2013年10-12月期1次QEの成長率はやや物足りないか?
本日、内閣府から昨年10-12月期の四半期GDP統計速報、いわゆる1次QEが発表されました。実質成長率は季節調整済の前期比で+0.3%、前期比年率で+1.0%を記録しました。予想ほどの高成長ではありませんでした。消費税率引上げ前の駆込み需要が1997年の過去の例と比較しても小さかったのと、新興国経済の低迷から輸出が伸び悩んだのが原因と私は考えています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
GDP実質1.0%増 10-12月年率、輸出伸び悩む
内閣府が17日発表した2013年10-12月期の国内総生産(GDP)速報値は物価の変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.3%増、年率換算で1.0%増となった。4四半期連続のプラス成長だが、前期(年率1.1%増)に比べると伸び率は縮小した。個人消費や設備投資などが底堅く推移する一方、輸出の伸び悩みを背景とした外需の落ち込みが成長率を押し下げた。
甘利明経済財政・再生相は17日午前、「民間需要を中心に景気は着実に上向いている」と述べた。
実質成長率の速報値は民間エコノミストの予測の平均(年率2.7%増)を大きく下回った。生活実感に近い名目成長率は0.4%増、年率で1.6%増だった。10-12月期は名目成長率が実質値を上回り、デフレの象徴とされる「名実逆転」は4四半期ぶりに解消した。
実質成長率が減速する一因となったのは、輸出の伸び悩みだ。「新興国経済が不安定なことから、輸出がなかなか改善しない」(甘利経財相)。輸出全体は前期比0.4%増とプラスに転じたものの、伸び率は小さかった。
輸入は原油や液化天然ガス(LNG)が伸びて3.5%増となった。この結果、実質GDPの前期比の増減に対する寄与度で見ると、輸出から輸入を差し引いた外需はマイナス0.5ポイントと、2四半期続けて成長率を下げる要因となった。
一方、国内需要は実質GDPを0.8ポイント押し上げた。消費増税前の駆け込み需要を受けて、内需が景気を下支えする要因となっている。
内需のうち、個人消費は前期比0.5%増と前期(0.2%増)に比べ、伸び率を高めた。自動車などの高額消費が堅調だったほか、株価の上昇を受け、証券売買手数料などの金融サービスが伸びた。住宅投資も4.2%増と前期の伸び率(3.3%増)を上回った。
設備投資も1.3%増と3四半期連続のプラスだった。自動車など輸送機械や電子通信機器などの分野の設備投資が堅調だったことを背景に、伸び率は0.2%増だった前期から加速し、11年10-12月期以来、2年ぶりの大きさとなった。
公共投資は前期比2.3%増。5四半期続けて前期を上回ったが、12年度補正予算に盛り込んだ公共工事の執行が一服したことで伸び率は7-9月期(7.2%増)に比べて鈍った。
昨年10-12月期の日本経済は個人消費と設備投資がけん引した。公共投資に頼る側面が強かった昨年7-9月期に比べると、民間の経済活動を軸に景気が回復する良い構図だったと言える。
ただ、消費増税前の駆け込み需要があることを踏まえると、年率で1%程度の実質成長率はやや低めだった。内需が好調なためGDPから差し引く輸入が大きく伸び、成長率を抑えた面があるものの、円安にもかかわらず増えない輸出は14年の日本経済にとって大きな不安要因になっている。
13年の年間のGDP成長率は実質が1.6%増、名目が1.0%増だった。足元の消費者物価の上昇で、四半期では「名実逆転」が解消したものの、年間を通してみると名目成長率が実質を下回った。
ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、内閣府のリンク先からお願いします。
です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした需要項目 | 2012/10-12 | 2013/1-3 | 2012/4-6 | 2013/7-9 | 2013/10-12 |
国内総生産GDP | ▲0.1 | +1.2 | +1.0 | +0.3 | +0.3 |
民間消費 | ▲0.1 | +0.6 | +0.5 | +0.5 | +0.8 |
民間住宅 | +2.3 | +1.7 | +0.9 | +3.3 | +4.2 |
民間設備 | ▲1.1 | ▲0.9 | +1.1 | +0.2 | +1.3 |
民間在庫 * | (▲0.2) | (▲0.1) | (▲0.2) | (+0.1) | (▲0.0) |
公的需要 | +0.6 | +1.1 | +1.8 | +1.6 | +0.9 |
内需寄与度 * | (+0.1) | (+0.8) | (+0.8) | (+0.8) | (+0.8) |
外需寄与度 * | (▲0.1) | (+0.4) | (+0.1) | (▲0.5) | (▲0.5) |
