順調な企業マインドの改善を示す日銀短観、ほかに雇用統計も!
本日、日銀から9月調査の日銀短観が発表されました。統計のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは前回調査から+8ポイント上昇して+12を記録しました。3四半期連続の改善で、2008年9月のリーマン・ショック前の水準を回復しています。ただし、2013年度の設備投資計画は大企業全産業が前年度比+5.1%増と、前回調査の+5.5%増から下方修正されました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を引用すると以下の通りです。
日銀短観、大企業・製造業DIプラス12 金融危機前回復
日銀が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の収益動向を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス12となり6月の前回調査に比べ8ポイント上昇した。改善は3四半期連続で、リーマン・ショック前の2007年12月調査以来の高水準になった。景気が回復経路をたどっている現状を示す結果で、来春の消費税引き上げに向けた環境が整いつつある。
日銀の金融緩和で円高修正が続いたことで、製造業を中心に輸出増への期待が広がっている。消費増税前の駆け込み需要で個人消費や卸売り・小売りも好調。東日本大震災からの復興需要などに伴う公共投資の拡大から建設関連の経営マインドも改善している。
大企業製造業の業況判断DIはQUICKが集計した事前の市場予想(平均値でプラス7)を大幅に上回った。判断DIそのものがプラスになるのは2四半期連続で、業況が「良い」と回答する企業が「悪い」と答える企業を上回る状態が続いている。中堅・中小企業も含めた全規模・全産業の業況判断も前期比4ポイント上昇のプラス2となり、07年12月以来のプラスに浮上した。
市場が注目する大企業製造業の13年度の想定為替レートは1ドル=94円45銭で、前回調査(91円20銭)に比べて円安・ドル高方向に修正した。足元の円相場の実勢より4円程度の円高水準を見込んでおり、今の為替水準が続けば、今年度の業績はさらに上方修正となる余地がある。
業況判断DIを大企業で業種別にみると、28業種中19業種が改善した。自動車が前期比11ポイント上昇のプラス27と3四半期連続で伸びたほか、電気機械も13ポイント上昇のプラス9となった。木材・木製品が9ポイント上昇のプラス48と1990年以来の高さになったほか、窯業・土石製品も14ポイント上昇のプラス29と1991年以来の水準になった。公共事業の拡大や復興需要などから、関連産業の好調さが目立つ。
非製造業は大企業のDIが前期比2ポイント上昇のプラス14となり、3四半期連続で改善した。水準は07年12月以来の高さだった。好調な個人消費を背景に、小売りが2ポイント上昇のプラス8と2四半期ぶりに改善に転じたほか、卸売りも5ポイント上昇のプラス11に伸びた。建設が6ポイント上昇のプラス20と1992年以来の高さとなった。ただ、不動産は前期比1ポイント低下のプラス24と改善が足踏みした。
設備投資は小幅の下方修正となった。大企業全産業の13年度の設備投資計画は前年度比5.1%増となり、前回調査に比べて0.3ポイントの下方修正となった。市場予想の平均値(6.0%増)を下回った。うち大企業製造業の設備投資計画は前年度比6.6%増と0.1ポイントの下方修正になった。ただ、全規模全産業ベースの設備投資は3.3%増と1.2ポイントの上方修正になった。
ということで、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。このブログのローカル・ルールで、昨年10-12月期を直近の景気の谷と仮置きしており、ほかのグラフについても以下同文です。
