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2014年9月27日 (土)

今週の読書は薬丸岳『神の子』上下巻ほか

今週の読書はアジア経済論ほかの経済書と専門書、また、小説は薬丸岳『神の子』上下ほか以下の通りです。

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まず、末廣昭『新興アジア経済論』(岩波書店) です。著者は東大社研の教授でタイ経済の専門家です。岩波書店から順次発行される「シリーズ 現代経済の展望」の第1冊目です。本書では最初にアジア開発銀行や国際通貨基金や世銀などの既存研究に従って、「アジア」や「低所得国・中所得国・高所得国」などを定義するところから始まり、「生産するアジア」、「消費するアジア」から、「老いてゆくアジア」、「不平等の拡大するアジア」、「疲弊するアジア」まで、幅広くアジアの経済社会の解明に当たります。アジア域内の日本だけでなく、域外経済との関係については米国のいわゆる「双子の赤字」が東アジアの輸出指向型工業化を背後から支え、従って、デカップリング論やアンカップリング論は成り立たないと主張します。まったく私も同感です。ただし、キャッチアップ型の経済成長については工学的な技術しか対象としておらず、経済経営的な生産要素の組合せやマネジメントといった幅広い広義の技術を対象に含んでいないのはやや物足りません。外国資本の導入をテコにした経済発展には工学的な技術だけでなく、マネジメントも含めた広義の技術の果たす役割が大きかったと私は考えています。また、第6章の中所得の罠まではまだいいとしても、後半の第7章以降の「老いてゆくアジア」、「不平等の拡大するアジア」、「疲弊するアジア」については単に「懸念」や「心配」のレベルの記述にとどまり、問題の所在すら明らかにされず、ましてや、解決策の方向性すら提示されないのは大いに疑問です。従って、副題が「キャッチアップを超えて」となっているんですが、意味不明としか言いようがありません。

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次に、山口二郎・中北浩爾『民主党政権とは何だったのか』(岩波書店) です。なぜか、岩波書店が続きます。著者はいずれも大学の政治学研究者ですが、特に山口教授は私でも知っている民主党のブレーンです。当然、その立場から本書は書かれていますが、本書のほとんどは民主党政権時のキーパーソンへのインタビューから成り立っています。まず、民主党政権の3年余りはほぼ「失敗」だったと多くの国民には受け止められており、本書でも同様の総括がなされているようです。その上で、民主党政権の際の当事者たちのインタビューですから、その場にいなかった人たちを「失敗」の原因とするような論調も見られなくもありません。典型的には政権成立当時の小沢一郎幹事長について、マニフェストで財源抜きのバラマキになった「戦犯」と見なすような論調がそのひとつです。しかし、国民目線としては、民主党政権の「失敗」として考えているのは、普天間基地移転に関する対米外交、漁船船長の逮捕と釈放に象徴されるような尖閣諸島に関しての対中国外交をはじめとする外交面での失政、そして何よりも震災と原発事故への対応、その後の原発再稼働や震災復興の遅れに対する不信感ではないでしょうか。非常に狭い範囲で本質的ではない可能性もありますが、社会保障や世代間不公平だけを私の目から見て取り上げれば、歳入を公共事業で国民に還元する従来の「土建国家」を否定して、様々な社会保障で国民に還元する「福祉国家」を民主党政権は指向していましたし、何よりも子ども手当の創設により高齢者のみを優遇する社会保障政策の風穴を開けようと試みたのが最大の成果のひとつだったような気がします。この2点とも自公政権に回帰して否定された気がします。

