いっせいに公表された政府統計をどう見るか?
今日は月末の閣議日ですから、政府統計の経済指標がいっせいに発表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数と商業販売統計が、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率、毎月勤労統計を含めた雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも8月の統計です。まず、とてつもなく長くなりますが、各統計のヘッドラインなどを報じた記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
8月の鉱工業生産、前月比1.5%低下 市場予想下回る
2カ月ぶりマイナス 天候不順も影響
経済産業省が30日発表した8月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調節済み)速報値は前月比で1.5%低下の95.5だった。低下は2カ月ぶり。生産指数は2013年6月(95.0)以来の低さで、QUICKが29日時点で集計した民間予測中央値(0.3%上昇)を大きく下回った。コンベヤーや数値制御ロボットを含む汎用・生産用・業務用機械工業の増産の反動に加え、天候不順で需要が低迷したエアコンの生産が振るわなかった。経産省は生産の基調判断を「弱含みで推移している」に据え置いた。
業種別でみると、15業種のうち10業種で生産指数が低下した。汎用・生産用・業務用機械工業が7.4%低下、自動車を含む輸送機械工業が3.8%低下した。電気機械工業は家庭用エアコンや太陽電池などの生産低迷が響き、3.2%低下した。一方、上昇は3業種で電子部品・デバイス工業は4.9%上昇した。スマートフォン向け半導体などが伸びた。
消費増税後の個人消費の回復の鈍さに加え、輸出の伸び悩みで出荷水準も低い。出荷指数は1.9%低下の94.1と12年11月(91.8)以来の低さだった。生産抑制が追いつかず在庫指数は112.7と1.0%上昇。在庫率指数は118.4と8.5%上昇した。
同時に発表した製造工業生産予測によると、先行きは9月が6.0%上昇、10月は0.2%低下する見込み。経産省は「9月は電子部品・デバイスがけん引役となる」とみている。
8月の小売販売額、1.2%増 2カ月連続プラス 衣料品など伸びる
経済産業省が30日発表した8月の商業販売統計(速報)によると、小売業の販売額は11兆4520億円と、前年同月比1.2%増えた。2カ月連続のプラスで、伸び率は7月(0.6%増)から拡大した。前年に比べ日曜日が1日多かったことに加え、月後半の気温低下で秋物衣料の販売が伸びた。
小売業の内訳をみると、織物・衣服・身の回り品が3.1%増。飲食料品が2.8%増。一方、自動車や機械器具は4月の消費増税以降、前年割れが続いている。
大型小売店は2.8%増の1兆6265億円。既存店ベースでは1.6%増と消費増税後初めてのプラス。このうち百貨店は2.0%増、スーパーは1.4%増だった。
コンビニエンスストアは4.4%増の9444億円。ファストフード及び日配食品の販売が好調だった。既存店ベースでは0.3%減った。
同時に発表した専門量販店販売統計(速報)によると、8月の販売額は家電大型専門店は3563億円、ドラッグストアが4090億円、ホームセンターが2741億円となった。
失業率、8月は3.5% 3カ月ぶり低水準
総務省が30日発表した8月の完全失業率(季節調整値)は3.5%と前月から0.3ポイント改善した。就業者が20カ月連続で増え、3カ月ぶりの低い水準となった。有効求人倍率は1.10倍と前月から横ばいで、22年ぶりの高い水準を保った。雇用は足元まで底堅く推移している。
完全失業率は15歳以上の働きたい人のうち、仕事に就いておらず職を探している完全失業者の割合を示す。改善するのは3カ月ぶり。8月は就業者が53万人増えたほか、女性を中心に職探しをやめる動きが広がって失業者が減った。
就業者は6363万人と、建設業や医療・福祉を中心に前年同月から53万人増えた。総務省は雇用情勢について、「引き続き持ち直しの動きが続いている」との判断を維持した。
厚生労働省がまとめる有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人1人に対して、企業から何件の求人があるかを示す。8月は3カ月連続で同じ水準だった。引き続き求人が求職を上回っているが、8月の新規求人数(原数値)は4年半ぶりに減少に転じ、改善の動きが一服する兆しもある。
8月に受け付けた新規求人数(原数値)は0.6%減と、2010年2月以来のマイナスとなった。業種別にみると、11業種のうち7業種で減った。学術研究、専門・技術サービス業が7.8%減ったほか、派遣などサービス業(7.1%減)、情報通信業(6.5%減)、建設業(5.1%減)の落ち込みが目立った。
8月の現金給与総額1.4%増 6カ月連続プラス 所定内は0.6%増
厚生労働省が30日発表した8月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、基本給とボーナス、残業代などを合計した現金給与総額は前年同月比1.4%増の27万4744円だった。プラスは6カ月連続。緩やかな景気回復を背景にした賃上げの広がりを映した。
