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2014年2月20日 (木)

貿易赤字の拡大と原発再稼働はどこまでリンクしているのか?

本日、財務省から1月の貿易統計が発表されています。季節調整していない原系列の統計で、輸出額は前年同月比+9.5%増の5兆2529億円となった一方で、輸入額は+25.0%増の8兆429億円に上り、差引き貿易収支は2兆7900億円の赤字と単月では過去最大の赤字を記録しました。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

1月貿易赤字、過去最大の2兆7900億円 LNG輸入額が最大
財務省が20日発表した1月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆7900億円の赤字だった。赤字額は2013年1月の1兆6335億円を上回り、現行基準で比較可能な1979年以降で最大となった。円安を背景に燃料の輸入額が膨らみ、液化天然ガス(LNG)の輸入額は過去最大になった。太陽光発電用の光電池などの輸入が増えたことも影響した。赤字は19カ月連続で13年9月以降、最長を更新し続けている。
貿易赤字額が1月に過去最大を更新するのは12年以降、3年連続となる。1月は正月休暇で日本からの輸出が例年少なくなる一方で、暖房など燃料の輸入がかさむため貿易赤字が膨らみやすい。今年は中国の春節(旧正月)が1月末から始まったことも輸出が伸び悩んだ一因となった。2月以降は輸出が持ち直し、貿易赤字が縮小する可能性がある。
1月の輸入額は前年同月比25.0%増の8兆429億円で、これまで最大だった2008年7月(7兆5426億円)を上回り過去最大だった。輸入額は15カ月連続で増え、輸入数量指数は8.0%増と4カ月連続で増加した。クウェートからの原粗油やカタールからのLNG、中国からの光電池など半導体等電子部品の輸入が増えた。中国からの輸入額は1兆9074億円で過去最大。これに伴い、アジアからの輸入額は3兆6691億円で過去最大だった。
輸出額は9.5%増の5兆2529億円で11カ月連続で増えた。輸出数量指数は0.2%減と4カ月ぶりに減った。米国向け自動車や、中国向けにペットボトル原料などになる有機化合物の輸出が増えた。
為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=104円53銭で、前年同月比20.2%の円安だった。
貿易収支を地域別にみると、対中国は1兆448億円の赤字、対アジアは9664億円の赤字で、ともに過去最大だった。対欧州連合(EU)も886億円の赤字。一方、対米国の貿易黒字は前年同月比15.2%増の3672億円だった。

いつもながら、とてもよく取りまとめられた記事です。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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季節調整していない原系列、季節調整済みの系列ともに1月の貿易統計では輸出が減少して輸入が増加していますから貿易赤字は拡大しています。緑色の棒グラフの貿易収支が、少なくとも、グラフに収めたレンジの中で最大の赤字を記録していることは明らかです。輸出については季節調整済みの系列も含めて、お正月と中国の春節という季節要因が作用しているのは事実ですし、中国をはじめとする新興国・途上国の景気が停滞しているために我が国からの輸出が伸びないもの事実です。逆に、輸入は消費税率引上げ直前の駆込み需要も含めて我が国の景気が上昇している要因があり、さらに、原発停止に起因する燃料輸入、特にLNG輸入の増加も貿易赤字拡大の一因となっています。貿易赤字の拡大については、循環要因としての景気局面の違い、特に中国をはじめとする新興国・途上国の停滞と我が国経済の好景気の差が指摘できる一方で、構造要因としては原発停止に伴う燃料輸入の増加が上げられます。

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ということで、上のグラフは鉱物性燃料輸入の推移を示しています。赤が鉱物性燃料輸入額、青がそのうちの液化天然ガス(LNG)輸入額、これらは兆円単位で左軸に対応し、緑色の折れ線グラフでプロットしたLNG輸入数量は100万トン単位で右軸に対応します。燃料輸入は2008年年央に一度ピークをつけていて、リーマン・ブラザーズ証券破綻とともに主として原油や燃料価格の大幅な低下に従って輸入額も大きく落ち込みました。しかし、LNG輸入数量のグラフに示されている通り、輸入数量は輸入額ほどの落ち込みはなく、2011年の震災を経てLNGの輸入額・輸入数量は高い水準にあります。
原発の再稼働については、原子力規制委員会のサイトを見ると、昨年年央くらいから各電力会社の原発に関して新規制基準適合性に係る審査が進められています。しかし、日経新聞のニュースなどで、審査が遅れている旨を指摘する報道も見かけたりします。私はそもそも貿易赤字は解消すべき課題であるとは考えていませんし、もちろん、一方的に原発再稼働を支持するわけではなく、原発再稼働について判断するだけの能力は持ち合わせません。科学的な知見に基づく審査に従って安全性を確認する重要性は理解している一方で、原発の安全性については私は専門外ですが、そろそろ、原発再稼働の是非について、結論まで一気に進まないまでも、方向性なりとも打ち出すべき時期に来ているとの意見が出る素地もあろうかということくらいは理解します。
原発再稼働が貿易赤字に対する政策割当てに適当であるとはまったく思いませんし、繰返しになりますが、貿易赤字を解消する政策が現時点で必要とも考えていません。原発再稼働は安全性とエネルギー政策の観点から慎重に判断すべきポイントであることは当然です。しかしながら、原発を再稼働すれば燃料輸入は抑制される一方で、原発再稼働に踏み切らずに別のエネルギー政策を発動するのであれば、それなりの政策対応を取るべき必要性が生じる可能性も否定できません。いずれにせよ、放置して先送りするには、余りに重要過ぎる政策課題ではなかろうかと考えるのは私だけなんでしょうか?

私が経験した1980年代末の弾力性ペシミズムが蘇りつつあるように思えてなりません。為替で貿易収支や経常収支はコントロール出来ないのかもしれません。すなわち、消費税率引上げ前の駆込み需要が終了して反動減の局面を迎え、円安に起因するJカーブ効果も終了して、貿易収支が再び黒字に戻る、とまで楽観するだけの根拠はあるのかどうか、私には自信がありません。

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