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次に、中島岳志『アジア主義』(潮出版社) です。本書は明治維新後の自由民権運動や西南の役から太平洋戦争に至る期間、人物で代表させれば、西郷隆盛から石原莞爾までの我が国における「アジア主義」の歴史をひも解いています。先月8月3日の読書感想文のブログで植村和秀『ナショナリズム入門』を取り上げた際に、「ナショナリズムの反対概念は世界市民主義、すなわち、インターナショナリズムである」と書きましたが、この「アジア主義」なる地域主義はその中間を行っています。ナショナリズムが右翼で、インターナショナリズムが左翼、と極めて大雑把に私は受け止めていますが、本書で取り上げている「アジア主義」はこの仕分けに従えば明らかに右翼です。とはいえ、「アジア主義」とは地域主義であると同時に人種主義でもあり、帝国主義の時代に西洋列強の白人に植民地化されたアジア諸国の独立を支援する、というもので、これは中南米になぞらえれば、19世紀のシモン・ボリバル、20世紀のチェ・ゲバラのようなものに見えます。すなわち、アジア諸国の独立支援でとどまっていれば左翼的な主義・運動だったかもしれません。しかし、実際に「アジア主義」の下に日本がやったのは、西欧列強から独立したアジア諸国を日本の植民地にする、というものです。実例としては、西欧列強からの独立ではありませんし、植民地化したのではなく傀儡政権を樹立したんですが、「満州国」を想像すればいいわけで、ここまで来ると右翼的な主義・運動と見なすべきです。何にせよ、21世紀の現代に100年近く前の帝国主義の時代の「アジア主義」を論ずる意味が私には理解できませんでしたが、反面教師的に歴史観を過たないためのひとつの材料といえるかもしれません。

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次に、薬丸岳『神の子』上下 (光文社) です。今週の読書ではこの小説がもっとも面白かったと受け止めています。この作者の作品は夏目信人シリーズのほか、『ハードラック』や『友罪』なども読んでいるんですが、夏目信人シリーズを除いて裏社会というか、犯罪や反社会的な団体を扱っています。この作品も壮大な反社会的組織を描き出そうとしていて、最後の残り50ページまで終わり方が想像も出来なかったんですが、何とか無事に作品をconcludeした気がします。でも、やや尻すぼみで終わった感は否めません。木崎/室井とひろしの全面対決の場面を期待していた読者も多かったような気がしますし、私もその1人なんですが、これを正面から描けばハルマゲドンになるのかもしれません。いかにも裏世界で米国流の陰謀史観が成立しているような雰囲気を醸し出している点は大いに評価できます。次々と会社を作っては乗り換えて行くのは、普通、悪役キャラの方なんですが、それを逆手に取ったラストは秀逸です。タメイドラッグ御曹司の兄から弟に信頼できる仲間の大切さを言わしめたり、人間としての愛情の強さとか、自分を大切に思ってくれる人の存在とか、いろいろと温かいものを感じる人生訓で満ちています。

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最後に、綾辻行人『霧越邸殺人事件 <完全改訂版>』上下 (角川文庫) です。最近では、我が家の下の倅なんかがそうで、『Another』の作者と見なされているっぽいんですが、実は新本格派ミステリの旗手であって、その代表作のひとつの<完全改訂版>です。ネットで調べると、オリジナルの単行本が1990年、新潮文庫版でも1995年ですから、ほぼ四半世紀も前の作品です。もちろん、私も<完全改訂版>になる前のバージョンを読んだことがあります。でも、情けない記憶力しか持っていませんので、雪で孤立した霧越邸に売れない劇団の団員一行が避難して、北原白秋の死になぞらえた連続殺人事件が起きる、というストーリーは読み始めてすぐに思い出しましたが、結局、最後まで読まなければ真犯人は思い出せませんでした。従って、とても新鮮に読むことが出来た一方で、あらすじは記憶にあったので、上下巻を2-3時間で一気に読み切ることが出来ました。なお、私はいわゆる新本格派ミステリの中の京都系では、この作品の作者である綾辻行人や我孫子武丸や麻耶雄嵩よりも、有栖川有栖とか、何といっても法月綸太郎が好きなんですが、もちろん、この作者も大いに評価しています。どうでもいいことながら、近藤史恵や森博嗣も新本格派に入るらしいんですが、この2人作品もよく読みます。さらにどうでもいいことながら、新本格派に限らず一番たくさんの作品を読んでいるミステリ作家は赤川次郎かもしれません。三毛猫ホームズや三姉妹探偵団のシリーズはだいたい読んでいるような気がします。最後の最後に、この作者の代表作である「館シリーズ」もかなりの部分の<完全改訂版>が出ているようです。私は<完全改訂版>よりも、「館シリーズ」の最終巻を早く読みたい気がします。

そろそろ、秋の夜長の読書シーズンも本格化してきています。来週の私の読書やいかに?

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