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2014年2月 2日 (日)

最近の読書

先週末は音楽鑑賞のブログは書いたものの、読書感想文は取り上げなかったため、この週末の読書感想文は先週と先々週の2週分になりますので、やや冊数が多くなっています。悪しからず。

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まず、田中秀臣編『日本経済は復活するか』(藤原書店) です。やはり、リフレ派のエコノミストとして、この本は真っ先に取り上げねばなりません。しかし、本としては、編集者の意向もあるのでしょうが、何やら取りとめもなく、論文集にも至らないメモの取合せという印象です。従って、書物としては失敗かもしれませんが、個別の論文には見るべきものが少なくありません。たとえば、私が従来から考えているところですが、松尾教授の論考にもある通り、リフレ的な政策は左派と親和性が高い、というのは見逃すべきではありません。特に対中国の外交政策や安全保障政策で右派的な印象のある現政権が、なぜか、金融政策をはじめとする経済政策については左派的な政策を採用しています。実は、私自身がかなりリベラルで左派に近いエコノミストなものですから、とても興味深いと受け止めています。また、p.221 のボワイエ教授のインタビューでケインズ的なアニマル・スピリットが指摘されています。私は左派エコノミストとしてアニマル・スピリットにかける現在の日本の企業家に対する批判意識がかなり高いんですが、ボワイエ教授の趣旨としては、アベノミクスではアニマル・スピリットを喚起することはないという批判ですので、やや的外れかと受け止めました。

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次に、山田昌弘『なぜ日本は若者に冷酷なのか』(東洋経済) です。私はこの本の著者の山田教授は『パラサイト・シングルの時代 』(ちくま新書) のころから、それこそ若者に冷酷で批判的だという印象を持っていたんですが、この本の元になった週刊「東洋経済」連載中のコラムを見始めて印象をガラリと変えました。実に真っ当な見方が示されていると受け止めています。序章の冒頭で世代間対立を煽るつもりはなく、「若者に冷たい社会」の対照にあるのは「子どもにやさしい親」である、と明記している一方で、その舌の根も乾かないうちから、p.15 では「雇用に関しても、社会保障に関しても、中高年には手厚く、若者には冷たい。」と、対立を煽る意図はないかもしれないものの、世代間格差は決して無視できないという現状認識を披露しています。しかも、その背景が投票行動に基づくシルバー・デモクラシーであることまで明らかにされていて、私もまったく同意見です。もっとも、「シルバー・デモクラシー」という言葉は私が勝手に使っているので、本書には登場しません。私は基本的に市場で決まらず投票で決まる社会保障に関する高齢者や引退世代の極端な優遇を批判していますが、本書で指摘する通り、雇用の場でもそうかもしれません。そういった意味で、世代間格差に関心ある読書子には必読の書といえますが、特に、第5章 日本再浮上のために が鋭い切れ味を見せています。ただし、p.62 からの教育に関する論考について私は少し異議がありますし、新卒一括採用への批判については、私は新卒即失業者としないためには歴史的にも意義は小さくなかったと認識しています。最後にどうでもいいことながら、タイトルのように若者に冷酷な原因を突き止めて、その原因を除去することを目指しているわけではなく、原因は不問にして延々と対処療法を話題にしています。その意味で、「看板倒れ」と感じる読者もいるかもしれません。

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ここからは文芸書ないしエンタメ本に視点を転じ、ジョン・ル・カレ『誰よりも狙われた男』(早川書房) です。著者は言わずと知れたスパイ小説の巨匠です。もう御年80歳を超えたんではないでしょうか。もっとも、本書は2008年の作品です。ドイツのハンブルクを舞台にチェチェンからのイスラム教徒不法入国者と、それを追い詰めるドイツのインテリジェンス機関とのせめぎ合い、さらに、いわゆるプライベート・バンクにおけるマネー・ロンダリングなど、その昔の東西冷戦時代のスパイ小説から昨今のテロとテロ防止を主戦場とするスパイ小説までさすがの巨匠が幅広く対応しているのがよく分かります。ただし、2012年12月1日付けのエントリーで取り上げた『われらが背きし者』でもマネー・ロンダリングでしたので、やや重複感は否定できません。フランス的なペンネームを採用した英国人作家らしく、というか、いつもの通りなのかもしれませんが、最後の方に登場するCIAハンブルク支局のナンバーツーであるマーサに体現されているような米国の振りかざす「正義」に対するシニカルな見方が提供されています。これまた、いつもの通り、007ジェームズ・ボンド的な派手なアクションを取り込んだスパイ小説ではなく、深く静かで地味なインテリジェンス活動を小説にしており、それなりに難解ですが、徐々に後半に向けて盛り上がって行きます。

