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2014年10月24日 (金)

ニッセイ基礎研「中期経済見通し」を読む!

やや旧聞に属する話題ですが、私がいつも参照しているニッセイ基礎研から「中期経済見通し (2014-2024年度)」という10年間をターゲットとした中期見通しのリポートが10月16日に公表されています。足元や目先より少し先行きの日本経済を考える上で、とても参考になるリポートだと感じたんですが、いかんせん、20ページをかなり超えてボリュームがある上に、その前の10月2日にみずほ総研から公表された同様のリポート「内外経済の中期見通しと人口・地域の課題」と比較して読み比べていたものですから、取り上げるのがやや遅れました。と言い訳しつつ、長くなりますが、リポートからポイントを4点引用すると以下の通りです。

中期経済見通し (2014-2024年度)
  1. 世界経済は回復基調が続いているが、そのペースは依然として緩慢なものにとどまっており、主要先進国のGDPギャップはリーマン・ショック以降、ほぼ一貫してマイナス圏で推移している。IMFの世界経済見通しでは、足もとだけでなく先行き5年間の成長率予想が下方修正されており、需要不足と供給力の低下が同時進行している。
  2. 日本経済は消費税率引き上げ前の駆け込み需要もあって2013年度は高成長となったが、2014年度はその反動と物価上昇に伴う実質所得低下の影響から低迷している。
  3. 日本経済再生の鍵は、高齢化に対応した潜在的な需要の掘り起こしと女性、高齢者の労働参加拡大を中心とした供給力の向上を同時に進めることである。2024年度までの10年間の日本の実質GDP成長率は平均1.3%と予想するが、消費税率引き上げ、オリンピック開催前後で振幅の大きな展開が続くだろう。
  4. 消費者物価上昇率は10年間の平均で1.4%(消費税率引き上げの影響を除く)と予想する。日本銀行が「物価安定の目標」としている2%を安定的に続けることは難しいが、1%台の伸びは確保し、デフレ脱却は実現する可能性が高い。

リポートでは海外経済の見通しから始まって、日本経済見通しについてもメインシナリオだけでなく、代替シナリオも示すなど、かなり包括的な内容なんですが、リポートそのものは何のてらいもなく全文がアップされていて、誰でも入手できるわけですから、ご興味ある向きはそれを読んでいただくとして、先述の通り、みずほ総研のリポートと比較しながら、私の興味に従って図表を引用しつつ、ごく簡単に概観しておきたいと思います。ただし、みずほ総研の「中期見通し」は2020年までを対象とし、ニッセイ基礎研の「中期経済見通し」は2024年までを対象としています。微妙に異なりますので注意が必要です。それから、最大限の注意を払う必要があるのは消費税率の想定であり、ニッセイ基礎研・みずほ総研とも2019年4月から12%へ、そして、みずほ総研では予想の範囲外になりますので、ニッセイ基礎研のみ2023年4月から14%へと引き上げられるシナリオを想定しています。

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まず、ニッセイ基礎研のリポートから p.12 潜在成長率の寄与度分解 を引用すると上の通りです。需要に左右される短期見通しと違って、中長期見通しは供給サイドの要因が成長や物価などに及ぼす影響が格段に高まります。その意味で、こういった資本ストックと労働に分解した潜在成長率の分析も重要です。グラフに見る通り、1990年以降くらいの技術進歩、あるいは、ほぼ同じことながら、全要素生産性の劇的な低下と時短も含めた労働投入の減少が、プレスコット=林論文のバックグラウンドになっているわけですが、先行きについては、労働時間も加味した労働投入によるマイナス寄与は足元の▲0.3%から▲0.5%までややマイナス幅を拡大する一方で、設備投資の伸びが高まることにより資本投入によるプラス寄与が拡大し、技術進歩率が現在の+1%弱から+1%強まで高まるため、潜在成長率は足元の+0.6%から2020年代前半にかけて+1.2%まで高まると見込んでいます。ただし、労働投入に関する分析はそれなりになされている一方で、技術進歩≈全要素生産性の伸び率がかなり上昇する見通しながら、アベノミクス第3の矢、すなわち、TPPによる貿易自由化や法人税率引下げなどの成長戦略の効果がよく私には理解できませんでした。

