日銀短観は消費増税により足元で悪化したものの総じて底堅い景況感を示す!
本日、日銀から6月調査の短観が発表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査の+17から▲5ポイント悪化して、それでもプラスを維持し+12となりました。本年度の大企業の設備投資計画は昨年度から+7.4%増と大幅に上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
6月日銀短観、景況感6四半期ぶり悪化 先行きは改善
日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス12だった。前回3月調査のプラス17から5ポイント悪化した。DIの悪化は6四半期ぶり。消費増税前の駆け込み需要の反動減が影響し、企業景況感の悪化につながった。新興国を中心に海外経済の回復ペースが鈍く、輸出の伸びが緩慢だったことも景況感の改善に歯止めをかけた。
3カ月先については、大企業製造業がプラス15になる見通し。米国を中心に世界経済が緩やかに回復していくとの見方から輸出や生産などの持ち直しが見込まれ、景気回復に向けた軌道に復帰する見通し。
14年度の事業計画の前提となる想定為替レートは大企業製造業で1ドル=100円18銭と、前回の99円48銭よりも円安・ドル高方向に修正された。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。回答期間は5月28日-6月30日で、今回調査の回収基準日は6月11日だった。
一方、大企業非製造業のDIはプラス19と、前回から5ポイント悪化した。堅調に推移していた個人消費の勢いが消費増税後に一服し、6四半期ぶりの悪化となった。増税前の駆け込み需要の反動減で小売業などが悪化した。人件費や関連資材の高騰など企業の人手不足やコスト高を反映し景況感は落ち込んだ。
3カ月先のDIは横ばいのプラス19を見込む。増税後の反動減の影響が和らぎ、景況感は下げ止まりそうだ。
中小企業は製造業が3ポイント悪化のプラス1、非製造業は6ポイント悪化のプラス2だった。非製造業ではプラス幅は縮小したものの、3期連続でプラス圏となった。先行きは製造業で改善する一方、非製造業では悪化が予想される。
14年度の設備投資計画は大企業全産業が前年度比7.4%増だった。3月調査の0.1%増から上方修正され、QUICKがまとめた市場予想の中央値(6.0%増)を上回った。先行きの海外経済回復の期待に加え、企業収益の改善に伴ってこれまで先送りしていた投資を再開する動きが出てきたことが、増加につながったようだ。
大企業製造業の輸出売上高は前年度比1.4%増となった。
大企業製造業の販売価格判断DIはマイナス2と、3月調査(マイナス3)から1ポイント上昇。DIは販売価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」と答えた企業の割合を差し引いたもの。マイナス幅は縮まったが、企業はコストを販売価格に転嫁できない状況が続いている。
やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。
ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIについては、日経QUICKによる市場の事前コンセンサスが足元で+15、先行きで+17でしたから、足元・先行きともやや下振れした数字と受け止めています。もう少し業種別に細かく見ると、まず、製造業と非製造業で先行きの見方が少し異なります。すなわち、海外経済の持直しに伴う輸出増が期待できる製造業が先行きは上向くと見込んでいる一方で、国内経済に軸足を置く非製造業では業況判断DIの水準はともかく、方向性として先行きが上向くとは見なされていません。また、製造業では自動車が大企業こそ足元から先行きにかけて+1ポイント上向くとの結果が示されているものの、中堅企業と中小企業の自動車では先行きに向かって業況感は低下するとの見方が示されています。我が国のリーディング産業である自動車の行方がやや懸念されるところかもしれません。また、非製造業のうち個人消費に依存する割合が高いと考えられる業種も明暗を分けており、これも足元から先行きにかけて、小売が企業規模別に+7から+9ポイントの幅で改善を見込んでいるのに対して、宿泊・飲食サービスについてはほぼ横ばいとの結果が出ています。年央以降についても、マクロの景気は消費増税による負のショックから徐々に成長軌道に回帰するとはいえ、産業別の景況感は一様ではないということで、ある意味で、当然の結果が示されたと言えます。「一様ではない」と言いつつ、また、市場の事前コンセンサスより下振れしたとはいえ、総じて見て、景況感については底堅く推移していると私は受け止めています。
次に、大きな傾向は変わりありませんが、設備と雇用についても、4月の消費増税を経て、要素需要が出る方向に回帰しています。すなわち、設備についてはまだ過剰感が完全に払拭されたわけではありませんが、過剰から不足に向かう方向感は取り戻しましたし、雇用についても企業規模が小さくなるほど不足感が強まっています。労働供給については、人口減少に向かう中で長期的にはもちろん不足の方向にありますが、短期的な足元でも労働供給に対する不足感が大きくなってきており、賃上げの素地が広がっていると私は受け止めています。
設備投資計画については、3月調査の短観から大きく上方修正されていますが、設備投資が完全復活したとは私は考えていません。理由は3点あり、第1に短観の統計としてのクセがあり、6月調査の短観では設備投資計画が大きく出がちになり、その後、9月調査から12月調査にかけて下方修正される可能性が残されているからです。第2に昨年度2013年度下期の消費増税前の駆込み需要に伴って、いわゆるゲタが大きくなっています。ですから、大企業の投資計画では上期+16.6%増に対して、下期は+0.2%増とほぼ横ばいとなっています。第3にまだ大企業中心の設備投資増であり、まだ中小企業ではマイナス計画となっているため、全規模全産業では伸び率低く+1.7%増にとどまっています。
最後に、日銀短観から毎月勤労統計に目を転じて、上のグラフはいつもの毎勤のグラフであり、上のパネルが景気に敏感な所定外労働時間指数の季節調整済みの系列を、下のパネルは給与指数の前年同月比を、それぞれプロットしています。5月は生産が増産に転じたにも関わらず、残業時間は減少してしまいました。なかなか理解がはかどらないんですが、消費増税直前の3月に大きく残業が増えていますので、その反動が4-5月で続いているのかもしれません。それから、お給料はいわゆるフルタイム労働者が増加して、何と2年2か月振りに所定内賃金が前年同月比でプラスに転じています。下のグラフは就業形態別にフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者とその合計の前年同月比増減率を示しています。ここ数か月でフルタイムの一般労働者がジワジワと増加率を高め、5月は前年同月比で+1.3%増と、+1.4%増に伸び率を低下させたパートタイム労働者にほぼ伸び率で並んでいます。パートタイムからフルタイムへの転換が一部に進んでいる可能性が示唆されていると考えるべきです。
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