今週読んだ本を振り返る!
今週に読んだ本は以下の5冊です。正確にいえば、上下巻があるので6冊かもしれません。何と、極めてめずらしいことなのですが、すべて買った本です。なぜかと考えると、夏休みに入って子供達も読むから買ったわけです。なお、基本は読んだ順です。他意はありません。
まず、今野敏『宰領』(新潮社) です。表紙の画像に見える通り、警察庁キャリアの竜崎と伊丹のコンビの「隠蔽捜査」シリーズ第5弾です。竜崎が署長を務める大森署管内で国会議員が失踪し、誘拐事件に発展します。お決まりとはいえ、キャリアとノンキャリアの確執、警視庁と神奈川県警の対立、それらを乗り越えて、合理的な情報分析と判断で突き進む竜崎署長のいつもの姿が見て取れます。他方で、二浪している長男の東大受験が重なり、プライベートでも難しい時期の事件発生です。最後は、警視庁のSITと神奈川県警のSTSといういずれも特殊捜査班のスペシャリストの活躍の場が見られます。誘拐犯との電話での交渉、そして最終的には突入と、何ともカッケーです。もちろん、特殊捜査班のスペシャリストだけでなく、何のブレも見せない竜崎の判断と行動もカッケーです。
次に、柳広司『楽園の蝶』(講談社) です。『ジョーカー・ゲーム』、『ダブル・ジョーカー』、『パラダイス・ロスト』の結城少佐のスパイ機関を舞台にしたシリーズから、1933年という戦前を舞台にした同じ作者の『ロマンス』まで含めて、戦前の軍隊を舞台にしたシリーズは何冊か読んだんですが、この作品は1942年という太平洋戦争が始まった後、しかも、日本の軍隊が舞台ではなく、日本が中国東北部に傀儡国家として成立させた満州の満州映画協会、通称「満映」を舞台にしています。スパイ機関を舞台にした緊張感ある雰囲気ではなく、ややのんびりしたムードを漂わせています。実は、『ビッグコミック・オリジナル』に2006年まで連載されていた『龍 -RON-』というマンガがあります。極めて舞台設定が似ています。主人公が京都のボンボンであり、満映を舞台にしている点はまったく同じです。残念ながら、スケールでは本作品ではなく『龍 -RON-』の方がはるかに上を行きます。いずれにせよ、満映の甘粕正彦理事長という実在の超大物に加え、この作品では悪名高い731部隊の石井少将まで登場するんですから、現実とフィクションの結合が難しいと感じました。
また、湊かなえ『高校入試』(角川書店) も面白かったです。昨年10-12月にフジテレビで土曜のドラマとして放送されていました。同じようなタイトルでシナリオのバージョンも出版されています。そのため、フジテレビのサイトに「相関図」が出演者の顔写真入りでアップされており、とても分かりやすいんですが、「事件関係者」マークが張ってあるのでネタバレになっています。一応、ミステリなんですから要注意でしょう。ストーリーは、要するに、高校入試の妨害の犯人探しのミステリなんですが、ややムリのある設定となっていて、高校の次の大学のレベルよりも小説の舞台となる橘第一高校、通称「一高」に合格する方がステータスが高く、他の高校から一流大学に進むよりも、一高から三流大学に進む方が親の満足度が高い、というのは明らかに現実的ではありません。それにしても、私も大学教授に出向してセンター入試や大学の入試を経験しましたが、学校というものの閉鎖性や教職員の思考パターンについて、かなりステレオ・タイプで現実的ではない部分も少なくないものの、それなりに一般社会で受け入れられそうなレベルまでモデル化しているのはさすがでした。ただし、首謀者が2人も名乗りでるのは決着つけて欲しかった気がします。
次に、室積光『史上最強の大臣』(小学館) です。同じ作者の『史上最強の内閣』は3年近く前に読んで2010年12月12日に読書感想文をアップしてあります。その第2弾といえます。前回は北朝鮮のミサイル発射に際して「一軍内閣」が京都から登場するというストーリーでしたが、今回は教育がテーマになっています。作者は「3年B組 金八先生」で俳優として体育教師を演じていたらしいですし、小説家としてのデビュー作となる『都立水商!』では水商売を教える都立高校を舞台にしていますから、それなりに土地勘があるかもしれませんが、何よりも、現在の日本でもっとも理想から遠いのが教育であり、大きく立ち遅れているのが教育改革だというのは衆目の一致するところでしょう。ですからこそ、『高校入試』なんてミステリが売れるわけです。また、本書はとっても鋭くも、団塊の世代への批判を内包しており、世代間における断絶や格差のひとつの側面もあぶり出しています。
最後に、J.T.ブラナン『神の起源』(ソフトバンク・クリエイティブ) です。出版社の売り言葉に「ダン・ブラウンより面白い!」とありましたので、ついつい買ってみました。実はまだ読んでいる最中であって、最後の結末を見届けていないんですが、南極の氷河の中から4万年ほど前の人の死体が見つかったことから話が始まって、発見者のNASA所属の女性科学者とその元夫でネイティブ・アメリカンの男性が秘密結社から逃亡しつつ、米国の正当なる当局と科学者の良識を信じるという、確かに、ダン・ブラウンのラングドン教授シリーズやジョン・グリシャムの特に「ペリカン・ブリーフ」のようなノリでストーリーは進みます。第2部で逃げまわって米国にたどり着いたところから、下巻に入って第3部の途中ですので、面白さを判断するには結末を知る必要がありますが、今のところはおもしろそうだとしかいいようがありません。そのうちに、いろんなメディアで書評が登場すると思いますので、ソチラもご参考に。
実は、伊坂幸太郎『死神の浮力』(文藝春秋) も買ってあるんですが、まだまったく読み始めてもいません。そのうちに取り上げたいと思います。
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