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次に、堂場瞬一『Sの継承』(中央公論新社) です。私はこの作者の作品は初めて読みました。舞台は2部に分かれており、前回の東京オリンピック前後の1960年代前半を舞台にした第1部とその50年後の21世紀の現代の第2部です。「S」というコードネームを振られた毒ガスをテコにして、国会を解散して内閣を総辞職させ、官僚による支配を確立せんとするクーデタないしテロを目論む集団を主人公に話は進みます。第2部でそのテロが実行されるんですが、いかにも計画がお粗末というか、まったく実現性のない荒唐無稽なテロ活動としか私には受け止められませんでした。現時点の日本で大規模なクーデタが発生する可能性はほぼゼロと私は考えていますし、私自身はキャリアの国家公務員なんですが、昨今の官僚バッシングの中で、ここまで官僚に国の舵取りというか、支配を任せようと考える集団がいるということもちょっと現実離れしていますし、いずれにせよ、小説でしか扱えないテーマなのかもしれません。かなり長いタイムスパンを対象にした小説ですのでページ数も膨大で分厚い本ですが、最後の第2部のテロの実行部分がスカスカなので、インターネットで人を集めるのもやっぱりスカスカなので、緊迫感のない拍子抜けする読後感でした。ラストの緊迫感は奥田英朗『オリンピックの身代金』の方に軍配を上げます。

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次に、高樹のぶ子『香夜』(集英社) です。タイトルはアルファベットが振ってあるように「かぐや」と読ませます。この作者の作品も私は初めて読みました。10代の女性である満留瀬流奈(まるせ・るな)を主人公とする連作の短編集のような出来栄えになっています。もっとも、後の方の短編では20年ほど経過した後で、流奈は2児の母となって登場したりします。この主人公が死ぬ前に会いたいと願った人々との逢瀬を、4つの短編で構成しています。舞台は辺根市という架空の地方都市で、ここでは三条医院の三条家が重要な役割を果たしています。なお、最初の短編に現れる金魚は、直木賞を授賞された姫野カオルコ『受難』の人面瘡のようなものと解釈しました。それにしても、いかにも日本的な「竹取物語」からの影響は感じられるものの、幻想的といえばいいのか、前衛的といえばいいのか、エロスもあればホラーもあって、私にはまだこの作品を読みこなす力はないと感じてしまいました。ル・カレのスパイ小説以上に難解な小説を読みこなす自信のある読書子にオススメします。

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最後に、中山七里『いつまでもショパン』(宝島社) です。この作者は第8回このミス大賞を『さよならドビュッシー』で受賞してデビューし、デビュー作の岬洋介シリーズは前作の『おやすみラフマニノフ』に続いて3作目です。私は岬洋介シリーズは全部読んだんですが、この作品が出たのは恥ずかしながら知らずじまいで、この2014年1月に文庫本のバージョンが出るという宣伝を見て単行本を借りて読みました。舞台はワルシャワで行なわれるショパン・コンクールの会場です。岬洋介がコンテスタントとしてエントリーしています。テロが頻発するワルシャワで、コードネーム「ピアニスト」と呼ばれるテロリストを岬洋介が突き止めます。いつもの通り、クラシック音楽に関するウンチクが傾けられ、特に、指揮も執りますがピアノを専門とする岬洋介のホームグラウンドであるショパンにちなんだ謎解きなんですが、ミステリの部分は音楽のウンチクよりも量として少なく、「ピアニスト」の正体は少し驚かされるものの、それほど謎解きも難しくなく、シリーズ3作目にしてすこし凡庸な気がしないでもありません。1作目の『さよならドビュッシー』からレベルが落ちて来ている気もします。

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最後に、エラリー・クイーンのドルリー・レーン4部作が角川文庫から新訳で出版されていますのでまとめて借りました。1月12日のエントリーで紹介したクイーンの国名シリーズの新訳5冊はすでに読んだんですが、このドルリー・レーン4部作にはまったく手も付けていません。そのうちに、というか、貸出し期限内に読みたいと予定しています。

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