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2014年1月31日 (金)

いっせいに発表された政府統計から何を読み取るべきか?

今日は、月末の閣議日ですので主要な政府経済統計がいっせいに発表されました。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数が、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局から消費者物価指数が、それぞれ公表されています。消費者物価指数の東京都区部を除いて、すべて12月の統計です。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

12月の鉱工業生産、12年4月以来の高水準 海外向け設備好調
経済産業省が31日発表した2013年12月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は100.3だった。2012年4月(100.6)以来の高水準で、前月比では1.1%上昇した。プラスは2カ月ぶり。米国やアジア向けに設備関連の装置や機械が好調だったほか、国内の建設需要の増加を背景に建設材の生産も伸びた。
QUICKがまとめた市場予想(1.3%)は下回った。経産省は生産の回復傾向は続いているものの、一段の加速はみられないとして、基調判断を「持ち直しの動き」に据え置いた。
業種別でみると15業種のうち13業種が上昇した。米国向けで、製造設備で使う数値制御ロボットやインドネシア向けのプレス機械が好調だった。復興や公共工事の増加を背景に建設向け鋼材などの需要が好調で、「金属製品工業」も生産が増加。スマートフォン(スマホ)やタブレット端末向けの液晶部材の生産が増えた「電子部品・デバイス工業」も指数を押し上げた。
出荷指数は0.6%上昇の99.7。生産が伸びた電子部品や業務用機械の出荷が増えた。一方、「輸送機械工業」は米国の寒波の影響で輸出が伸びず、2.5%低下した。出荷の増加に伴い、在庫指数は0.4%低下の105.7。在庫率指数は0.1%上昇の104.8だった。
同時に発表した製造工業生産予測調査によると、先行きは14年1月が6.1%上昇、2月は0.3%上昇する見込みだ。自動車で新車販売が好調なことを反映した。消費増税前の駆け込み需要に備えた増産も生産予測に影響している可能性はある。
併せて発表した10-12月期の鉱工業生産指数は前期比1.9%上昇の99.6と、4四半期連続でプラスを維持。一方で、13年通年の鉱工業生産指数(原指数)は前年比0.8%低下と、2年ぶりのマイナスだった。年前半に輸出が振るわなかったことが響いた。
12月の失業率、3.7%に改善 6年ぶり水準
総務省が31日発表した2013年12月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は前月比0.3ポイント低下の3.7%と07年12月以来6年ぶりの水準に低下した。緩やかな景気回復で失業者数が減った。新規に求職する動きが鈍った要因も重なった。改善は3カ月ぶり。
完全失業者数(同)は241万人で20万人減少した。うち勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は10万人減、「自発的な離職」は2万人減だった。完全失業率を男女別にみると、男性が0.3ポイント低下の3.8%、女性は0.2ポイント低下の3.5%だった。
就業者数(同)は6346万人で4万人減少し、非労働力人口は4491万人と22万人増えた。総務省は「12月は民間企業の採用活動が一時的に弱まる傾向がある。求職活動が一時的に鈍化した可能性がある」と分析している。
併せて発表した13年平均の完全失業率は4.0%で、12年に比べて0.3ポイント低下した。完全失業者数は20万人減の265万人、就業者数は41万人増の6311万人だった。
12月の有効求人倍率、1.03倍に上昇 6年3カ月ぶりの高水準
厚生労働省が31日発表した2013年12月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.03ポイント上昇の1.03倍と、07年9月以来6年3カ月ぶりの高水準だった。改善は3カ月連続。輸出企業の業績回復や東日本大震災からの復興需要、消費増税前の駆け込み需要などを反映し、製造業や建設業で求人が増えた。QUICKがまとめた市場予想は1.01倍だった。
新規求人倍率は前月比0.08ポイント上昇の1.64倍と2カ月ぶりに改善した。雇用の先行指標となる新規求人数が2.8%増えたうえ、新規求職申込件数が2.3%減った。
前年同月と比べた新規求人数(原数値)は10.9%増えた。業種別に見ると自動車関連を含む製造業が31.1%増えた。職業紹介や労働者派遣業などを含む「サービス業(他に分類されないもの)」は19.7%増、情報通信業は10.7%増だった。
都道府県別で最も有効求人倍率が高かったのは愛知県の1.49倍、最も低かったのは沖縄県の0.61倍だった。
併せて発表した13年平均の有効求人倍率は、前年比0.13ポイント上昇の0.93倍だった。改善は4年連続。有効求人数は9.4%増、有効求職者数は5.9%減だった。
13年CPI、5年ぶりプラス 前年比0.4%上昇 上昇品目広がる
総務省が31日朝発表した全国の消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、13年平均の生鮮食品を除く総合(コア指数)が、前年比0.4%上昇の100.1だった。上昇は5年ぶり。原発の稼働停止や円安による燃料の輸入価格の上昇を背景に、電気代やガソリンといったエネルギー価格が上昇した。他方、上昇品目は広がった。上昇品目は210で、下落は254。前年は上昇192、下落284だった。パソコンや携帯音楽プレーヤーなどの価格がプラスに転じた。
13年12月のコア指数は前年同月比1.3%上昇の100.6。ルームエアコンやテレビの価格が上昇し、7カ月連続のプラスだった。7カ月連続のプラスは07年10月から08年12月まで15カ月連続で上昇して以来で、1.3%の上昇率は08年10月(1.9%上昇)以来5年2カ月ぶりの大きさだった。上昇品目数は267、下落は188で、3カ月連続で上昇が下落を上回った。
食料とエネルギーを除く総合(コアコア指数)は前年同月比0.7%上昇の98.7で、3カ月連続のプラスだった。傷害保険料の引き上げや円安を背景にした海外パック旅行の価格上昇が引き続き影響した。
同時に発表した14年1月の東京都区部のCPI(中旬の速報値、10年=100)は、生鮮食品を除く総合が0.7%上昇の99.0だった。

