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2014年12月26日 (金)

いっせいに発表された政府統計から垣間見える景気の現状やいかに?

今日は、年末最後の閣議日で政府からいっせいに主要な経済指標が公表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数が、総務省の失業率や厚生労働省の有効求人倍率あるいは毎月勤労統計などの雇用統計が、さらに、経済産業省の商業販売統計が、最後に、総務省統計局の消費者物価指数が、それぞれ発表されています。いずれ11月の統計です。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトからそれぞれの統計に関する記事を引用すると以下の通りです。

11月の鉱工業生産指数、前月比0.6%低下 3カ月ぶりに低下
経済産業省が26日発表した11月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調節済み)速報値は前月比0.6%低下の97.8だった。低下は3カ月ぶり。10月にプラスに寄与した半導体製造装置などの大型受注が減った反動が出た。QUICKがまとめた民間予測の中央値は0.8%上昇で、市場予想を大きく下回った。生産指数は10月までは2カ月連続で上昇しており、経産省は「11月は踊り場を迎えている」として、生産の基調判断を前月までの「一進一退にある」で据え置いた。
生産指数は15業種のうち8業種が前月比で低下し、7業種が上昇した。低下業種では、「はん用・生産用・業務用機械」が前月比3.5%低下と大きく下げた。低下は3カ月ぶり。10月に生産指数を押し上げた半導体製造装置の大型受注の反動が出たほか、工場や発電所などで使われるという「水管ボイラ」が減少した影響が出た。一方、スマホ関連の部品需要が堅調なこともあって、「電子部品・デバイス」は5カ月連続で上昇。前月比2.3%上昇と、他業種と比べて上昇幅が最も大きかった。
出荷指数は前月比1.4%低下の97.2と、3カ月ぶりに低下した。在庫指数は1.0%上昇の112.4。業種別では在庫調整を進める自動車など「輸送機械」が前月比2.2%低下したが、全体では3カ月ぶりの増加となった。出荷に対する在庫の割合を示す在庫率指数は4.0%上昇の116.8。
同時に発表した製造工業生産予測調査によると、12月は3.2%上昇、1月は5.7%上昇を見込む。経産省は「(企業の中には)11月に計画していた生産が12月以降にずれ込んだ可能性もある」としている。
11月の完全失業率、前月比横ばいの3.5% 非正規雇用は初の2000万人超え
総務省が26日発表した11月の完全失業率(季節調整値)は3.5%で、前月から横ばいだった。横ばいは7カ月ぶりで、QUICKがまとめた市場予想(3.5%)と同じだった。男性は製造業などで雇用のミスマッチが起きており、労働市場から退出する動きがみられた。半面、女性の就業者数や雇用者数は高い水準を維持し、完全失業率を押し下げていることから、総務省は雇用情勢は「総じて改善傾向で推移している」と判断した。
一方、非正規労働者数(原数値)は前年同月比48万人増の2012万人となり、統計を取り始めた1984年以降で初めて2000万人を超えた。正規と非正規の雇用形態別割合は正規が62.0%、非正規が38.0%だった。非正規の38.0%は、月別の調査を開始した2013年1月以降で2番目に高い水準。最も高かったのはことし2月の38.2%だった。
11月は医療・福祉の分野で非正規の就業者数が増えたことが影響した。総務省は、長期的に非正規が伸びている要因として「子育てが一段落した女性の就業や退職した男性の再雇用が進んでいるため」とみている。
完全失業率(季節調整値)を男女別にみると、男性が前月比横ばいの3.8%、女性は0.1ポイント低下の3.1%だった。就業者数は男性の減少が響き6345万人と前月比で10万人減り、仕事を探していない「非労働力人口」は4498万人と15万人増加した。
完全失業者数は229万人で5万人減少した。うち勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は2万人増、「自発的な離職」は6万人減、「新たに求職」している人は2万人減となった。
求人倍率、22年半ぶり高水準 11月1.12倍
厚生労働省が26日まとめた11月の有効求人倍率(季節調整値)は1.12倍と前月より0.02ポイント上がった。改善は2カ月連続で1992年5月以来の22年6カ月ぶりの高い水準だ。企業からの求人が高止まりする一方で、新たに働きに出る人が減っているため。総務省が同日まとめた完全失業率は3.5%と前月と同じだった。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人1人に対して、企業から何件の求人があるかを示す。ハローワークが11月に新たに受けた新規求人数(原数値)は前年同月より4.4%減った。情報通信業や建設業、サービス業で10%超のマイナスとなった。過去に出した求人が採用につながらないまま積み上がることが増えており、求人数全体で見るとプラスが続いている。
