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2014年9月20日 (土)

今週の読書は『なぜ日本の公教育費は少ないのか』ほか

今週の読書は、タイトルの中澤渉『なぜ日本の公教育費は少ないのか』ほか、専門書を中心に話題の小説も含めて以下の通りです。

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まず、中澤渉『なぜ日本の公教育費は少ないのか』(勁草書房) です。著者は大阪大学の教育学者ですから、まさに専門分野ということになります。民主党政権下で子ども手当や高校無償化がいわゆる「バラマキ」として強く批判されたことに現れているように、我が国では教育とは個人ないし家庭の問題であり、公教育に対する費用負担が先進国の中では極めて小さいという特徴があります。しかも、特に大学入試の公平性に関する信頼度が高く、入試に不合格だった場合は文句なく自己責任として処理されます。ですから、大学入試の次の段階である就活についても、内定が取れないのは「自己責任」と見なされたりするんですが、少なくともこの点については、私がこのブログを通じて反論している通りであり、労働市場は生産からの派生需要であって、就活生の責任はとても小さいと考えるべきです。就活で脱線してしまいましたが、本書では、第3章 p.120 で国際比較により我が国が高齢者に対する社会保障支出が大きい一方で、教育や家族に対する給付はほぼ最低ラインということを確認しています。私も同感です。そのうえで、教育に関しては日本ではその成果が個人に帰属する部分が大きいと見なされており、それゆえに個人もしくは家庭による負担が大きく、逆に、政府負担が小さくなっていると結論しています。もしそうなら、年金なんてもっと典型的に個人利益に帰属しそうな気がするんですが、その点の分析はありません。さはさりながら、教育と社会保障を必ずしも同列で論じているわけではありませんが、現在では死語となった「社会政策」の一環として、教育を単に生産性を高めるための手段として捉えるのではなく、社会構成員としての一体化の醸成とか、リベラル・アーツ的な重要性にも目配りされており、それなりに優れた教育論、というか、国家と教育の関係を論じた書であるといえます。ただし、「あとがき」で著者自身が認めているように、「終章の結論(提案)はやはり物足りなさが残る」といえますし、私の考えでは社会保障と教育を同列に論じているわけではないものの、財政や税収などにまで手を広げ過ぎている気もしないでもありません。

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次に、室山義正『近代日本経済の形成』(千倉書房) です。タイトルはものすごく大きいんですが、表紙の画像にも見られる通り、副題は「松方財政と明治の国家構想」であり、松方財政のデフレ政策による不換紙幣の消却をもって「近代日本の形成」というか、基礎と見なしているようです。その点について詳細に論じられているわけではないんですが、著者の別の本ですでに取り上げられているんではないかと想像しています。本書では、松方財政の前の時期における紙幣ベースでの物価と銀貨ベースでの物価の乖離をグラフィカルに明示し、20世紀初頭に金本位制を確立する前の段階における紙幣と本位貨である銀貨のバランスを紙幣の消却により達成した松方財政を近代日本の経済的な基礎を形成したとして評価しています。というのも、バランス回復のためには銀貨を増加させる方策もあったからであり、そのひとつとして外債の発行による銀貨の増加を目論む意見を取り上げ、悪くすると植民地化の恐れのある政策として日本国内で退けられた経緯を示しています。単に歴史的に松方財政を跡付けただけでなく、一橋大学による長期推計統計も活用してデータの裏付けある議論を展開しています。ただし、最初に見た松方財政による不換紙幣の消却をもって「近代日本の形成」と見なす根拠が私には理解できませんでした。その基礎のあるヒストリアンかエコノミストが読めばもっと得るところが大きいのかもしれません。

