今週の新刊書の読書感想文
この週末は、私のように3連休というサラリーマンも少なくないと思いますし、また、我が家の倅どものように春休みが始まっている学生や生徒の諸君もいっぱいいそうな気がします。弘通、読書の季節といえば秋なんでしょうが、花粉症で出歩くのが億劫な私のような人間にとっては、この春の季節も読書に適していそうな気がします。というころで、今週の読書は以下の通りです。
まず、ネイト・シルバー『シグナル&ノイズ』(日経BP社) です。ひと昔前の「情報化時代」なんていわれたこともありましたが、特にインターネットの発達に伴って、利用可能な情報量はうなぎ上りに増加しています。しかし、ホントに必要なシグナルなのか、単なるノイズなのかは一見して判断に苦しむ場合もあります。ノイズをシグナルと誤認すると過剰適応(オーバーフィッティング)の問題を生じます。また、本書では、特に何かを賭ける場合、典型的にはギャンブル、にはベイズ統計の利用をオススメしています。ア・プリオリに決まるコイントスとかサイコロのような客観的な確率は別にして、しょせん、確率とはかなりの程度に主観的なものなのですから、事前と事後の確率を推定するベイズ統計は理にかなっているかもしれません。本書は学術書というよりも、ジャーナリストが取材した結果のような部分も少なくありません。また、p.493 からの10ページほどを読めば本書をすべて読んだうちの5割くらいの知識を得ることが出来ます。その意味で本屋さんで立ち読みするのに適した本だという気もします。
次に、嶋中潤『代理処罰』(光文社) です。日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作品だそうです。妻は自動車事故で老女を轢き殺して出身地のブラジルに帰国してしまった後、高校生の娘が誘拐され、身代金引渡しに指名された妻を探してブラジルに渡伯するというストーリーです。なかなかよく考えられたプロットのミステリなんですが、いかんせん、タイトルとした「代理処罰」はまったくストーリーやプロットに関係しません。「代理処罰」に関する法律的な議論に興味ある向きには大きく肩透かしを食ったような読後感が残るかもしれません。新人賞受賞作品ですから、当然ながら、新人が書いています。そのつもりで読み進むべきです。
次に、『首都崩壊』(幻冬舎) です。私はこの作者の作品は何冊か読んだことがあり、そのうち、強毒性の鳥インフルエンザのパンデミックを取り上げた『首都感染』は2011年5月29日のエントリーで読書感想文を披露していたりします。また、本書では首都圏直下型の地震に焦点を当てていますが、同じテーマの『M8』も読んだことがあります。なお、「エム・エイト」と読みます。『M8』が地震予知に的を絞った理系作品であったのに対し、本書『首都崩壊』は首都直下型地震による被害を避けるために、何と、首都移転を実行しようとする官僚や政治家や建築家にスポットを当てている文系作品です。東北の震災後に書かれた小説であり、首都直下型地震に対して、とても斬新な視点を提供している気もしますが、やや という意見もあるでしょう。同じ作者が同じ首都直下型地震をテーマにしている小説としては『M8』の方を私は熱烈にオススメします。
最後に、もう20年ほども昔に始まったミステリのシリーズなんですが、有栖川有栖「臨床犯罪学者・火村英生の推理」シリーズ が角川ビーンズ文庫で改めて出版されています。エラリー・クイーンや法月綸太郎のように、作者と同じ有栖川有栖が登場するシリーズですが、英都大学の推理小説研究会の江神部長を探偵役に据えた「学生アリス」シリーズの続きの「作家アリス」シリーズです。探偵役はタイトルの通り、英都大学助教授の火村英生です。「学生アリス」シリーズは既刊で長編4冊だけで、私はすべて読んでいると思うんですが、「作家アリス」シリーズは膨大にあります。もっとも、短編が多いのも事実です。エラリー・クイーンの向こうを張って国名シリーズも含まれていたりします。私が知る限り、既刊は上の6冊なんですが、悲しくも現時点で角川書店のwebサイトが不正侵入にあって閉鎖されているため確認できません。
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