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2014年10月31日 (金)

雇用統計と消費者物価が経済の停滞を反映し日銀が追加緩和を決定!

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局から消費者物価指数(CPI)が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、失業率は前月から0.1%ポイント上昇して3.6%になり、同様に有効求人倍率も▲0.1ポイント悪化して1.09を記録しました。消費者物価も消費税込みで+3.0%の上昇を示し、消費税の影響を除いてもプラスが続いているものの、上昇幅は徐々に縮小しています。まず、日経新聞のサイトから家計調査も含めて統計のヘッドラインとともに最近の経済情勢を報じる記事を引用すると以下の通りです。

もたつく増税後景気 消費前年割れ、求人倍率も低下
景気のもたつきが続いている。9月の消費支出は夏場の天候不順も響き、物価の動きを除いた実質で6カ月続けて前年を下回った。有効求人倍率は3年4カ月ぶりに前月を下回り、人手不足などを背景に底堅い雇用環境の改善も一服している。9月の景気は生産や小売業販売が上向いたものの、全体では一進一退の動きにある。
総務省が31日発表した9月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は27万5226円と、物価の動きを除いた実質で前年同月に比べて5.6%減った。内訳では食料が前年比実質で2.9%減。今年の9月は昨年より日曜日が1日少なく、外食などへの支出が減っている。光熱・水道費も8.5%減。9月の調査には8月の支払いが反映される。夏場の天候が悪かったため、電気代の支出が減った。
被服・履物は前年比2.7%減、教養娯楽費は2.8%減と他の品目よりは落ち込みが小さい。駆け込み消費の反動で落ち込んだ支出は回復してきた。季節要因をならした9月の実質消費支出は前月に比べて1.5%上がり、3カ月ぶりに上昇に転じた。
勤労者世帯の実収入は実質で前年比6.0%減。消費増税と物価の上昇で収入が目減りし、消費の向かい風になっている。
雇用統計では厚生労働省が同日発表した有効求人倍率が1.09倍と前月より0.01ポイント下がった。9月は有効求人数が前年比5.1%増と4年5カ月ぶりの低い伸び率にとどまった。9月の新規求人数は前年同月より6.3%増えた。
総務省が公表した9月の完全失業率は3.6%と、前月より0.1ポイント上がった。完全失業者数が2カ月ぶりに増えた。一方で就業者数は6402万人と前年同月から43万人増え、このうち女性は2757万人と過去最高だ。総務省は職探しをする人が就業できていると見て、雇用情勢は「引き続き持ち直しの動きが続いている」との判断を維持した。
9月の全国消費者物価3.0%上昇
総務省が31日発表した9月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は値動きの激しい生鮮食品を除く指数が103.5と、前年同月比3.0%上昇した。食品やテレビが値上がりした。ガソリンなどエネルギー価格も上昇したが、原油安で前月比で下落したのを受け、物価全体の前年比の伸び率は8月から0.1ポイント縮小した。
前年を上回るのは13年6月以来、16カ月連続。伸び率は3.4%となった5月以降は縮小傾向が続いている。消費増税による物価押し上げ効果2.0ポイントの影響を除くと物価上昇率は1.0%になる。「当面1%台前半で推移する」という日銀の見通しの範囲内で推移している。
CPIの上昇に影響が大きかった品目をみると、生鮮食品を除く食料が4.2%、テレビが9.9%、宿泊料が8.4%それぞれ上がった。電気やガソリンなどエネルギーも5.2%上昇したが、8月の6.8%から伸び率は1.6ポイント縮んだ。
東京都区部の10月中旬速報値は生鮮食品を除く指数が102.2と前年同月比2.5%上昇した。9月に比べると伸び率は0.1ポイント縮小した。

いずれも網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、雇用統計と消費者物価を並べるとそれなりのボリュームになります。続いて、下のグラフは雇用統計です。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をそれぞれプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、シャドーを付けた部分は景気後退期です。

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雇用統計については、失業率も有効求人倍率もともに9月の統計は8月から、ヘッドラインだけ見ればやや悪化していますが、内容はそれほど悪くないと受け止めています。一例として、米国流の見方ではありませんが、雇用者数は前月から+20万人と大幅に増加して増加傾向が続いていますし、自営業主・家族従業者などを含めた就業者数を見ても、前月から+4万人増加し2か月連続の増加を記録しています。雇用の改善に伴って、職探しを新規に始めた、あるいは、再開したために失業者にカウントされた人が失業率を押し上げたと考えるべきです。また、有効求人倍率にしても、前月から▲0.01ポイント悪化しましたが、新規求人倍率は8月の1.62倍から9月には1.67倍へと改善を示しています。逆から見れば、新規でない従来からの求人が埋まって行って有効求人倍率が低下しているわけですから、大いにポジティブに捉えるべきです。今後は、量的な雇用環境の改善から質的な改善へ、すなわち、非正規雇用でなく正規雇用が増加したり、賃金が上昇したり、といった動きが雇用の安定性を増し、いわゆる恒常所得の増加につながることから、消費の安定的な増加に資することが期待されます。

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上のグラフは、消費者物価上昇率の推移です。折れ線グラフが全国の生鮮食品を除くコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが10月中旬値です。いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とは微妙に異なっている可能性があります。ということで、生鮮食品を除くコア消費者物価はここ2-3か月で上昇幅をかなり縮小させました。基本的には、消費増税のショックによる需給ギャップの悪化が原因ですが、それだけではなく、国際商品市況の動向に起因する原油価格の低下や円安効果の剥落によるエネルギー価格の影響を忘れるべきではありません。すなわち、上のグラフでも、コアCPI上昇率を示す青い折れ線グラフがここ2-3か月で大きく右下がりになっているのに対して、エネルギーと食料を除くコアコアCPI上昇率がそれほど下がっていません。この差は黄色い積上げ棒グラフのエネルギーの寄与度に起因します。ですから、グラフは示しませんが、東京都区部のコアコアCPI上昇率は+2%前後にあり、消費増税後もほとんど変化ありません。需給ギャップは消費増税ショックにより確かに悪化しましたが、それと同様に、国際商品市況の原油価格や為替の影響も無視すべきではありません。このコンテクストから物価を理解すると、本日、日銀が決定した追加金融緩和がどこまで必要だったのかは、私には少し疑問に感じられなくもありません。

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ということで、日銀は追加金融緩和を決めました。なお、上の画像は「展望リポート」の p.10 から引用した政策委員の大勢見通しです。7月時点の見通しから、2014年度、2015年度ともにやや下方修正されており、2015年度の消費税の影響を除く消費者物価上昇率はインフレ目標の+2%からさらに開きが出来ました。これに対して追加緩和の内容は、年60-70兆円のペースで増やすとしていたマネタリーベースを80兆円まで拡大するとともに、中長期国債の買入れペースを拡大して平均残存年限も従来の7年程度から最大10年程度に延長することなどを決めています。今回の金融政策決定会合では追加緩和はないだろうと多くのエコノミストが予想していましたので、タイミングは極めて大きなサプライズでした。従って、為替も株価も大きく反応しています。もっとも、規模はそれほどでもなく限定的ではないかと私は受け止めています。さらに、日銀の発表文書である「『量的・質的金融緩和』の拡大」を見ると、マネタリーベース増加額の拡大も平均残存年限の長期化もいずれも5-4のきわどい表決の結果のようです。私のように追加緩和に疑問を呈するエコノミストも少なくないのかもしれません。

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2014年10月30日 (木)

最後まで打線が決定力を取り戻せず日本シリーズは1勝4敗で終了!

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阪  神000000000 050
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熱投のメッセンジャー投手が8回で力尽き、タイガースは1勝4敗で日本シリーズを敗退しました。ジャイアンツは勢いだけで退けましたが、ホークスは総合力で1枚上手でした。

阪神ファンのみなさん、1年間応援ご苦労さまでした。

ホークス、日本一おめでとう!

来年こそ、
がんばれタイガース!

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2014年10月29日 (水)

日本シリーズ第4戦は延長10回で力尽きタイガース崖っぷち!

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  HE
阪  神0020000000 240
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延長10回の攻防で勝負がつき、日本シリーズはタイガースの1勝3敗となり阪神は崖っぷちに立たされることになりました。引き締まった接戦だったんですが、10回の攻防を見ている限り、野球の緻密さに差があった気がします。

明日は何としても甲子園に帰るべく、
がんばれタイガース!

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鉱工業生産指数は下げ止まりから増産に転じるか?

本日、経済産業省から9月の鉱工業生産指数(IIP)が発表されています。ヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.7%の増産となり、出荷も+4.3%の増加を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の鉱工業生産2.7%上昇、2カ月ぶり上昇 7-9月は2四半期連続低下
経済産業省が29日発表した9月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調節済み)速報値は前月比で2.7%上昇の97.8だった。上昇は2カ月ぶり。QUICKが28日時点で集計した民間予測の中央値(2.2%上昇)を上回った。自動車を含む輸送機械のほか、電子部品・デバイス、情報通信機械など幅広い業種で生産が持ち直した。
経産省は生産の基調判断を「弱含みで推移している」から「一進一退にある」に上方修正した。判断の引き上げは昨年9月以来となる。
業種別でみると、15業種のうち13業種と幅広い業種で生産指数が改善した。輸送機械は前月比4.7%上昇と4カ月ぶりに前月を上回ったほか、パソコンやスマートフォンを含む情報通信機械は12.4%上昇と8カ月ぶりに上昇に転じた。電子部品・デバイスは5.8%上昇と3カ月連続で上昇した。
出荷指数は4.3%上昇の97.9と2カ月ぶりに前月比で改善した。出荷が上向いたことで在庫指数は5カ月ぶりに低下し、0.8%低下の111.7だった。在庫率指数は5.7%低下し111.7だった。
製造工業生産予調査によると、先行きは10月が前月比0.1%低下を見込む。9月の生産が上向いたことで、10月は電子部品・デバイスや輸送機械が一巡するためだ。11月は1.0%上昇を見込んでいる。
併せて発表した7-9月の鉱工業生産指数は前期比1.9%低下し、96.7と2四半期連続で低下した。経産省では「自動車を含む輸送機械工業のマイナス寄与度が相当大きかった」と説明している。

長いながら、網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

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前月の統計発表時の製造工業生産予測調査における前月比+6.0%増というのは少し過大だという気はしましたが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスが+2.2%増でしたので、これを上回りました。引用した記事にもある通り、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「弱含み」から「一進一退」に上方修正しています。上のグラフで見ても分かる通り、生産も出荷も今年2014年1月を直近のピークに緩やかな下落基調にあったところ、9月は一転して上昇しました。製造工業生産予測調査では10月▲0.1%のわずかな減産の後、11月は+1.0%の増産を見込んでいます。まさに基調判断通りの「一進一退」だという気はしますが、それはともかく、季節調整済みの系列の四半期データでならして前期比を見ると、4-6月期は消費増税のショックで▲3.8%、7-9月期も引き続き▲1.9%の減産の後、単純に10-11月の製造工業予測調査を基にすれば10-12月期は+1.6%の増産が見込まれます。特に、はん用・生産用・業務用機械、輸送機械、電気機械の主力3業種が9月の実績で伸びているのに加え、11月のはん用・生産用・業務用機械と10月の輸送機械を除いて、10月以降もまずまず増産が見込まれています。ただし、どうしても製造工業予測調査には過大評価のバイアスが存在するように見えますので、それなりに慎重な見方は必要です。慎重な見方は必要ですが、生産は下げ止まりないし反転増産の局面が近づいているように見えます。もちろん、生産をけん引する出荷の方も耐久消費財出荷が反転の兆しを見せており、昨日発表の商業販売統計と整合的な動きを理解しています。

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さらに、9月の統計が発表されて7-9月期の四半期データが利用可能になりましたので、いつもの在庫循環図を書いてみました。上の通りです。リーマン・ショック直前の2008年1-3月期に第1象限の45度線の少し上の緑色の矢印から始まった在庫循環は、2014年4-6月期に黄色の矢印に達しました。2013年10-12月期から2014年1-3月期まで3四半期連続で在庫の前年比マイナス、出荷の前年比プラスを記録し、出荷が順調に伸びて在庫を減らす第2象限の局面を経て、消費増税後の2014年4-6月期には第1象限に戻り、しかも、45度線を越えてしまい、さらに、7-9月期には第4象限に達してしまいました。内閣府のサイトにアップされている「鉱工業の在庫循環図と概念図」などのように極めて教科書的な理解でいえば、出荷・在庫ともに増加する意図した在庫積増し局面をすっ飛ばして、景気の山を越えて、4-6月期には意図せざる在庫積上がり局面に、さらに、7-9月期には在庫調整局面に入ったことになります。でも、生産が下げ止まりから増産に転じると、この在庫循環図も第1象限の45度線から上に戻る可能性も否定できません。

ということで、現実の日本経済は7-9月期までの在庫循環図で示されるほど単純ではありません。景気局面に関するさらなる情報については、取りあえず、来週11月6日発表の景気動向指数を待ちたいと思います。

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2014年10月28日 (火)

またまた猛虎打線が沈黙し日本シリーズに連敗!

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阪  神000000001 150
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今夜もホークス大隣投手の前にまたまた猛虎打線が沈黙し、初回に失点した藤浪投手は日本シリーズに敗戦デビューでした。連敗です。一昨日の第2戦と今夜の第3戦と、先発投手が初回から失点する上に、打線がサッパリ打てないという状態です。でも、鳥谷選手のタイムリーによる最終回の粘りが明日につながることを期待します。

明日は、
がんばれタイガース!

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商業販売統計はほぼ消費の回復を示す!

本日、経済産業省から9月の商業販売統計が発表されました。ヘッドラインとなる小売販売の季節調整していない前年同月比は+2.3%増の11兆2420億円、季節調整済み指数では前月比+2.7%増となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の小売販売額、前年比2.3%増 気温低下で衣料品など伸びる
経済産業省が28日発表した9月の商業販売統計(速報)によると、小売業の販売額は11兆2420億円と、前年同月比2.3%増えた。伸び率は8月(1.2%増)から拡大した。気温低下により、秋冬物衣料が売れ始めたことなどが寄与した。
小売業の内訳をみると、織物・衣服・身の回り品が9.7%増。野菜や畜産品の相場高を受け、飲食料品が3.4%増えた。
大型小売店は1.7%増の1兆5308億円。既存店ベースでは0.5%増と2カ月連続のプラス。このうち百貨店は1.7%増、スーパーは0.1%減だった。
コンビニエンスストアは5.6%増の8742億円。調理パンやサラダなどの販売が好調だった。既存店ベースでは0.9%増えた。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、商業販売統計のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。シャドーを付けた部分は景気後退期です。

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グラフを見れば明らかですが、季節調整していない小売販売額の前年同月比伸び率も、季節調整済みの小売販売指数も、いずれも年央7月ころから上向きのラインに乗っています。一例に過ぎませんが、4月からの消費税率の引上げによる消費者物価(CPI)への影響については、日銀から「金融経済月報」(2014年3月)において、フル転嫁を仮定した場合、全国のヘッドラインCPIへは+2.1%、全国のコアCPIへは+2.0%、東京都区部へはヘッドラインCPI、コアCPIともに+1.9%との試算が示されています。従って、9月の小売販売が名目で+2.3%増ですから、ギリギリでこのラインは超えたと評価できるような気がします。でも、9月の消費者物価上昇率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+3.0%ですから、物価でデフレートした実質消費はまだまだマイナスです。他方、1997年4月に消費税率を3%から5%に引き上げた際には、名目の小売販売は12か月連続で前年同月比マイナスを記録しましたから、その当時と比較すれば、駆込み需要と反動減からの回復は早かった、とも言えそうです。このあたりの評価は難しいところかもしれません。しかしながら、私の実感・直観としては、消費は消費税率引上げのショックからほぼ回復しつつある、と考えています。ただし、耐久消費財の代表たる自動車の一部と家電については、まだ完全にショックが払拭されたわけではないと慎重に見る必要があります。すなわち、季節調整していない原系列の四半期データの前年同期比で見て、小売販売は4-6月期に▲1.8%減の後、7-9月期には+1.4%増と名目ベースではほぼ回復を示しました。しかし、7-9月期でもまだ前年同期比でマイナスを記録している業種が2つあり、それは自動車小売業▲0.3%減と電機を含む機械器具小売業▲3.7%減です。マイナスの大きさを見れば明らかな通り、自動車よりも電機の方が回復が遅れていると考えるべきです。ほかに半耐久財や非耐久財が大きなシェアを占めると考えられる織物・衣服・身の回り品小売業は4-6月期に+4.4増、飲食料品小売業も+2.5%増ですから、消費税ショックはほぼ消滅したと見なせると受け止めています。ただし、先行きを考えると所得の増加が消費をサポートする必要がありますから、年末ボーナスも含めて、賃金動向が気にかかるところです。なお、年末ボーナスについては、10月8日付けで労務行政研究所から「東証第1部上場企業の2014年年末賞与・一時金(ボーナス)の妥結水準調査」と題するリポートが公表されていて、東証1部上場の大企業対象ながら、年間協定による妥結済み企業では、単純平均で対前年同期比4.6%増と3年ぶりにプラスとの結果が示されています。11月に入れば、いくつかのシンクタンクから年末賞与予測が発表されると思いますが、取りあえず、ご参考まで。

今日発表の商業販売統計も評価が難しく、昨夜のエントリーでも最後にも経済の見方が難しいと書きましたが、その要因はまだまだいっぱいあって、いわゆる「ポジション・トーク」というのもあります。私は同業者のエコノミストからメールに添付した形で一般向けではないクローズなニューズレターをいくつかちょうだいしているんですが、とある証券会社からは株式担当エコノミストと債券担当エコノミストの両方からニューズレターを受け取っています。今日発表の商業販売統計ではないんですが、先日の貿易統計の折には、前者の株式担当からは「輸出は下げ止まりの兆し」、後者の債券担当からは「実質輸出は横ばい圏内」といった趣旨のリポートを受け取りました。どちらも正しいような気もしますが、同じ証券会社ながら、社内の立場やお相手する顧客によってリポート内容や表現振りに微妙な違いが生じるのかもしれません。

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2014年10月27日 (月)

企業向けサービス物価(SPPI)の上昇率はなぜ縮小しないのか?

