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2013年8月22日 (木)

人口の多さと経済的豊かさの関係やいかに - 日本総研のリポートから

一昨日8月20日に日本総研から「数字を追う: 1人当たりGDP・GNIの実態と人口から見える成長課題」と題するリポートが公表されています。国連統計などから1人当り国民総所得(GNI)を概観し、「人口大国」である米国や日本の特徴を明らかにした上で、日本の産業構造をドイツと比較したり、目を新興国に向けて「中所得の罠」について論じています。やや焦点が散漫になっているような気がしないでもありませんが、いくつか興味深い論点を含みますので、私のブログでも取り上げておきたいと思います。

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まず、上の表はリポート p.4 (図表3)1人当たりGNI上位20か国 (2011年) を引用しています。G5に入る大国では米国がギリギリ20位ですが、日本、ドイツ、フランス、英国は見ての通りです。人口は万人単位の絶対数ではなく、なぜか相対的な順位で示してありますが、米国を別にして、1人当たりGDP・GNI上位20位の各国は人口から見て小国である可能性が示唆されています。また、上位7か国までが特に飛び抜けて1人当たりGDP・GNIが大きくなっており、8位のオーストラリア以降、30位の英国まで差は小さく、倍率にして2倍の差はないことが見て取れます。

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次に、上のグラフはリポート p.5 (図表4) 1人当たりGNIの要因別寄与度 を引用しています。左上の国名に影をつけてある7か国については区別されていますが、最初に示した表の通り、この7か国が飛び抜けて1人当たりGDP・GNIが大きくなっているためであり、かつ、上のグラフに示された通り、比較優位ある特定の高付加価値分野の産業と少ない人口が1人当たりGDP・GNIを高めていると分析されています。例えば、これら7か国の人口の平均は218万人だそうです。リポートでも指摘されている通り、労働者や資本をこれらの高付加価値産業、例えば、日本の労働力人口の数千万人の多くをモナコのギャンブルに振り向けても、収穫逓増という意味での規模の経済はもちろん、生産関数の1次同次は成り立たないと考えるべきです。

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ということで、上のグラフはリポート p.8 (図表5) 1人当たりGNI、人口の上位20か国の分布 を引用しています。大雑把に人口と1人当りGNIは逆相関があり、「人口大国」と経済的な豊かさを両立させているのは日米だけ、あるいは、せいぜいが日米とドイツだけとリポートでは指摘しています。私もその通りだと受け止めています。米国における人口と豊かさの両立について、リポートでは「競争原理の重視、新規分野への挑戦などを通じて資源再配置が繰り返され、生産性・効率性を向上させていくメカニズムが経済システムに組み込まれている結果」であると、特段の分析なしに結論しています。

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なお、これら日米独のG3の経済を論ずる場合、特に、サブプライム・バブル崩壊までは、米国が金融をはじめとする非製造業、日独は製造業に比較優位があるとされて来たんですが、特に、製造業の各産業における日独の比較を試みたのが上のグラフであり、リポート p.9 (図表6) 日本とドイツの製造業の増勢 を引用しています。リポートの論旨とはかなり離れますが、この10年間で我が国製造業が金融政策当局の誤った政策に起因する為替の増価により競争力を失って増勢が削がれ、いかに自動車産業のモノカルチャー化が進んだかを読み取ることが出来ます。

最後に、リポートでは世銀の China 2030 などに基づきつつ、1960年に中所得国であった国のうち、2008年に高所得国に移行したシンガポール、アイルランド、イスラエル、香港、スペイン、韓国などとBRICs諸国を比較しており、これまた特段の分析はないんですが、ブラジルとロシアは人口が1億人を超えており、中国とインドにいたっては10億人を超えているわけですから、高所得の基準である1人当りGNIで12,616ドルに達するためには「生産性が高い部門に経済資源が効率的に配分されるような経済システムの構築が必要」とし、特に人口10億人を超える中国とインドに関しては「既存の例では政治・経済体制の異なる米国型しか存在せず、他のモデル追求は未踏の領域」と評しています。
BRICs諸国のうち、ブラジルとロシアに関してはほぼ1人当り所得が10000ドルのラインに達して、「中所得の罠」を脱しつつある一方で、中国とインドについては10億人を超える人口を保ちつつ「中所得の罠」を突破するのは今後の課題であり、IMF/世銀やアジア開銀 (ADB) でも注目しています。例えば、IMFのアジア太平洋部のシン部長の "Emerging Asia: At Risk of the 'Middle-Income Trap'?" では、"a larger risk of growth slowdown stemming from subpar infrastructure" とか、 "improving economic institutions is a further challenge" などとインフラ整備や制度面の向上の必要性を示唆しています。もっとも、日本総研のリポートではBRICs諸国ということで中国とインドだけについて「中所得の罠」を考察しているんですが、IMFやADBでは中国とインドに加えて、ASEAN諸国、すなわち、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピンなどについて分析が進められています。

学術論文と違ってシンクタンクのリポートですので、どうしても、フォーマルな分析や既存研究との比較などは見られませんが、日独の製造業比較や新興国の経済発展のハードルとなりかねない「中所得の罠」など、それなりに興味深いテーマが取り上げられています。分析の冴えは感じられませんが、情報の収集と取り上げるテーマに工夫が現れていなくもないと私は受け止めています。

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