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次に、ニッセイ基礎研のリポートから p.13 実質GDP成長率の推移 を引用すると上の通りです。足元から2018年度にかけて実質成長率は徐々に高まり、2018年度は+2%超の水準に達すると見込まれています。そして、2019年度は消費税率の引上げに伴って+1%近傍に落ち込むと予想されています。この点については、みずほ総研のリポート p.19 【実質GDP成長率】のグラフとほぼ同じであり、消費税率の引上げに伴う成長率の落ち込みは、両見通しとも▲1.4-▲1.5%と推計されています。大きな違いはありません。その後、2020年度は東京オリンピック開催に伴うブーム到来で成長率が高まり、2023年度の消費増税なども含めて振幅の大きな展開となりつつも、予測期間の2015-24年度平均実質成長率は+1.3%を見込んでいます。当然ながら、消費税率の引上げや東京オリンピックなどの影響を除けば、ほぼ潜在成長率見合いの成長が実現されるわけです。

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次に、上のグラフはニッセイ基礎研のリポートから p.14 消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 を引用しています。みずほ総研のリポートでは p.24 【GDPギャップとインフレ率の見通し】が比較可能でしょう。両シンクタンクの見通しとも、消費税の影響を除くコアCPI上昇率で見て、2018年度ないし2019年度には日銀のインフレ目標である+2%に達するとする点では極めてよく似通っています。その少し前くらいの時点で、いわゆるデフレ脱却が達成される、という点でも一致しているようです。ただし、みずほ総研のインフレ見通しがほぼ+2%の水準で安定的に推移する一方で、ニッセイ基礎研の見通しでは成長率が消費増税や東京オリンピックの影響でジグザグするために、GDPギャップも振幅を持って動き、これを背景にインフレ率も上がったり下がったりする、しかも、日銀のインフレ目標の+2%の水準を下回る、と結論されているようです。確かに、潜在成長率が上昇する見合いで需給ギャップが徐々に拡大する可能性は否定できません。

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次に、ニッセイ基礎研のリポートから p.18 経常収支の推移 を引用すると上の通りです。みずほ総研のリポートでは p.22 【経常収支見通し】に当たります。両リポートとも、2013年度が経常収支のボトムであり、この先数年は経常収支の黒字幅が緩やかに拡大する点については一致しています。しかし、圧倒的に違うのは、2020年度までが予測機関とはいえ、みずほ総研では経常収支の黒字幅が拡大を続けると見込むのに対し、ニッセイ基礎研では2010年代半ばをピークにして経常収支の黒字幅は傾向的に減少を続けて、2020年代前半には経常赤字が定着すると見通している点です。我が国経済社会の高齢化が進行し家計貯蓄率が低下する一方であるわけですから、経常黒字が拡大するみずほ総研予想よりも経常収支が赤字に向かうニッセイ基礎研予想に信頼感を私は持ちます。

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最後に、ニッセイ基礎研のリポートから p.19 国・地方の財政収支(対名目GDP比) を引用すると上の通りです。みずほ総研のリポートでは p.23 【国・地方のPB】に当たります。国と地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)のGDP比で見て、ニッセイ基礎研の予想では2020年度でも▲3%程度、予想最終年度の2024年度でも▲2%程度の赤字が残ると見込まれているのに対して、みずほ総研ではやや楽観的な見方を提供しており、2020年度で▲2%程度と見通しています。そして、公的債務のGDP比は▲250%ないしやや低い水準で横ばいに近くなるとの見方はほぼ共通しているようです。特に根拠なく、何となく、なんですが、財政赤字についても悲観的なニッセイ基礎研の見方にやや分があるように考えるのは私だけでしょうか。なお、これらの基礎的財政収支のグラフを見る限り、直感的にはUCSDのボーン教授の検定では我が国財政は持続可能と結論されそうな気がしないでもありません。

どうでもいいことですが、数年前に私が地方大学の経済学部に出向した際、最初に紀要論文を取りまとめたテーマが財政に持続可能性でした。今年のノーベル経済学賞を受賞したティロル教授の論文を引用したりしています。以下の通り、今でも長崎大学のリポジトリで本文pdfが利用可能なようです。やや数式が多くて難解かもしれません。何ら、ご参考まで。

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