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2014年6月 8日 (日)

先週の読書はやや期待外れに終わった原田マハ『太陽の棘』ほか

先週の読書は、やや期待外れに終わった原田マハ『太陽の棘』ほか、以下の通りです。相変わらず、このところ、専門書・経済書はパッとしたのに当たりません。

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まず、原田マハ『太陽の棘』(文藝春秋) です。終戦直後の沖縄における米軍属の精神科医と沖縄のニシムイ・アート・ヴィレッジの芸術家たちとの交流という実話に基づく小説ですが、結論から言うと、どうしようもなく浅くて上っ面をなぞっただけの非現実的な小説だったと私は受け止めています。というのは、私は友情とは対等平等の間にだけ成立するとは考えるわけではありませんが、交流の両方に位置する人たちに隔たりがありすぎると感じ、違和感を覚えます。すなわち、軍人ではなく軍属とはいえ、おそらく、主人公である医者は終戦直後の沖縄において米軍将校に匹敵する位置を占めている一方で、沖縄の芸術家たちはあくまで占領される側の被支配者にしか過ぎません。しかも、大きな隔たりのある両者の交流を米国人を主人公に「上から目線」で展開するんですから、これを小説で表現するためにはかなりの力量を要しますが、作者にはそこまでの力量はなかったと言わざるを得ません。もちろん、努力の跡は見られます。例えば、タイラたちを軒並み現在で言う芸大のエリートコースをたどっていると持ち上げたり、p.176 で主人公の医師に「我々が支配する側で彼らが支配される者だとかいう意識を、ほとんど持っていなかった。」と言わしめたりしています。同時に、主人公の沖縄の前の赴任地である京都の人について、実は私も京都人のひとりですが、「京都の人々は、不思議なほど私にやさしかった。あるいは、たとえ我々に憎しみや恐れを感じたとしても、それを完璧に隠しおおせる深い闇を、彼らは持ち合わせていたのかもしれない。」と p.36 で評していて、まったくその通りと受け止めた一方で、沖縄人もヒガを別にして、タイラの態度や言動など、京都人に共通する部分が少なくなく、沖縄人も「深い闇」を持っている可能性をどこまで考慮して物語を進めているのか、私には疑問です。その意味で両者の交流に奥深さが感じられません。いくつかメディアの書評なども拝見しましたが、「終戦直後の沖縄占領下における米国人医師と沖縄の芸術家の心温まる物語」といった浅い理解しか示されておらず、沖縄人の「深い闇」を指摘する書評は、私は残念ながら発見することが出来ませんでした。あるいは、作者の評者も意図的に沖縄人の「深い闇」を棚上げにして、この作品を「終戦直後の米国人と沖縄人の心温まる交流を描き、小学生高学年から中学生の読書に最適の本」として推奨することで暗黙の合意が成り立っているのかもしれません。それにしても、沖縄について「腫れ物に触るような態度」をいつまで続けるつもりなんでしょうか。なお、私はまだ読んでいないので、成功しているかどうかは分かりませんし、方向性の是非はともかく、福島については『美味しんぼ』がこれを克服しようと何らかの努力をしているように私には見えます。

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次に、湊かなえ『豆の上で眠る』(新潮社) です。アンデルセン童話「エンドウ豆の上に寝たお姫さま」をモチーフに、2歳違いの姉妹の妹を主人公にして、小学校の頃の姉の2年間に失踪事件から、2年後に戻ってきた姉がホンモノか、入れ替わっているかについて推理を巡らせます。もちろん、「豆の上で眠る」ような違和感を覚え続けるんですから、妹の方は2年の失踪から戻ってきた姉をホンモノかどうか、極めて強い疑いの目で見ているわけですが、誘拐した犯人が自首したり、DNA鑑定の結果、姉は両親の子供である確率が極めて高いとの結果を突きつけられたりして、実際に何が起こっているのか、何が真実なのか、作者は極めて巧妙に読者をミスダイレクションの罠に取り込みます。戻ってきた姉と妹との関係、母と主人公との関係、祖母の思惑など、女性の作者らしく女性の視点や心理が極めてディテールに富んで描き出された後、主人公である妹の感じた違和感の原因である謎が解かれて、驚愕の事実が明らかにされます。ミステリとしても一級品です。真梨幸子や沼田まほかるとともにイヤミスの女王に最も近い作者のひとりらしく、読後感はとてもよくないです。でも、私もそうですが、この作者のファンは読んでおくべき1冊と言えます。

