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2013年9月24日 (火)

消費税の逆進性緩和策について考える

このブログの先週金曜日のエントリーでも、来年2014年4月からの消費税率引上げを見据えて経済見通しを紹介しましたが、一部の報道では安倍総理はすでに消費税率引上げを決意したと報じられたりしています。他方、実行面で消費税には直接的な所得の移転に加えて、価格の引上げに伴う実質所得の減少などにより景気にマイナスであることから、さまざまな景気対策について議論されているのも事実です。例えば、日本経済研究センターの「消費増税、景気腰折れを防ぐ配慮を」と題するリポートでは、消費税増税に公的年金の負担増と今年度補正予算の剥落効果や駆込み需要の反動を加えて2014年度には▲16兆円強の需要削減効果が生じると試算していたりします。包括的な経済対策も考えられているようですが、今夜のエントリーでは逆進性の緩和策に話題を絞って、簡単に私の考えを取りまとめたいと思います。

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まず、消費税の逆進性に関する実証研究から、上のグラフは直接には2011年5月に発表された内閣府の「社会保障・税一体改革の論点に関する研究報告書」p.7 から引用していますが、基はといえばAmerican Economic Review に掲載された論文からデータを取っていて、カナダにおける売上げ・物品税の年間所得と生涯所得の年収階級別の負担率をプロットしています。見れば明らかなんですが、ある1年の年間所得に対しては消費税はかなり逆進的であるものの、生涯の年収カーブを考慮した生涯年収に対しては逆進性はそれほど大きくない、という結論が導かれると思います。

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生涯所得に対する逆進性はそれほど大きくないとは言うものの、逆進的であることは確かですから、何らかの対策をもしも講じる必要があると仮定すれば、一般的には、(1) 軽減税率の適用、(2) 何らかの簡素な給付措置の実行、(3) 給付付き税額控除、などが考えられます。もちろん、(2)と(3)は国民全員ではなく、何らかの基準に従って低所得者だけを対象とする措置です。上のうち、軽減税率については、大和総研のリポート「来春の消費税増税後の焦点」でいくつかのケースの逆進性が試算されており、リポートの p.11/14 から引用したグラフは上の通りです。結論として、軽減税率の適用は逆進性を緩和する効果は小さい、と考えざるを得ません。加えて、軽減税率は結局のところ額としては高所得者に大きな恩恵を及ぼすとしか考えられません。例えば、食料品について一括で軽減税率を適用するとしても、低所得者よりも高所得者の方が支出額として食料品により多く支出している可能性が高く、高所得者により大きな金額の恩恵が及ぶと考えるべきです。ですから、私としては、低所得者を対象とした何らかの簡素な給付措置か給付付き税額控除が望ましいと考えています。前者の簡素な給付措置は、一例としては、1999年度の上半期に実施された地域振興券あるいは2009年3月に実施された定額給付金を思い浮かべることが出来ます。この両者はともに国民一律に実施されましたが、もちろん、今回は何らかの基準を設けて低所得者を対象とすべきです。なお、後者の給付付き税額控除は世界各国でいろんな制度が実施されており、基本的には税額控除または給付なんですが、所得に従ってゼロまで含めて給付を減額するものです。やや分かりにくいかもしれませんが、下の画像は昨年2012年5月に開催され、給付付き税額控除について等が議論された税制調査会第13回専門家委員会に提出された「資料 (諸外国の制度について)」から、私が直感的に理解できたカナダにおける「給付付き税額控除」の概要を引用しています。カナダの詳細やほかの国の制度については引用元の資料をご覧ください。

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軽減税率はそれほど逆進性緩和に効果がなく、むしろ、低所得者を対象とした何らかの簡素な給付措置か給付付き税額控除が望ましい、と考えるのはエコノミストの間で大雑把なコンセンサスを得ているのではないかと私は受け止めています。例えば、先に引用した日本経済研究センターのリポート「消費増税、景気腰折れを防ぐ配慮を」とか、あるいは、大和総研のリポート「来春の消費税増税後の焦点」でも同様の結論を示しているだけでなく、アカデミックな学界でも早稲田大学の横田教授の紀要論文「消費増税における逆進性緩和策」も同じ結論に達しています。なお、これらの公開のリポートや論文には示されていませんが、私は軽減税率の適用が天下りの利権として利用されるおそれがあるのではないかと疑っています。例えば、財務省の事務次官経験者が新聞社やインターネット・プロバイダに天下ったりしたのは、ひょっとしたら、この軽減税率利権にからむ何かがあるのではないかと疑いの目で見ていたりします。いずれにせよ、軽減税率は低所得者を含めた消費者サイドの議論ではなく、生産者が自社や同業他社も含めた業界の製品の相対的な価格競争力を高めるための仕組みになってしまうおそれがあることは覚悟すべきです。

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