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2014年4月26日 (土)

今週の読書は『帰ってきたヒトラー』ほか

今週も経済書が多いんですが、やたらとハズレとスカが多かった気がします。小説はドイツではミリオン・セラーとなった話題のティムール・ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』がとっても面白かったです。

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まず、ニール・アーウィン『マネーの支配者』(早川書房) です。タイトルから想像される通り、マネーの支配者というか、金融の錬金術師である中央銀行総裁・議長を、ニューヨーク・タイムズで活動中のジャーナリストの目からたんねんに追いかけています。特に、表紙の画像でも理解できる通り、上の似顔絵から、すべて前職で、イングランド銀行(BOE)キング総裁、米国連邦準備制度理事会(FED)バーナンキ議長、欧州中央銀行(ECB)トリシェ総裁を中心に据えています。また、先進国以外では中国人民銀行の周小川総裁を終わりの方の第20章のタイトルにして着目しています。我が国の日銀総裁だった速水優氏は典型的に失敗した反面教師のセントラル・バンカーとして描かれています。誰か忘れてしまいましたが、「21世紀の速水優」と称されていた中央銀行総裁がいたりしました。なお、この本は1960年代くらいからのスコープなんですが、その前段については、昨年2013年10月26日付けのエントリーで取り上げたライアカット・アハメド『世界恐慌』をオススメします。もう、危機後についてもスコープに入れたこのような本が出たんだと感激しました。

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次に、脇田成『賃上げはなぜ必要か』(筑摩選書) です。企業が貯蓄超過になっているので、その購買力を賃上げという形で労働者というか、消費者というか、国民に還元することが必要である、という論点は私と共通していて、さらに、どうしてそうなっているのかの原因が解明されておらず、従って、その原因に対する処方箋が提示できない、という点まで私と同じだったりします。370ページを超える本なんですが、第2章と第3章の労使関係論や日本的雇用慣行に関する分析が読ませどころかと思います。でも、財政の持続可能性や消費高齢化まで話が飛んで、まとまりのない印象になっており、さらに、枠で囲んだのコラム的な部分が多くて読みづらく、さらにダメ押しで、「xxではないでしょうか。」で終わるセンテンスがやたらと多くて、著者が何をいわんとしているのかを意図的に曖昧にしている印象があります。しょっぱなの p.18 に「筆者は実際に経済成長がある程度(実質2-3%以上)生じれば、究極的にほとんどの日本の経済問題を解決すると考えています。」と始めながら、また、タイトルに釣られて借りたもののハズレの経済書でした。

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次に、北野一『日銀はいつからスーパーマンになったのか』(講談社) です。このアナリストの著書については、昨年2013年1月17日付けのエントリーで、フレデリック・ロルドン『なぜ私たちは、喜んで"資本主義の奴隷"になるのか?』(作品社) を紹介した際に、「決してトンデモ本という並びではないんですが」、といいつつ、『デフレの真犯人』(講談社) もついでに取り上げています。前の『デフレの真犯人』では利益率重視の経営の浸透により、利益の取り分が増えたために賃金や下請けへの支払いが減られている、という実は、カギカッコ付きの「トンデモ経済学」だったと、今にして振り返れば、やや遠慮があって思ったことをはっきりと書かなかったことを反省しています。この『日銀はいつからスーパーマンになったのか』も同様の「トンデモ経済学」を展開しており、前回と同じ利益重視の経営を敷衍して、短期利益重視とやや微修正しつつ、英国の Kay Review を引き合いに出して正当化していたりします。しかし、私からタイトルに回答すれば、日銀の金融政策はその昔から物価や景気に対して一定の影響力を持っていた、ということになり、前の白川総裁まではこれを否定して、徹底して金融政策をサボり続けた、ということなんだろうと思います。ついでながら、この著者の判断基準は株価しかないようです。世界標準のアカデミックな見方と真っ向から対立するにもかかわらず、もしもこの本の作者の属する証券会社の顧客から高い評価を得ているのであれば、何らかの人を納得させるようなストーリーを作るのがお上手なんだろうと思います。

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次に、水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書) です。最近のこの著者の一連の著作の流れを汲んで、ブローデル流の「長い16世紀」になぞらえて、1970年以降の大きな経済的な動きを「長い21世紀」に例えたり、また、「陸の帝国」と「海の帝国」のディコトミーも懐かしく、著者独特の哲学を展開しています。停滞の中世と成長の近代を画するのは産業革命であり、このポイントで経済史は不連続となって微分可能性が失われている、と私自身は考えているんですが、この著者は私と意見が異なります。マルクス主義的な一直線に生産力が伸び続ける歴史観とも違って、この著者の歴史観や世界経済の将来像はご自身でも認める通りにまったく不透明です。まあ、俗説的というか、都市伝説的なゼロ成長神話、定常経済が実現する、という見方なのでしょうし、私自身もひとつの歴史観として否定はしませんので、この作者の歴史観に浸りたい人にはいいのかもしれません。でも、私はこの作者とは異なる歴史観・世界観を持っていますし、そのような人は少なくないと思います。

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最後は話題の小説で、ドイツではミリオン・セラーとなったティムール・ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』上下 (河出書房新社) です。アチコチで取り上げられているのであらすじは人口に膾炙しているようにも思いますが、要するに、ヒトラーが2011年8月末に生き返って、当然ながら周囲の人は彼の発言を冗談だと思いますので、コメディアンとしてテレビ出演したり、これもテレビで緑の党の幹部と対談したりする、というストーリーです。生き返ったヒトラーは携帯電話やインターネットにも馴染んで、それなりに使いこなしたりしています。インターネット上の論争に関する「ゴドウィンの法則」というのがあり、大雑把に、「インターネットでの議論が長引けば長引くほど、ヒトラーやナチスを引合いに出すことが多くなる」というものですが、ヒトラー本人がインターネットではなくテレビながら、議論というか、何らかの意見表明をするわけです。そして、周囲の人はその意見表明をジョークとして受け止めたり、あるいは、真面目な政治的見解と受け止めたりするわけです。私は詳しくないので、この本で生き返ったヒトラーが展開する意見が歴史上のナチスの世界観をどこまで忠実に再現しているのかは不明なんですが、確かに、生き返ったヒトラーの意見に賛同するドイツ国民は、というか、日本人でも一定の割合はいそうな気もします。私のような左派でリベラルな人間は、この点にそこはかとない恐怖を感じます。

まだ借りていませんが、ようやくアイン・ランド『肩をすくめるアトラス』の予約の順番が回って来ました。また、一応、村上春樹の短篇集『女のいない男たち』(文藝春秋) も買い求めたりしました。明日から始まるゴールデンウィークで読み進もうと予定しています。

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