いずれもとてもよく取りまとめられた記事なんですが、さすがに、これだけ並べるともうおなかいっぱい、という気もします。次に、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。なお、毎度のお断りですが、このブログのローカル・ルールで、直近の景気の谷は2012年11月であったと仮置きしています。これは鉱工業生産統計だけでなく、シャドーで景気後退期をお示ししたグラフすべてに共通です。

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まず、鉱工業生産は季節調整済みの前月比で+1.1%増でしたから、ほぼ市場の事前コンセンサスに沿った増加を示したと受け止めています。なお、引用した記事にもある通り、日経QUICKによる市場の事前コンセンサスは+1.3%増でした。先行きについては、製造工業生産予測調査で1月が前月比+6.1%増、2月が+0.3%増と引き続き伸びを見込んでいます。もっとも、4月からの消費税率の引上げに対する駆込み需要も1-3月期で終了するわけですから、上のグラフにも耐久消費財の出荷が12月には前月比でマイナスをつけているのが読み取れ、そろそろピークオフする可能性が現れているかもしれません。いずれにせよ、3月まで生産や出荷は堅調に推移し、4月の消費税率引上げでドンと落ちる、という形になる可能性が高いような気がします。消費については上下の往復で4月は前月比2桁マイナスもあり得ますが、然るべく経済対策も実施されますし、需要見通しをきちんと立てれば生産についてはそこまで行かないものと私は予想しています。

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10-12月期の四半期統計が利用可能になりましたので、上のグラフの通り、在庫循環図のグラフを書いてみました。私は政府の官庁エコノミストですので在庫循環図は時計回りになります。日銀エコノミストはこの逆で反時計回りになったりします。それはともかく、グラフは、緑の矢印でお示しした2008年1-3月期から始まって、オレンジ矢印の2013年10-12月期までです。緑矢印の直後の2008年9月にリーマン・ショックがあって景気は山を超えましたが、現時点ではまだ次の山に達しそうにはありません。内閣府のサイトにある「鉱工業の在庫循環図と概念図」に従えば、この在庫循環図から我が国の景気は在庫積増しの景気回復・拡大局面にあると考えられます。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数です。これも上から順に、失業率は景気の遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標、と多くのエコノミストは考えています。昨年2013年いっぱい12月までの統計を見る限り、雇用は極めて順調に推移しています。一致指標の有効求人倍率は1倍を超え、失業率も12月には信じられないくらいに低下しました。新規求人数も増加を続けています。従って、雇用は量的には極めて順調に拡大しており、そろそろ質的な賃金上昇や正規雇用の拡大が始まる段階に達しつつある、と私は受け止めています。前世紀初頭の米国のフォードのような企業家のアニマル・スピリットが我が国でも発揮されることを願っています。ただし、12月の失業率3.7%について私はやや信頼性が低いと考えています。すなわち、前回に同じような現象が現れたのは2011年9月の統計だったんですが、2011年8月の失業率4.5%から9月には4.2%にドンと低下したものの、2011年10月28日付けのエントリーで「失業率の大幅な改善はにわかには信じ難く、統計の信頼性について疑問を持つ向きがあっても不思議ではない」と書いて、翌月の2011年10月の失業率が4.5%に戻った記憶があります。今回も似た現象が起こる可能性が否定できません。ただし、この先、私は失業率は3%近い水準まで低下する可能性が十分あると考えていて、先日もある経済団体の実務者の方の質問に応じて、「3%そこそこまで失業率は低下する余地がある」と発言し、「せいぜい3%台半ば」とするその方の発言を否定したりしています。従って、12月統計の信頼性はともかく、失業率はまだまだ低下する可能性を否定しません。

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最後に、消費者物価の動向は上のグラフの通りです。棒グラフは青い折れ線で示した生鮮食品を除くコア消費者物価の前年同月比上昇率の寄与度となっています。ただし、上昇率を計算する基礎となる端数を持った指数が公表されていませんから、公表されている限りの指数とウェイトで私なりに計算しています。全国12月の消費者物価は生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率で+1.3%に達しました。前月11月が+1.2%でしたので大きな違いはないように感じられるかもしれませんが、この0.1%ポイントの上昇率の違いに私はかなり大きな意義を見出しています。というのは、先週1月22日のエントリーで取り上げた2013-2015年度の政策委員の大勢見通しにおいて、消費税率引上げの影響を除くケースの2014年度の政策委員の見通しの中央値がこの+1.3%だったからです。要するに、すでに2013年12月の時点で2014年度の日銀の物価上昇見通し+1.3%に達した、ということになります。もちろん、今年2014年4月からの消費税率引上げで需給ギャップがマイナスに動いて物価上昇率は下振れする可能性が高いですし、多くのエコノミストの論調では、たとえば、2014年1月に発表されたESPフォーキャスト調査では、日銀の物価目標について「達成できる」1人に対して、「達成できない」34人と、圧倒的に日銀のインフレ目標の達成可能性に否定的なんですが、少なくとも、統計に現れた物価上昇率は2015年度に2%に達するインフレ目標に整合的である、と理解すべきです。

繰返しになりますが、生産はやや市場の事前コンセンサスを下回ったものの、雇用や物価は極めて順調です。物価も日銀のインフレ目標にそって上昇率を高めています。デフレ脱却の十分条件である賃上げの条件は整備されました。

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