今週の読書は、ジャーナリストの手になる『官房長官 側近の政治学』と『総理の覚悟』のほか、以下の通りです。
まず、星浩『官房長官 側近の政治学』(朝日新聞出版) です。タイトル通り、内閣の要である官房長官にスポットを当てています。著者はテレビなどでもお馴染みの朝日新聞出身のジャーナリストです。官房長官のポストの重要性が増したのは、高度成長期を終えて政治的な何らかの調整が必要になったころ、具体的にはさとう政権の末期ころからと指摘し、総理大臣と官房長官の間合いには子分型、兄貴分型、お友達型があると分析を加えています。お友達型の場合は内閣が短命に終わる場合が多く、兄貴分型だと長期政権が望めると、自分自身の見方を披露しています。また、著者が実際に見た、あるいは、何らかの評価を聞いた範囲で、歴代官房長官のベストスリーは、中曽根内閣の後藤田官房長官、森内閣から小泉内閣にかけての福田官房長官、池田内閣の大平官房長官を上げています。逆に、官房長官に向かないのは、小沢一郎、小泉純一郎、菅直人の3人と指摘していたりします。
次に、橋本五郎『総理の覚悟』(中公新書ラクレ) です。この著者も読売新聞出身のジャーナリストです。同じ中公新書ラクレのシリーズから2012年にも同じような『総理の器量』という本を出していて、前著の中では中曽根総理大臣から小泉総理大臣までを取り上げています。私も読みました。そして、本書では小泉総理大臣から後の短命内閣にスポットを当てています。もちろん、後付けの結果論も少なくないんですが、ongoing の現在進行形の時に読売新聞に掲載された社説なども示されていて、決して結果論だけではありません。ただし、第1次安倍内閣についての著者の評価は世間相場からすればかなり高い印象があり、このあたりは第2次安倍内閣を見た後の評価も含まれているような気がしないでもありません。それにしても、民主党政権下の3人の総理大臣はボロクソです。まあ、分からないでもありません。p.147 で重要な指摘があります。すなわち、街頭インタビューなどで「政治は誰がやっても同じ」という意見を聞くことがありますが、著者は明確に否定します。この「政治は誰がやっても同じ」という意見は、部分的には行政を支える官僚の能力の高さを念頭に置いたものかもしれませんが、政治のリーダーの重要性については、私は著者に全面的に同意します。
次に、マイケル・モス『フードトラップ』(日経BP) です。著者はこれまたジャーナリストで、現在はニューヨーク・タイムズで記者をしています。米国民を念頭に、加工食品に含まれる当分、脂肪分、塩分が健康に及ぼす影響などを論じています。食品に便利さ(コンビニエンス)を求めた結果として、飲料や加工食品に含まれる糖分と脂肪分が大量に上ることとなって米国民の体重の増加をまねき、塩分は血圧の上昇などをもたらしたと結論しています。単身赴任を経験した私も同感ですが、ファストフードの外食も含めて、食事のコンビニエンスと健康に及ぼす影響は明らかにトレード・オフの関係にあり、コンビニエンスを求めれば健康に有害な結果をもたらしかねず、逆に、健康的な食生活を送ろうとすれば手間がかかる、ということになりそうです。しかも、少なくとも米国における現状はコンビニエンスの方に重点が置かれて、健康に有害な面が大きい、というのも、その通りだと受け止めています。でも、どちらにしても、食事の量を抑えればいいような気もしますが、なかなかそうも行かないんでしょう。清涼飲料や加工食品に含まれる糖分や脂肪分や塩分を見て、恐ろしい気がする読者も少なくないと思います。
次に、小中千昭『恐怖の作法』(河出書房新社) です。著者はホラー映画の脚本家・作家です。ということで、副題は「ホラー映画の技術」とされています。スプラッター系ではないファンダメンタルなホラーとして、「リング」や「呪怨」を上げ、ホラー映画の魅力を論じた第1部は2003年に岩波アクティブ新書から出た著者の本の再録です。どうして、わざわざ怖い映画や小説にアクセスするかを論じています。第2部はネットのホラー系の情報について、ガチとネタに分けて考察を加え、祟りや呪いの連鎖にまで話題を広げています。Jホラーの基本イデオロギーとなった「小中理論」の立案者である著者のホラー映画に関する著作ですので、映画に限らず小説も含めてホラー系に興味ある方は一読をオススメします。日本では、夏のこの季節は怪談というか、ホラーの季節と見なされているには周知の通りです。
次に、鈴木亘『社会保障亡国論』(講談社現代新書) です。この著者は基本的に学者さんです。社会保障を単なるバラマキではなく、財政から見てもサステイナブルな政策にすべく、また、現在の年金・医療などの社会保障の世代間不平等を解消すべく、私のような専門外のエコノミストなどから見ても見識ある議論が展開されています。すなわち、現在の社会保障について、すべてではないものの、「持たざる若者」から「持てる高齢者」への逆再分配の政策もあると喝破し、公費投入を減らして保険料制度、特に年金を積立て方式に戻したり、高齢者優遇の結果にほかならない資産への課税強化、また、相続税の課税ベースの拡大などを提唱しています。基本は世代間不平等の是正ですから、私も大いに賛成するんですが、年金などで既得権益に遠慮した姿勢も見られなくもありません。本のタイトルがイエロー・ジャーナリズム的な雰囲気を醸し出しているのも少し気にかかります。でも、全体として極めてまっとうな社会保障改革論を展開しています。
最後に、長部日出雄『神と仏の再発見』(津軽書房) です。著者は津軽出身の作家です。副題の「カミノミクスが地方を救う」というのにひかれて借りたんですが、決して地方経済を論じた本ではありません。20近い神社仏閣、全国レベル及び津軽ローカルの神社仏閣を取り上げて紹介しています。挿絵がものすごくたくさん挿入されており、それを見るだけでも手に取って読む値打ちがあるような気がします。
今週はフィクションの小説がなかったんですが、この週末には何冊か小説も借りましたので、来週はいろいろと読みたいと思います。
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