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2014年5月23日 (金)

櫨浩一『日本経済の呪縛』(東洋経済) を読む

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櫨浩一『日本経済の呪縛』(東洋経済) を読みました。今週、同僚とともに著者のオフィスを訪ねる機会があり、著者手ずから本書をちょうだいしました。なお、私はこの著者のこれまでの出版、いずれも日本経済新聞出版から出ている『貯蓄率ゼロ経済』と『日本経済が何をやってもダメな理由』は読んでいたりします。ということで、まず、本書の目次というか、章別構成は以下の通りです。

第1章
増加する金融資産
第2章
金融資産は誰かのお金
第3章
対外金融資産
第4章
お金と経済
第5章
借りたお金と自分のお金
第6章
資産の価値
第7章
ストック経済化の限界
第8章
資産価格の引き上げ
第9章
ギリシャ化する日本
第10章
高齢化と金融資産
第11章
取り組むべき課題

いつもながら、包括的に日本経済を論じた良書で、副題「日本を惑わす金融資産という幻想」や上の目次にある通り、金融資産に焦点を当て、金融資産は誰かの負債であるという観点から、金融資産を積み上げるよりも、サービス経済化を受け入れる利点を強調して本書を締め括っています。かなり平易な表現を用いており、それだけで物足りなく感じる読者がいそうで少し怖い気もするんですが、他方、やや断定的に過ぎる表現も見られます。ただし、キチンと読めば議論の背景として作者が想定しているモデルが透けて見えますから、決して不正確な言い方ではないことが理解できると思います。例えば、ホンワカと読めば、家計が資産を積み上げることを意図しているので政府が国債を発行しているように読めなくもありませんが、資産と負債が同時決定であり、その意味で、どちらがどちらの原因と結果になっているかは不問とされていることは明らかです。
また、著者の経済分析のあり方からして当然といえますが、決して危機感を煽ったり、むやみに現在の政府や日銀の経済政策に反対したりすることはなく、その意味でバランスの取れた視点を提供しています。すなわち、4月6日付けのエントリーで取り上げた橘木俊詔・広井良典『脱「成長」戦略』の説くゼロ成長戦略のような無責任な見方ではなく、例えば、p.268 では、「経済成長しなくてもよいという意味ではない。GDPが大きい経済のほうが国民が豊かになりやすいことは確か」としつつ、成長の中身が重要と指摘しています。私の直感では、資産を積み上げることに否定的で、サービス化を受け入れるというのは、価値保蔵を重視しない、ということとほぼ同義だと受け止めています。背景として考えられているであろうモデルも、そのように動学的に構築されていると私は解釈しています。もっとも、価値保蔵を重視しないということは、決して短期的な見方で終始しているというわけではなく、将来消費の流列の現在価値への割引で代理される長期的な消費の最大化などを排除するわけではありません。
その意味で、もう一度、経済学における短期と長期の議論に私は視点が戻ってしまいました。すなわち、伝統的な経済学では、何らかのショックが生じた際に価格が変動せず量で調整するのが短期、価格で調整して量は変動しないのが長期、量と価格の両方が動くのが中期、などとされています。あくまで私の解釈ですが、古典派経済学では、短期の景気変動と長期の定常経済への収れんをいずれも許容しています。そして、古典派的な短期の景気変動を許容する経済学へのアンチテーゼとしてマルクス主義経済学とケインズ経済学の2派が誕生し、この両派の長期に対する議論が両極端に分かれてしまいました。マルクス主義経済学では生産力はほぼ一直線に上昇し、最終的には豊かな社会主義経済や共産主義経済が達成されるという明るい未来を描き出した一方で、ケインズ経済学では『貨幣改革論』 A Tract on Monetary Reform (1923), Chapter 3 からの引用で、余りにも有名な "In the long run we are all dead" とされ、長期について思考を及ぼすことを拒否ないし無視しているように私は感じています。ついでながら、古典派的な定常状態への収れんを何度も蒸し返すのがローマ・クラブ的なゼロ成長戦略であることは言うまでもありません。本書はケインズ経済学よりは短期の景気変動に対する許容度が少し高いように私は読みましたが、決してケインズ経済学のように長期の視点を拒否ないし無視しているわけではないと受け止めています。

繰返しになりますが、平易な表現すぎて物足りないという向きがあろうかとは思いますが、キチンとした理論モデルを背景に、決して危機感を煽ったり、意図的な偏りに基づいた記述で終始することなく、包括的でバランスのいい日本経済論を展開している良書です。ただし、細かいことながら1点だけ苦言を呈すると、pp.49-50 で"非ケインズ効果"として解説しているのは、Giavazzi and Pagano 的な実証的効果ではなく、Barro 的な理論上の「リカード等価定理」です。ちょっとした差なんですが、割りと序盤でこういったケアレスミスというか、勘違いを発見すると、その後の読書速度が低下したり、そうでない場合に比べてより懐疑的な読み方をされる恐れがあります。

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