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次に、冲方丁『はなとゆめ』(角川書店) です。『天地明察』と『光圀伝』に続く、この作者の時代小説第3弾です。前2作の舞台であった江戸時代から大きく時代はさかのぼって平安時代に飛び、主人公というか、1人称の語り手は『枕草子』の作者である清少納言だったりします。もちろん、ストーリーの主要な部分は内裏における中宮定子とのやり取りであり、清少納言は中宮定子をまさに「やんごとなきお方」として描き出し、内裏をこの世の浄土と考えています。歴史的に明らかな通り、道隆をバックにする中宮定子は道長をバックにした彰子に一条帝の中宮の座を明け渡すことになるわけですが、当然ながら、清少納言の定子に対する忠誠は浄土へのあこがれとともに何ら変わりません。定子と浄土が清少納言の人生における2つのテーマであり、短歌や恋よりも上位概念であると言えます。ところで、清少納言はしばしば紫式部と比較され、平安時代の女性文学の代表作である、小説の『源氏物語』とエッセイの『枕草子』も引き比べられたりするわけですが、私の知る限り、現代女性から見て自慢話の多い清少納言よりも紫式部が好まれているように受け止めています。他方、やや暗い紫式部に比べて清少納言は明るい性格で自慢話を展開しており、私なんぞは明るい性格の女性にも好感を持ったりします。また、私の友人に冲方丁の最高傑作は『マルドゥック・スクランブル』であると称して憚らない知り合いがいるんですが、私もいわゆる完全版を今年になってから読んでみました。どっちもどっちだという気がしますが、SF小説か時代小説か、という観点ではなく、この作者の個別の作品に関しては、『マルドゥック・スクランブル』よりも『天地明察』に私は軍配を上げます。ついでながら、この作品に関するダ・ヴィンチNewsの作者のへインタビューに目を通しておけば、この作品を読み進む上で参考になります。

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次に、朝日新聞経済部『限界にっぽん』(岩波書店) です。副題「悲鳴をあげる雇用と経済」から理解できる通り、主要には日本の雇用市場について取材した結果をとても批判的な観点から取りまとめています。これも、最初に書評を上げておくと、6月1日付けの毎日新聞における伊東光晴先生の書評が読み進む上で参考になります。ということで、「マクド難民」から始まって「追い出し部屋」から「介護バブル」まで、正社員の職を失って、不安定な非正規雇用、上がらない賃金、など、我が国の雇用の暗黒部分をたんねんに取材し、批判的に取りまとめています。ただし、メディアの取材なので仕方ない面もありますが、これら現在の日本の労働市場の悲惨な現状が、経済合理性に基づく企業行動の結果なのか、それとも、人間としての尊厳を脅かす行過ぎなのかは明確に示されていません。暗黙のうちに「行過ぎ」感は出しているんですが、取りあえず、事実を取材した結果ということで、エコノミストへのインタビューなどで補足する意図はなかったんでしょうか。それとも、「経済合理性の範囲内」という結論だったのでカットしたんでしょうか。気になるところです。「行過ぎ」感の一部として、pp.92-93に退社した技術者が韓国や中国の企業に採用されて技術が流出する、といった記述は見かけましたが、それ以上の取材はなかったように思います。また、何年か前に読売新聞が独自の年金案を明らかにして、私なんかは大いにびっくりさせられた記憶があるんですが、pp.211-16で英国やデンマークと言った外国の例を引合いに出して、具体的な改善策を模索する方向性は示しているんですが、何らかの今後の先行きの方向性は打ち出せなかったのでしょうか。取材結果がとても素晴らしいだけに、やや残念という気がしないでもありません。もちろん、対応策は政府の仕事であってメディアのなすべきカテゴリーではなく、取材した事実を基に批判することがメディアの存在価値、と言った見方がないわけでもないんでしょうが、経営者にはインタビューしているわけですから、解決策や打開策の模索のためのインタビューも欲しかった気がします。でないと、青い鳥を探して「ないものねだり」をしているんではないかと言う批判的な見方が成り立ちかねません。

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最後に、寺島実郎[監修]/日本総合研究所[編]『全47都道府県幸福度ランキング』(東洋経済) です。昨年、同じ趣旨の『2013年版』が出版されているらしいんですが、私は不勉強にして知りませんでした。簡単に解説すると、人口増加率、1人当たり県民所得、国政選挙の選挙投票率、カロリーベースの食料自給率、財政健全度を基本指標として、加えて、健康分野、文化分野、仕事分野、教育分野の合計60指標から都道府県別の幸福度を弾き出しています。ということで、気になる総合ランキングは、1位福井県、2位東京都、3位長野県、4位鳥取県、5位富山県、6位石川県、7位滋賀県、8位千葉県、9位愛知県、10位神奈川県、がトップテンを占めています。ちなみに、47位は沖縄県、BBの46位は高知県だったりします。個別指標の解説やランキングの詳細などとともに、第4章では世界的な幸福度研究の先行例の紹介もあり、それなりに充実した内容となっています。こういった都道府県別ランキングを算出すると、下位の県などから根拠ない感情的な批判が出たりするんですが、幸福度の研究成果として注目すべき結果である、とまでは言わないものの、ランキングまではともかく、何らかの定量的な把握は必要だという気がします。ランキングは定量化のオマケと考えるべきです。

今週末に、青山七恵の短篇集『風』の予約が回ってきました。芥川賞受賞のころから私は注目していて、単行本はすべて読んでいるつもりなんですが、ここ最近の2作の『快楽』と『めぐり糸』については、従来の清純派路線から少し外れる試みにも見えました。その意味でも、最新作の『風』はとても楽しみです。また、まったく読んでいませんが、『新潮』に連載中の「繭」も単行本になるのが待ち遠しいです。

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