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2014年5月10日 (土)

今週の読書は村上春樹『女のいない男たち』ほか

今週の読書、すなわち、アイン・ランド『肩をすくめるアトラス』から後の読書は、村上春樹の短篇集『女のいない男たち』ほか、以下の通りです。

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まず、村上春樹『女のいない男たち』(文藝春秋) です。この作者としてはめずらしく、「まえがき」があります。私は初めて見ました。『ノルウェイの森』に「あとがき」があったと記憶していますが、「まえがき」は初めてです。収録されている短編は「ドライブ・マイ・カー」、「イエスタデイ」、「独立器官」、「シェエラザード」、「木野」、「女のいない男たち」で、最後の短編が書下ろしとなっています。「ドライブ・マイ・カー」と「木野」は、妻の不倫で最愛の伴侶をなくすお話しで、「イエスタデイ」は、幼なじみを熱愛しながら、どうしてもその女の子には手の出せない、超純情男の物語、「シェエラザード」は『千夜一夜物語』の王妃のように、主人公とセックスするたびに興味深い話を聞かせてくれるが、囚われの身は男性の方だったりします。「独立器官」は、交際中の人妻が不倫相手の自分ばかりか夫も捨てて、第3の男と失踪してしまうという面白おかしいストーリーで、私は共通する部分もある「ドライブ・マイ・カー」と「木野」が面白かったです。「シェエラザード」と「独立器官」はイマイチ。最後の書下ろしはやや短く、村上ファンは大好きになりそうですが、そうでなければ詰まらなさそうで、評価の難しいところかもしれません。まあ、特に出来のいい短篇集とも思えませんが、私のような村上春樹ファンは押さえておくべきと思います。

photo次に、ニコラス・ワプショット『レーガンとサッチャー』(新潮選書) です。原書は2008年のリーマン・ショックの年に発行されており、その時点までは、我が国で言うところの「市場原理主義」、いわゆる新自由主義的な経済学が幅を利かせていた気もします。でも、その後は見る影もなくなったのは広く知られているところでしょう。とは言いつつ、本書では経済についてはほとんど取り上げていません。と言うか、まったく取り上げていません。主眼は米ソの冷戦期における英米の協力関係であり、むしろ、英国に対する米国の優位を確立しつつ共産圏に対峙したアングロ・サクソンを描き出しています。この1980年代前半から半ばにかけては、本書で着目しているレーガン=サッチャー関係だけでなく、日米関係で言えば、「ロン・ヤス関係」というのがありましたが、本書ではまったく着目されていません。米英関係は必ずしも対等平等ではないにしても、ともに核兵器を保有する列強の間における協力関係であり、かたや、日本は米国の核の傘に守られている片務的な同盟関係ですから、もちろん、同列に論じることは出来ません。客観的な世界の政治情勢と首脳同士の個人的な関係が見事にマッチした稀有な例ということで、新自由主義的な経済を抜きに政治的・外交的な面から両首脳をとらえています。レーガンが航空管制官のストを潰し、サッチャーが炭鉱労働者に対抗する姿など、共産圏に対峙するよりも国内の対労働組合で強硬な姿勢を取ったという共通点も見逃すべきではありません。

photo次に、桂木隆夫[編]『ハイエクを読む』(ナカニシヤ出版) です。これまた、新自由主義的な経済学を論じたノーベル賞経済学者として有名なハイエクを取り上げた本です。桂木教授を編者に、何人かの専門家が論文を寄せていますが、経済学はむしろ少なくなっており、心理学や社会科学の方法論、共同体論などを第1部に収め、第2部はマルクルやシュンペーターなどと対比させてハイエクを論じています。論点が大きて、私の専門外の分野も多いので、ひとつだけ取り上げると、ハイエクが民主主義に懐疑的であったのは有名なお話なんですが、私は資本主義と民主主義は必ずしも大きな親和性を持っているわけではないと従来から考えています。というのは、資本主義のパワーの源泉は購買力であり、市場において使えるオカネであると言えるのに対して、民主主義は自然人すべてが平等に扱われますから、自ずと違いはあります。逆に、と言うか、何と言うか、私の誤解なのかもしれませんし、やや簡略に過ぎる見方かもしれませんが、社会主義でかなりの程度に平等が達成されると仮定すれば、社会主義と民主主義は親和的であると言えます。市場における購買力のパワーと民主主義的な決定プロセスのもっとも原初的な投票のパワーがほぼ一致するからです。しかし、資本主義、特に、ハイエクの考えるような政府による所得の再分配を排除した市場に基づくだけの資本主義では、自然人すべてを平等な基本的人権、特に平等な投票パワーを基礎として成立する民主主義社会とは親和性が大きくないと私は解釈しています。だからというわけでもないのですが、基本的人権の観点などからして、あくまで民主主義的な社会が先決的に存在すべきだと私は考えるものですから、所得の不平等、大きな不平等を容認して、所得の再分配の機能のない市場だけに基礎を置く資本主義というのは不完全な制度だと感じています。何らかの所得の再分配を政府が実施して、自然人すべてが平等な民主主義と経済の親和性が高められる方が望ましいという考え方です。

photo最後に、上念司『悪中論』(宝島社) です。まあ、中国の嫌いな人向けの本ではあるんですが、主張したいポイントは分からないでもありません。作者の主張の根拠として、かなり怪しい個人のブログサイトやイエロー・ジャーナリズムに近い報道などが幅広く網羅されていますが、この努力は大したもんだという気がします。もっとも、逆の観点から中国を賞賛する報道を探すのも可能だという気もしないでもありません。本書のサブタイトルは「中国がいなくても、世界経済はまわる」なんですが、本書の最大の欠点はこの「中国がいなくても、世界経済はまわる」かどうかが論証されていないことです。ただ、直感的にはおそらく、中国の経済活動がなくても世界経済が「まわる」のはかなり確度が高いという気が私もしています。当然ながら、中国の経済活動を代替する、もっと言えば、中国が世界に供給している財を、中国に代わって供給してくれる代替国はありそうな気がします。もちろん、ある国が1国で中国の供給すべてを代替することは不可能でしょうが、いくつかの国の集合体として中国経済を代替することは可能でしょう。でも、それを言えば、中国以外のほぼすべての国が集合体としての代替国がありそうです。日本も、ひょっとしたら米国経済ですら世界からいなくなっても、世界は「まわる」ような気がします。

最後に、読書とは何の関係もなく、昨夜、第72期将棋名人戦七番勝負の第3局が終局し、羽生三冠が森内名人を下して3連勝で、一気に名人位に王手をかけました。誠におめでとうございます。逆に、森内明治は早くもカド番です。第4局はさ来週5月20-21日に千葉県成田市で指される予定です。

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