本日、日銀から9月の企業向けサービス物価(SPPI)が公表されています。ヘッドライン上昇率は前年同月比で見て前月と同じ+3.5%でした。変動の大きい国際運輸を除く総合で定義されるコアSPPIも同じです。いずれも、消費増税直後の5月から+3%台半ばの上昇率を続けています。まず、統計を報じた日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の企業向けサービス価格、前年比3.5%上昇 増税除き0.8%上昇
日銀が27日発表した9月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は102.4と、前年同月に比べ3.5%上昇した。伸び率は前月から横ばいだった。宅配便など運輸関連の需要が消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減から回復し、人手不足を背景に単価が上昇した。消費増税の影響を除いたベースの伸び率も0.8%で前月と同じだった。
消費税の影響を除くベースで前年同月を上回るのは15カ月連続となる。上昇品目数は79で、下落は41。上昇品目と下落品目の差は38と、現行の2010年基準で最大だった8月の47から縮小した。日銀は「価格改定が集中する10月を控えて、9月は全般的に動きが乏しかった」と説明している。
品目別(消費税の影響を除く)では、宅配便など道路貨物輸送の伸び率が1.3%と前月の1.0%から拡大した。貸し切りバスなど道路旅客輸送も1.7%と、前月の1.1%を上回った。一方、雑誌広告はタイアップ広告が好調だった前年同月の反動で前月のプラスからマイナスに転じた。
企業向けサービス価格指数は運輸や通信、広告など企業間で取引されるサービスの価格水準を示す。価格改定が集中しやすい10月は、人手不足を背景にソフト開発や運輸で値上げの動きが出ている。一方、天候要因もあって「単月では基調を判断しにくい」(日銀)という。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネルはサービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしています。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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一見して理解できるところですが、モノの企業物価(PPI)がここ2-3か月で上昇幅を縮小させているのに対して、サービスの企業向けサービス物価(SPPI)はほぼ3%台半ばの上昇率を維持しています。なお、消費税の影響を除く上昇率は+0.8%と発表されており、当然ながら、この消費税を除くSPPI上昇率もほぼ横ばいを続けています。逆に、消費増税以降の需給ギャップの悪化に従ったPPI上昇率の低下にもかかわらず、SPPI上昇率が横ばいを続けているのが少し違和感があるとさえ言えます。すなわち、GDP成長率の低下などに見られるように、需給ギャップのマイナス方向への振れが観察される一方で、日銀リポートなどで主張されている通り、従来から需給ギャップに敏感であると見なされてきたSPPIが一向にその上昇率を縮小しないのはひとつのパズルであろうかと私は受け止めています。引用した記事にもある通り、多くの企業で10月の価格改定を待っている状態なのか、原油価格などの商品市況の影響がPPIに対して大きく出ている一方で、人手不足を背景とした人件費の上昇の影響がSPPIで強く出ているのか、それとも、SPPI品目における価格転嫁の広がりと需給ギャップの悪化が相殺しているのか、もちろん、単一のドミナントな要因ではなく、これらの諸条件が重なった結果だとは思いますが、このSPPI上昇率の膠着状態はエコノミストには謎です。

経済を見る上でもっともやっかいなところは、足元の経済状況が実は明確には把握できないことです。お天気であれば、現時点で、晴れているのか、曇っているのか、雨が降っているのかが明確なんですが、経済状況については景気が拡大局面にあるのか、後退局面にあるのかも実は未確定です。もっと時間が経過した後で、じっくりとデータを分析して後付けで結論を出すしかない場合も少なくありません。ですから、経済予測が外れまくるのは、現状すら未確定なんですから仕方ない気もします。

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2014年10月26日 (日)

猛虎打線が沈黙し日本シリーズは1勝1敗で舞台は福岡へ!

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阪  神000001000 150

今夜はホークス武田投手の前に猛虎打線が沈黙し、日本シリーズは1勝1敗とのタイとなって明後日から舞台は福岡です。それにしても、武田投手のドロンと落ちるようなカーブだか、スライダーだかに手こずり、初物に弱い阪神打線を印象づけたような気がします。先発能見投手は早々に先制点を許したものの、6回を2失点ですからまずまずのピッチングでした。4番ゴメス選手と5番マートン選手が抑え込まれたのが敗因だという気がします。

福岡でも、
がんばれタイガース!

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三井物産戦略研「世界のレジャー・娯楽サービス産業の概観」を読んでビジネスの対象について考える!

長らく見逃していて、とても旧聞に属する話題かもしれませんが、9月30日に三井物産戦略研究所から「世界のレジャー・娯楽サービス産業の概観」と題するリポートが公表されています。とても広範なレジャー産業を概観的に取りまとめており、私は不勉強にして、ここまで包括的なリポートは今まで接した記憶がありません。なお、このリポートにおけるレジャー・娯楽サービス市場とは、「国連の国際標準産業分類 (ISIC Rev.3) のセクターO92 "Recreational,cultural and sporting activities" に基づく。映画、コンサート・観劇、放送視聴(衛星・ケーブルを除く)、美術館・博物館、図書館、動物園、植物園、遊園地、スポーツクラブ、スポーツ観戦、ギャンブルなど。ホテル・外食(世界市場規模約3.3兆ドル)、運輸やAV 家電、DVD・CD・出版物、楽器、スポーツ用具などの消費財市場を含まない。」と定義されており、本リポートの構成では以下の7業種を取り上げています。

  1. テーマパーク・遊園地
  2. アミューズメント施設 (ゲームセンター)
  3. ギャンブル (カジノ)
  4. スポーツ施設
  5. 映画
  6. 音楽
  7. 放送

以下のグラフは、リポートの p.3 から「図表I-3 GDPとレジャー市場の関係」を引用しています。極めて大雑把に、1人当たりのGDPで代理される国民の豊かさと1人当たりレジャー市場規模は正の相関を有しているように見受けられます。やや左上に寄ったスペインやフランスといったラテンの国はレジャー市場が平均レベルよりも大きく、逆に、右下に寄ったシンガポールはレジャー市場が小さいといえそうです。このグラフを見る限り、日本は国民の豊かさにほぼ見合った平均的なレジャー市場規模なのかもしれません。

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経済活性化や規制緩和に関連して、カジノ解禁法案が話題になっています。この法案自体は昨年12月に通常国会に提出され、現在の臨時国会でも継続審議されているわけですが、私は大きな疑問を感じています。10月18日付けの読書感想文のブログで取り上げたスケイヒル『ブラックウォーター』のところでも書きましたが、何をビジネスの対象とするかは慎重な検討が必要です。私から見れば、軍事サービスやカジノなどはビジネスとして許容の範囲を超えているように思えてなりません。そういったカジノも含めて、レジャー産業について包括的なリポートであり、エコノミストとしても大いに勉強になるような気がします。

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2014年10月25日 (土)

猛虎打線が5回に爆発し日本シリーズ初戦を先勝!

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猛虎打線はポストシーズンからの好調を維持していまいた。5回の猛攻で日本シリーズを先勝です。4回にゴメス選手の先制打で1点を取った後、5回には再びゴメス選手の2点タイムリー、マートン選手の2点ツーベースと福留選手のタイムリーで5点を取り、中盤に6点差をつけました。先発のメッセンジャー投手が安定した投球で7回を2失点に抑え、最後は福原投手と呉投手の勝利の方程式で締めくくりました。

明日も、
がんばれタイガース!

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今週の読書は直木賞受賞の『破門』ほか

今週の新刊書の読書はベン・スティル『ブレトンウッズの闘い』、直木賞受賞の黒川博行『破門』ほか、以下の通りです。夜の日本シリーズが気になりますので、手短に取りまとめておきたいと思います。

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まず、ベン・スティル『ブレトンウッズの闘い』(日本経済新聞社) です。著者は米国の外交問題評議会に所属する研究者、というかエコノミストです。外交問題評議会とは外交誌『フォーリン・アフェアーズ』の刊行で有名です。今週は、次の本も合わせて2冊のケインズ本を読んだんですが、本書は米国人エコノミストの立場から、第2次大戦後の1970年代初頭まで四半世紀余り続いたブレトンウッズ体制の成立、すなわち、米ドルの金為替体制下でのアジャスタブル・ペッグの固定相場制、国際通貨基金(IMF)や世界銀行といった国際機関の創設、などの歴史をひも解いたドキュメンタリーです。米英の両巨頭、すなわち、当時のルーズベルト米国大統領とチャーチル英国首相とともに、交渉の舞台で主役を務めたのは米国代表のホワイトと英国代表のケインズであり、いろいろと興味深いエピソードとともに、現在まで残る米ドル本位制などの国際金融システムに対する見方も養えるようになっています。なお、米国のホワイトは本書では、徹頭徹尾、当時のソ連のスパイだったという著者の見方が示されています。以下のリンクは日経新聞の書評です。ご参考まで。

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次に、ロジャー E. バックハウス/ブラッドリー W. ベイトマン『資本主義の革命家 ケインズ』(作品社) です。著者は世界的に著名な経済学史家とケインズ研究者であり、経済分析や経済政策策定だけでなく、哲学や芸術といった多方面からケインズの見方というものを明らかにし、リーマン・ショック以降の混迷の続く現代においてケインズ経済学について再考をした論考です。18世紀にスミスの『国富論』で成立した古典派経済学に対して、19世紀ないし20世紀に修正を試みた大きな動きは、いうまでもなく、マルクスとケインズです。私の理解によれば、いずれも資本制生産における過剰生産恐慌という不況を和らげることを目標とし、マルクスは生産手段の国有化と計画経済により市場による資源分配を停止することにより景気循環を抑止する提案をしたのに対し、ケインズは市場による資源分配を維持したままで財政政策と金融政策による景気循環の平準化を目指しているのが特徴です。マルクス経済学に基づく社会主義経済が20世紀末に破綻しましたが、すでに1970年代初頭の石油危機時にケインズ経済学も不況下のインフレというスタグフレーションで疑問視されながら、結局、今世紀初頭のリーマン・ショックで見直されたりしています。結局のところ、古典派経済学的に市場そのままに放置すれば最適な経済パフォーマンスが保証されるわけでもなく、何らかの市場に対する政府の介入が求められるという点については、ほぼすべてのエコノミストが同意するんではないかと私は考えています。その基礎となるケインズの経済学を取り上げた良書だと思います。

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次に、橘木俊詔『ニッポンの経済学部』(中公新書ラクレ) です。著者は京都大学や同志社大学の教鞭を取った経済学者であり、格差に対するリベラルな対応や教育経済学の視点などで著名なエコノミストです。私自身が経済学部を卒業していますから、それなりに楽しく読み進みました。私の実感としては、経済学部はそれほど勉強しなくても、そこそこお給料のいい職を得られて、コストパフォーマンスは悪くないように感じられます。ということで、本書は「どうして経済学部制は勉強しないのか?」の問いから説き起こして、3章に渡る経済学部の盛衰記で旧制の帝大流のマルクス主義経済学と高商流の近代経済学を巧みに比較し、海外との比較に基づくアメリカンPh.Dの値打ちやビジネス・スクールの可能性にも話題を広げています。ノーベル経済学賞の傾向を含めて、経済学になじみのない読者にも分かりやすく、経済学部卒業生には耳の痛い話題も含めて、いろいろと面白おかしく論じています。通勤の往復で読み切ることのできるボリュームだという気がします。一応、念のため、70歳を超えた著者の新書ですので、我田引水的な「勝手な言い草」は我慢して読み進むべきです。

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次に、黒川博行『破門』(角川書店) です。ご存じ、直木賞受賞作であり、作者の「疫病神」シリーズの最新作です。二蝶会の桑原と建設コンサルタントの二宮のコンビで話は進みます。資金を持ち逃げされて追いかける、というのがこのシリーズの定番なんですが、今回は映画作成の資金を持ち逃げされます。マカオまで追いかけてカジノに行ったり、基本的に、私には新味はありませんでした。5作目にしてマンネリ気味に受け止めて読み終えた気がします。それと、ヤクザが好きになれない、というか、行動パターンや思考方向がカネしかありませんので、市場原理主義エコノミストよりもさらに単純にカネを追いかけますから、これもマンネリ化する一つの要因ではないかと考えています。でも、今回はタイトル通りに、最後に桑原が二蝶会から破門されます。同じ作者の堀内・伊達シリーズは警察を辞めてからも2作目が続いたんですが、この疫病神シリーズも続くんだろうと思います。

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最後に、藤崎翔『神様の裏の顔』(角川書店) です。作者はお笑い芸人を数年やった後、この作品で横溝正史賞を受賞して作家に転身だそうです。ストーリーは、「神様」とまで呼ばれて校長にまでなった人徳者の中学教員が亡くなったお通夜の夜を舞台に、残された故人の娘と会葬者、すなわち、喪主の娘、隣人、同僚教員、教え子などがそれぞれ故人に関して独白することにより進みます。人格高潔な教育者と考えられていた故人に対して、ストーカーや果ては殺人までのさまざまな疑惑が持ち上がり、それらを子細に検討する中で、意外な事実が明るみに出る、という作品です。老若男女数人の独白で物語は進みますが、話し言葉がキチンと書き分けられており、作者の力量を感じました。ストーリーの進み方と結論は特に新鮮味はないんですが、逆に、手堅い印象もあります。第2作が楽しみです。

来週末も11月3日の文化の日で3連休になる人も少なくないような気がします。今年の秋は連休が多くて、読書も進みますし、日本シリーズも楽しめます。

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2014年10月24日 (金)

ニッセイ基礎研「中期経済見通し」を読む!