基本給を示す所定内給与は0.6%増の24万1875円だった。増加は3カ月連続。2005年11月(0.6%増)に並ぶ8年9カ月ぶりの高さとなった。基本給を底上げするベースアップが広がり、正規雇用を中心とした一般労働者の所定内給与が5カ月連続で増えた。
ボーナスなどの特別給与は14.4%増の1万3756円だった。残業代などの所定外給与は1.8%増の1万9113円。所定外労働時間は1.0%増の10.4時間だった。製造業の所定外労働時間は15.0時間で2.0%増えた。
一方、現金給与総額から物価上昇分を除いた実質賃金は前年同月比2.6%減と14カ月連続で減少した。
いずれも網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、これだけの統計を一度に並べると、もうおなかいっぱいというカンジです。次に、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、シャドーを付けた部分は景気後退期です。景気後退期のシャドーについては、以下の商業販売統計と雇用統計にも共通です。
鉱工業生産指数は季節調整済みの前月比で▲1.5%減の減産となり、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスが+0.3%増と小幅ながらもプラスの増産だっただけに、かなりのサプライズ、しかも、ネガティブなサプライズでした。上の示した鉱工業生産指数のグラフの上のパネルだけを見ると、いかにも景気後退期に入ったかのような印象を受けかねません。今年2014年1月をピークにトレンドとして下がり続けているように見えます。2012年のミニ・リセッションの時よりも明瞭だったりするんではないでしょうか。同様の見方はニッセイ基礎研のリポートでも示されていますし、鉱工業生産ではなく景気動向指数の予測ですが、第一生命経済研のリポートでも景気後退局面入りの可能性を示唆していたりします。ただ、製造工業生産予測調査によれば、9月は前月比+6.0%の増産の後、10月は▲0.2%の減産ながらほぼ横ばいが見込まれており、もう少し先まで見ておきたいという気もします。さらに、別の視点ながら、この9月増産の製造工業生産予測調査に基づいても、7-9月期の生産は4-6月期から減産となることから、7-9月期のGDP成長率はプラスはであっても年率2-3%の低い成長にとどまる可能性が大きいと私は受け止めています。
商業販売統計については上のグラフの通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。8月の台風や豪雨などの気候条件は生産よりは消費に与えた影響の方が大きかったと考えられますが、引用した記事にもある通り、日曜日が昨年よりも1日多かったカレンダー効果もあって、8月は前年同月比・前月比ともプラスを記録しています。もっとも、物価との関係で分かりやすいので前年同月比で見ると、小売業の販売額がボーナスを含む所得増の効果などから7-8月と2か月連続のプラスを記録したものの、まだ消費者物価上昇率には届かず実質消費はマイナスを続けていることは忘れるべきではありません。例えば、上のグラフは小売業の販売側の統計ですが、家計における支出側の統計である総務省統計局の家計調査では8月の実質消費支出は前年同月比で▲4.7%の減少を記録しています。
最後に雇用統計です。上のグラフは上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数、製造業の所定外労働時間指数、5枚目は現金給与指数の前年同月比上昇率です。最後の5枚目以外はすべて季節調整済みの系列をそのままプロットしています。5枚のグラフを一挙に並べましたので、仕方ないことながら強弱まちまちとなります。しかし、大雑把に見て、雇用は底堅いながらも改善テンポが減速している印象があります。失業率は大きく低下しましたが、引用した記事にもある通り、女性などが職探しをやめて労働市場から退出する動きを受けた部分もあり、この先さらに失業率が低下するかどうかは不透明です。私自身は物価上昇率2パーセントを達成するためには、我が国のフィリップス曲線からして、さらに失業率が低下する必要があると考えていますが、「必要がある」と「実際に低下する見込み」は異なる概念です。また、有効求人倍率は高い水準ながらも、これまた、先行きさらに改善するかどうかは不透明です。新規求人は雇用の先行指標ですが、明らかにトレンドの変化が見られます。景気との連動性が高い所定外労働時間は鉱工業生産と同じで景気後退局面入りを示唆しかねない落ち方をしています。もっとも、鉱工業生産指数のピークが今年2014年1月であるのに対して、所定外労働時間のピークは3月だったりします。最後の給与指数だけがジワジワと上昇しそうなトレンドを示しています。ただし、消費者物価上昇率がコアCPIで前年比+3%超ですから、この程度の賃金上昇では実質所得はまだマイナスです。
今日の経済指標発表で注目すべきは2点あり、景気後退局面に入りつつあるのかどうか、そして7-9月期のGDP成長率の予想です。もしも、年内に景気局面に関する政府の判断が改められて、今年1-3月期を山にして景気後退局面に入った、ということになれば、来年2015年10月からの消費税率の再引上げに対する大きな逆風ということになります。7-9月期の成長率についても同じように想定よりも低ければ反対意見が勢いを増す可能性があります。もちろん、明日発表の日銀短観も注目です。
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