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2014年11月29日 (土)

今週の読書は経済書なしで小説を中心に5冊ほど

今週の読書は経済書はなく、小説が中心に以下の5冊ほどです。

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まず、前田健太郎『市民を雇わない国家』(東京大学出版会) です。作者は気鋭の東京大学准教授であり、本書は作者の博士論文を改訂した学術書です。というか、今週読んだ唯一の学術書だったりします。副題が『日本が公務員の少ない国へと至った道』とされており、本書の内容そのものズバリを言い表しています。最初に、国際比較により日本の公務員数が人口当たりで少ない事実を明らかにしています。この点からすでに誤解している国民が少なくないとの指摘はよく見かけるものですが、我が国の公務員が少ないという事実はそれなりの学識を有する階層には明らかな事実ではないかと私は受け止めています。その上で、副題に対する回答たる結論としては、人事院勧告という公務員の給与面での制約が厳しいことから、財政の硬直性を打破して柔軟性を取り戻すためには、公務員数を厳しく制約せざるを得なかった、というものです。公務員給与は当然に財政から支出されるわけですが、その総額は公務員数に単価を乗じた額となります。当たり前です。そのうちの単価が人事院勧告で決められて動かせない以上、公務員数を総定員法で縛って財政の自由度を高める必要がある、ということです。これだけでは不親切なんですが、作者の専門外で私の専門分野ですので付け加えると、本書でもそれなりに取り上げられていますが、戦後のいわゆるブレトン・ウッズ体制下で固定為替相場を維持するための景気コントロール手段としてケインズ的な財政政策の自由度の確保の要請から、公務員数の制約の必要が生じた、という解釈です。日本と逆の道を行った英国を取り上げ、公務員給与の制約がストを背景にした団体交渉から政府の意に添わず、結局、いわゆる「ストップ&ゴー」政策により英国病が悪化した、といった趣旨の論考がなされています。本書に対する代替的な私の見方としては、中央政府が徴収した税金を市民に還元する道が2通りあります。すなわち、ひとつは北欧に典型的に見られるような福祉国家であり、公務員を雇って社会保障給付により直接に市民へ還元する方法です。もうひとつが日本のような土建国家であり、公務員を雇わずにインフラへの公共投資により土木建設産業を通じて間接的に市民にトリクル・ダウンすることを期待する方法です。この点に関する考察も欲しかった気がします。

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次に、川上弘美『水声』(文藝春秋) です。ここから3冊は小説です。不思議な小説です。でも、この作者らしい幻想的なファンタジーではなく、超常現象のような出来事は出てきません。私がこの作者の作品で少し前に読んだのは『七夜物語』ですから、子供向けのファンタジーでしたが、この『水声』は大人向けの純文学だと思います。2代に渡って、実際には夫婦ではないにもかかわらず、兄妹や姉弟がまるで夫婦のように同居して家族として過ごす小説であり、フォーカスは早世した前の世代のママに当てられています。よく、人間の体は水でできているといわれますが、そういった含意のタイトルだと受け止めています。どうでもいいことながら、「川上弘美+水声」でweb検索をかけると、信州大学の研究者による松本和也『川上弘美を読む』(水声社) がヒットします。この小説のタイトルと出版社名がどこまで関係するのか私には不明です。また、主人公の都が作者と同じ年の生まれに設定されていますが、どこまで作者自身と重ね合わせることができるのかも私には不明です。血のつながりのある兄妹や姉弟がまるで夫婦のように同居して暮らすという男女関係は、私には分かったような分からないような受止めなんですが、私が読んでいてとても共感を覚えたのはパパの生死観です。ママの死に際して、葬式をやりたがらなかったり、仕方なく葬式をやっても、死に装束を拒否して、会葬者に最後のお別れもさせないなど、一向門徒としての私の生死観に似たところがあります。私も「冥福を祈る」行為は真っ平ごめんですし、近親者の死に際してこのような発言を受けるだけでやや不愉快に感じます。一向門徒は死んだ瞬間に極楽浄土に生まれ変わりますから、49日間も冥土に渡らずにウロウロと旅をしたり、ましてや、三途の川を渡ったりはしません。それはともかく、私はこの作者の作品をそれほど数多く読んでいるわけではありませんが、この作者らしく男女関係を基軸にしつつ、社会的な出来事、例えば、地下鉄サリン事件や東日本大震災も視野に収めつつ、小学生から50代半ばまでの50年近くに渡る主人公の目を通して、やや不思議かつ濃やかな人間模様を鮮やかに描き切っています。