やや旧聞に属する話題ですが、私がいつも参照しているニッセイ基礎研から「中期経済見通し (2014-2024年度)」という10年間をターゲットとした中期見通しのリポートが10月16日に公表されています。足元や目先より少し先行きの日本経済を考える上で、とても参考になるリポートだと感じたんですが、いかんせん、20ページをかなり超えてボリュームがある上に、その前の10月2日にみずほ総研から公表された同様のリポート「内外経済の中期見通しと人口・地域の課題」と比較して読み比べていたものですから、取り上げるのがやや遅れました。と言い訳しつつ、長くなりますが、リポートからポイントを4点引用すると以下の通りです。

中期経済見通し (2014-2024年度)
  1. 世界経済は回復基調が続いているが、そのペースは依然として緩慢なものにとどまっており、主要先進国のGDPギャップはリーマン・ショック以降、ほぼ一貫してマイナス圏で推移している。IMFの世界経済見通しでは、足もとだけでなく先行き5年間の成長率予想が下方修正されており、需要不足と供給力の低下が同時進行している。
  2. 日本経済は消費税率引き上げ前の駆け込み需要もあって2013年度は高成長となったが、2014年度はその反動と物価上昇に伴う実質所得低下の影響から低迷している。
  3. 日本経済再生の鍵は、高齢化に対応した潜在的な需要の掘り起こしと女性、高齢者の労働参加拡大を中心とした供給力の向上を同時に進めることである。2024年度までの10年間の日本の実質GDP成長率は平均1.3%と予想するが、消費税率引き上げ、オリンピック開催前後で振幅の大きな展開が続くだろう。
  4. 消費者物価上昇率は10年間の平均で1.4%(消費税率引き上げの影響を除く)と予想する。日本銀行が「物価安定の目標」としている2%を安定的に続けることは難しいが、1%台の伸びは確保し、デフレ脱却は実現する可能性が高い。

リポートでは海外経済の見通しから始まって、日本経済見通しについてもメインシナリオだけでなく、代替シナリオも示すなど、かなり包括的な内容なんですが、リポートそのものは何のてらいもなく全文がアップされていて、誰でも入手できるわけですから、ご興味ある向きはそれを読んでいただくとして、先述の通り、みずほ総研のリポートと比較しながら、私の興味に従って図表を引用しつつ、ごく簡単に概観しておきたいと思います。ただし、みずほ総研の「中期見通し」は2020年までを対象とし、ニッセイ基礎研の「中期経済見通し」は2024年までを対象としています。微妙に異なりますので注意が必要です。それから、最大限の注意を払う必要があるのは消費税率の想定であり、ニッセイ基礎研・みずほ総研とも2019年4月から12%へ、そして、みずほ総研では予想の範囲外になりますので、ニッセイ基礎研のみ2023年4月から14%へと引き上げられるシナリオを想定しています。

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まず、ニッセイ基礎研のリポートから p.12 潜在成長率の寄与度分解 を引用すると上の通りです。需要に左右される短期見通しと違って、中長期見通しは供給サイドの要因が成長や物価などに及ぼす影響が格段に高まります。その意味で、こういった資本ストックと労働に分解した潜在成長率の分析も重要です。グラフに見る通り、1990年以降くらいの技術進歩、あるいは、ほぼ同じことながら、全要素生産性の劇的な低下と時短も含めた労働投入の減少が、プレスコット=林論文のバックグラウンドになっているわけですが、先行きについては、労働時間も加味した労働投入によるマイナス寄与は足元の▲0.3%から▲0.5%までややマイナス幅を拡大する一方で、設備投資の伸びが高まることにより資本投入によるプラス寄与が拡大し、技術進歩率が現在の+1%弱から+1%強まで高まるため、潜在成長率は足元の+0.6%から2020年代前半にかけて+1.2%まで高まると見込んでいます。ただし、労働投入に関する分析はそれなりになされている一方で、技術進歩≈全要素生産性の伸び率がかなり上昇する見通しながら、アベノミクス第3の矢、すなわち、TPPによる貿易自由化や法人税率引下げなどの成長戦略の効果がよく私には理解できませんでした。

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次に、ニッセイ基礎研のリポートから p.13 実質GDP成長率の推移 を引用すると上の通りです。足元から2018年度にかけて実質成長率は徐々に高まり、2018年度は+2%超の水準に達すると見込まれています。そして、2019年度は消費税率の引上げに伴って+1%近傍に落ち込むと予想されています。この点については、みずほ総研のリポート p.19 【実質GDP成長率】のグラフとほぼ同じであり、消費税率の引上げに伴う成長率の落ち込みは、両見通しとも▲1.4-▲1.5%と推計されています。大きな違いはありません。その後、2020年度は東京オリンピック開催に伴うブーム到来で成長率が高まり、2023年度の消費増税なども含めて振幅の大きな展開となりつつも、予測期間の2015-24年度平均実質成長率は+1.3%を見込んでいます。当然ながら、消費税率の引上げや東京オリンピックなどの影響を除けば、ほぼ潜在成長率見合いの成長が実現されるわけです。

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次に、上のグラフはニッセイ基礎研のリポートから p.14 消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 を引用しています。みずほ総研のリポートでは p.24 【GDPギャップとインフレ率の見通し】が比較可能でしょう。両シンクタンクの見通しとも、消費税の影響を除くコアCPI上昇率で見て、2018年度ないし2019年度には日銀のインフレ目標である+2%に達するとする点では極めてよく似通っています。その少し前くらいの時点で、いわゆるデフレ脱却が達成される、という点でも一致しているようです。ただし、みずほ総研のインフレ見通しがほぼ+2%の水準で安定的に推移する一方で、ニッセイ基礎研の見通しでは成長率が消費増税や東京オリンピックの影響でジグザグするために、GDPギャップも振幅を持って動き、これを背景にインフレ率も上がったり下がったりする、しかも、日銀のインフレ目標の+2%の水準を下回る、と結論されているようです。確かに、潜在成長率が上昇する見合いで需給ギャップが徐々に拡大する可能性は否定できません。

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次に、ニッセイ基礎研のリポートから p.18 経常収支の推移 を引用すると上の通りです。みずほ総研のリポートでは p.22 【経常収支見通し】に当たります。両リポートとも、2013年度が経常収支のボトムであり、この先数年は経常収支の黒字幅が緩やかに拡大する点については一致しています。しかし、圧倒的に違うのは、2020年度までが予測機関とはいえ、みずほ総研では経常収支の黒字幅が拡大を続けると見込むのに対し、ニッセイ基礎研では2010年代半ばをピークにして経常収支の黒字幅は傾向的に減少を続けて、2020年代前半には経常赤字が定着すると見通している点です。我が国経済社会の高齢化が進行し家計貯蓄率が低下する一方であるわけですから、経常黒字が拡大するみずほ総研予想よりも経常収支が赤字に向かうニッセイ基礎研予想に信頼感を私は持ちます。

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最後に、ニッセイ基礎研のリポートから p.19 国・地方の財政収支(対名目GDP比) を引用すると上の通りです。みずほ総研のリポートでは p.23 【国・地方のPB】に当たります。国と地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)のGDP比で見て、ニッセイ基礎研の予想では2020年度でも▲3%程度、予想最終年度の2024年度でも▲2%程度の赤字が残ると見込まれているのに対して、みずほ総研ではやや楽観的な見方を提供しており、2020年度で▲2%程度と見通しています。そして、公的債務のGDP比は▲250%ないしやや低い水準で横ばいに近くなるとの見方はほぼ共通しているようです。特に根拠なく、何となく、なんですが、財政赤字についても悲観的なニッセイ基礎研の見方にやや分があるように考えるのは私だけでしょうか。なお、これらの基礎的財政収支のグラフを見る限り、直感的にはUCSDのボーン教授の検定では我が国財政は持続可能と結論されそうな気がしないでもありません。

どうでもいいことですが、数年前に私が地方大学の経済学部に出向した際、最初に紀要論文を取りまとめたテーマが財政に持続可能性でした。今年のノーベル経済学賞を受賞したティロル教授の論文を引用したりしています。以下の通り、今でも長崎大学のリポジトリで本文pdfが利用可能なようです。やや数式が多くて難解かもしれません。何ら、ご参考まで。

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2014年10月23日 (木)

ドラフト会議の結果やいかに?

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本日夕刻、グランドプリンスホテル新高輪の国際館パミールにおいて、2014年度プロ野球ドラフト会議が開催されました。我が阪神の新人指名は以下の通りです。来年からの阪神の戦力になってくれることを大いに期待します。私は詳しくないので個別の選手の詳細情報はパスします。

  1. 横山雄哉 (投手) 新日鉄住金鹿島
  2. 石崎剛 (投手) 新日鉄住金鹿島
  3. 江越大賀 (外野手) 駒大
  4. 守屋功輝 (投手) ホンダ鈴鹿
  5. 植田海 (内野手) 近江

今年のドラフトの大きな話題のひとつで、我が母校である京都大学から史上初めてプロ野球選手が誕生するんではないかと早くから期待されていました。京都大学工学部の田中英祐投手です。結局、ロッテに2位指名されました。先々の活躍がとても楽しみです。

今年の日本シリーズでも、
がんばれタイガース!
とともに、
がんばれ京大野球部!

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2014年10月22日 (水)

今日発表の貿易統計から何が読み取れるか?

本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインとなる輸出額は前年同月比6.9%増の6兆3832億円、輸入額も6.2%増の7兆3415億円、差引き貿易赤字は▲9583億円を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の貿易赤字9583億円、同月として過去最大 赤字は27カ月連続
財務省が22日発表した9月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は9583億円の赤字だった。貿易赤字は27カ月連続。9月としては13年(9432億円の赤字)を上回り、現行基準で比較可能な1979年以降で最大となった。輸出額はアジア向けを中心に拡大したものの、液化天然ガス(LNG)など燃料輸入や、米アップルの新型スマートフォン「アイフォーン6」発売に伴う中国からの通信機の輸入が増え、貿易赤字が膨らんだ。
輸出額は前年同月比6.9%増の6兆3832億円。輸出が前年同月を上回るのは2カ月ぶり。自動車や鉄鋼、船舶の輸出額の増加が寄与した。地域別では対アジアが8.1%増の3兆4410億円と2カ月ぶりに増加。うち中国は8.8%増の1兆1544億円で、9月としては最大となった。米国向けも2カ月ぶりの増加となった。輸出全体での数量指数も2.8%増えた。
一方、輸入額は6.2%増の7兆3415億円で、2カ月ぶりの増加。品目別ではLNGが21.0%増えたほか、携帯電話を中心とする通信機が11.6%増と目立ち、輸入額は9月としては79年以降で最大となった。地域別では、アジアからが8.8%増の3兆4411億円で、このうち中国が8.3%増の1兆8240億円。EUからは4.2%増の6988億円だった。アジア、中国、EUからの輸入額はいずれも9月としては過去最大だった。対米国も2カ月ぶりに増加に転じ、4.4%増の1兆1582億円だった。輸入全体の数量指数は3.0%増えた。
為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル104円94銭で、前年同月比6.2%の円安。貿易収支は対米国が5407億円の黒字で、8カ月ぶりに前年同月比で黒字額が増えた。対中国の貿易赤字は6696億円で31カ月連続の赤字で、対EUの貿易赤字も491億円と21カ月連続して赤字だった。

いつもの通り、とてもよく取りまとめられている記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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ごく短い期間で為替が動いたほかは、大きな動きもなく、貿易収支は一種の「膠着状態」になっているように見受けられます。季節調整値で見て、輸出額は今年5月を底にして徐々に増加の兆しを見せ始めていますが、見ようによってはほぼ横ばい圏内の動きとも見えます。他方、9月に限れば輸出額以上に輸入額が増加し、貿易赤字はほぼ▲1兆円のあたりで高止まっています。中国は言うに及ばず、欧州との貿易赤字は景気局面の違いに起因します。我が国も景気後退局面に入った可能性が示唆されているにもかかわらず、それ以上に欧州景気の現状が思わしくないと受け止めています。ただし、原油市況は着実に下落を続けており、円安が少し進んだくらいでは円建ての支払い額が増加するようにも見えません、石油価格の下落は貿易赤字の縮小要因といえます。

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上のグラフは輸出の動向をフォローしています。上のパネルは季節調整していない輸出額の前年同月比の伸び率を数量と価格で要因分解しており、下のパネルは輸出数量とOECD先行指数のそれぞれの前年同月比をプロットしています。ただし、OECD先行指数は1か月だけリードを取っています。輸出数量の伸びはほぼゼロ近傍なんですが、先行きに関しては海外経済、特に新興国と欧州が回復するに従って増加基調へ向かうと期待していますが、問題はそのスピードです。足元では海外経済の減速感が高まる中、IMF「世界経済見通し」に示されたように、世界経済の景気回復がさらに後ズレするリスクが高まっていると考えるべきです。為替の円安も短期間で終了してしまった感がありますし、輸出が大きく伸びる状況にはないと覚悟すべきです。従って、貿易赤字も黒字転換するのはかなり先になりそうです。先月の貿易統計の発表時の見方と比較して、輸出の回復テンポについては少し悲観的な見方に傾きつつあります。

最後に、経常収支統計は未発表ですが、最初に書いた通り、貿易収支は「膠着状態」にありますので、7-9月期の外需寄与度はほぼゼロか、極めて小幅のプラスではないかと私は予想しています。4-6月期の外需寄与度は+1%を超えていましたので、7-9月期の成長率の足を引っ張りそうです。

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2014年10月21日 (火)

産労総合研究所「2014年 決定初任給調査」に見る今年の初任給やいかに?

先週金曜日の10月17日に産労総合研究所から「2014年 決定初任給調査」と題するリポートが発表されています。読んで字のごとくでそのままなんですが、今年の新入社員の初任給の調査結果を取りまとめています。大学卒(一律)で月額204,148円、昨年より+506円、+0.25%の増加となっています。まず、産労総合研究所のサイトから調査結果のポイントのうち、初任給の引上げ状況を引用すると以下の通りです。

初任給の引き上げ状況
  • 2014年4月入社者の初任給を「引き上げた」企業は27.2% (昨年調査10.7%)、「据え置いた」企業は69.4% (同85.3%)、「その他等」3.0% (同3.5%)、「無回答」0.4% (同0.4%)
  • 初任給を引き上げた理由は、「在籍者のベースアッブがあったため」(51.6%)、「人材を確保するため」(45.3%)、「初任給の据置が長く続いていたため」(9.4%)。

どうでもいいことながら、産労総合研究所のサイトにもいくつか図表があり、コチラは10月17日付けの公表となっている一方で、印刷用にpdfファイルの全文リポートもアップしてあって、コチラは10月3日付けになっています。よく分からないんですが、私が発見したのは先週末だったりします。今夜のエントリーでは、同じモノながら、この両方から1枚ずつ図表を引用して簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、産労総合研究所のサイトから「図表1 初任給の引き上げ状況」と「図表2 引き上げ理由」を合体させると上の通りです。最初に引用した「調査結果のポイント」のうち、「初任給の引き上げ状況」そのもので、単にグラフ化しているだけなんですが、昨年との比較も入っていたりします。初任給の引上げはリーマン・ショック直後の2009年から5年連続で据置きの比率がほぼ85%だったんですが、今年はやや下がりました。もっとも、下がったといっても70%近い企業は据置きのままで、据置きがマジョリティであることに変わりありませんし、引上げ理由についても「在籍者のベースアッブ」に合わせた形となっているような気がします。ただ、初任給引上げに関して学歴の幅が広がっているのは歓迎すべきだという気がします。また逆から見て、初任給の引上げを見送ってマジョリティの据置きとした理由には、「現在の水準でも十分採用できるため」(56.4%)、「在籍者のベースアッブがなかったため」(30.7%)などが上げられています。

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次に、pdfファイルの全文リポートから学歴別の初任給額の水準の表を引用すると上の通りです。まだまだ初任給を引き上げた企業の割合も大きくないですし、引き上げたとしても上の表に見る通り、わずかな額の引上げであり、消費増税に伴う物価上昇には遠く及びません。他方、引用はしませんが、企業規模別も含めた詳細な初任給額の表を見ると、例えば、いわゆる総合職と呼ばれる大卒・基幹職の初任給上昇率では1,000人以上の大企業の+0.39%と300-999人の中堅企業の+0.36%がほぼ同等なのに対して、299人以下の中小企業が+1.16%と高い上昇率を示しています。高卒・基幹職でも中小企業の引上げ率が大企業を上回っており、規模の小さい企業における人手不足が反映されている可能性が高いと受け止めています。

徐々に労働市場はひっ迫して来ており、失業率が下がって賃金が上昇するというフィリップス曲線上を左上にシフトする方向にあると私は考えているんですが、まだまだ地域や産業や職種や学歴などによってはフィリップス曲線の右下で動きにくいセクターがあるのも事実かもしれません。マクロ経済の安定化とともに、きめの細かいマイクロな政策が必要とされる段階に達しつつあるようです。

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2014年10月20日 (月)

マクロミル「ハロウィンに関する意識調査2014」

さて、突然ですが、来週はハロウィーンです。10月31日に子供達が "Trick or Treat?" と叫びながらお菓子をせがんで歩きます。といっても、東京都下とはいえ、郊外住宅地の我が家の周辺では「ハロウィーン」の何らかの文字は見かけるものの、イベントらしきものは開催されないように見受けています。青山に住んでいたころは、青山通り沿いのAVEXビルに子供達が集合して地図をもらって、商店街を回ってお菓子を集めていたんですが、あのようなイベントをやっているのは、ディズニーランドとかのテーマパークを別にして、街を上げてやっているのは東京の中でも六本木とか、青山とか、原宿とか、くらいなのかもしれません。もっとも、カワサキハロウィーンの仮装パレードは有名なんですが、私は行ったことがありません。
ということで、ひとさまがハロウィーンに何をやっているのか、何を考えているのかについて、マクロミルが「ハロウィンに関する意識調査2014」を取りまとめてくれています。特に仮装・コスプレについて、なかなか興味深い結果が示されています。まず、マクロミルのサイトから調査結果のトピックスを3点引用すると以下の通りです。