一方、新たに職を探す新規求職件数は10.9%減った。職探しをする少数の人を多くの企業が奪い合う状況が続いている。
総務省の労働力調査によると、就業者の数は6371万人と前年同月から横ばいだった。非正規社員の数は2012万人と48万人増えて、初めて2000万人を超えた。定年後に嘱託などで働く高齢者が伸びていることに加えて、パートで働きに出る女性が増えているためだ。雇用者に占める非正規の比率は38.0%と今年2月の38.2%に次ぐ過去2番目の高水準となった。
11月の現金給与総額、9カ月ぶり減少 所定内給与は0.2%増
厚生労働省が26日発表した11月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、従業員1人当たり平均の現金給与総額は前年同月比1.5%減の27万2726円と、9カ月ぶりにマイナスに転じた。基本給は6カ月連続で伸びたものの、ボーナスが27.0%減と大きく落ち込んだためだ。現金給与総額から物価上昇分を除いた実質賃金も前年同月比4.3%減と17カ月連続で減少した。
ボーナスの大幅減は統計集計の技術的な要因が影響している。厚労省によると、11月は賞与支給の開始月にあたるものの、速報段階では各企業のデータがそろわず低めの数字が出やすいという。確報値ではボーナスが上方修正されるため、現金給与総額の伸び率が変わる可能性が高い。
基本給や家族手当などの所定内給与は0.2%増の24万1700円と、6カ月続けて増加した。今年の春季労使交渉で基本給を底上げするベースアップ(ベア)が広がったことを受けた。
ボーナスにあたる特別給与は27.0%減の1万1192円だった。残業代など所定外給与は0.9%減の1万9834円と20カ月ぶりに減少した。ただ、正社員など一般労働者の雇用が伸びていることから、「これまで景気回復に伴う需要増に既存社員の残業時間を増やして対応していたが、雇用増にシフトして対応しているため」(厚労省)とみられる。
所定外労働時間は0.9%減の11.1時間。製造業の所定外労働時間は横ばいの16.4時間だった。
11月の小売販売額、0.4%増 前年上回るも伸びは鈍化
経済産業省が26日発表した11月の商業販売統計(速報)によると、小売業の販売額は0.4%増えた。前年を上回るのは5カ月連続。前年に比べ週末の休日が多かったため、衣料品などの販売が伸びた。ただ、自動車や石油製品の販売額減少で、10月(1.4%増)から伸び率は鈍化した。
小売業の内訳をみると、織物・衣服・身の回り品が3.9%増。飲食料品は2.6%増。一方、自動車が5.5%減、燃料は5.0%減った。
大型小売店は2.0%増の1兆7298億円。既存店ベースは1.2%増。このうち百貨店は1.5%増、スーパーは1.0%増だった。
コンビニエンスストアは5.2%増の8628億円。ファストフード及び日配食品などが伸びた。既存店ベースでは0.6%増えた。
同時に発表した専門量販店販売統計(速報)によると、11月の販売額は家電大型専門店は3516億円、ドラッグストアが3894億円、ホームセンターが2762億円となった。
消費者物価の伸び縮小 11月2.7%、原油価格下落で
総務省が26日発表した11月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は値動きの激しい生鮮食品を除く指数が103.4と前年同月比で2.7%上昇した。食料や電気代、宿泊料などが値上がりした。上昇は18カ月連続となった。ただ原油価格の下落を背景にガソリンや灯油が足元で値下がりしており、上昇率は前月から0.2ポイント縮小した。
前年比の上昇率は3.3%だった7月から4カ月続けて縮小した。4月の消費税率引き上げ分を除いた上昇率は前年比で0.7%になる。
CPIを品目別にみると、生鮮食品を除く食料が4.0%上がった。外食のほか調理食品や菓子類の値上がりが目立った。電気代は6.0%上昇。北海道電力の値上げが大きく影響した。宿泊料も6.0%上がった。
ガソリンは0.7%、灯油は1.6%上昇したが、前月に比べると3.4%、3.2%それぞれ低下した。エネルギー全体でも前月からは1.2%低下した。
今後の指数の見通しについて、総務省は「石油製品の値下がりが大きいがほかの品目では堅調なものもあり、おおよそ横ばいで推移する」とみている。
東京都区部の12月中旬速報値は生鮮食品を除く指数が101.8と前年同月から2.3%上昇した。上昇率は11月から0.1ポイント縮小した。