輸出 | ▲2.9 | +4.2 | +2.9 | ▲0.7 | +0.4 |
輸入 | ▲1.9 | +1.1 | +1.8 | +2.4 | +3.5 |
国内総所得GDI | +0.0 | +0.8 | +1.0 | +0.1 | +0.1 |
国民総所得GNI | +0.1 | +0.7 | +1.7 | ▲0.2 | +0.1 |
名目GDP | +0.0 | +0.7 | +1.0 | +0.2 | +0.4 |
雇用者報酬 | ▲0.5 | +0.6 | +0.4 | ▲0.4 | +0.1 |
GDPデフレータ | ▲0.7 | ▲1.0 | ▲0.5 | ▲0.4 | ▲0.4 |
内需デフレータ | ▲0.7 | ▲0.8 | ▲0.3 | +0.4 | +0.5 |
テーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対する寄与度であり、左軸の単位はパーセントです。棒グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年10-12月期の最新データでは、前期比成長率がプラスであり、黒の外需がマイナス寄与を示した他は、赤の民間消費、黄色の公的需要、グレーの在庫投資など内需の寄与は1-3月期や4-6月期と大差なく、水色の設備投資はプラスの寄与度を拡大しているのが見て取れます。7-9月期に続いて10-12月期も成長率が減速したのは外需が足を引っ張った結果といえます。
日経QUICKによる市場の事前コンセンサスは前期比で+0.7%成長、前期比年率で+2.7%成長でしたから、やや物足りない内容といえます。引用した記事にある甘利経済財政担当大臣の発言通り、米国の量的緩和第3弾QE3の縮小に伴う新興国経済の低迷が我が国の輸出の伸び悩みにつながっています。アベノミクスに伴う円高修正もほぼ1年を経て、そろそろJカーブ効果から脱して輸出の増加が期待され、実際に昨年10-12月期は輸出が増加しているんですが、それ以上に原発停止などに起因する燃料輸入の増加により純輸出がマイナス寄与を強めています。期待ほどの成長でなかった対外要因は外需の不振といえます。
外需が振るわない一方で、10-12月期の成長を牽引したのは内需であり、特に駆込み需要と考えられるのは住宅投資と個人消費です。上のグラフは個人消費のうちの財別消費の伸びをプロットしていますが、10-12月期は7-9月期に続いて大きく耐久消費財が伸びています。非耐久財の消費を抑制して耐久消費財の駆込み需要が生じているようにすら見えます。ですから、1-3月期には保存可能期間に応じて、耐久消費財だけでなく、半耐久財や非耐久財の駆込みも発生する可能性が十分あります。他方、1997年4月からの消費税率の引上げについて参考までに軽く見ておくと、住宅投資は直前の1997年1-3月期にはすでに前期比マイナスとなっており、やっぱり駆込み需要の焦点は消費と考えられます。ちなみに、1996年10-12月期の消費は前期比+1.1%増、1997年1-3月期は+2.1%増の後、消費税率が3%から5%に引き上げられた1997年4-6月期には▲3.5%減を記録しています。今回、2013年10-12月期の消費はまだ+0.5%増ですから1997年消費税率引上げ前よりも伸びは小さいと考えられます。しかし、1-3月期には消費の伸び率が10-12月期よりも高まることは確実であり、1997年とよく似たパターンをたどる可能性も残されていると私は考えています。
3枚目のグラフはデフレータの推移です。上のパネルは季節調整していない原系列のデフレータの前年同期比、下は季節調整した系列の指数をそのままプロットしています。影をつけた期間は景気後退期です。消費デフレータや内需デフレータはプラスになったという意味ですでにデフレから脱却しており、昨年年央を底に上昇に転じつつあります。問題はここでも輸入で、控除項目の輸入デフレータの上昇とそもそも輸入のウェイトの増加により、GDPデフレータがもたついていると考えるべきです。消費デフレータ、国内需要デフレータとも、2013年10-12月期には季節調整していない原系列の前年同期比で+0.6%の上昇となっていますので、ラスパイレス指数とパーシェ指数のバイアスを考慮すれば、消費者物価上昇率と整合的であると受け止めています。同時に、日銀が想定するデフレ脱却のパスにも乗っていると私は考えています。
総合的に考えると、1997年の消費税率引上げ時よりも消費の駆込み需要がまだ大きくなく、新興国経済の停滞と原発停止に伴う燃料輸入の増加などから外需が足を引っ張った結果、10-12月期の成長率は市場の事前コンセンサスを下回ったものの、日本経済の姿としては決して悪くなく、デフレ脱却も視野に入りつつある、と私は楽観しています。
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