トピックス
  • ハロウィンに「興味がある」65%、イベント参加や買い物など実際に楽しむ人は3人に1人
  • ハロウィンにかける予算 男性7,274円、女性5,575円
  • モテたい人必見! 女性が男性に着てほしいハロウィン仮装、1番人気は「吸血鬼」、男性は「魔女」がお好き

特に、仮装・コスプレで注目なのは3番目のトピックなんですが、以下、pdfの全文リポートから図表を引用しつつ、順を追って簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、上の円グラフは、Q.あなたはハロウィンに興味がありますか? という問いに対する回答結果なんですが、それなりに関心は高いものの、あまり関心を持たない層も無視できない割合でいることがうかがえます。大雑把にいって、男性よりも女性の関心の方が高いようです。

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次に、上の円グラフは、Q.あなたは今年のハロウィンに何をしますか? (しましたか?) という問いに対する回答結果です。そもそも、その前段に、何かする予定があると回答した人が1,000人中281人でしたから、その母集団に対して複数回答で問うています。パーティーへの参加とかグッズの購入が上位に来ています。3番めが「お菓子を配る」なんですが、私が青山に住んでいた時に下の子と参加したイベントでは「お菓子をもらう」というのであり、選択肢から欠けているような気がしないでもありません。

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最後に、注目の仮装・コスプレに関する問いに対する回答は上の表の通りです。男性が女性に着てほしい仮装・コスプレ1位は「魔女」、女性が男性に着てほしい仮装・コスプレの1位は「ドラキュラ、吸血鬼」でした。まあ、無難なセンといえるんではないでしょうか。自由回答では、「アナ雪」や「ふなっしー」などが上がっていたそうです。なお、我が家の下の倅はマントとシルクハットでドラキュラに扮装していた記憶があります。

私は何といっても国際派エコノミストですし、2度ほど3年ずつの海外赴任も経験していますから、毎年この季節にはハロウィーンの情報はそれなりにフォローして来たんですが、今年についてはパスし、来週末からの日本シリーズに注目しています。2005年以来、9年振りです。

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2014年10月19日 (日)

すみれいこ「ブルーバード」を聞く

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すみれいこ「ブルーバード」を聞きました。なお、蛇足ながら、「すみれいこ」というのは、『みこすり半劇場』などで活躍した漫画家ではなく、ピアノの栗林すみれとヴィブラフォンの山本玲子の「すみれ+れいこ」の掛詞というか、合せ名というか、要するに、ピアノとヴィブラフォンのデュエットによるジャズのインストゥルメンタル・ユニットの名称です。そのデビュー・アルバムが上のジャケットの「ブルーバード」であり、口の悪い私の友人によれば、ひょっとしたら、最後のアルバムになるのかもしれないということで、私も聞いてみました。何と、自主制作アルバムだったりします。収録曲は以下の通りです。3曲めと6曲めが山本玲子の作曲である以外は栗林すみれの作曲で、要するに、すべての曲が2人のオリジナル曲です。

  1. GRAND LINE
  2. ドラマ
  3. Short Storiesよりno.1 church
  4. Backstetch Blues
  5. Song at Midnight
  6. That Blue Bird
  7. 南古谷
  8. Backstetch Blues (Alternate Take)

デュエットの2人は大泉学園inFで出会い、2011年から定期的に活動を始めたそうです。このアルバムにはブルーズも入っていますし、私は1曲めを評価するんですが、このユニットの目指すところは、もっとリリカルに歌い上げる曲なんだろうなという気がします。ピアノとヴィブラフォンのデュエットというのは、チック・コリアとゲイリー・バートンによる「クリスタル・サイレンス」をはじめとして、このブログの昨年2013年12月1日付けのエントリーでも紹介した小曽根真とゲイリー・バートンの「タイム・スレッド」など、私も何枚かアルバムを聞いたことがあります。でも、ピアノのデュエットとしてはギターとのユニットでビル・エバンスとジム・ホールによる「アンダー・カレント」にはかなわない気がします。

どうでもいいことながら、昨日の段階で goo と Yahoo! で「すみれいこ、ブルーバード」でブログ検索をかけてみましたが、ヒットしませんでした。ブログで取り上げるのは世界初、本邦初なのかもしれません。出来のいいアルバムでしたから、可能性はかなり低いとは考えているんですが、ホントに最初で最後のアルバムになるかもしれません。聞いておくならお早めに?

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2014年10月18日 (土)

タイガース4連勝で日本シリーズへ!

  HE
阪  神420000200 8110
読  売011000002 4120

タイガースがジャイアンツを粉砕して4連勝し日本シリーズへ進出です。初回からホームランが飛び交い、2回までに6得点ですから主導権を離さず完勝でした。初回のホームラン攻勢は1985年日本シリーズ第6戦の長崎選手の満塁弾を思い出させてくれました。2回の西岡選手のツーランで加点し、7回のラッキーセブンには4番ゴメス内野手のタイムリーでダメを押しました。能見投手が5回で降板しましたが、リリーフ陣も大量得点差を背景に逃げ切りました。ただ、どうでもいいことながら、胴上げがなかったのがとても残念でした。

日本シリーズも、
がんばれタイガース!

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今週の読書は桜木紫乃『ホテルローヤル』ほか

今週の読書は、ようやく図書館の予約が回って来た桜木紫乃の直木賞受賞作『ホテルローヤル』ほか、以下の通りです。

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まず、唐鎌大輔『欧州リスク』(東洋経済) です。一応、経済書なんだろうと思います。タイトル通り、ユーロ圏諸国が日本化し、すなわち、ユーロが円化し、その基本は欧州中央銀行(ECB)が日銀化する、という見方です。要素としてはp.18に7項目上げられており、(1)不況下の通貨高、(2)貸出鈍化、(3)民間部門の貯蓄超過、(4)経常黒字蓄積、(5)金融政策の通貨政策化、(6)人口減少、(7)上がらない物価、ということになりますが、もう少し系統立てて考えた方がいいように思います。私から見て、かなりいいセン行っているんですが、マーケット・エコノミストの著者らしく、というか、なんというか、やや表面的な見方に引きずられているような気もします。p.58にあるように、「物価が上がらないのはマネーサプライが増えないからであり、マネーサプライが増えないのは貸出が増えないからである」の前段は正しいんですが、後段は間違っています。中央銀行はマネーサプライを管理しなければなりません。なぜなら、中央銀行は物価を政策目標にしているからです。現在の黒田総裁より前の日銀理論よろしく、ただ漫然と民間経済活動を accomodate するだけであれば、経済政策当局という組織はまったく必要ありません。国民生活を豊かにするために経済政策当局は活動しているわけですから、その存在意義を示すべきだと私は考えています。この本も、やや旧来の日銀理論のような傾きを持って欧州経済を解釈しようとしていますが、その分を割り引いて、欧州の現状の問題点を把握するためには有益な本だと思います。でも、ユーロ圏欧州がこの本の意味で日本化し、ユーロが円化するとすれば、その根本的な原因は欧州中央銀行(ECB)の日銀化であると考えるべきです。

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次に、西村吉雄『電子立国は、なぜ凋落したか』(日経BP社) です。著者は技術ジャーナリストです。私は韓国のサムスンと日本のシャープの違いは半分くらいは為替レートで説明できると考えていましたが、この本で問題設定されているように、トヨタとシャープの違いは為替ではない、という指摘には目から鱗が落ちた気がします。本書でも我が国電子工業の凋落が始まったのが1985年というプラザ合意により為替が大きく円高に傾いた時点であるという点は明確に把握されています。本書では、p.16で(1)過去との比較、(2)世界の他地域との比較、(3)他産業との比較、を問いとして設定し、為替に加えて、日本語処理や独自規格による1990年台からの「鎖国」状態に基づく電子産業の内需依存体質の強化や設計部門(ファブレス)と製造部門(ファウンドリ)に分かれる分業の拒否、ないし、垂直統合への固執などに求めています。さらに、電子産業の特性として、4つの圧力、すなわち、ムーアの法則に基づく価格低下圧力、プログラム内蔵化に基づくソフトウェア圧力、デジタル化圧力、インターネットによる分業化の進展によるネット圧力を上げ、自動車産業にはない衰退化要因を考慮しています。また、電子産業に限らないんでしょうが、イノベーションや技術開発に関する政府の関わりなども秀逸です。知っている人はすでに知っている論点なのかもしれませんが、私のような専門外の人間にとってはとても勉強になりました。

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次に、ジェレミー・スケイヒル『ブラックウォーター』(作品社) です。タイトルの「ブラックウォーター」というのは、企業名であり、軍事のアウトソース先の民間企業名です。今では企業名が変更されて Xe Services ゼー・サービシズとなっています。米国海軍特殊部隊 SEALs を退役したエリック・プリンスにより、キリスト教右派の精神に基づいて設立されています。著者はリベラルなジャーナリストです。ナオミ・クラインからの引用や、ノーベル賞学者のクルーグマン教授からの引用すらあります。ですから、当然ながら、ブラックウォーターについては批判的な視点から捉えられています。かつての軍事産業といえば、ジェネラル・ダイナミックスや三菱重工やといったいわゆるハードウェア、すなわち、重火器や戦闘機や戦車や軍艦やを作る産業であり、「死の商人」とはこれらのハードウェアを紛争当事者に売りつけるビジネスだったわけですが、ブッシュ前米国大統領の下で副大統領職にあったチェイニー氏がCEOを務めていたハリバートンあたりが政府から軍事ソフトウェアのアウトソーシングを受けるようになり、海外に展開する米国軍のケータリングサービスの提供、兵舎の建設、兵站の輸送などを行うビジネス展開を始めましたが、ブラックウォーターはもろに軍事行動、というか、要人警護も含めて軍事行動そのもののアウトソーシングを受けるようになっています。専門外のエコノミストの私から見ればびっくりで、本書でもp.244に「アダム・スミスが自由市場について書いたあらゆることに反している」と指摘されていたりします。政治や外交の延長線上にある軍事行動を民間企業が担うことの是非、もちろん、シビリアン・コントロールのあり方も含めて、どこまでが許容されるかについて本書は批判的に問うています。米国のジャーナリストのドキュメンタリーらしく、公開資料にインタビューを加え、これでもかこれでもかというぐらいに圧倒的な事実を積み上げています。読み応えはありますが、私のような専門外のエコノミストにとって、読みこなすのは少し荷が重い気がしないでもありません。日本ではカジノについて経済活性化の起爆剤的に議論されていて、私は大反対なんですが、経済成長のためとはいえ、何をビジネスの対象としていいか悪いかについて大いに考えさせられる1冊です。

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次に、桜木紫乃『ホテルローヤル』(集英社) です。ようやく図書館の予約が回って来ました。ご存じ直木賞受賞作です。釧路近郊にあるという設定のラブホテル、ホテルローヤルにまつわる男女の関係を描いた短編7篇を編んでいます。ただし、5番目の『せんせぇ』だけは道南を舞台としていて、札幌までは足を延ばしますが、道東のホテルローヤルは登場しなかったように記憶しています。ヌード写真の撮影、斜陽の街にある寂れた寺の大黒の援助交際、あるいは、売春行為、ラブホテルにいわゆる「大人のおもちゃ」を販売する営業マンとラブホの女性マネージャー、高校の教師の妻の長期に渡る不倫などなどを取り上げており、正直なところ、少し私の期待が大き過ぎたような気がします。女性の目線からは面白いのかもしれません。DVものはありません。私が物足りないと感じたのは、おそらく、私の読解力というか、感情移入が不足していたためではないかと受け止めています。人によっては大きな感動を得られる作品かもしれません。私との相性は決してよくなかったことは認めざるを得ません。この作家の作品はもう少し時間を空けてから、違った傾向の小説を読みたいと考えています。図書館の予約を長らく待ったにしては、極めて残念な感想でした。

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最後に、乾緑郎『機巧のイヴ』(新潮社) です。これも連作短編集で、「機巧」ないし「機巧人形」には「オートマタ」なるルビが振られていますが、要するにアンドロイド、というか、人工生命体、ないし、ロボットのことです。この作者の作品は、本としては、私は『完全なる首長竜の日』しか読んだことがないんですが、この作品のタイトル作である最初の短編「機巧のイヴ」は2012年度のあらゆるミステリ短篇集に掲載された話題作でしたので、少なくとも2-3度は読んだと思います。ですから、この作者が時代小説も一流だということは知っていました。人間と機巧、というか、ホンモノとニセモノ、正常と異常がどちらがどちらかが分からなくなるというミステリは昔からあり、私が読んだ中でもデニス・ルヘイン『シャッター・アイランド』なんかが最近では典型的な作品ではないかと思います。また、最初に「ロボット」と書きましたが、相撲取りの手を機巧で再生する短編もあり、サイボーグといえるかもしれませんが、この機巧部分が独自の魂を持つ、というのは、少なくとも手については「ハリー・ポッター」のワームテールを思い出す人がいるかもしれません。また、機巧が古代の文明に由来するというのはガンダムを連想させます。ということで、いろんな典故を引合いに出せる作品ですが、幕府から朝廷まで展開する天下国家についての、いわゆる「大きな物語」ですし、極めて巧みにストーリーを展開し、構成も精緻に仕上げています。私との相性からすれば、とてもオススメですが、相性の悪い人もいそうな気がします。

今週末は、黒川博行の直木賞受賞作『破門』を借りることが出来ました。私はこの作家の「疫病神」のシリーズは前の4作目まではすべて読んでいると思います。それなりに楽しみでもありますが、私自身はヤクザ小説はやや苦手であることも事実です。さて、来週の読書やいかに?

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2014年10月17日 (金)

ファイナル・ステージ3連勝で日本シリーズに王手!

  HE
阪  神000002200 4110
読  売101000000 260

4番ゴメス選手の打棒で巨人に3連勝し、日本シリーズに王手です。メッセンジャー投手が先制点を与え、2-0まで点差を広げられましたが、6回に福留選手のタイムリーで追いつき、7回には4番ゴメス選手の2点タイムリーで逆転し、最後は8回途中から呉投手が大和外野手の水際立った守備にも助けられて抑え切り、巨人に完勝でした。いよいよ、クライマックス・シリーズのファイナル・ステージの突破、すなわち、日本シリーズ進出まであと1勝です。

明日は一気に、
がんばれタイガース!

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JETRO から Santiago Style が発行される!

