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2013年10月15日 (火)

「所得再分配調査」に見る高齢者に偏った所得再分配で高齢者の体力が増進?

やや旧聞に属する話題ですが、連休前の先週金曜日10月11日に厚生労働省から2011年の「所得再分配調査」の結果が公表されています。2011年ですから現在の安倍内閣ではなく、民主党政権下、しかも震災のあった年の調査結果ですから、一定のバイアスは免れないと思いますが、全体としては所得再分配の機能が高められていると評価できる部分も少なくないものの、相も変わらず高齢者に偏った社会保障政策が続いていることが如実に示されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

所得格差の是正進む 再分配、社会保障で改善
国民の所得格差の是正が進んでいる。厚生労働省が11日発表した2011年の所得再分配調査によると、税金や社会保障制度を使って低所得層などに所得を再分配した後の世帯所得の格差を示す「ジニ係数」は0.3791だった。再分配前の当初所得でみた係数より31.5%縮小し、この縮小幅は過去最大となった。年金・医療でたくさんの給付を受ける高齢者の増加が背景にある。
所得再分配調査は3年に一度、前年の所得を対象に実施する。再分配前の当初所得のジニ係数は0.5536で、前回の08年調査(0.5318)を上回り過去最大になった。公的年金は所得に加えないため、高齢者が増える分だけ格差は広がりやすくなる。ジニ係数上昇の約7割分は高齢化による要因だった。所得水準が低い単身世帯が増えたことも影響した。
税金や社会保険料を差し引いたうえで、公的年金などの給付を加えた所得でみた係数も前回調査(0.3758)より上昇した。ただ、格差が再分配後にどれだけ縮小したかを示す修正幅は初めて3割を超えた。社会保障制度による改善度が28.3%と大きく、税による改善度は4.5%にとどまった。
年金や医療などで受け取れる給付額から税や保険料などの負担額を引くと、20-50代はマイナスだが、60代以降はプラスに転じる。現役世代から高齢世代への所得移転による格差是正は進む。
一方で、若年層では同世代内の格差が広がった。たとえば世帯主が35-39歳のジニ係数は当初所得分で08年の0.2779から、11年には0.3358に急上昇した。世帯主が「29歳以下」「30-34歳」の場合も08年より係数が上昇。非正規社員の増加や就職難が響いたとみられる。
今回の調査は民主党政権下での所得再分配の実態を調べたものだ。民主党政権は子ども手当や高校無償化などの給付拡大を進めたものの、厚労省はそうした政策の効果は「今回の結果にほとんど影響していない」としている。

いつもながら、とてもよくまとまった記事だという気がします。次に、「所得再分配調査報告書」のリポートからいくつか図表を引用したいと思います。p.6 図3 所得再分配によるジニ係数の変化を引用すると以下の通りです。

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グラフからいくつか読み取れる点があります。第1に、最近になるほど当初所得のジニ係数が大きくなり、不平度が増していることです。基本的には、高齢化が進んでいることが大きな理由と考えられますが、非正規雇用の比率の増加なども要因として考えられなくもありません。ただし、この調査は当初所得の不平等の度合いを解明するのが目的ではありません。第2に、当初所得のジニ係数で測った不平等度が最近時点では0.5を超えるくらいに拡大している一方で、社会保障を考慮に入れた再分配所得では0.4足らずと大きく改善されており、しかも、最近になるほどこの改善度合いが大きくなっていることです。余りに当然のことながら、不平等の改善には社会保障による再分配の役割が大きいと考えるべきです。

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さらに、リポート p.9 表4 世帯類型別所得再分配状況を引用すると上の通りです。経年変化の情報はなく、最近時点だけの情報で、どのような類型の世帯に再分配所得の恩恵が及んでいるかを見ています。一般に、不平等ではなくて貧困なんですが、既存研究によれば我が国では母子、高齢、疾病が貧困世帯の3大類型と見なされています。そのうち、上の表では母子と高齢の2類型が表章されているところ、何と受給合計額でも、ジニ係数の改善度でも、圧倒的に高齢者世帯に手厚く、母子世帯に冷たい所得の再分配がなされている実態が明らかになっています。

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最後に、ダメ押しかもしれませんが、リポート p.10 表5 世帯主の年齢階級別所得再分配状況を引用すると上の通りです。一例を上げると、世帯主の年齢が30歳代、すなわち、上の表の年齢階級では30-34歳と35-40歳の世帯は、60歳代後半、すなわち、60-64歳の世帯よりも当初所得では年間で200万円近く多く稼ぎ出しているにもかかわらず、再分配所得では逆転されてしまっています。一番右の欄の再分配係数を見ても、60歳未満はマイナスで負担超過、60歳以上はプラスで給付超過となっており、しかも、年齢が高くなるほど給付超過の割合が大きいという驚くべき結果となっています。

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さて、最近のメディアで話題になったのは、体育の日にちなんで、10月13日に文部科学省が発表した「体力・運動能力調査」があり、高齢者の体力が年々増進していることが明らかにされています。上のグラフは調査結果のうち「体力・運動能力の年次推移の傾向 (成年)」「体力・運動能力の年次推移の傾向 (高齢者)」から、それぞれ、新体力テストの合計点の年次推移を引用して画像を連結しています。上下のグラフを見て、50歳代から70歳代の男女の体力・運動能力は年々増進しており、これはこれでご同慶の至りなんですが、実は、それよりも若い世代では体力・運動能力は停滞気味で、35-39歳女子のように一貫して低下している場合すらあります。

もちろん、タイトルに書いたのはジョークの世界であり、社会保障による所得再分配と体力・運動能力の間に因果関係を主張するつもりは毛頭ありませんし、決して、高齢者の体力増進はより若い勤労世代の運動能力の低下や停滞の犠牲の上に成り立っていると考えているわけではありません。しかし、あくまで一般論ながら、日本という国は高齢者に極めて手厚く優しい一方で、勤労世代はたとえ母子家庭のような恵まれない世帯類型に対してすら冷たい国であり、投票行動に基づくシルバー・デモクラシーに従って、すべてを超越して年齢のみによって社会保障政策が決まっているように見えかねない、というおそれを感じないでもありません。

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