識的なスタンスを示しています。では、この本のタイトルはやや過剰反応かというと、私はたしかに過剰反応でアイキャッチャーの役目を果たしているんだと思うんですが、一応、終章のタイトルが「外国投資家に財政赤字の穴埋めを頼るとき、財政破綻が訪れる」となっていて、つじつまは合っています。いずれにせよ、キワモノではなく常識的な結論に落ち着く経済書です。その意味で面白みに欠けるかもしれませんが、キワモノ経済書にはないフォーマルな分析も多く収録されています。

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続いて、野村総合研究所『2020年の産業』(東洋経済新報) です。私は昔からエコノミストであって、コンサルタントではないので、経済や経営についてそれなりの分析は出来ても、少なくとも経営についての処方箋を書くことは出来ないと諦観していましたが、さすがに、野村総研のコンサルタント集団にかかれば、中期的な先行きの産業がここまでクリアに提示されるのかと感激しました。本書では、自動車、電機、エネルギー、ICT、運輸、金融、ヘルスケアの7つの産業にフォーカスし、どうしてこの7分野かというと、今後も大きな変化が予想され、まだまだ拡大が期待できるからです。特に、私は常々危惧している「日本経済は自動車のモノカルチャー」の観点からも、自動車業界を最初に取り上げて、自動車が電気化していくに連れて垂直分業から水平分業に移行する、なんて、まったく及びもつかない発想でした。やや業界ごとに難しい話が出て来て、当該業界のビジネスマンなんかが部分部分で読む本であって、通読する本ではないのかもしれませんが、日本経済を概観する上でも何らかの役に立ちそうな気もします。

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続いて、板谷敏彦『金融の世界史』(新潮選書) です。ハンムラビ法典やアリストテレスの昔にさかのぼり、ナポレオンやニュートンも登場する金融の歴史を取りまとめた教養書です。一例として、その昔の大きな経営体がなく、大口の金融ビジネスといえば王室への資金調達であり、戦争によって王室が財政破綻するまで続く、といった分かり易い内容です。実は中世以前のこのような金融の役割は、現在の日本では地方にも見られないこともないと私は受け止めています。すなわち、私が地方勤務していた長崎などでは、金融上の大きな資金調達を必要とするビジネスはかなりの程度に県庁に限られます。しかし、中世の王室との大きな違いは県庁は戦争をしないことです。また、戦争の後の賠償に関する考え方も、第1次大戦後のベルサイユ条約まで、戦費を敗戦側に負担させるという中世的な考え方が支配していたことが伺えます。その意味でも、ケインズは偉大だったと考えるべきです。もちろん、中世の金融史も面白いんですが、本書でも、第1次大戦後の賠償問題から第2大戦後のブレトン・ウッズ体制の成立と崩壊のあたりが読ませどころだと思います。

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さらに、田中秀臣『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』(主婦の友) です。本書の著者はいわゆるリフレ派のエコノミストであり、AKB48を取り上げたのは本書が初めてではなく、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版) も2010年に出版しています。私も読みました。本書もそうなんですが、前作の『AKB48の経済学』も含めて、京都大学のころに学んだマルクス主義経済学の「下部構造が上部構造を規定する」という命題を思い出します。すなわち、本書では、低価格路線で売り出しているAKB48はデフレ時代のアイドル・グループであって、アベノミクスの成功による脱デフレとともに崩壊・解散する可能性を論じています。どこまで真面目に論ずるかは迷うところですが、私はAKB48がアイドルとして成功したのは高齢化社会の中で低年齢アイドルの希少性が増したからではないかと考えていますので、念のため。例えば、テレビのドラマのために道尾秀介が2010年に書き下ろした『月の恋人』という小説がありますが、小説では20代半ばのヒロインを設定しているにもかかわらず、ドラマでは30代半ばの女優さんが主演していました。芸能界にも高齢化の波は例外なく押し寄せ、低年齢アイドルは希少性が増しているんだと認識しています。

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経済から少し離れて、アレックス(サンディ)・ペントランド『正直シグナル』(みすず書房) です。著者はマサチューセッツ工科大学に勤務し、計算社会科学という新分野の第一人者だそうです。ソシオメーターを装着して、人々の会話を含めて、無意識の行動に現れる表現を解き明かしています。正直シグナルには、影響力、ミミクリ、活動レベル、一貫性の4つがあるとして、この4つに宿る正直シグナルをその水準とともに明らかにしています。現時点ではソシオメーターを用いた実証研究にとどまっているんですが、非言語表現ではないものの、ネット上のビッグ・データにそのうちにかなりの部分が代替されるんではないかという気もします。しかし、どれほどネットが発達して、ネット上のやり取りでコミュニケーションを済ませる時代が来ようと、恋愛をはじめとして、直接会って何らかのコミュニケーションを交わす重要性が消失することはあり得ません。その意味で、貴重な観察結果をや分析結果を提出してくれる本だと思います。

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さらに、白井聡『永続敗戦論』(太田出版) です。本書のタイトルにしている「永続敗戦論」とは p.47-48 で定義されていますし、三島由紀夫との関係で p.170 にも同旨の記述があります。要するに、対米従属のことであると私は理解しています。孫崎享『戦後史の正体』(創元社) と基本的なラインは同じですが、この著者の立ち位置はマルクス主義、というか、左翼なんではないかと私は受け止めています。すなわち、私が京都大学の学生をしていたころ、社会党は一段階革命論に立っていた一方で、共産党は対米従属を打破した後に共産主義革命が来るという二段階革命論を堅持していました。今でもそうかもしれません。これは戦前の講座派と労農派の議論に源流があって、戦前の講座派マルクス主義は半封建的な地主制を打破する民主主義革命が共産主義革命に転化するという二段階革命論を唱えていました。その意味で、とても歴史の重みを受け継いだ本であるともいえます。決して万人に勧められる本ではありませんが、逆に、関心ある向きは読みごたえある本かもしれません。

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最後に、オマケで堀越二郎『零戦』(角川文庫) です。明らかに小説ではありませんので、一応、ノンフィクションとして分類していいんだろうと思います。零戦を開発した技術者、設計エンジニアの開発記録です。1970年に出版されています。上の画像に見られる通り、明日から封切られる今夏のジブリ映画のひとつである「風立ちぬ」の原作のような扱いになっています。前半は確かに零戦の開発記録なんですが、後半は戦争記のようになってしまうのは致し方ないのかもしれません。でも、『空飛ぶ広報室』の女性記者のように、戦闘機は「人殺しのための機械」とまでは私は思いませんが、もしも、それに近い印象を持っている場合、場合によって、好き嫌いが出るかもしれません。

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