内部留保に回されるのなら法人税減税はヤメにしたら?
一昨日、7月14日に帝国データバンクから「法人税減税に対する企業の意識調査」の結果が公表されています。私は従来から法人税率の引下げには懐疑的な見方を示して来たんですが、この調査結果もビミョーなところと受け止めています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の要旨を4点引用すると以下の通りです。
調査結果 (要旨)
- 法人税の減税に対する財源確保について、「外形標準課税の拡大」には企業の4割が反対。特に、賛成・反対ともに税の公平性を求める企業が多い。逆に「租税特別措置」や「税制優遇措置」の見直しには4割が賛成した。
- 法人税の減税分の最も可能性の高い使い道では、「内部留保」が2割。しかし、給与の増額や人員の増強など「人的投資」とする企業が3割超、設備投資や研究開発投資など「資本投資」とする企業も2割となり、企業の51.3%が前向きな投資に活用する見込み。
- 法人実効税率を20%台まで引き下げた場合、設備投資は総額で約6.2兆円の押し上げが見込まれ、中長期的な投資活性化が期待される。
- 法人税減税により5割超の企業が日本経済の活性化につながると認識。
ということで、この調査結果のpdfの全文リポートから図表を引用しつつ、簡単に企業の法人減税への対応などについて紹介したいと思います。
まず、上のグラフはリポートから「引き下げ分の使い道」を引用しています。調査結果の要旨にもあった通り、法人減税の資金は内部留保に回すというのがトップとなっています。もっとも、前回2013年9月時点の調査から今回2014年6月調査にかけて、賃上げなどの人的投資の割合が増加し、内部留保は低下しています。政府を上げての賃上げキャンペーンによる影響かもしれません。でも、設備投資の割合が低下しているのが気にかかります。2割という数字はビミョーなところですが、現在の企業のマインドが「社員に還元」よりも「内部留保」にウェイトが置かれていることをかなりの程度に示した結果と言えます。
このブログで何度も繰り返し主張している通り、私は現下の経済政策の要諦のひとつは企業部門に滞留しているキャッシュフローをいかにして家計部門に還元するか、であって、企業部門にさらにキャッシュを貯め込むだけの法人減税には大きな疑問を持っています。家計への還元について、直接に企業から家計へ賃上げをという形になるか、政府が何らかの形で企業部門から購買力を吸収した上で家計に流すかはともかく、現在の消費増税と法人減税の組合せとは正反対の形であると認識しています。加えて、法人減税は政府部門の赤字削減にも逆行すると言わざるを得ません。
例えば、民主党政権かで実施された「子ども手当」に私は世代間格差是正の観点から賛成を表明して来ましたが、仮定の議論ながら、事前のアンケート調査などで子ども手当がパチンコをはじめとする親の遊興費に充てられる比率が2割あったとすれば、私は意見を変えていた可能性があります。繰返しになりますが、あくまで仮定の議論であり、パチンコなどの遊興費と企業の内部留保は大きく性格が異なることは理解しつつも、また、2割というのはビミョーな数字ながら、法人減税がこれだけの確率で内部留保に回るとなれば、もともと大きな疑問をさらに大きく感じざるを得ません。
次に、上のグラフは産業別に人的投資と資本投資を全産業平均と比較してプロットしています。私はもともと産業別といったメゾスコピックな分類は、最適化行動をしないという意味で、それほど重視していないんですが、今回の調査ではサンプル数が多いだけに、かなり明確に産業別の企業の行動パターンが示されていると感じています。製造業が人的投資よりも資本投資を重視し、サービス業や建設業はその逆のパターンを示しています。また、小規模企業では人材不足が顕在化し人的投資を重視する姿勢を見せる一方で、金融業や不動産業は人的投資も資本投資もせずにせっせと内部留保に励む、という姿が出ているように見えます。
繰返しになりますが、企業部門に滞留しているキャッシュをいかに家計部門に還流させるかが現時点では重要であり、このアンケート調査結果のように、法人税減税が内部留保に流れるのであれば、私は法人税減税に疑問を抱かざるを得ません。
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