今週の読書は日本を知る教養書『日本仏教入門』や『武士道』など
先週は図書館の予約のめぐりが悪く、余り借りられませんでした。仕方がないので、「図書館戦争」シリーズや「三毛猫ホームズ」のシリーズなどの文庫本を借りて読んで長い通勤電車の時間潰しをしていました。新刊本は3冊だけで、実に偶然にも、国際日本文化研究センターという京都は桂の西の外れにある研究機関の教授が書いた日本文化を取り上げた教養書が2冊と、文庫本として新たに単行本のお色直しなった近藤史恵さんのライト・ミステリです。
まず、末木文美士『日本仏教入門』(角川選書) です。その名の通り、我が国仏教に関する入門書なんですが、教養書というよりはややレベルが高く、専門書ないしは学術書に近い内容と覚悟して読むべきです。奈良時代の南都六宗から始まって、平安時代に北嶺二宗が加わり、さらに、鎌倉時代に念仏や題目を唱える宗派、すなわち、浄土宗・浄土真宗、日蓮宗が日本国内で発生し、加えて、中国から禅宗がもたらされ、我が国の仏教は宗派の数としてはほぼ固まった後、江戸時代の檀家制度や現在の葬式仏教まで、幅広く論じています。私は在家の仏教徒ですから、僧侶の世界はほとんど知らないんですが、得度と受戒の違いも知りませんでしたし、それなりに勉強にはなりました。中国仏教と違って、浄土宗系の他力本願がかなりの比率を占める日本仏教の特性は、それなりに理解していたつもりですが、中韓の華厳経信仰に対して、我が国では法華経に対する篤い信仰が独特の仏教のあり方だとは知りませんでした。本書を批判するほどの学識は持ち合わせないんですが、1点だけ、仏教を仏教だけで論じようとするムリを感じました。文化面はもちろん、比叡山と朝廷の関係、あるいは、織田政権と大坂本願寺との関係などの政治面についても目配りが欲しかった気がします。最後に、輪廻転生についてももっと知りたかったものですから、少し知的欲求が満たされない不満が残りました。
次に、笠谷和比古『武士道』(NTT出版) です。武田家に伝わる『甲陽軍鑑』などを引いた17世紀の武士道、まだまだ武断派の勢いのあるころの武士道、さらに、有名な『葉隠』などを引いて解説を加えた18世紀の武士道、最後に19世紀の武士道と、時代を追って武士道について論じた後、最終章でに武士道の本質について解明を試みています。ただし、どこまで武士道が解明されているかはやや疑問が残ります。西欧的な騎士道のマッチョな世界と大きく異なるのは、何と言っても、日本の武士道における女性の役割ですが、この点は適切に強調されています。また、私は不勉強にして武家屋敷駈込慣習は知りませんでした。ただし、私の誤解かもしれませんが、武士道が武士の間だけにおける文化や慣習だったのか、町民や農民も含めた広く日本国民一般に共有されていた世界観だったのかについては疑問が残ります。著者は後者の見方を取っているようですが、領民すべて戦闘員という意味で戦闘国家に近かった薩摩などは言うに及ばず、下士がお城で奉公するのではなく田畑を耕して農民と似通った生活をしていた田舎諸藩であればともかく、士農工商が明確に分業していた江戸や京・大阪では町人や農民の世界観と武士道は交わるところが少なかったのではないか、と私は考えています。それ故に、明治期に入って教育勅語などで歪められた武士道が帝国陸軍などの軍隊にはびこったのではないかと想像しています。
今週の読書はわずか3冊目にして終わりになってしまうんですが、最後に、近藤史恵『タルト・タタンの夢』(創元推理文庫) です。いろんなシリーズを書いて多作な作者のビストロ・パ・マルのシリーズ第1作が文庫本にお色直しされましたので読んでみました。なお、このシリーズは第2作『ヴァン・ショーをあなたに』まで出版されていて、一応、私はこの機会に読んでみました。なお、私はこの作者の作品では、プロの自転車レーサーを主人公にするサクリファイスのシリーズはすべて読んでいます。多くのこの作者の作品と同じで、このビストロ・パ・マルのシリーズでもライトなミステリというか、軽い謎解きが加わります。本格推理小説にあるような密室殺人事件などは起こりませんが、ちょっと不思議な出来事を三船シェフが解き明かします。その意味で、清掃人キリコのシリーズと似通っている気がしますが、私もこの作者の作品をすべて読んでいるわけではありませんので、もっと似通ったシリーズがあるのかもしれません。ただ、清掃人キリコのシリーズと違うと私が直感しているのが2点あり、第1にフランス料理の薀蓄が得られます。その意味で、梨園を舞台にした今泉探偵のシリーズで歌舞伎に関する薀蓄が傾けられるのと似ています。ペダンティックとまでは言いませんが、私のように料理や食事や歌舞伎に何の興味も持っていない人間ではなく、料理や食事に対するそれなりの愛着を感じる人には付加価値があるような気がします。ただし、その裏返しかもしれませんが、第2にシリーズが早く終わりそうな予感がします。すでに、今泉探偵シリーズは終わっているのではないかと私は認識していますが、同じ傾向をたどる可能性を指摘しておきたいと思います。決して、フランス料理に対する薀蓄が続かないと主張するつもりはありませんので、私の予感が外れることを祈念しております。
今週はもう少し予約した図書が回ってくることを祈念しております。
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