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次に、コリン・メイヤー『ファーム・コミットメント』(NTT出版) です。私はあまり理解がはかどらなかったんですが、企業活動に倫理やより長期的な視野を組み込もうとする企業ガバナンス理論です。短期的な企業価値の最大化を否定し、株主だけでなく企業のステークホルダーを幅広く捉えて、雇用は顧客も巻き込んだ企業活動の最適化目標を設定しようと試みています。この本のタイトルにもなっているファーム・コミットメントを実現する「トラスト・ファーム」では、企業の掲げる使命を受託者評議会が守らせるようにし、株主は投資機関に応じたコミットメントに比例した株主の権利を受け取り、株主総会でこれを行使します。他方、無記名株式は株主総会での投票権が与えられません。もちろん、こういった種類株はすでに導入されていて、グーグルやリンクトインでも活用されていますので、ものすごく目新しい試みという気はしません。読んでいて私が理解できなかった、あるいは、読み飛ばしてしまっただけかもしれませんが、どうしても気にかかるのは著者は何を目指しているのかということです。これについて2点だけ指摘しておくと、第1に、おそらく、このファーム・コミットメントやトラスト・ファームでは景気循環は解消されません。近代から現在までの経済学の大きな目標のひとつは景気循環、特に苛烈な景気後退の回避ないしはネガティブな影響の低減化です。マルクスもケインズもこれを目標のひとつに据えていると私は考えています。しかし、トラスト・ファームが主流になっても厳しい景気後退は相変わらず生じ、失業者が発生して貧困も循環的に増加するんではないかと私は想像します。少なくとも、景気後退を回避するシステム的なメカニズムは見当たりません。第2に格差の拡大や悪辣なビジネス慣行の是正といったものが目標かもしれませんが、これはいわゆる「いたちごっこ」になる可能性があります。すなわち、ファーム・コミットメントやトラスト・ファームがビジネス慣行に対して倫理的な観点を導入する決定打ではないような気がします。

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最後に、有川浩『明日の子供たち』(幻冬舎) です。作者はご存じの通りの売れっ子小説家で、幻冬舎創立20周年記念特別書下ろし作品だそうです。よく分かりません。それはともかく、児童養護施設を舞台に、施設に転職したばかりのIT企業の元営業マンを主人公にした物語です。3年ほど先輩の女性職員や見た目と違って理論派で熱血漢の年輩男性職員とともに、事なかれ主義の副施設長と時には対立したり、高校2年生の男女の「問題のない子供」の大学進学や「サロン・ド・日だまり」という施設の存続を訴えたりと、今年に入ってからの例の日テレの「明日、ママがいない」の放送があり、こういった方面への関心が高まっていたとはいえ、内容はもちろんタイトルもここまでして、どっぷりと対抗するのもどうかという気がします。私はよく読みはするんですが、この作者の有川浩と百田尚樹はどうしても好きになれません。やっぱり、バックグラウンドが右翼がかっていて、それが時折作品に現れるからなんだろうと思います。小説が一貫していわゆる「上から目線」で書かれているのもさることながら、特に個別の点を上げれば、その昔の軍隊や現在の自衛隊を美化する傾向に私は馴染めないと受け止めています。この作品のなかでも、小説の舞台となっている施設の出身で大学進学しながら学費が続かず中退し、水商売系あるいは風俗系に流れたんではないかと示唆されていた女性が自衛隊の下士官として登場し、それがいかにも「望ましい」的な扱いをされています (p.221)。何となくの雰囲気で理解できなくもありませんが、視点を替えれば職業差別に他なりませんし、自衛隊勤務を逆の目で見る読者もいるかもしれません。もちろん、小説ですから一定の見方を作者から提供するのが作品であり、不偏不党の立場を要求するものではありませんが、私にとって好ましい「見方」や「立場」ではないと言わざるを得ません。小説家として多くの読者を魅了する力量はあるわけですし、私もこの2人の作品はよく読むんですが、チラチラと垣間見える作者の思想信条の中に私が評価しない要素が含まれている、ということなんだろうと諦めています。この作者も東京在住であれば、現在の内閣から何らかの公職を提供されて、NHKなんぞに何らかの影響力を行使したりしていたのかもしれない、と考えると怖い気がするのは私だけなんでしょうか?

さて、この週末も飛び石連休になっていますが、来週の読書やいかに?

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