7月の景気ウォッチャーは高い水準を示し、4-6月期の経常収支は黒字幅を拡大、財政試算は黒字化せず!
本日、内閣府から7月の景気ウォッチャー調査の結果が、また、財務省から6月の経常収支などの国際収支が、それぞれ発表されました。景気ウォッチャーは前月比で見て現状判断DIがやや低下し、先行き判断DIは横ばいとなっていますが、いずれも50を超えてかなり高い水準です。また、経常収支は季節調整済みの系列で見て、ようやく貿易赤字が縮小しつつあって経常収支の黒字幅が拡大して来ています。まず、かなり長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
7月街角景気、4カ月連続悪化 内閣府「回復基調は変わらず」
内閣府が8日発表した5月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は前月比0.7ポイント低下の52.3で4カ月連続の悪化だった。高額品販売の伸びに一服感がみられ、百貨店の夏のセールも低調だった。半面、企業動向は受注や生産の増加を受けて改善したほか、雇用も建設業やサービス業で求人が増えた。
家計関連では「海外特選ブランドは円安により数度にわたって値上げが行われ、販売量が減少している」(南関東の百貨店)、「日々暑く、来客数も少ない。商店街全体の客も少なく、大変厳しい状況が続いている」(南関東の衣料品専門店)といったコメントが並んだ。
2-3カ月後の景気を占う先行き判断指数は横ばいの53.6だった。マイナスから脱却するのは3カ月ぶり。電気料金や食品、燃料価格の上昇の懸念から家計関連が悪化するが、政策効果に対する期待が続き、企業や雇用の分野では現状と同様にプラスとなる。「輸出が増えて関連企業では繁忙感が続く」(中国の鉄鋼業)、「政治が安定したことで企業に安心感が広がっている」(中国の人材派遣会社)といった声があった。
各指数は好不況の判断の目安となる50台をいずれも維持した。内閣府は街角景気の基調判断を前月の「このところ持ち直しのテンポが緩やかになっている」から「緩やかに持ち直している」に変更した。内閣府は変更について「前月と同じようなテンポでの回復基調は変わってない」と説明し、基調判断の横ばいにすぎないことを強調した。
調査は景気に敏感な小売業など2050人が対象で、有効回答率は92.3%。3カ月前と比べた現状や2-3カ月後の予想を「良い」から「悪い」まで5段階で評価して指数化している。
経常黒字5期ぶり増加 1-6月、所得収支がけん引
財務省が8日発表した2013年1-5月の国際収支状況(速報)によると、経常黒字は前年同期比0.6%増の3兆2114億円だった。経常黒字額が拡大するのは半期ベースで10年5-12月期以来、5期ぶり。液化天然ガス(LNG)など高水準のエネルギー輸入で貿易収支は1985年以降、最大の赤字だったが、企業の海外投資の見返りである所得収支の黒字も85年以降で最大の黒字となったことが補った。
経常黒字の最少記録は85年以降では12年5-12月(1兆6316億円)。半期ごとに縮小した傾向が一転、増加になった。経常黒字減少に歯止めがかかりつつあるように見えるが、財務省国際局は「足元ではこうした数字が出ているが、先行きの見通しは経済情勢、為替、天然ガス、原油の動向等いろんな要因があるので、確たる見通しを一概に言えない」と判断を避けた。
貿易・サービス収支は4兆9589億円の赤字。半期ベースでは5期連続の赤字で、85年以降で最大の赤字。このうち輸送に絡む保険料や運賃を含まない国際収支ベースの貿易収支は4兆2382億円の赤字。これまで最大の貿易赤字だった12年5-12月(3兆3888億円)を上回った。輸出は3.5%増。米国向け自動車やアジア向けの有機化合物などが伸びた。輸入は8.6%増。LNGなど高水準のエネルギー輸入に加え、中国などからのスマートフォンなど通信機輸入も増えた。旅行や輸送などの動向を示すサービス収支も7207億円の赤字だった。
所得収支は8兆6783億円の黒字。これまでの最大は08年1-5月(8兆6670億円)だった。日本企業による海外投資に円安効果も加わり、海外事業による子会社などからの配当金受け取りや、証券投資による配当金や債券利子の受け取りが増えた。
