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2014年1月 8日 (水)

UNICEF のリポートに見る日本の子供の幸福度は世代間不平等の犠牲か!

UNICEF 調査部 (Office of Research) から Innocenti Report Card がシリーズで公表されていますが、昨年12月に日本の子供の幸福度に関するリポート Child Well-being in Rich Countries: Comparing Japan が明らかにされています。Innocenti Report Card の第11巻である Child Well-being in Rich Countries: A comparative overview の日本版という位置づけで、先進31か国の中における日本の子供の幸福度を分析しており、個別の国としては31か国の中でトップにリポートが公表されています。まず、UNICEF のサイトからリポートの概要 Description を引用すると以下の通りです。

Description
Using national data sources from Japan and matching them carefully with the data used in the original Report Card 11, this report manages to include Japan in the league table and subsequent ranking in each of five dimensions in order to assess Japan's performance in child well-being among developed countries. Maintaining as much as possible the original framework of the RC11, the analysis is based on indicators that are strictly comparable between Japan and the other countries.

上に引用した Description の中に "five dimensions" というのがありますが、以下の通りです。なお、最後のカッコ内の数字は先進31か国の中の日本のランクです。

Dimension 1
Material well-being (21)
Dimension 2
Health and safety (16)
Dimension 3
Education (1)
Dimension 4
Behaviours and risks (1)
Dimension 5
Housing and environment (10)

全体を総合した日本のランクは31か国中で6位となっており、経済規模並みにまずまず上位を占めているといえます。ただし、リポートでも "Japan's poor performance in 'Material wellbeing' is puzzling given the excellent performance in 'Education' and 'Behaviours and risks'." と指摘されており、上のテーブルにある第3項目の教育水準や第4項目の日常生活のリスクの低さが優れているにもかかわらず、第1項目の物質的な幸福度が低いのは "puzzling" ということになります。単純に考えれば、一例として、教育水準が高ければ生産性も高くて、物質的な豊かさにもいい影響を及ぼすと考えるのが普通だからです。今夜のエントリーでは、このパズルも含めて、簡単にリポートを紹介したいと思います。グラフなどの引用元をグローバルに示しておくと以下の通りです。

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まず、提示したパズルに対するいきなりの種明かしですが、日本の子供達の物質的な幸福度が低いのは、子供を持つ家庭の間で相対的貧困などの格差が大きく、貧困が広がっているからです。上のグラフはリポートの p.6 Figure 1.1a Relative child poverty rates を引用しています。グラフが多くなり過ぎるので引用は控えますが、上のグラフの次のページのグラフ、すなわち、リポートの p.8 Figure 1.1b Child poverty gaps でも日本の成績は悪くなっていて、我が国の世代間不平等のしわ寄せが子供に及んでいる実態が浮彫りにされています。昨年2013年12月12日付けのエントリーで社会保障費用統計を取り上げた際にも言及した通り、社会保障給付が高齢の引退世代に極めて手厚い一方で、将来を担う世代である子供を持つ家庭には不平等や貧困が広がっている実態が国際機関のリポートでも示唆されたと受け止めるべきです。このリポートからは必ずしも明らかではありませんが、バックグラウンドに圧倒的な投票パワーを有するシルバー・デモクラシーにより、日本の社会保障政策が左右されているのは明らかでしょう。

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次に、日本の子供達の努力や能力などを見ると、上のグラフは第3項目の教育の一例として、リポートの p.19 Figure 3.2 Educational achievement by age 15 を引用していますが、12月4日付けのエントリーで取り上げた OECD の学習到達度テスト (PISA) の結果では優秀な成績を収めていることが明らかにされています。さらに、下のグラフは第4項目の日常生活のリスクの低さの一例として、リポートの p.24 Fig 4.2a Teenage fertility rate を引用していますが、10代での出産率は極めて低くなっていますし、これ以外にも、グラフは引用しないものの、リポートでは日本の子供達の日常生活上のリスクの低さを示すものとして、過体重は少なく、朝食をとる割合は高く、アルコールの摂取割合は低い、という結果などが示されています。体重、朝食、アルコールの3項目では日本はすべて先進31か国中でトップです。

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要するに、特筆大書されるべきは、日本の子供達はよく勉強して世界でもトップクラスの成績を収めるとともに、日常生活でも節制に努めてリスクがとても低い一方で、一部に歪んだ社会保障政策にも起因して、子供を有する家庭に不平等や貧困が広がっており、そのために物質的な幸福度が低くて、総合的な子供の幸福度の足を引っ張っている、ということになります。この UNICEF のリポートは国立人口問題・社会保障研究所との共同研究の成果として発表されているんですが、著名な国際機関と国立研究機関からこのような結果を示されて、日本の民主主義は将来社会の担い手たる子供達を持つ家庭に対する政策をどのように改めるんでしょうか。それとも、圧倒的な投票パワーを背景にしたシルバー・デモクラシーにひれ伏して無視を決め込むだけなんでしょうか。

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