これまた、やや旧聞に属する話題ながら、10月9日に日本貿易振興機構(JETRO)から Santiago Style が公表されています。2011年4月にも発行されていますので、その改訂版ということになろうかと思います。私は1991年3月から1994年4月まで、3年余りに渡ってサンティアゴにある日本大使館の経済アタッシェを務めた経験があり、当然ながら、チリの首都サンティアゴに3年余り住んでいました。もう20年も昔の結婚前の海外赴任ですが、それなりに懐かしく感じられます。以下に表紙とコンテンツのページを画像として引用しておきます。

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私が住んでいたころのサンティアゴはホントに田舎町そのもので、1991年3月の赴任時に空港から大使館に移動する際、高速道路の側道をのんびりと馬車が通っており少し驚きましたし、3年間の赴任の最後の1994年にサンティアゴで3軒目のマクドナルドが自宅の近くにオープンして大いに感激した記憶があります。東京に帰任すると、マクドナルドなんて駅ごとにあって何の有り難味もありませんでしたが、サンティアゴではクリスマスなどでいっせいにお店が閉まる時期が年に何回かありながら、マクドナルドだけはほぼ常に開店してくれていて、私のような独身者の食事にとても有り難かったのを思い出します。

久し振りに「海外生活の思い出の日記」に分類しておきます。

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2014年10月16日 (木)

今年の「スポーツマーケティング基礎調査」を読む

昨夜と同じく、これまた旧聞に属する話題かもしれませんが、マクロミルと三菱UFJリサーチ&コンサルティングが毎年実施している「スポーツマーケティング基礎調査」の今年の調査速報が10月9日に発表されています。まず、リポートからトピックスを8点引用すると以下の通りです。

トピックス
  • スポーツ参加市場規模は約2.7兆円に増加。「観戦」「施設利用・会費」市場の増加による。
  • スタジアム観戦の支出額: 年間37,429円で、昨年より35.5%増。
  • スポーツ関連メディア市場は2,615億円で、昨年より13.8%増。
  • 最も好きなスポーツは野球。錦織選手の活躍でテニスの人気が上昇。
  • スポーツブランドでは、ナイキ、アディダス、ニューバランスなどの海外ブランドが人気。
  • 好きなスポーツ選手は11年連続でイチロー選手が1位。錦織選手が3位へ躍進。
  • プロ野球ファン人口は3,128万人に減少。サッカー日本代表のファンは3,774万人で減少傾向続く。
  • スポーツを目的とした観光・旅行を経験したことがあるのは2人に1人。

とても興味深い結果だと思います。今夜は帰宅が遅くなりましたので、私の興味に従ってごく簡単に図表を引用して、この調査結果を私なりにナナメに読んだ結果を紹介したいと思います。

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まず、リポートから 図表1. スポーツの位置付け のグラフを引用すると上の通りです。これだけを見ると、やや無関心層が増加してスポーツ市場は縮小しているんではないかと心配になるんですが、最初に引用したトピックの通り、スポーツ参加市場規模は2兆7,127億円と昨年の2兆5,861億円から増加しており、スタジアム観戦の支出額にいたっては年間37,429円で、昨年より35.5%増を記録しています。好きなスポーツは1位野球、2位サッカーは不動のツートップですが、今年は3位にスケート・フィギュアスケートを抜いてテニスが入りました。全米オープンで準優勝した錦織選手の効果かもしれません。錦織選手は「好きなスポーツ選手」の調査結果でもでも去年の4位から今年は3位に順位を上げています。でもさすがに、スポーツ・ブランドにユニクロは入らず、1位ナイキ、2位アディダスは各年齢層を通じて支持を集めているようです。

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次に、リポートから 図表8. 日本のプロ野球、サッカー日本代表、なでしこジャパン、Jリーグチームのファン人口の推移 のグラフを引用すると上の通りです。何と言わず、日本全体の人口減少とともに減っているように見えます。ファン人口が減少傾向にあるにもかかわらず、観戦支出額が増加しているのはファン1人1人が熱心に観戦しているからにほかなりません。また、プロ野球のファン総数は3,128万人と推計されており、上位5球団は以下の通りです。

1位
読売ジャイアンツ (889万人)
2位
阪神タイガース (608万人)
3位
広島東洋カープ (292万人)
4位
中日ドラゴンズ (288万人)
5位
福岡ソフトバンクホークス (279万人)

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次に、リポートから 図表15. スポーツを目的とした観光・旅行のスポーツ種目 のグラフを引用すると上の通りです。旅行でスポーツをしに行くとすればスキーではないかと思ったんですが、キャンプなどを見に行くのも含めれば、やっぱり、日本ではまだまだ野球の人気は衰えを知りません。「経験したことがある」でも、「経験したい」でも、いずれもトップシェアを誇っています。私が実際にやってるスポーツでは水泳が週に2回くらいでトップシェアなんですが、この調査で水泳がトップを占めたのは「子どものスポーツ活動の一番人気」だったりします。

定点調査のように毎年報告されている「スポーツマーケティング基礎調査」ですから、大きな変化は見られないものの、スポーツの秋には欠かせないリポートです。エコノミストとして、いつも参考のために拝見しています。

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2014年10月15日 (水)

クライマックス・シリーズのファイナル・ステージで巨人に先勝!

  HE
阪  神301000000 490
読  売000000100 170

クライマックス・シリーズのファイナル・ステージは巨人に先勝です。初回に鳥谷遊撃手の先制ツーベースとゴメス選手のツーラン、さらにセリーグ打点王のゴメス選手はもう1打点を稼ぎ、3-4番の2人で4点を叩き出しました。投手陣では先発藤浪投手が7回まで好投した後、最終回は危なげなく呉投手が抑え切って、一貫して主導権を握って巨人に完勝でした。リーグ優勝チームには1勝のアドバンテージがありますが、これでアッというまに追いついたことになります。

明日も、
がんばれタイガース!

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ピュー・リサーチ・センターの世論調査 Global Views of Economic Opportunity and Inequality

やや旧聞に属する話題ですが、私が時折参照している世論調査機関であるピュー・リサーチから10月9日に「経済的機会と不平等に関する世界の見方」 Global Views of Economic Opportunity and Inequality と題するリポートが公表されています。調査は "based on 48,643 interviews in 44 countries with adults 18 and older, conducted from March 17 to June 5, 2014" だそうです。経済的な不平等が最大 biggest ではないとしても大きな問題であると認識されており、当然のことながら、将来に対しては先進国よりも新興国や途上国の方が楽観的に見通しています。成功のカギは教育と勤労であると見なされているのは世界各国に共通しているように見えます。これでリポートの概要紹介は終わりなんですが、以下、ごく簡単に図表を引用したいと思います。

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不平等が大きな問題であるという点に関しては先進国も新興国・途上国も共通していますが、最大の問題ではないという点についても共通しています。すなわち、先進国・新興国・途上国を3分割して、この3つのエリアそれぞれの平均で見ても、雇用不足が貧富の格差よりも大きな問題との結果が示されており、中でも、先進国では公的債務が、新興国や途上国では物価上昇が、それぞれ貧富の格差よりも大きな問題と見なされています。

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続いて、次の世代の将来が現在よりも改善されているかどうかに関する問いの結果が上のグラフの通りです。当然ながら、先進国よりも新興国や途上国で改善を見込む楽観的な比率が高い結果が示されています。先進国の中でもとりわけ日本では楽観的な見方のシェアが低く、フランスとほぼ並んでいます。大陸欧州はドイツを除いて景気の現況がほぼ最悪の状態で、経済だけを見れば日本は大陸欧州よりはマシだと考えていたんですが、いろいろな要因が作用して、というか、おそらく世代間不公平の程度が他の先進国と比較して圧倒的に将来世代に不利になっているため、日本では将来への明るい見通しを持ちにくいんではないかと想像しています。繰返しになりますが、日本では世代間不公平を主因として、フランスでは景気の現状を主因として、それぞれ明るい将来見通しを示しにくくなっているような気がします。

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続いて、先行きの人生で成功するための重要な要因を問うた結果が上の表の通りです。複数回答を許容し、具と字がトップの回答を示しています。順番の違いはあるものの、基本的には、教育と勤労という結果が示されています。それ以外は、表頭の左から順に、人脈、幸運、資産家の家族、男性であること、賄賂、となっていますが、ポーランドやウガンダなどのいくつかの国で幸運がトップに上げられていたりします。割合としてそれほど高くありませんが、多くの国では勤労よりも教育の回答シェアが高い一方で、日本では教育ではなく勤労がトップになっており、ややアングロ・サクソン的な見方だという気がしないでもありません。

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最後に、このピュー・リサーチがその昔から追っている質問で、自由市場への支持を問うた結果が上のグラフの通りです。日本は伝統的に自由市場への支持が低い結果が示されています。どうでもいいことながら、自由市場の反対概念は社会主義だと私は長らく考えており、その社会主義を標榜するベトナムと中国が世界を見渡しても自由市場への支持がもっとも高い国のひとつである点に、どうも不思議な感慨を持ってしまいます。

いつもながら、ピュー・リサーチの実施する各国横断的な世界世論調査結果はとても興味深く、いろんな情報を明らかにしてくれます。同じピュー・リサーチのサイトにはpdfの全文リポートもアップされています。何らご参考まで。

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2014年10月14日 (火)

企業物価上昇率の鈍化が続く!

本日、日銀から9月の企業物価指数(PPI)が公表されています。消費税の影響を除けば+0.7%、消費税込みで+3.5%のそれぞれ上昇と依然としてプラスを維持しているものの、8-9月になって急激にプラス幅を縮小させています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の企業物価指数、3.5%上昇 原油価格の下落で伸び率鈍化
日銀が14日発表した9月の国内企業物価指数(2010年平均=100、速報値)は106.3と、前年同月に比べて3.5%上昇した。上昇幅は8月より0.4ポイント縮小した。前月比では0.1%下がり、2カ月連続で低下した。原油の国際価格が下落し、ガソリン、軽油などの価格低下につながった。
消費税率引き上げの影響を除くと前年同月比0.7%の上昇で、3カ月連続で上昇幅を縮小した。伸び率が1%を下回るのは13年5月以来1年4カ月ぶり。足元の原油安に加え、前年に円安の影響で大幅な物価上昇があったことが大きな要因という。前月比では0.1%下がった。日銀は「上下両方向が綱引きをしている状況」(調査統計局)とし、今後の動きを注視していく構えだ。
企業物価指数は出荷や卸売りなど企業間で取引する製品の価格動向を示す。公表している全814品目のうち、前年同月で上昇したのは412品目、下落したのは328品目だった。上昇した品目が下落した品目を上回るのは13カ月連続。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内と輸出入別の前年同月比上昇率を、下のパネルは需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、基本的には、原油安、というか、昨年の反動で原油の国際価格が下落している影響が大きく、8月末からの為替の円安の影響がまだ出ていない、という印象です。ですから、国内物価のうち前月比でマイナス寄与の大きい品目は、ガソリンや軽油などの石油・石炭製品、電力・都市ガス・水道、また、キシレンやベンゼンなどの化学製品となっています。ただし、いうまでもなく、内需の動向が需給ギャップを通じて物価に影響していることは当然であり、消費増税に伴う反動減からの国内需要の戻りが遅い、あるいは、弱いという影響が企業物価にも表れている可能性を忘れるべきではありません。

消費税を除くベースの国内物価の前年同月比上昇率は、7月+1.5%上昇、8月+1.1%上昇から9月は+0.7%まで上昇幅が短期間に一気に縮小した上、何となくの心理的な目安であった+1.0%を割り込みました。物価に責任を持つ金融政策当局の日銀では、今月末の「展望リポート」の発表時ではないかもしれませんが、来年1月の中間見直し時にも、消費者物価の動向も見ながら、何らかの追加緩和の議論が始まる可能性があると私は受け止めています。

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2014年10月13日 (月)

ノーベル経済学賞はティロル教授に授与!

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スエーデン王立科学アカデミーはジャン・ティロル教授にノーベル経済学賞を授与すると発表しました。フランスのトゥールーズ第1大学に在籍です。功績は市場のパワーや規制に関する分析 "for his analysis of market power and regulation" とされています。私はバブルに関するティロル教授の論文を何本か読んだことがあります。

明日は新聞休刊日ですので、速報性を重視しています。

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映画「蜩ノ記」を見に行く

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数日前から今日は台風の襲来で室内競技を志向すると決意し、前々からチケットを買ってあった映画「蜩ノ記」を見て来ました。ご存じ、葉室麟の原作は直木賞を受賞しています。もちろん、私は原作も読んでいるんですが、やっぱり名作名映画です。映画館もほぼ満員で人気のほどがうかがえました。その昔の山田洋次監督作品の「たそがれ清兵衛」が時代考証にあまりに忠実で光が足らずに暗すぎるとの評価がありましたが、私のようなシロートにも分かりやすく作ってありました。ただ、名作を原作とする名映画であるという評価の上で、あえて、難点を上げれば、これは葉室麟の時代小説すべてに共通するんですが、地域性が出ていません。そして、この映画の主要な登場人物に右筆という職にある武士がいて、文章の清書役なんですが、どうも筆の持ち方が現代風のペンと同じで少し気になりました。私が書道を習っていた時には鷲づかみでもよいので安定する持ち方にして紙に対して筆が直角となるように持つべし、と教わりましたが、まあ、芸術としての書道ではなく、日常的な事務を執る上での清書ですからペンと同じなのかもしれません。でも、映画ならではの間違いで、最後に戸田秋谷が切腹する8月8日の前の晩の月が満月であるハズはありません。昔の太陰暦における満月は15日のいわゆる十五夜ですから、8日であれば上弦の月ぐらいでしょうか。また、切腹の当日に「今日も暑いな」との台詞がありますが、8月はすでに晩秋ですから、いかがなものかという気もしました。最後の最後にこの2点で映画が締まらなく感じましたが、繰返しになるものの、キャスティングは文句なしですし、いい時代小説を原作にしたいい映画でオススメです。

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2014年10月12日 (日)

クライマックス・シリーズのファースト・ステージは1勝1分けで広島を撃破!

 十一十二 HE
広  島000000000000 080
阪  神00000000000x 070

まるでサッカーのようなスコアレス・ドローでクライマックス・シリーズのファースト・ステージを突破し、いよいよ東京ドームでジャイアンツと日本シリーズ進出をかけて雌雄を決することとなりました。先発能見投手が8イニングス、クローザーの呉投手が何と3イニングス、最後はセットアッパーの福原投手が12回を抑えて、甲子園での2試合を通じて広島打線をゼロに抑え切りました。最後の選手会長上本選手によるヒーロー・インタビューも型破りで興味深かったです。

東京ドームのファイナル・ステージも、
がんばれタイガース!

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2014年10月11日 (土)

甲子園でのクライマックス・シリーズ初戦に勝利!

  HE
広  島000000000 041
阪  神00000100x 180

福留選手のソロによる虎の子の1点をメッセンジャー投手と呉投手の完封リレーで守り、甲子園開催のクライマックス・シリーズの初戦を勝利で飾りました。広島は先発にマエケンを立てて必勝体制でしたが、最小得点差で逃げ切りました。久々のクライマックス・シリーズの勝利の瞬間を見た気がします。それにしても、首位打者と打点王と最多勝投手と最多セーブ投手を擁しているんですから、もっとがんばって欲しいものです。

東京ドームのファイナル・ステージ目指して明日も、、
がんばれタイガース!

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今週の読書は加速度センサでデータを集める『データの見えざる手』ほか

今週の読書は経済書はなく、専門書・教養書が2冊のほかは小説が多くなっており、以下の通りです。

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まず、矢野和男『データの見えざる手』(草思社) です。ウェアラブルな加速度センサーに記録されたデータから、人間の肉体的な活動はもちろん、精神的なハピネスまですべてが解明できるとする論考です。著者は日立製作所の研究者です。この分野で私が覚醒したのはダンカン・ワッツの『偶然の科学』を読んだ経験であり、2012年2月27日のブログに読書感想文をアップしてあります。しかし、本書は『偶然の科学』を大きく超えるものであり、腕の動きが著者の名づけたU分布に収斂し、これが熱力学の第1法則、エネルギー保存と第2法則、エントロピー増大を完全に満たすところから始まって、「幸せは、加速度センサで測れる。」(p.78) と著者が断言するハピネスの計測まで、私が不勉強なだけかもしれませんが、驚きの連続でした。その後の第3章以降で人間行動の方程式が1/T方程式で示されたり、第4章で運の良し悪しが加速度センサで解明されたり、ましてや、第6章でドラッカーを援用して加速度センサで把握できる人の動きと経営効率が論じられたりするのは、ハッキリと付け足しのようなありきたりな議論です。読み手にもよりますが、第2章から第5章については、逆の順の方が段々と後半にかけて盛り上がる構成だったかもしれません。それはともかく、私は経済をはじめとする社会科学が対象としている社会現象の予測は、変数を増やしてモデルを複雑にし、変数間の相互関係をより反映するパラメータをデータを増やすことにより正確に推計できるのであれば、モデルは将来を正しく予測することが出来ると信じています。この信条に対して、加速度センサという今までになかった重要な計測機器の登場は歓迎すべきであり、しかも、それがハピネス=幸福度などと大きな創刊を有している可能性が示唆されたわけですから、今後、さらに社会科学の専門家も含めた学術的なデータの解明がなされることを願って止みません。本書はここ数年で私が読んだ本のうちでもっとも刺激を受けた本の中の1冊といえます。