3四半期連続で企業の業況感はかなり大幅な改善を示しました。中小企業こそまだ製造業・非製造業ともに水面下でマイナスのままですが、少なくとも変化の方向であるモメンタムとしては、業種や企業規模をくわしく見てもかなり幅広い改善が観察されます。背景を見ると、円相場は円高是正が進んで1ドル100円近い水準で推移し、海外経済も、現在進行形の米国政府の暫定予算問題を別にすれば、米国経済は堅調であり、欧州のソブリン問題も落ち着いており、中国経済もようやく低迷を脱しつつあり、海外要因で我が国経済が大きく悪化する兆しはありません。国内でも、消費が底堅く推移し、設備投資も底入れに向かう中で、公共事業や住宅投資の増加も見られることから、業種別・規模別に見ても幅広い企業マインドの改善に結びついています。グラフなどはお示ししませんが、売上や収益の計画についても、前回調査からおおむね上方修正されています。安倍総理が来年4月からの消費税率引上げを表明したのも当然と考えるべきです。ただし、先行きの景況感のモメンタムとしては今年の年央がピークだった可能性はあると受け止めています。もちろん、消費税率引上げ直後を別にすれば、先行き4-5四半期、すなわち、来年いっぱいくらいで大きく企業マインドが後退する可能性は低く、業況感は引き続き高い水準を維持することと予想していますが、昨年12月調査の日銀短観の大企業製造業の業況判断DIが▲12でしたから、3四半期で+4ポイント、+12ポイント、+8ポイントと大きな改善が続いて来ましたが、改善幅という意味でモメンタムは停滞すると覚悟すべきです。いつまでも大幅改善が続くハズもありません。
上のグラフは、生産要素需要、すなわち、設備と雇用に対する判断DIをプロットしています。設備判断DIは製造業のみを対象としていますが、雇用判断DIは非製造業も含む全産業です。いずれも、プラスが過剰感を、マイナスが不足感をそれぞれ示しています。設備については順調に過剰感が払拭され、雇用については不足感が広がりつつあります。ただし、製造業で設備も雇用も過剰感がまだ根強く残っており、設備投資の本格的な増加や雇用の増加から賃金の上昇については、まだ今しばらく時間がかかる可能性があると受け止めています。これらの要素需要に基づく設備投資や賃金上昇は、いわば景気拡大に少し遅れるラグのある2段目の推進力ですから、今後とも注視する必要があります。
今年度2013年度の設備投資計画については、ヘッドラインとなる大企業全産業のグラフが上の通りです。6月調査の+5.5%増から、9月調査では+5.1%増に下方修正されました。ただし、全規模全産業では前回調査の+2.0%増から+3.3%増に上方修正されています。新しい年度に入って、年央に達すれば売上や収益などの実績が月単位や四半期単位でいくつか明らかとなり、年度計画も修正される時期なんですが、少なくとも、大企業の設備投資計画については上のグラフにも示された通り、9月調査時点では下方修正される統計としてのクセがありますから、懸念するには及ばないと私は受け止めています。リーマン・ショック前の2007年度には達しない可能性が高いものの、昨年度に近い伸びが実現される可能性はあるものと予想しています。
デフレ脱却との関係で私が注目した販売と仕入の価格判断DIは上のグラフの通りです。ですが、何とも微妙なところです。従来から、仕入れ価格の上昇は販売価格の上昇よりも受容されており、価格判断DIが大きく乖離するのは仕方ないんですが、足元から目先の先行きに対して、それほど価格判断DIが変化していません。販売価格DIがゼロに近づいているので、自社製品の販売価格の値上げを受け入れてもらえる余地がより大きくなって、デフレ脱却が近づいたと見ることが出来ますし、他方、グラフそのままに先行きの販売価格予想が足踏みしていると考えることも出来ます。私はどちらかといえば前者のデフレ脱却が近づいたという見方をしています。
最後に、上の画像は雇用統計のグラフを並べています。上から順に、総務省統計局の労働力調査から失業率、厚生労働省の一般職業紹介状況から有効求人倍率と新規求人数、同じく厚生労働省の毎月勤労統計から製造業の所定外労働時間指数と給与指数の前年同月比上昇率となっています。最後の給与指数以外はすべて季節調整済みの系列です。失業率の上昇は景気回復の初期に見られる現象で、新たな職探しや転職に向けて一時的に離職したケースが増えたためと考えられます。有効求人倍率は順調に改善しており、8月には0.95に達しました。新規求人数はやや減少しましたが、こういったジグザグした動きを伴うクセのある統計です。他方、私が理解できないのが製造業の所定外労働時間で、7-8月と2か月続けて鉱工業生産指数と逆の動きを示しました。増産しているのに残業が減ったり、逆に、減産しているのに残業が増えたり、ということです。理由は不明です。季節調整の要因かもしれません。最後に、賃金は一向に上がる気配を見せません。もう少しラグが長いのかもしれません。
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