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2013年11月 5日 (火)

法人税減税は設備投資の増加に向かうか?

やや旧聞に属する話題ですが、10月29日に、みずほ総研から「法人減税で設備投資は増えるのか」と題するリポートが公表されています。簡単に法人税率の引下げについて取りまとめて、資本コスト低下の影響を計測した上で、ジョルゲンソン型の資本コストを計測し、資本コストを含む投資関数を用いて設備投資を推計しています。まず、リポートからサマリーを3点引用すると以下の通りです。

法人減税で設備投資は増えるのか
  • 政府は年末にかけて、復興特別法人税の1年前倒し廃止に加えて、2015年度以降、段階的に法人実効税率を引き下げることを検討する方針である。
  • 復興特別法人税の1年前倒し廃止 (法人実効税率: 38.01% ⇒ 35.64%、2.4%Pt低下) は、資本コストを1.5%Pt低下させ、実質民間設備投資を0.3%Pt押し上げる効果がある。
  • 法人実効税率をドイツ並みの水準まで引き下げると、10年間で累計4兆円 (2012年度設備投資対比+6.0%Pt) 程度の投資押し上げ効果が見込まれ、中長期的な投資活性化への貢献が期待できる。

ということで、まず、リポートから 図表1 法人実効税率の国際比較 を引用すると以下の通りです。

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実は、このグラフはほぼ財務省のサイトにある「法人所得課税の実効税率の国際比較」そのままですので、復興特別法人税を上乗せしたグラフを書く以外に、特にみずほ総研で新たな情報を付加したわけではありません。実は、というか、当然ながら、財務省の方が情報が多いわけで、国税23.71%、地方税11.93%の合計35.64%のうち、法人税率が25.5%、事業税率が3.26%、地方法人特別税が事業税額の148%、住民税が法人税額の20.7%と分かります。また、財務省のサイトでは米国とはカリフォルニア州であると明記してあります。

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次に、ジョルゲンソン型の資本コストを推計した上で、資本コストを含む設備投資関数を推計し、上のような法人税率引下げの効果を計測しています。リポートの 図表2 法人実効税率の引き下げによる実質民間設備投資への影響 を引用しています。推計された設備投資関数からは、資本コストの1%ポイントの引下げにより設備投資が+0.2%ポイント増加するという結果を得ているようです。
ところで、設備投資増加の中長期的な効果については、いくつか考えが分かれます。短期には需要を増加させて成長率を引き上げる、というケインズ的な主張でほぼ一致していると私は考えていますが、中長期的にはまったく異なる2通りの考えがあります。第1に、黒くなる前の白い日銀のころの理論だと私は受け止めていますが、どこかに自然成長率的な考えを忍び込ませて、投資が増加するのはバブルのひとつの側面であり、設備投資が本来あるべき水準から乖離して増加したりすれば、バブル崩壊後のストック調整を深く長くする、という悲観論です。第2に、リアル・ビジネス・サイクル的なものも含めて、資本財に体化された技術進歩により生産性が向上し成長を促進する、という楽観論です。私は後者の投資の成長促進効果の方が大きいと考えていますが、いまだにバブルになる前に成長を低く抑えた方がいいと考えるエコノミストは少数ながら存在します。
ですから、設備投資が促進されれば、短期にはもちろん、中長期的にも成長にプラスだと私は考えるんですが、問題はその前提であり、法人減税が設備投資を促進するかどうかは疑問が残ります。典型的には、広く人口に膾炙した通り、9月13日の閣議後の記者会見で麻生財務大臣が表明し日経新聞が報じた記事であり、納税法人は3割ほどにしかならないので、そもそも法人税を払っていない企業には当然ながら法人減税の投資促進効果は及ばず、従って、設備投資の増え方は限定的である、との見方は払拭されません。

設備投資は現時点までまだまだ低調であるのは確かで、今年の年央には輸出も伸び悩みましたので、7-9月期のGDP成長率は4-6月期の年率+3.8%からかなり減速したと見込まれています。その一方で、経済対策による公共投資は別にして、誰の目から見ても、現在の景気を支えているのは家計の消費です。現在の財政バランスや公債残高を考慮すると消費税率の引上げは止むを得ない面があるものの、消費税増税の財源で法人税減税までサービスするがごとき、家計に冷たく、特に現役世代の働く家計に冷たく、トリクルダウンを期待した企業にやさしい経済政策は、景気転換点の直前や景気回復の初期には有効であった可能性が高いものの、私から見て、現時点ではそろそろ企業から家計に目を転ずべき時点に達しているような気がしないでもありません。

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