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次に、山崎啓明『インテリジェンス1941』(NHK出版) です。タイトル通り、1941年12月の真珠湾への奇襲攻撃で日米開戦するまでの情報活動を取り上げているノンフィクションです。著者はNHKのディレクターで、昨年2013年12月8日に放送された番組からさらに取材した情報を付加して出版しているようです。スパイ衛星なんぞはない時代ですから、画像情報を解析するイミントはウェイトがとても低く、人を介して情報を得るヒューミントと暗号解読などのシギントが中心です。なぜか、番組的に絵にならないためか、公開情報を分析するオシントなども省略されています。第2次世界大戦がはじまった1939年の少し前からの世界的な諜報戦ですが、特に中心に置かれているのは英国のチャーチル首相です。ですから、英国のスパイ・マスターであり『暗号名イントレピッド』を自ら著したウィリアム・スティーブンソンなども登場します。スパイの活動や暗号解読などがどうしても中心になりますが、こういった情報戦は外交の延長であり、外交は政治活動の延長ですから、少なくとも諜報戦のバックグラウンドである外交活動にも十分な注意が向けられており、米国の軍事情報を収集していたスパイやスパイ・マスターは米国の実情に詳しいがゆえに、全力を上げて日米開戦を回避すべく努力していたことなどが明らかにされています。特に、「日米諒解案」として、日本が中国から撤兵するのを条件に米国が満州国を承認する外交交渉などは大きくハイライトされています(p.151)。難を言えば、もう少し「シギント」や「ヒューミント」などのインテリジェンス活動の基礎についての解説が欲しかった気がします。でも、まさに、柳広司の『ジョーカー・ゲーム』や『ダブル・ジョーカー』といったD機関シリーズの小説を地で行くようなノンフィクションです。

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次に、仙川環『極卵』(小学館) です。私はかなり昔にこの著者のデビュー作の『感染 infection』とか第2作の『転生 transmigration』くらいを読んだような不確かな記憶があるんですが、すっかり中身は忘れました。今まで、小学館からこの作者が出す時は日本語タイトルとともに英語も併記されていたようなんですが、今回はそのまま GOKU-RAN としています。Excellent Eggs なんてのは医学用語ではないのでダメだったんでしょうか。小学館発行の単行本としては前作に当たる短篇集の『誤飲 misswallowing』あたりから英語タイトルが苦しくなって来たのは事実のような気がします。それはともかく、医者の登場人物が主要な役割を果たす医療ミステリを発表してきた作者ですが、この作品では医者は登場しません。食品の安心・安全、無添加、無農薬、有機栽培などをテーマに据えて、自然食料品店で売られ始めた4玉1000円の卵が、発売開始とともにいきなり摂取した人がボツリヌス中毒とみられる症状を呈して入院したり、重篤な症状を呈するのは言うに及ばず死者まで発生する中で、その真相に迫る主人公の女性ジャーナリスト瀬島桐子の活動を追います。この作者の作品は医療ミステリが多かったんですが、この作品は食品ミステリのカテゴリーといえます。でも、人の命の重さを扱うという点では同じかもしれません。その中で、いくつか著者の主張とおぼしき部分を抜き出すと、例えば、pp.17-18「良い食品を『良い』と言うのはいい。かけられるお金があるなら、買えばいい。でも、自分たちが選ばない食品を毒物扱いし、それらを食べている人を批判するのは、行きすぎではないか。」あるいは、p.160「絶対安全じゃないと嫌だ。リスクをゼロにしてほしい。だけど、費用負担はしたくない。それって、消費者の我が儘じゃありませんか?」などなど、極めてノーマルな国民多数の目線が強調されています。そして、消費者団体と称するテロ組織まがいの団体を批判し、より上位の目的であれば下位の犠牲も止むを得ないとする態度に対して疑問を投げかけています。ただ、私も理解できなくもないところながら、熱狂的かつ宗教的なカギカッコ付きの「信者」になってしまった人にはどうしようもない気がします。さかのぼって、初期の作品も読み返したくなる快作です。

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次に、姫野カオルコ『近所の犬』(幻冬舎) です。『昭和の犬』の直木賞受賞後の第1作です。作者自身の「はじめに」の解説によれば、『昭和の犬』は自伝的要素の強い小説、本作品『近所の犬』は私小説だそうです。ですから、事実度が大きく、視点=カメラの位置が語り手に固定され、エッセイ的に読める、と解説されています。その通りのような気がします。というか、エッセイそのものではないかと思って読んだんですが、エッセイではないということは、フィクションが混ざっているということなんだろうと理解しています。この作品によく出る言葉で、「私は犬が好きだが、犬が私を好くことはそんなにない」というのがあり(例えば、p.127)、このあたりがフィクションで、実は、作者は犬に好かれまくっている、という可能性もあります。それはともかく、さすがの直木賞作家で、犬の観察=犬見もしっかりしており、犬を見た際の反応として、「尾てい骨のあたりにホカロンを貼ったように、じーんとする」(p.141)とか、「犬の『訴えかけるような瞳』に弱い」(p.145)とか、「私のセンスは、ハスキー犬を『とんまな顔』と感じる」(p.155)とか、独特の視点から適確な表現力で読者に迫ります。写真について2点補足すると、残念ながら、私はまだ『オール読物・2014年3月臨時増刊号』は見ていません。それからもう1点は、これだけ犬に焦点を当てるのであれば、表紙の写真ももっと凝って欲しかったです。例えば、『世界から猫が消えたなら』クラスの写真を用意するべきです。最後の最後にもっとも重要な点をひとつだけ。この作者の最高傑作は私は直木賞を受賞した前作『昭和の犬』ではなく、『ハルカ・エイティ』であり、少なくとも私が読んだ中でこれに続く作品は『ツ、イ、ラ、ク』や『リアル・シンデレラ』だと思っています。直木賞受賞に目をくらまされて、作品の傾向が間違った方向に進まないことを切に祈っています。

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次に、長岡弘樹『群青のタンデム』(角川春樹事務所) です。私はこの作者の作品では『傍聞き』や最近作では『教場』などを読んでいます。ちなみに、『教場』と本作品の間にはヒットしなかった『波形の声』が今年になってから出版されていて、これも読んでいたりします。ということで、この作品も警察官を主人公にしたミステリの連作短編集です。タイトルの前半「群青」は警察官の制服を象徴し、後半「タンデム」は男女2人の同期生の警察官、戸柏耕史と陶山史香を主人公にしていることを表しています。2人が競い合いながら成長していく姿を写真の静止画のように切り取って行きます。この作者の今までの作品と大きく異なるのはタイムスパンです。主人公達がおそらく20代のルーキーのころから、60歳の定年退官を終えたあたりまで40年近い時間軸を持っています。最後までこの2人は独身を通しているように見えます。なかなか現実にはないような男女関係が描き出されています。物語が長い期間で捉えられますから、この作者らしいという表現もできますが、話が飛びます。従って、ある程度の読解力は必要です。人によっては2度3度と読み返す場合もありそうな気がします。また、新本格派のミステリに親しんでいる私としては、ミステリとしての完成度は低いと言わざるを得ません。典型的には最後の最後に明かされる殺人事件の真実など、情況証拠を積み上げた直感的な理解としては分からなくもないんですが、十分な論理性を持って読者に提示されているとは言いがたく、「反則」と感じる読者もいそうな気がします。でも、それがこの作者のスタイルといえばそれまでです。『傍聞き』や『教場』といったこの作者の作品がホントに好きであれば、この作品も買って何度も読み返すことをオススメします。そうでなく、私のように流行りものなので一応は借りて読んでおこうというのもひとつの手だという気がします。

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最後に、有栖川有栖『臨床犯罪学者・火村英生の推理 アリバイの研究』(角川ビーンズ) です。同じシリーズの既刊である『密室の研究』と『暗号の研究』に続いて、短編を編み直した第3弾です。もっとも、角川ビーンズ文庫では『ロシア紅茶の謎』や『スウェーデン館の謎』などの長編も再刊されています。本書に収録されているのは「三つの日付」、「わらう月」、「紅雨荘殺人事件」、「不在の証明」、「長い影」の5編です。当然ながら、アリバイ崩しがメインテーマの本格ミステリです。繰返しになりますが、いずれもこの作者の持ち味が生かされた本格的なミステリです。なぜか、2週続けて有栖川有栖の作品を取り上げることになりました。それだけ、私が新本格ミステリが好きなんだということなんだろうと考えています。

今週末は3連休になるサラリーマンも多く、私もそうです。秋の夜長の読書が進みます。

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2014年10月10日 (金)

消費者態度指数は9月も低下を示す!

本日、内閣府から9月の消費者態度指数が発表されています。先月よりも▲1.3ポイント低下して39.9となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数、9月は1.3ポイント低下の39.9 2カ月連続判断下げ
内閣府が10日発表した9月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は39.9と、前月比1.3ポイント低下した。悪化は2カ月連続。内閣府は基調判断を「持ち直しのテンポが緩やかになっている」から、「足踏みがみられる」に下方修正した。判断の引き下げは2カ月連続。
指数を構成する意識指標のうち、「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4項目がいずれも前月比マイナスとなった。内閣府は「生鮮食品など生活関連物資で値上げの動きがあった」と指摘している。
1年後の物価見通しについては「上昇する」と答えた割合(原数値)は前月比0.9ポイント増の87.0%と、3カ月連続で増加した。
調査は全国8400世帯が対象。調査基準日は9月15日で、有効回答数は5577世帯(回答率66.4%)だった。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、新旧の系列の消費者態度指数のグラフは以下の通りです。いつもの通り、影をつけた部分は景気後退期を示しています。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。

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消費者態度指数は需要サイドを代表する消費者マインドの指標なんですが、2か月連続で低下を記録し、統計作成官庁である内閣府はこれまた2か月連続で基調判断を下方修正しています。すなわち、7月は「持ち直している」だったのが、8月は「持ち直しのテンポが緩やかになっている」とし、とうとう9月には「足踏みがみられる」になりました。上のグラフからもうかがわれる通り、消費者マインドは急降下しています。9月調査の短観がまずまず底堅い動きを見せ、景気を表すハードデータと比較しても、ソフトデータの企業マインドはそれほどの落ち込みを見せなかったんですが、同じソフトデータながら消費者マインドは大きく落ちました。ひょっとしたら、特に根拠ない私の直感ですが、この差も為替動向に起因しているのかもしれません。でも、円安も万能ではないのは言うまでもなく、今日なんぞは東証の日経平均株価も下げていますから、ジワジワとエコノミストの間でもR-wordが出始めています。もちろん、差別発言ではなくて景気状況を指す方のR-wordです。すなわち、国際通貨基金 (IMF) の「世界経済見通し」 World Economic Outlook (WEO)Figure 1.12. Recession and Deflation Risks では日本よりもユーロ圏欧州の方が景気後退確率が高いんですが、ひょっとしたら、日本はすでに今年2014年1月をピークに景気後退期に入っているのかもしれない、という見方がささやかれ始めているのも事実です。

現在の景気回復・拡大局面では企業部門よりも家計部門の方が一貫して強気だっただけに、家計部門のマインドが低下するのはとても気がかりです。でも、昨日のエントリーで機械受注を取り上げた際に見込んだように、来年の年明けから設備投資が本格的に増加し始めるのであれば、景気の牽引役が家計から企業にバトンタッチできる可能性はあります。でも、とても不確かだったりします。

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2014年10月 9日 (木)

機械受注は調整局面を終えて増加に転じたか?

本日、内閣府から8月の機械受注が発表されています。船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+4.7%増の8078億円を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

8月機械受注4.7%増 非製造業けん引、基調判断を上方修正
内閣府が9日発表した8月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の受注額(季節調整値)は前月比4.7%増の8078億円だった。非製造業がけん引して#カ月連続で増加した。QUICKが8日時点でまとめた民間予測の中央値(1.0%増)を上回った。
内閣府はプラスが3カ月連続で続いたことや7-9月期の見通し(2.9%増)に対する進捗が順調であることから、基調判断を前月の「一進一退で推移している」から「緩やかな持ち直しの動きがみられる」に上方修正した。9月が4.8%減以上であれば7-9月期の見通しを達成できる。
主な機械メーカー280社が船舶・電力を除いた非製造業から受注した金額は10.7%増の4704億円と2カ月ぶりに増加した。リース業から変圧器などを含むその他重電機で大型案件の受注があったほか、運輸・郵便業から鉄道車両やコンピューターの受注も増えた。
製造業から受注した金額は10.8%減の3246億円と3カ月ぶりの減少。化学工業向けのボイラーやタービンを含む火水力原動機が、前月に大型案件があった反動で落ち込んだ。石油・石炭製品業界向けの化学機械や冷凍機械も減った。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスはコア機械受注で見て前月比+1.0%増でしたから、+4.7%の増加は上のグラフを見ても大きく感じられ、しかも、6月+8.8%増、7月+3.5%増に続いての3か月連続の増加ですし、さらにさらにで、コア機械受注の先行指標である外需も8月は+29.1%増を記録しましたので強い動きと考えるべきであり、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府は「一進一退で推移」から「緩やかな持ち直しの動き」に基調判断を上方修正しています。8月単月の8000億円の水準はほぼ今年2014年の1-2月くらいに相当します。内閣府公表の2014年7-9月期見通しでは、コア機械受注は前期比+2.9%増を見込んでいますが、9月統計が2ケタ減などの大幅な減少を示さない限りは7-9月期は前期比プラスを記録する公算が大きく、見通しは達成されそうとの引用記事に私も同意します。加えて、コア機械受注が先行指標となっているGDPベースの設備投資についても1-2四半期遅れで年内くらいに調整局面を終え、年明けからプラスに転じる可能性が高く、今年度2014年度は日銀短観の設備投資計画に近い前年比プラスを達成する可能性が十分に出て来たと私も受け止めています。機械受注統計を離れても、2008年のリーマン・ショック後に設備投資は固定資本減耗を下回って推移してネットの資本ストックが減少している可能性が高いことから、更新投資が出るだけでも設備投資が増加する上に、労働市場のひっ迫からも労働代替的な省力化設備への投資が出始めることも予想され、来年からは本格的な設備投資の増加が見込めると考えられます。ただひとつの不安要素は輸出であり、米英を例外として欧州や新興国などの海外経済の動向が懸念されるところです。

どこまでの力強さが見込まれるかは別として、設備投資が来年年明け以降に増加に転じるとすれば、景気局面としては山谷を付けずに回復ないし拡大局面をキープすることも考えられます。もちろん、2012年のミニ・リセッションのように山谷を付ける可能性も否定できません。私の直感では前者の山谷を付けない、ではないかと思うんですが、シンクタンクの見方も分かれています。以下の通りです。私の見方は三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所やみずほ総研に近いと受け止めています。

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2014年10月 8日 (水)

国際通貨基金 (IMF) 「世界経済見通し」見通し篇を読む!

