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2014年8月 3日 (日)

先週の読書はポール・クルーグマンほか『金持ちは税率70%でもいい vs みんな10%課税がいい』など経済書と教養書と短篇集の小説

先週の新刊書の読書は経済書としてポール・クルーグマンほか『金持ちは税率70%でもいい vs みんな10%課税がいい』に加えて、新書も含めて教養書2冊と短篇集の小説2冊、計5冊でした。以下の通りです。旧刊書の読書はこれにプラス・アルファ2-3冊です。

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まず、ポール・クルーグマンほか『金持ちは税率70%でもいい vs みんな10%課税がいい』(東洋経済) です。表紙を見れば分かる通り、サブタイトルは「1時間でわかる格差社会の増税論」とされています。カナダのディベートとその参加者へのインタビューを活字にした本で、金持ち70%課税論者はクルーグマン教授とギリシアのパパンドレウ元首相、みんな10%課税論者はギングリッジ米国下院元議長とラッファー教授です。なお、私は知りませんでしたが、パパンドレウ氏は社会主義インターの議長を務める社会民主主義者だそうです。ディベート前は金持ち70%課税が聴衆のうち58%、みんな10%課税が聴衆のうち28%、未定が14%だったんですが、ディベートの後には金持ち70%課税への賛成が70%、みんな10%課税が30%と、金持ち70%課税の圧勝に終わっています。私にはディベートの上手下手は分かりませんが、余りにも明白な結果、というか、私にとってはディベートする必要すらないテーマだという気がしなくもありませんでした。

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次に、仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』(新潮選書) です。タイトルの「精神論ぬきの」という枕詞は、「制度論としての」という意味らしいです。ですから、欧米の論者であるヒューム、バーク、トクヴィル、バジョット、シュミット、ハイエクなあどが延々と並んで、彼らの制度的な保守主義について解説が行われています。そして、出だしのはじめにの p.9 でインプリシットに保守主義の対局概念が歴史を前に進めようとする進歩主義であることが示唆されています。もっとはなはだしいのであれば、急進主義とも言えるかもしれません。私はエコノミストとして生産ないし所得が増加していく歴史観を持っており、それは基本的にはマルクス主義に近い歴史観なのですが、ある意味では、進歩主義なのかもしれないと思いつつ読み進みました。カール・シュミットを取り上げた第5章で、私が知らなかったのは、シュミットにとって議会の本質は公開の討論であって、多数決で何かを決議することではない、というくだりです。フランス革命後の政治状況を見ても明らかな通り、民主主義下で多数、あるいは、圧倒的多数を握ってしまえば、ある意味で、圧政が可能になるわけで、現在の日本の政治の「1人勝ち」と同じことです。でも、議会とは議論の場である、と言われれば、何となく納得できるものもあります。

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次に、植村和秀『ナショナリズム入門』(講談社現代新書) です。マイネッケの『世界市民主義と国民国家』を説き起こすところから始まり、ナショナリズムとはネーションに対する何らかの特別な価値を見出す考え方、というややラフな定義らしきものを示し、ナショナリズムの反対概念は世界市民主義、すなわち、インターナショナリズムであると示唆しています。おそらく、インターナショナリズムは共産主義ないし社会主義の方向性ですから、逆から見て、ナショナリズムはその反対ということも出来ます。本書では、日本からドイツ、旧ユーゴスラヴィア、米州大陸などの地域的なナショナリズムを取り上げているんですが、より純粋にナショナリズムを考察するのであれば、p.153 でカナダについて、フランス語系ケベック人からすればケベックがネイションでカナダは国家(ステイト)といった旨の記述がありますが、ネイションとステイトの違いや、ナショナリズムとインターナショナリズムだけでなく、帝国主義(インペリアリズム)との関係についても概念的に整理して欲しかった気がします。そうすれば、ナショナリズムに関する理解がさらに深まったんではないでしょうか。おそらく、「帝国主義」という言葉自体が出て来なかったように記憶しています。タイトルで大きく出ながら、また、マイネッケの思想から説き起こしながら、すぐに地域別の各論に入り込んでしまった閉塞感は否定できないと思います。タイトル通りの骨太な議論を期待した読者には残念な内容かもしれません。

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次に、平野啓一郎『透明な迷宮』(新潮社) です。私はこの作者が芥川賞を受賞した「日蝕」から始まって、『葬送』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』くらいしか読んでおらず、まだ最近作の『空白を満たしなさい』は読んでいないんですが、この作者の作品はかなり久し振りに読んだ気がします。本書は基本的に短篇集であり、表題作のほか、「消えた蜜蜂」、「火色の琥珀」、「Re: 依田氏からの依頼」など、6編の単中編から構成されています。全体的な印象としては、この作者の初期の「ロマンティック3部作」のころのような壮麗な文体でこそないものの、かなりロマンティックな小説です。決して現実離れした幻想小説ではないんですが、なんとも言えず官能的で怪しく摩訶不思議な雰囲気を持つ作者らしい作品が収録されています。逆に、まるでラノベのようにサクッと読めてしまう怖さもあります。どこまで読み込めるかにも、読者としての力量すら試されかねない作品集ではないかと思います。ですので、読書感想文は短めに切り上げたいと思います。

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最後に、角田光代『平凡』(新潮社) です。これも人気作家の短篇集で、6編の短編が収録されています。人生の分岐点における if を前面に打ち出し、もしも、あの人と別れていなければ、結婚していなければ、子どもが出来ていなければ、仕事を辞めていなければ、仕事を辞めていれば、などのあり得たかもしれない「もう一つの人生」について考えさせる作品を収録しています。どこにでもありそうで、まさにタイトル通りの平凡な人生のヒトコマを捉えているんですが、私の勝手な思い込みながら、この作者の作品はとても重いです。サラッと読み飛ばせばいいという考え方もありますが、とっても真剣に頭を悩ませて、じっくりと読んでみるのも、「角田光代のひとつの読み方」だという気がします。

この週末も少し遠出して図書館を回って、いろいろと話題の新刊書を借りて来ました。乱読とまでは言いませんが、今週も脈絡なく読書に励みたいと思います。

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