この週末の国際通貨基金(IMF)と世銀の年次総会に向けて、「世界経済見通し」 World Economic Outlook (WEO) が公表されています。副題は Recovery Strengthens, Remains Uneven です。直訳ですが、「経済回復は力強さを増すも、ばらつきが残る」といったところでしょうか。まず、USA Today のサイトから記事の最初の5パラまでを引用すると以下の通りです。なお、記事の6パラ目以降は "Forecasts for other regions" が続きますが、長くなりますので割愛します。
IMF: World economy stronger; recovery uneven
The International Monetary Fund said Tuesday the global recovery will gain strength this year, but it trimmed its growth forecast amid a sharp rise in Japan's sales tax and a slowdown in emerging markets.
An accelerating U.S. recovery will help the world economy grow 3.6% this year, the IMF said, up from 3% in 2013 but down slightly from its 3.7% projection in January. Growth will pick up to a 3.9% pace in 2015, the fund said in advance of the spring meetings of the IMF and World Bank in Washington this week.
"A recovery which was starting to take hold in October is becoming stronger but also broader," IMF chief economist Olivier Blanchard said at a press briefing Tuesday. But, he added, "the recovery remains uneven."
The IMF's 2014 growth forecast for the U.S. was unchanged at 2.8%. That is the highest among advanced economies, which the IMF said are driving the global expansion.
"A major impulse to global growth has come from the United States," the IMF said in its World Economic Outlook, adding that U.S. growth will pick up to 3% next year. The IMF cited more modest federal government spending cuts this year, higher household wealth, the recovering housing market and banks that are more willing to lend.
このブログは国際機関のリポートに着目するという、ひとつの特徴を持たせていますので、第1章の経済見通しを中心に、第3章と第4章の分析編も含めて、簡単に取り上げておきたいと思います。図表は主としてIMFのサイトにアップしてあるpdfの全文リポートから引用しています。
まず、上の表はIMFのサイトから成長率見通しの総括表を引用しています。クリックすると、リポート p.2 Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Projections だけを抜き出した1ページのpdfファイルが別タブで開きます。世界経済の成長率は2013年の3%から2014年には3.6%、翌2015年には3.9%と、昨年2013年10月の見通しから大きな変更はなく、今年から来年にかけて世界経済の成長は力強さを増すと見込まれています。ただし、今年2014年1月の最新の見通しから2014-15年とも下方修正されているのは、基本的に、日本の消費増税に伴う成長の減速と新興国・途上国で景気の停滞が続くからです。
地域別に成長率見通しを見たグラフは上の通りです。リポート p.3 Figure 1.2. GDP Growth Forecasts を引用しています。米国経済が好調な一方で、我が国は消費増税に起因して2014-15年はやや成長が鈍化します。当然ながら、消費税率引上げを実施する四半期の成長は大きく落ちます。また、ユーロ圏諸国は2013年後半からようやくプラス成長に回帰し、2014-15年は着実な成長経路をたどると見込まれています。
世界経済が順調な成長を続ける一方で、物価は安定的に推移すると見込まれています。上のグラフは、リポート p.6 Figure 1.5. Global Inflation を引用しています。特に私が注目したのは、真ん中の段のヘッドラインの消費者物価上昇率です。我が国では、今年2014年4月1日の消費税率引上げの影響が一巡した後、消費者物価上昇率は+1%前後に戻り、日銀のインフレ目標である2%には達しないと見込んでいるようです。
今回の見通しではリスクは決して大きくないんですが、リポート p.14 Figure 1.14. Recession and Deflation Risks を引用すると上の通りです。見れば分かると思いますが、景気後退とデフレのリスクを定量的に示しています。景気後退のリスクについては、昨年2013年10月時点と比べて、ユーロ圏諸国が低下した一方で、日本は消費税増税に伴ってリスクが高くなっていますが、それでもまだユーロ圏諸国よりも景気後退の蓋然性は低いと評価れています。また、我が国がデフレに陥る蓋然性はゼロだったりします。
地域編の第2章を飛ばして、分析編の第3章では、このところ低下が続いている金利を取り上げています。上のグラフは、リポート p.81 Figure 3.1. Ten-Year Interest Rate on Government Bonds and Inflation を引用しています。日本を除くG5諸国の国債の実質金利が下がり続けているのが見て取れます。当時の米国連邦準備制度理事会(FED)のバーナンキ議長がサブプライム・バブル華やかなりしころに、"Global Saving Glut" なんて表現を持ち出して、スピーチで使ったりしていました。私もそれほど深く読んではいませんが、それに近い分析なんではないかと受け止めています。低金利は、財政赤字のサステイナビリティの問題を緩和する方向に作用しますが、金融政策にはゼロ金利制約を課す可能性が高まります。その意味で、新たな政策課題が提起されている可能性が示唆されています。
分析編第4章では、このところ景気の停滞が目立つ新興国・途上国経済に焦点を当てています。上のグラフは、リポート p.124 Figure 4.8. Historical Decompositions of Real GDP Growth into Internal and External Factors を引用していますが、外需と外国からの資金流入と交易条件からなる外部要因が、新興国・途上国の成長に対してプラスの効果を及ぼす割合が小さくなったり、あるいは、この先2-3年くらいマイナスに作用したりする可能性が示唆されています。政策的にマクロ経済の不均衡を引き起こすことなく、成長の勢いを回復するための手段を分析する必要について言及しています。
最後に、IMFの見通しを離れて、すっかり見逃していたんですが、アジア開発銀行(ADB)の「アジア開発見通し」 Asian Development Outlook 2014: Fiscal Policy for Inclusive Growth が先週の4月1日に公表されています。ADBのサイトから引用した上の Infographic で包括的に紹介しておきます。なお、上の画像をクリックすると、pdfの全文リポート pp.xxi-xxii の成長率と物価上昇率のそれぞれの総括表のページだけを抜き出した2ページのpdfファイルが別タブで開きます。この経済見通しでは、2013年に6.1%だったアジア新興国・途上国の成長率は、2014年に6.2%、2015年は6.4%に高まり、回復する先進国経済からの強い外需は中国経済の減速により一部相殺されるものの、全体として堅調に推移するとの見通しが示されています。
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