昨日、この週末のIMF世銀総会に向けて、国際通貨基金 (IMF) から「世界経済見通し」 World Economic Outlook (WEO) の見通し篇第1章と第2章が公表されています。世界経済の成長見通しは7月の「改定見通し」から下方修正されており、特に、消費増税からのリバウンドが低迷している日本の成長率の下方改訂幅が大きくなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

世界成長3.3%に減速 14年IMF予測、日本を大幅下方修正
世界経済が緩やかに減速してきた。国際通貨基金(IMF)は7日発表した世界経済見通しの報告書で、2014年の世界全体の実質国内総生産(GDP)増加率を3.3%と、7月時点の予想から0.1ポイント引き下げた。9-10日に開く20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、成長の底上げに向け、インフラ投資の促進などが議論される見通しだ。
報告書は「世界経済を取り巻く環境は、7月の前回予想時よりもやや悪化している」と指摘。成長率見通しは4月予想から0.4ポイントの引き下げで、減速に歯止めがかからない。
日本の14年の成長率は7月に予想していた1.6%から0.7ポイントの大幅な下方修正となった。消費増税後の消費の回復の遅れが響く。ただ円安で輸出も緩やかに拡大傾向をたどり、年後半は足取りは強まるとしている。
米国と英国については「いち早く金融危機から脱却しつつある」と評価したが、ユーロ圏経済は険しさを増す。IMFは「さらに需要が減退すればデフレに陥る危険性がある」と、柔軟な財政出動や積極的な金融緩和の必要性を訴えている。
G20会議ではインフラ投資の促進策が議論の柱になる。新興国でインフラ整備の資金需要が強まる一方で、先進国は金融緩和でマネーが潤沢。両者を結んで成長につなげたい考えだ。9月の前回会合ではインフラ情報を共有することで合意しており、今回は組織運営など具体論をつめる。

次に、「世界経済見通し」フルテキストのpdfの全文リポートと第1章と第2章の見通し篇のリポートへのリンクは以下の通りです。

第2章は地域見通しですので、今夜は第1勝を中心に簡単に取り上げておきたいと思います。まず、下の画像は成長率見通しの総括表です。今年7月の前回見通しからの差も表章されています。IMF Survey Magazine のサイトから引用しています。なお、クリックすると全文リポートから p.2 の経済見通し総括表だけを抽出した pdf ファイルが別タブで開きます。

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日本の成長率見通しを大きく下方修正した理由としては、多くのエコノミストが合意する通り、消費税率の引き上げ後の内需の回復が予想を下回った "In Japan, the decline in domestic demand following the increase in the consumption tax was larger than expected." 点を強調しています。また、メディアなどでは今年と来年の成長率見通しに関心が集中しがちなんですが、中長期的な視点からの分析も重要です。すなわち、世界経済見通しへのリスクとしては短期的なリスクと中期的なリスクに分けて、短期的なリスクについては中東やウクライナなどにおける地政学的リスクを、中期的なリスクとして潜在成長率の低下をそれぞれ強調しています。潜在成長率の低下については全要素生産性(TFP)の低下とともに、人口の高齢化に伴う労働供給の減少を懸念しており、日本もこの高齢化の進展では世界の先頭を走っており、今後の中長期的な成長率の低下を招かないための政策が必要です。ということで、公共投資を取り上げる第3章につながり、また、労働供給を増加させるような構造改革の必要性が指摘されています。特に、日本については、全文リポート p.22 から以下の指摘が重要と考えますのでパラグラフごと引用したいと思います。なお、どうでもいいことながら、何度か指摘しましたが、IMFなどの国際機関ではアベノミクスの第3の矢は成長戦略ではなく、構造改革であると受け止められているようです。

Boosting medium-term growth and reducing risks of stagnation
In Japan, more forceful structural reforms (the third arrow of Abenomics) are needed to boost potential growth and move decisively away from deflation. In particular, increasing the labor supply is of the essence, given unfavorable demographic trends, but it is also important to reduce labor market duality, enhance risk capital provision to boost investment, and raise productivity through agricultural and services sector deregulation. The task of boosting growth is also critical in light of the challenges posed by high public debt and the need for sizable fiscal consolidation—for which a concrete medium-term plan beyond 2015 is urgently needed.
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やや、ついでの扱いになってしまいましたが、本日、内閣府から9月の景気ウォッチャー調査の結果が、また、財務省から8月の経常収支が、それぞれ公表されています。上のグラフの通りで、上のパネルでは景気ウォッチャーの現状判断DIと先行き判断DIを景気後退期のシャドーとともにプロットしており、下のパネルでは青い折れ線グラフが季節調整済みの経常収支を示しており、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のパネルの景気ウォッチャーの現状判断DIは先月から横ばいであり、やや「膠着状態」っぽい段階に入りつつあるのかもしれません。ただ、現状判断DIのうちの雇用判断DIと先行き判断DIがともに4か月連続で9月も落ちているのが気がかりです。また、季節調整済みの経常収支に目を転じると、ここ何か月か小幅の黒字で、これまた、「膠着状態」といえそうな気がしないでもありません。足元の円安に伴う価格効果も貿易収支や経常収支に大きな影響を及ぼさないと仮定すれば、IMF「世界経済見通し」第1章で示されたように世界経済の成長率がさらに高まらない限り、この先、もう少し同じような状態が続くのかもしれません。いずれにせよ、IMF「世界経済見通し」分析編第4章の通り、日本の経常収支不均衡は数年前に比較して大きく縮小しました。

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2014年10月 7日 (火)

本日発表の景気動向指数は景気後退局面入りを示唆しているか?

本日、内閣府から8月の景気動向指数が発表されています。CI一致指数は▲1.4ポイント下降して108.5、CI先行指数も同じく▲1.4ポイント下降して104.0を記録し、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「下方への局面変化」に下方修正しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

8月の景気一致指数、1.4ポイント低下 基調判断「下方へ局面変化」
内閣府が7日発表した8月の景気動向指数(CI、2010年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比1.4ポイント低下の108.5だった。低下は2カ月ぶり。搬送装置など設備機械の生産が減少したうえ、自動車や家電の生産も低調だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を4カ月続いた「足踏みを示している」から、「下方への局面変化を示している」に引き下げた。基調判断の引き下げは今年4月以来、4カ月ぶり。
数カ月後の先行きを示す先行指数は1.4ポイント低下の104.0だった。自動車など耐久消費財の在庫水準が悪化しており、3カ月ぶりに低下した。景気に数カ月遅れる遅行指数は0.4ポイント低下の118.0だった。
指数を構成する経済指標のうち、3カ月前と比べて改善した指標が占める割合を示すDI(最高は100)は一致指数が20.0、先行指数が44.4だった。

いつもながら、簡潔によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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基調判断が「下方への局面変化」に下方修正されましたので、政府の景気判断基準である「『CIによる景気の基調判断』の基準」に従えば、「事後的に判定される景気の山・谷が、それ以前の数か月にあった可能性が高いことを示す。」ということを意味します。もっとも、この基調判断はCI一致指数の動きから機械的に求めていることも事実ですし、内閣府の「景気動向指数の利用の手引」に従えば、実際の景気転換点を判定するのはヒストリカルDIですから、今日示された景気動向指数の基調判断の基礎となっているCI一致指数とは異なる指標であることも確かであり、この結果だけを見て軽々な判断を下すことはできないようにも見えます。私も半分くらい同意しますが、、エコノミストの中には今年2014年1月をピークにしてすでに景気後退局面に入っている可能性を示唆する意見があるのもこれまた事実です。CI一致指数の項目別に細かく寄与度を見ると、最大のプラスの項目でも中小企業出荷指数(製造業)が+0.10にとどまり、マイナスは軒並み▲0.10を超えていますが、特に大きな項目は投資財出荷指数(除輸送機械)、生産指数(鉱工業)、所定外労働時間指数(調査産業計)などが上げられます。

来年早々にも景気動向指数研究会が開催されて、ヒストリカルDIを基に景気転換点を同定する可能性もありますが、来年2015年10月からの消費税率再引上げの判断はすでに12月中に終わっている可能性も残されています。12月に判断しないと政府予算案が組めないからです。なんとも悩ましいタイム・スケジュールです。

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2014年10月 6日 (月)

ノーベル賞ウィークが明けて来週発表の経済学賞について考える!

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広く報じられている通り、本日の医学・生理学賞から始まって、今週はノーベル賞の発表ウィークとなります。もっとも、やや格落ちと見なされることのある経済学賞の発表は来週になります。発表予定は以下の通りです。ただし、ノーベル財団のサイトではまだ文学賞の発表日が明らかにされていません。通例に従って、空いている10月9日と想定しておきます。

10月6日
医学・生理学賞
10月7日
物理学賞
10月8日
化学賞
10月9日
文学賞 (想定)
10月10日
平和賞
10月13日
経済学賞

なお、例年通り、9月下旬の26日にトムソン・ロイターから「引用栄誉賞」が科学分野に限って発表されています。すなわち、平和賞と文学賞は除かれています。この「引用栄誉賞」はノーベル賞受賞者との相関も高いとされており、今年は日本から、独立行政法人理化学研究所創発物性科学研究センターのセンター長(併任: 東京大学大学院工学系研究科)の十倉好紀教授が「新しいマルチフェロイック物質の発見」の功績により、物理分野で選出されています。この専門分野は私の理解を超えていますのでパスします。なお、社会科学という科学分野の代表たる経済学賞については、以下の3分野の5氏が「引用栄誉賞」を受賞しています。

功績氏名所属
For contributions to Schumpeterian growth theory

シュンペータリアン型成長理論に関する貢献
Philippe M. AghionRobert C. Waggoner Professor of Economics, Harvard University, Cambridge, MA USA
Peter W. HowittLyn Crost Professor Emeritus of Social Sciences and Professor Emeritus of Economics, Brown University, Providence, RI USA
For their advancement of the study of entrepreneurism

企業家論の研究の発展
William J. BaumolProfessor of Economics and Harold Price Professor of Entrepreneurship, New York University, New York, NY USA
Israel M. KirznerEmeritus Professor of Economics, New York University, New York, NY USA
For his pioneering research in economic sociology

社会経済学の先駆的研究
Mark S. GranovetterJoan Butler Ford Professor and Chair of Sociology, and Joan Butler Ford Professor in the School of Humanities and Sciences, Stanford University, Stanford, CA USA

上のテーブルにある3分野の中でわずかなりとも私に親しみがあるのは真ん中の企業家論であり、ボーモル教授の論文は読んだことがあるような気がしますが、不勉強にして他の先生方の業績はよく知りません。今年も、大胆かつ根拠ない私の予想として、成長論の分野からジョルゲンソン教授とバロー教授を上げておきたいと思います。

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2014年10月 5日 (日)

先週の読書は『銀行は裸の王様である』ほか

先週の読書は経済書や教養書などを中心に、やや小説は少なく、『銀行は裸の王様である』ほか、以下の通りです。

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まず、アナト・アドマティ/マルティン・ヘルビッヒ『銀行は裸の王様である』(東洋経済) です。著者2人は金融論や銀行規制論に関する研究者であり、本書では借入れ全般に対するキリスト教的な禁欲的姿勢をにじませ、事業会社のアップルやトヨタなどの無借金経営の会社に触れつつ、銀行が過剰貸出しを行って金融危機を招かないための方策として自己資本比率の大幅な引上げ、具体的には20-30%の自己資本比率規制の導入を提言しています。そして、この提案に同意しない銀行業界の経営者たちの反論に対して根拠をもって、本書の提言の正当性や効果を展開しています。単純に考えれば、自己資本比率はレバレッジの逆数であり、高率の自己資本比率規制を行えばレバレッジが低下して、上下両方、すなわち、利益率も損失率も低下することになりますから、金融危機の防止策としてはそれなりの有効性がありますが、同時に、銀行業界の利益率を低下させる可能性もあります。ですから、銀行の経営者は反対するわけです。20-30%の自己資本比率規制というのは、現行の10%程度からかなり高く、サブプライム・バブル崩壊後の金融危機を目の当たりにして、やや「羹に懲りてなますを吹く」感がありますが、キチンとした根拠が示されれば、オッカム法則にも即した極めて単純な政策であり、効果は期待できると私も考えます。もちろん、本書でも指摘されているように、スティグラー的な「規制の虜」と化した政府の役割を確立する必要についてはいうまでもありません。

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次に、ニコラス・フィリップソン『アダム・スミスとその時代』(白水社) です。著者は英国の、というか、スコットランドの歴史家であり、本書はタイトルから明らかな通り、近代的な経済学を確立させた『国富論』の著者であるアダム・スミスの伝記です。一応、念のためですが、1723年に誕生し1776年に『国富論』を出版しているスミスの活躍の舞台18世紀スコットランドは、1707年のイングランド・スコットランド・ウェールズによるグレート・ブリテン成立の直後の時期であり、1801年の北部アイルランドを含む連合王国成立の前ですから、ちょうど時期的に先月にスコットランド独立の国民投票が否決されたタイミングでもあり、その意味でも興味深い部分が見かけられました。最初に、スミスについて『国富論』の著者と書きましたが、経済学を専門とするエコノミストの中でも、スミスの業績については『国富論』とともに『道徳感情論』を重視する向きもあり、本書ではこの両者はほぼ対等に扱われていると私は受け止めています。ただ、私自身の興味の範囲に従って『国富論』や近代的な経済学の成立に関してウェイトを付けて読み進んだことは確かです。このため、スコットランド人であるヒュームとの交流に比べて、バクルー公の家庭教師としてグランドツアーに赴いた途中パリでのケネーなどとの交流が少し軽く扱われているような恨みもなくはない気がします。スミスの教育者としての姿勢にいくつか興味深い点を私は見出したりしました。例えば、修辞学についてはユークリッド幾何学に基づく数学的な方法論に依拠したり (p.130)、どうでもいいことながら、教授の弁論よりもノートを取ることに懸命な学生を「写字生」と称して嫌ったり (p.180)、といった点です。もちろん、いわゆる重商主義が幅を利かせる時代にあって近代的な経済学を確立した業績はあまりにも大きく、労働を基礎として成長を重視し、従って、生産力拡大のための分業を社会の原理として、余剰生産物を他者との取引に提供することから近代的な市場が成立するとした卓見は今でも輝いていると私は受け止めています。

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次に、五島綾子『<科学ブーム>の構造』(みすず書房) です。著者は実験化学出身の研究者であり、ジャーナリストやライターではないんですが、とてもよく下調べが行き届いており、文章も読みやすく仕上がっています。科学ブームのエピソードとして殺虫剤のDDTとナノテクノロジーを取り上げており、前者については当然ながらレイチェル・カーソン『沈黙の春』とケネディ・リポートにも触れています。前者・後者とも米国における科学ブームが中心なんですが、後者については日本におけるブームの構造についても検討を加えており、最終的な結論である「ごく一部の大学や公的研究機関の研究者と大企業の技術者が研究開発をおこなうことが、ほんとうに成功への一番の近道なのだろうか。」(p.237) と疑問を呈しています。著者が正面から取り上げている言葉ではありませんが、2013年10月5日付けのエントリーで取り上げたアセモグル & ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』におけるキーワードだった「包括的 inclusive」が研究開発でも重要である可能性を示唆しています。逆の視点から批判されているのが、「原子力ムラ」と称されることもあるような形での科学技術開発の姿であり、「国策による推進と莫大な予算投入、その状態の維持のためにある種の専門的神秘性をはらんだ神話が一定の役割を果たしたこと、利害関係をもつアクターたちが閉じた議論によって不確実性を見えにくくしていたことなど」(p.245) と指摘しています。もちろん、科学技術がブームになるのは経済的な利益のためなんですが、いちじるしい情報の非対称性のために市場では評価できかねますから、そのための専門家の存在は必要ですが、クローズな場での説明責任を果たさない議論は避けたいものです。これも正面切って取り上げているわけではありませんが、原子力とともに、理研のSTAP細胞のブーム、というか、むしろ「事件」にも目配りしているような印象がありました。最後に、ひとつだけ科学ブームへの批判たる本書への批判として科学ブームを擁護すれば、中世の錬金術のように、本来の意図に沿った成果は全くもたらさなかったものの、それなりに科学の進歩に貢献したブームも歴史的には存在したように私は受け止めています。従って、科学ブームにも一定の評価すべき効用がなくもない気がします。

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次に、レザー・アスラン『イエス・キリストは実在したのか?』(文藝春秋) です。著者はイスラム教徒で、ナザレのイエスを歴史的かつ宗教的に考察しています。前の2冊の翻訳書は邦訳タイトルがほぼそのままだったんですが、本書の原題は Zealot: The Life and Times of Jesus of Nazareth ですから、Zealot は本書の訳者にして「革命家」と邦訳せしめています。すなわち、ナザレのイエスの実在を問うのではなく、イエスがキリスト=救世主だったのかどうかを作者は本書で問うています。そして、作者の結論では「革命家」としてのナザレのイエスが実在し、ローマ帝国の支配層やこれと結託したユダヤ人の中の上層部に反抗した一方で、宗教家として後世に伝えられるようなイエスについては疑問視しています。本書の著者がイスラム教徒であることから、本書が米国で一気に有名になったのは、保守系のフォックス・ニュースのインタビューであり、イスラム教徒の作者による本書に対する偏見を見事に克服し、リベラル系のアトランティック誌やニューヨーク・タイムズ紙に注目されたのが、ベストセラーに名を連ねるひとつのきっかけになっています。ローマ帝国に反逆する「革命家」たるイエスが始めたキリスト教が、土着のユダヤ人ではなくギリシャ語やラテン語を理解する教養あるディアスポラのユダヤ人によって世界に広められたあたりから変容を来し、さらにローマ帝国の国教とされるに及んで世界宗教として成立したわけですが、その過程で創始者たるナザレのイエスの「美化」が特にキリスト教徒の間で生じ、左の頬を打たれたら右の頬を差し出すような平和主義者で穏やかな人格者「イエス・キリスト」像が世界に広まって、過激で破壊的な「革命家のナザレのイエス」が後景に退いたことが示唆されています。どんな宗教でも宗祖さまは美化されるものだとはいえ、現実の歴史的に残されている人格との乖離を描き出そうとしています。
なお、ほかにもいっぱいあるんでしょうが、以下のリンクはユーチューブにアップされているフォックス・ニュースのローレン・グリーンから著者へのインタビュー動画です。本書の訳者あとがきで指摘されているものです。とても分かりやすい英語で10分ほどかけても、イスラム教徒の著者がキリスト教の宗祖であるイエスを取り上げる資格があるかどうかで延々とやり取りがあって、話がまったく進んでいないのが理解できるでしょう。メディアとしてのフォックス・ニュースの質の低さを物語るひとつの証拠ではないかと思います。何らご参考まで。

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最後に、有栖川有栖『論理爆弾』(講談社ノベルス) です。空閑純シリーズの3冊目です。2012年12月に単行本として出版されたんですが、先月9月にノベルズ化されています。ついでながら、このシリーズの1冊目の『闇の喇叭』と『真夜中の探偵』も今年になって相次いで講談社文庫から文庫化されています。当然ながら、私は3冊とも読んでいます。その昔の高校生くらいの時に読んだ半村良『軍靴の響き』のように、このシリーズでは、歴史の分岐点で別れてしまったパラレル・ワールドのような架空の世界、そこでは第2次世界大戦後に北海道だけがソ連=ロシアに占領されたため、現実の朝鮮半島のように日本が南北で分断国家になった世界で、「北」に対する警戒感からナショナリズムが賞揚されて私的な探偵行為が禁止されている風変わりな世界を舞台にしています。シリーズ第1作『闇の喇叭』ではすでに主役の空閑純の母親は行方不明になっており、父親と2人で母親の消息を待ちながら福島県の母親の出身地での生活が描かれ、そこで起こった不思議な殺人事件を父親が解決しながらも、私的探偵行為のかどで父親が逮捕されるところで終わります。第2作の『真夜中の探偵』では1人ぼっちになった空閑純が大阪に移り住み、両親に探偵の仕事を依頼し応援していた人物達と出会います。やっぱり、風変わりな殺人事件が起こります。そして、本作『論理爆弾』では空閑純が母親の消息をたどって九州に渡りますが、そこでは北の工作員が発見・追尾されるととともに、純の滞在先の寒村がトンネル事故で外界から孤立する中で、またまた不可解な殺人事件が起こります。明るくてコミカルに展開する印象のあるこの作者の作品なんですが、このシリーズだけは設定が重くて暗いのが特徴です。「母を訪ねて三千里」のように延々と続きそうなシリーズです。

さて、来週末は体育の日がお休みになり、またまた3連休になるわけですが、明日からノーベル賞の発表も始まりますし、私の読書やいかに?

