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2014年8月30日 (土)

今週の読書は小塩隆士『持続可能な社会保障へ』ほか

今週の読書は小塩隆士『持続可能な社会保障へ』ほか専門書・教養書が2冊と話題の新刊小説などです。

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まず、小塩隆士『持続可能な社会保障へ』(NTT出版) です。先々週の週末の読書感想文で取り上げた『社会保障亡国論』の鈴木教授とともに、社会保障に関して影響力ある発言をされる小塩教授による包括的な著書です。私も大いに感じているところですが、現在の我が国の社会保障は単に年齢による区分で実物給付や所得移転が行われており、社会保障本来の姿である「困っていない人」から「困った人」への援助という役割を損ねている可能性がまず指摘されます。社会保障と財政の関係をはじめ、世代間不平等も大いに論じて無視できない観点であると結論しています。その上で、特に社会保障政策における議論の焦点となっている年金については、鈴木教授のように積立て方式の採用、というか、回帰を目指すのではなく、賦課方式のままでOKなので規模を大幅に縮小すべきであると提案しています。規模の縮小のためには、支給額の削減と支給開始年齢の引上げを重視しています。最後の方の第5章と第6章において、社会保障の基本的な哲学も披露され、老親のケアは生物学的な基礎である本能に基づかないない、とか、人口が増加する社会でないと民主主義は機能しないとか、かなり幅広く論じています。民主主義については、私の従来からの主張である「シルバー・デモクラシー」によるバイアスについても的確に指摘しています。

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次に、ジョエル・レヴィ『デカルトの悪魔はなぜ笑うのか』(創元社) です。イラストや写真も美しい自然科学の入門書というか、100のトピックを取り上げてアナロジーを当てはめ、ビジュアルな図版を散りばめて解説しています。これで2000円は安いと感じる人もいそうな気がします。取り上げられている分野は章別に見て、物理学、化学、生物学、天文学、地球科学、人体、テクノロジーの7テーマです。地球の構造をスコッチエッグにたとえるとどうなるの? 相対性理論を光速で走る急行列車にたとえると? 原子構造を大聖堂を飛びまわるハチにたとえると? といったアナロジーを駆使して解説を試みようとしています。英語の原題が A Bee in a Cathedral ですから、大聖堂を飛び回るハチに例えた原子構造ということになります。でも、いくらきれいなビジュアル図版を駆使しても、シュレディンガーの猫については私はいまだによく理解できなかったりします。

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次に、東野圭吾『マスカレード・イブ』(集英社文庫) です。3年前2011年の今ごろ発売された『マスカレード・ホテル』に至る前の新田刑事とコルテシアのホテル・ウーマンの山岸尚美を主人公にした短編集です。収録されているのは、「それぞれの仮面」、「ルーキー登場」、「仮面と覆面」、「マスカレード・イブ」の4編で、最後のタイトル作以外は『小説すばる』で発表されています。推理小説ですから中身は詳細に触れませんが、なかなかヒネリの利いたミステリばかりです。登場人物も新田と山岸をはじめとして、タイトル作に登場する婦人警官の穂積理沙など、よくキャラの立った人物像を描き出しています。宿泊などでホテルを利用するゲストはすべて仮面をかぶっていて、ホテルの従業員はそれを無理にはがして実像を明らかにしようとしてはいけない一方で、犯罪の真相を解明しようとする刑事は容赦なく仮面をはぎ取ります。この相反する両者の特性を持つ新田と山岸を主人公とするマスカレードも、ガリレオこと湯川を主人公にしたシリーズや加賀恭一郎のシリーズなどとともに、東野圭吾の手によりシリーズ化されるんでしょうか?

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次に、高田郁『天の梯』(ハルキ文庫) です。「みをつくし料理帖」シリーズの第10巻最終巻です。このシリーズの大きなテーマは、もちろん、あさひ太夫こと野江を澪が落籍することなんですが、もう2つ隠れたテーマがあります。すなわち、登竜楼の楼主であり澪の敵役である采女宗馬を何らかの意味で懲らしめることと、天満一兆庵の跡取りである佐兵衛を料理人の道に戻らせることです。この隠れ2テーマは、実に巧みにも同時に解決されます。そして、当然ながら、思いもよらない方法で澪が4000両を用意し、あさひ太夫こと野江の落籍も成し遂げます。今風に言えば知的財産権の売却ということになるかもしれません。ついでながら、かつて御膳奉行の小松原との祝言を諦めた澪は医者の永田源斉から求婚されます。実は、ホントに終わるのだろうかとこの本を半分くらいまで読んだ時点で不審に思ったんですが、とても、バタバタと見事に勧善懲悪かつハッピー・エンドで終わります。やや短かったと感じないではないものの、第1巻からずっと読み続けてきた甲斐がありました。私はこの作品を原作にしたテレ朝のテレビ・ドラマはまだ見たことがないのですが、そのうちに、この最終話が放送されるのであれば、見たい気がしないでもありません。主演は北川景子だったでしょうか?

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最後に、葉室麟『紫匂う』(講談社) です。直木賞作家の手になる九州の小藩を舞台にした時代恋愛小説で、表面上は武家の人妻を主人公にしています。なぜか、直前に取り上げた高田郁『天の梯』と同じ澪という名の主人公です。しかし、実際の主人公はこの人妻の亭主であり、藤沢修平の短編集『たそがれ清兵衛』と同じで下級武士ながら剣術の達人です。もちろん、揺れ動く女心は恋愛小説においては永遠のテーマなんでしょうが、私のような男性読者の目から見れば、主人公の亭主が熊と猪の争いになぞらえて語る<天の目>で見るということや、敵役の剣の達人も引用する<一息の抜き>という教えは、ある意味で、人生を豊かに送る上での人のあり方を伝えてくれるように私は読みました。また、敵役として登場する家老や主人公の亭主の剣術のライバルである武家、主人公の幼馴染みの武家が、みんなそれなりに頭がよくて有能なのに自己中心的な行動に走り、意地汚かったり優柔不断だったりと、なかなか現代社会のサラリーマンの集団にもみられるような親近感を持ってしまいます。最後の終わり方も時代小説の定番ですし、直木賞作家にふさわしいと受け止めています。この作家の作品としては、それほど人気が出るとは思いませんが、私のような時代小説のファンであれば、図書館で借りて読むには適当な1冊だという気がします。

来週から9月に入り、我が家でも子供達の学校が始まります。今秋はなぜか雨が多くて気温が上がらなかったんですが、来週はお天気が回復するような天気予報も聞きます。何冊かミステリのアンソロジーも借りましたので読むのが楽しみです。

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