併せて発表した5月の経常収支は3363億円の黒字だった。5カ月連続の黒字だが、黒字額は前年同月比20.3%減った。このうち貿易収支はLNGなどエネルギー輸入が影響し1392億円の赤字。所得収支は、海外事業から受け取る配当金などが増え、15.0%増の6720億円の黒字だった。
いつもながら、どちらの記事もとてもよくまとまっているという気がします。でも、経常収支の記事はかなり1-6月の年半期に偏っていたりします。続いて、景気ウォッチャーの現状判断DIと先行き判断DIのグラフは以下の通りです。影をつけた部分は景気後退期ですが、いつものお断りで、このブログのローカル・ルールとして直近の景気の山と谷は2012年3月と2012年11月と仮置きしています。
7月の景気ウォッチャー現状判断DIは52.3と前月から▲0.7ポイント悪化しましたが、いまだに高水準で50を超えています。先行き判断DIは53.6と前月から横ばいで、これも50を超える高い水準を維持しています。統計作成官庁の内閣府では、基調判断を「このところ持ち直しのテンポが緩やか」から「緩やかに持ち直し」に変更しています。どう違うのか、私には分かりません。たぶ、同じなんでしょう。現状判断DIも先行き判断DIもコンポーネントは家計、企業、雇用の3部門なんですが、いずれも家計が前月比で下降しています。ただし、雇用については建設業やサービス業などで求人が増加したこともあって、上昇を示しています。雇用に動きがあるのであれば、一定のラグを伴って家計へもポジティブな動きがあり、所得の増加から売上増とマインドをさらに回復させる可能性も十分あるのではないかと私は受け止めています。いずれにせよ、景気ウォッチャーは50を超える高い水準で底堅く推移していると考えてよさそうです。ただし、50をさらに超えてドンドン上昇するタイプの指標ではないことは認識しておくべきです。60とかせいぜい65くらいに天井がある指標ですから、上昇のモメンタムが失われて高原状になっても、決して悲観する必要はありません。
続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示しており、積上げ棒グラフは経常収支を構成する貿易収支などのコンポーネントです。色分けは凡例の通りです。季節調整済みの系列をプロットしていますので、季節調整していない原系列の統計を基にした引用記事とは少し印象が異なるかもしれません。2011年3月の震災のあたりから傾向的に経常収支の黒字幅が縮小しており、その要因は貿易赤字の拡大であることが読み取れます。ただし、この4-6月の統計ではやや経常収支の黒字幅が拡大しているように見えます。4月については赤い棒グラフの投資収益収支が大きな黒字を出し、5-6月については黒い貿易収支のマイナス幅がジワジワと縮小しているようです。いずれもアベノミクスに伴う円高修正の結果である可能性が高いと私は考えています。なお、経常黒字の拡大に伴い、4-6月期の外需寄与度はGDP成長率に対して、+1.0%弱くらい、すなわち、大雑把に+0.7-0.8%くらいのプラスの寄与を示すものと私は考えています。
最後に、本日の経済財政諮問会議において「中長期の経済財政に関する試算」が内閣府から提出されています。上のグラフは p.3 から国・地方の基礎的財政収支と公債等残高を引用しています。赤い折れ線は経済再生ケースを示しており、2013-20年度平均で実質成長率+2.1%、名目成長率+3.4%を前提にしていますが、この経済再生ケースで、さらに、消費税率を予定通りに引き上げたとしても、2020年度における財政のプライマリー・バランスは黒字化しないとの結論を得ています。ただし、上のパネルに見られる通り、経済再生ケースではプライマリー・バランスの対GDP比で見た赤字は縮小しますので、直感的には Bohn の検定であれば財政はサステイナブルと判定されそうな気もします。一応、私は地方大学に出向していた際に、「財政の持続可能性に関する考察: 成長率・利子率論争と時系列データによる検定のサーベイ」と題する紀要論文を書いていますので何らご参考まで。
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