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次に、湊かなえ『物語のおわり』(朝日新聞出版) です。先々週の11月15日にも同じ作者の直前の作品である『山女日記』を取り上げて、デビュー作である『告白』から始まり、従来のモノローグの手法による読後感のよくないイヤミスの作品から、前作が転機になった可能性を示唆しましたが、この作品もイヤミスではなく、なかなか興味深い作品です。読者によってはこの作品もミステリと受け止める向きがある可能性は否定しませんが、私はミステリではなく、成熟した女性を主人公にした普通の文学作品であるとして読みました。主人公と目されるパン屋の娘である絵美が書いた小説、何となく中途半端な終わり方をしている何枚かの原稿用紙が封筒に入って、次々と回し読みされます。タイトルとは逆の「おわっていない物語」、しかも、その中身もさることながら、原稿用紙のモノとしての物語を中心にストーリーが進み、加えて、北海道などの北の大地を背景に、すなわち、作者の本拠地である瀬戸内海とは似ても似つかない舞台で物語が進行し、さらに加えて、かなり時間軸の長い作品となっています。人生で岐路に立った場合、どのような選択を行うべきか、あるいは、その際に、自分と周囲の人々との調和をどのように図るのがベストなのか、いろいろな読み方を許されそうな奥の深いテーマを個性的でとても強い描写力で浮き彫りにします。絵美のパートナーであるハムさんの包容力にも脱帽しますが、著者の新しい方向を向いた第2ステージの作品がこれからもっと出ることも大いに楽しみです。でも、時々は第1ステージの作品のような小説も書いて欲しい気がします。

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次に、有川浩『キャロリング』(幻冬舎) です。これを原作として、毎週火曜日のNHKのBSプレミアムのドラマが放送されているのはご存じの通りです。ただし、かなり前に森絵都の短編「風に舞いあがるビニールシート」がNHKでドラマ化された時にも感じましたが、かなり原作から離れている、というか、原作にないストーリーを形作っている気がします。本の方の『風に舞いあがるビニールシート』なんて、直木賞を授賞されたほどの作品なんですから、あそこまで脚色しなくてもいいような気がしたんですが、短編を数回のドラマに仕立てるのは難しいのかもしれません。でも、この『キャロリング』は長編なのですし、今週のドラマ第3話では柊子のお見合い(?)があったりしましたが、私が読み飛ばしているのでなければ、そのようなシーンは原作にはなかった気がしますので、ここまで違うイベントを物語に付け加えるのはやや疑問を感じる読者もいるかもしれません。それはともかく、原作本の方は心温まるストーリーで、特に12月のこのクリスマスを迎えようとしている愛と寛容のシーズンにはとてもいいお話だと受け止めています。以前から私が主張している通り、この作者はデビュー作の当時から自衛隊に対する思い入れ、思い込みが激しく、武器や戦闘シーンが、例えば、『図書館戦争』のシリーズではメインになっていた感がありますが、このあり得べからざる傾向を別にすれば、筆力は十分ですし、プロットも少し非現実的なくらいにご都合主義的だったりしますが、それはそれなりによく考えられていますし、いい作品を書くことが出来る一流の人気作家であることは間違いありません。自衛隊や武器や戦闘シーンのない作品はかなりオススメ度が上がる気がします。

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最後に、エッセイで川上未映子『きみは赤ちゃん』(文藝春秋) です。著者が35歳の年齢で男の子を出産する際の、あるいは、その後の1歳くらいまでの育児も含めてエッセイをつづっています。作家夫妻の妊娠・出産・育児ですから、我が家のようなサラリーマン家庭とはかなり様子が違います。もっとも異なるのはお金のかけ方です。無痛分娩に関しては、私も著者と同じ意見を持っていて、海外と同じようにもっと普及して何らかの公的な補助のようなものが出る方がいいんではないかと考えていますし、保育園のキャパが圧倒的に不足している現状はいろんな意味で好ましくないと思います。でも、シッターさんに来てもらって、湯水のごとく赤ちゃんにお金をかけても、やっぱり、育児や家事に関する女性の負担が男性に比べて著しく重いというか、その結果として、母親が父親に不快感を持つとかは、妊娠・出産を生物学的に経験し得ない男としては、とても貴重な情報だった気がします。私はこの著者のご亭主と同じで料理が出来ずに、単身赴任の際などにも苦労させられたんですが、これほど重視されているのは知りませんでした。男はいかんともしがたく妊娠時の代替的な役割を果たすことは出来ず、無痛分娩とはいえ出産の際の体力消耗、あるいは、その後の産後のホルモンの乱調などの体調の悪化も経験しませんし、なかなか実感として身に迫った受止めは出来ない限界を感じました。最後に、ネットやSNSなどで、妊娠・出産・育児などに関して、玉石混交の情報があふれているように感じているんですが、この妊娠・出産・育児のほか、人生の重要なポイント、例えば、受験や就職や結婚や何やといった際の情報の活かし方について、何とも漠たる不安を感じたのは私だけでしょうか?

この土日にもいくつかの図書館を周る予定ですが、来週の読書は経済書、というか、専門書を含めた教養書についても何冊か読む予定となっております。

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