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2014年10月 4日 (土)

下の倅の運動会を見に行く!

台風18号の影響もまだ現れず、少なくとも雨の心配のない空の下、本日、下の倅が通う中学校・高校の運動会が開催されました。中学校や高校では「体育祭」と呼び習わすんだと思っていたんですが、下の子の学校の場合、あくまで運動会だそうです。なお、上の倅の学校では体育祭は中学生だけが対象で、高校生に上がると関係なくなるんですが、下の倅の学校では高校生も、しかも高校3年生まで運動会に出るそうです。それから、理由は定かではないものの、昨年はこの運動会が開催されず、2年振りの行事でした。いずれにせよ、私の子が体育というか、運動が得意なハズもなく、それなりに理解しやすい学校行事ということで、子供の成長を記録する目的で私も行って来ました。 私の腕前とカメラのグレードからして、このくらいの遠目では個人の識別が困難かと思いますので、特に画像処理もしていません。悪しからず。全体の雰囲気が分かる写真を何枚かアップしておきます。上から順に、高校3年生の騎馬戦、高校生の棒倒し、最後はグランドから見える東京スカイツリーです。

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9月の米国雇用統計は再び増勢を回復し円安が進むのか?

日本時間の昨夜、米国労働省から9月の米国雇用統計が発表されています。いずれも季節調整済みの系列で見て、ヘッドラインとなる失業率は前月から0.2%ポイント低下したため、とうとう6%を割って5.9%を記録し、非農業部門雇用者数も前月から+248千人の大幅増を示しました。まず、New York Times のサイトから記事を最初の6パラだけ引用すると以下の通りです。

Jobless Rate in U.S. Falls Below 6% as Hiring Picks Up
The American economy is picking up steam, with employers hiring again at a healthy pace and the unemployment rate at its lowest since the summer of 2008, the Bureau of Labor Statistics reported on Friday.
For the first time since the middle of the recession, the jobless rate fell below 6 percent, dropping to 5.9 percent from 6.1 percent in August, continuing a decline from its recession peak of 10 percent. Employers added 248,000 jobs in September across a number of sectors, and hiring in August, originally seen as suggesting the economy might be faltering again, was revised upward to a more promising 180,000 jobs, the government said.
The strong report — the last one before the midterm elections — buoyed the outlook of economists who had worried the postrecession recovery was being sidetracked but still left many Americans feeling left out of the improving economy.
The pace of job creation in September was above many economists’ expectations and was a return to the 200,000 level, a mark that had been surpassed each month since midwinter until the August lull.
Investors were also encouraged by the report. Stocks moved higher and the dollar rose against many major currencies.
And in a sign that hiring was likely to continue to pick up, the government said the average workweek in manufacturing rose to 42.1 hours in September, near its highest level in more than 60 years. The average workweek across all sectors rose to a postrecession high.

まずまずよく取りまとめられている印象があります。この後に、他の指標やエコノミストへのインタビューなどが取り上げられていますが、長くなりますので割愛します。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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先月の米国雇用統計で物足りない数字だと受け止めたんですが、なぜか、9月の米国雇用は再び増勢を回復しました。私には理由はよく分からないんですが、基本的には米国経済以外は欧州も日本も新興国も押し並べて停滞の域を脱していませんから、米国の国内需要に基づく雇用回復なんだろうと考えざるを得ません。9月の雇用者増は210千人程度と市場では予想していましたので、実績の248千人は軽くこの予想を上回りました。先月の8月の雇用者増も180千人とひとつのめどの200千人には届きませんが上方修正されています。失業率に至っては、とうとう6%を割り込んで5.9%に達しました。リーマン・ショック前の2008年7月5.8%以来の低水準ということになります。これで、米国連邦準備制度理事会(FED)において量的緩和のテイパリングの議論が進む、もしくは、進むだろうと市場が強く予想することになりますので、為替の円安が進行する可能性が高まったと考えるべきです。10月1日に1ドル110円に乗せた時はワンタッチでしたが、足元で1ドル110円を超えて円安が進む可能性も否定できません。ただし、10月1日の日銀短観を取り上げた際にも主張しましたが、さらなる円安がどこまで日本の景気に拡大的な効果を及ぼすかについては議論が分かれます。

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また、日本の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。逆に言えば、サブプライム危機前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、同時に、底割れして日本のようにゼロやマイナスをつけて、デフレに陥る可能性は小さそうに見えます。

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2014年10月 3日 (金)

NTTコムリサーチ「第2回電子マネーに関する調査」やいかに?

かなり旧聞に属する話題ですが、先週9月24日にその昔のgooリサーチこと、現在のNTTコムリサーチから「第2回電子マネーに関する調査」が発表されています。週末前の軽い経済の話題として簡単に取り上げておきたいと思います。
何といっても、私が興味あるのは電子マネーの普及率で、下のグラフの通りです。実は、この調査はタイトルが「第2回」になっていて、当然ながら、第1回調査があって、今年2014年6月16日に公表されているんですが、下のグラフのようなシェアは調査されていないのか、公表されていないだけなのか、いずれにしても利用可能ではなく、今回「第2回調査」で初めての公開でした。

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もっともシェアが大きいのは「交通系(JR)」で45.7%、以下、「WAON」が35.4%、「nanaco」が33.6%、「楽天 Edy」が32.3%、「交通系(JR以外)」が28.9%の順番となっています。「楽天 Edy」を除くと、交通系とスーパー・コンビニ系の電子マネーがトップ5のうちの4つを占めています。そして、この5番目までプリペイドでシェアを見ても、ポストペイド型電子マネーである6番目の「iD」と大きな差があり、プリペイドが圧倒的な強さを示しています。理解できる気がします。なぜか、「au WALLET」だけが色違いの棒グラフで示されているんですが、スポンサーの関係なんでしょうか?

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2014年10月 2日 (木)

国際通貨基金 (IMF) 「世界経済見通し」分析編を読む!

10月10日からのIMF世銀総会を前に、一昨日9月30日に国際通貨基金 (IMF) から「世界経済見通し」 World Economic Outlook (WEO)の分析編第3章と第4章が公表されています。第3章はインフラ整備の重要性について、第4章は世界的な経常収支不均衡の縮小について、それぞれ取り上げています。章ごとのタイトルは以下の通りです。

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分析編の両章を代表するテーマでグラフを1つずつ引用すると、上のグラフは第3章から、Figure 3.5. Effect of Public Investment in Advanced Economies を基にしたもので、先進国における産出と債務残高への公共投資の影響をプロットしています。引用元は IMFSurvey Magazine のサイトです。現在はインフラ整備に適した時期であるとし、先進国では借入れコストが低く需要も弱いし、新興国・途上国ではインフラのボトルネックが存在している、と主張しています。上のグラフで示されている通り、債務の対GDP比率を上昇させることなく、産出に大きな効果をもたらすことが可能であるとの分析を示しています。日本に適合的かどうかは不明です。

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続いて、上のグラフは第4章から、Figure 4.15. Global Current Account ImbalancesFigure 4.16. Global Net Foreign Asset Imbalances を基にしたもので、上がフローの、下がストックの経常収支不均衡の推移をプロットしています。なお、Figure 4.15. と Figure 4.16. では5年後の2019年までの試算も示しています。引用元は IMFSurvey Magazine のサイトです。世界の経常収支不均衡は2006年のピークから3分の1以上縮小し、特に、米国の大きな赤字と中国及び日本の巨額の黒字という主だった不均衡は半減しています。そして、この不均衡縮小の主な要因は赤字国の国内需要の縮小であり、為替相場の調整は限定的な寄与しか示していない、と結論しています。

事情により帰宅が遅くなり、簡単に済ませておきたいと思います。いろいろとリンク先を示しておきましたので、ご興味の範囲で原典を参照ください。そのうちに見通し篇が公表されるでしょうから、改めて取り上げたいと思います。

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2014年10月 1日 (水)

レギュラー・シーズン最終戦を広島に快勝してポストシーズンに望みを託す!

  HE
阪  神101100010 490
広  島000100100 271

広島と競りながらも最終戦を勝利で飾り、クライマックス・シリーズを甲子園で開催する可能性を残しました。選手の皆様、誠にお疲れさまでした。首位打者と打点王とセーブ王を出しながらこの順位というのは、ベンチワークの責任だという気がしてなりません。
それにしても、ご同好の阪神ファンの皆様方におかれましては、1年間応援お疲れさまでした。最後のクライマックス・シリーズまでもう少しです。

クライマックスシリーズでは、
がんばれタイガース!

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9月調査の日銀短観に表れた企業マインドをどう見るか?

本日、日銀から9月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが+13と前回6月調査よりも+1ポイント改善しています。大企業の設備投資計画も2014年度+8.6%増のと前回調査の+7.4%増から上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業の先行き景況感 横ばい 日銀短観
日銀が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の景況感が先行き横ばいになるなど、個人消費のもたつきを背景に企業心理の回復の鈍さがにじんだ。一方、2014年度の設備投資計画は6月調査の前年度比12.7%増から同13.4%増へ上方修正された。雇用の改善で人手不足感も強まっており、景気の回復力を左右しそうだ。
9月短観では、企業の景況感を示す業況判断DIが消費増税の影響で、もたついている様子が浮き彫りになった。政府・日銀は当初、7-9月期以降は増税の影響が徐々に和らいでいくとみていたが、短観では先行き3カ月後の企業景況感も横ばい圏にとどまった。
ただ企業の設備投資意欲は堅調だ。14年度の設備投資計画は大企業非製造業も6月調査の前年度比4.9%増から同6.3%増へ上方修正となり、9月調査として7年ぶりの高い伸びとなった。
日銀は「維持更新に加えて、能力増強の投資を上積みする動きが出ている」(調査統計局)とみている。中小企業でも設備投資計画は製造業、非製造業ともに6月調査から上方修正となった。
好調な企業収益も投資意欲を支える。製造業、非製造業ともに14年度計画の経常利益は上方修正され、大企業の全産業ベースでは前年度比3.0%減となった。13年度が同35%増と大幅増益だった反動で前年度比ではマイナスにとどまっているものの、高水準の利益を維持している。
今回調査は円安が急速に進んだ8月27日から9月30日にかけて実施された。調査開始時点は1ドル=103円台だった円相場は110円目前まで円安が進行した。円安による円建て輸出額の増加を通じ、輸出企業の収益を押し上げた面もある。
14年度の大企業製造業の想定為替レートは1ドル=100円73銭で、6月調査の100円18銭から円安方向へ修正された。ただ足元の実勢レート(110円前後)との差は大きく、収益押し上げの余地はなお大きい。
ただ一時1ドル=110円台まで進んだ円安を巡っては企業側からも懸念の声が高まり始めた。輸入物価上昇を通じて、コスト増となる面があるためだ。
30日発表された8月の鉱工業生産が前月比マイナスとなるなど、消費増税後の景気の回復に足踏み感も出ている。堅調な計画通りに設備投資が実行されるかどうかは、企業心理が着実に改善に向かっていくかにかかっている。

やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。

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ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIについては、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスが足元で+10、先行きで+12でしたから、足元・先行きともポジティブな方向に外れたサプライズでした。昨日の鉱工業生産指数のネガティブなサプライズとは反対です。どうして外れたのかというと、もっぱら製造業が上振れしていることから、足元における円安の進行であろうと私は推測しています。逆に、大企業非製造業の業況判断DIは同じ事前コンセンサスでは+17でしたが、製造業とは逆に実績は下振れして+13を記録しました。すなわち、内需の回復が遅れていることを背景に弱めの企業マインドが示されたと考えるべきです。ただし、引用した記事にもある通り、大企業製造業でも先行きの業況判断DIは足元から横ばい、大企業非製造業でも+1ポイントの改善にとどまりますので、企業は先行きに対して慎重な見方を崩していないと考えるべきです。なお、為替と景気や企業マインドとの関係は非常にデリケートなんですが、例えば、日本総研のリポート「円安進行の景気への影響をどうみるか」では、貿易面では1ドル100円台前半が最適である一方で、株価動向を加味すれば「110円前後が景気には最適」と試算しています。1ドル110円はほぼ現時点の水準であり、短観に示された事業活動の前提となっている想定為替レート約100円から10%の円安水準です。

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次に、大きな傾向は変わりありませんが、設備と雇用についても、4月の消費増税を経て、要素需要が拡大する方向に回帰しています。上のグラフは製造業の設備判断DIと全産業の雇用判断DIをプロットしています。プラスが過剰超でマイナスが不足超を示しています。設備についてはまだ過剰超のプラスが記録されているという意味で、過剰感が完全に払拭されたわけではありませんが、過剰から不足に向かう方向感は続いていますし、雇用についても企業規模が小さくなるほど不足感が強まっています。設備については、グラフは示しませんが、今年度2014年度の大企業全産業の経常利益は前年比▲3.0%と減益見通しながら、6月調査よりは上方修正されていますので、設備投資計画の上積みに寄与している可能性があります。また、労働供給については、人口減少に向かう中で長期的にはもちろん不足の方向にありますが、短期的な足元でも労働供給に対する不足感が大きくなってきており、賃上げの素地が広がっていると私は受け止めています。

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上のグラフは2007年度から2014年度までの設備投資計画を調査時期ごとの修正を踏まえてプロットしています。設備投資計画については、6月調査の上方修正についてはやや疑問視していましたが、9月調査で上方修正されたことから、今年度はかなり伸びる可能性が高いと私は受け止めています。上のグラフを見ても、リーマン・ショック前の2007年度計画に匹敵する水準を示しており、かなり強気な設備投資計画に見えます。大企業に限定されることなく、設備投資増の裾野が広がっていることは確かで、中小企業においてはまだ前年度比マイナス計画ながら上方修正の幅が大きくなっています。ですから、全規模全産業で前年度比+4.2%の設備投資計画となっています。だたし、昨年度2013年度下期の消費増税前の駆込み需要に伴って、いわゆるゲタが大きくなっていますから注意は必要です。

景気の状況やそれに基づく景況感は今年に入ってかなり複雑な動きを示しています。すなわち、年前半は消費税率引上げに伴う駆込み需要とその後の反動減は想定の範囲内であり、年央から年末にかけてV字回復が予想されていたのに対して、実際は、少なくとも1997年に比べて消費増税のショックは大きく、ハードデータに示された景気やソフトデータに示された景況感は低迷しました。昨夜のエントリーでも取り上げたように、ニッセイ基礎研のリポート第一生命経済研のリポートでも景気後退局面入りの可能性がトピックのひとつとして取り上げられ始めたのも事実です。しかし、9月に入って足元で円安が進んだことから製造業を中心にマインドとしての景況感に上向きの効果が生じ始めていることが今日発表の日銀短観で確認されました。今後の先行き景気に注目が集まります。

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