いずれも網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、これだけの記事を並べるとそれなりのボリュームになります。これだけでお腹いっぱいかもしれません。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。景気後退期のシャドーについては雇用統計や商業販売統計も同様です。

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ヘッドラインの生産は3か月振りに減産となりました。特に、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+0.8%の増産を見込んでいただけに、やや意外な結果でしたが、イン吉田記事にもある通り、11月の生産が12月に後ズレした可能性もあります。製造工業生産予測調査では12月が+3.2%、来年1月が+5.7%の増産と、これ自体はどこまで信頼性をもって見るべきか、やや疑問に感じないでもないものの、とても強気な予測が示されています。やや慎重に割り引いて見るとしても、少なくとも生産の底入れは近いと考えるべきです。そして、生産を牽引しているのは輸出と設備投資です。輸出は好調な米国経済を背景に今後は伸びる可能性が高く、設備投資も企業マインドなどの調査では今年度の積極姿勢が示されています。積極的な設備投資の背景には先行きの人手不足への懸念があると私は考えています。生産の底入れが近いという意味で、政府経済対策の3.5兆円というのがやや過大ではないかと懸念するエコノミストも私の知り合いにいたりします。私は景気というよりもインフレ目標達成のための物価上昇のサポートや需給ギャップ縮小効果を考えれば、必ずしも過大ではないと考えています。

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雇用統計のグラフは上の通りです。上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数、製造業の所定外労働時間指数で、ここまで季節調整済みの系列で、影をつけた部分は景気後退期です。最後の5枚目は季節調整していない賃金指数、すなわち、現金給与総額と所定内賃金の前年同月比をプロットしています。雇用情勢を見ると、有効求人倍率がさらに上昇したものの、失業率は前月から横ばいにとどまり、しかも、引用した記事にもある通り、雇用者の中でも非正規雇用の割合が高まるという意味で、必ずしも内容のよくない印象を受けます。また、人口動態からして団塊の世代が本格的に労働市場から退出する時期に差しかかったので、止むを得ない面はあるものの、10-11月は雇用者の減少と非労働力人口の減少が同時に生じた結果として、8月以降の失業率が横ばいを示していると私は考えています。ただし、人手不足と雇用条件の改善は大きな流れとしては引き続き継続し、特に、規模の小さな中小企業でその傾向が強まる可能性が高いと受け止めています。また、毎月勤労統計の景気に敏感な所定外労働時間が生産と逆方向に増加したのは理解できませんが、11月の賃金については賞与でイレギュラーな動きが見られて、給与総額の前年同月比はマイナスを記録しましたが、所定内給与はわずかなりとも名目で増加するというモメンタムを失ったわけではありません。でも、実質賃金がマイナスであるのは変わりありません。

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商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売売上げの前年同月比を、下のパネルは季節調整指数を、それぞれプロットしており、影をつけた部分は景気後退期です。11月統計では季節調整していない前年同月比がプラス幅を縮小し、季節調整指数が前月比マイナスですから、かなり悪化した印象ですが、石油価格の下落に伴うガソリン売上げの減少がいくぶんなりとも寄与しており、実勢の消費は統計に現れるほどには悪化していないと私は受け止めています。ただし、いつもの私の主張ですが、消費はマインドと所得で決まるわけで、所得はボーナスなどのバックアップがある一方で、内閣府の消費者態度指数などで見た消費者マインドの悪化が続いており、日銀のハロウィン緩和による株高による資産効果も比較的高所得層にしか貢献せず、やや微妙な段階に差しかかっている可能性があると私は考えています。アベノミクスでは消費増税直前の駆込み需要も含めて、消費が景気を牽引してきたんですが、諸費増税ショックに加えて、今年2014年年央くらいから消費に陰りが見え始め、そろそろ、輸出と設備投資に主役が交代する時期なのかもしれません。でも、賃上げによる所得増から消費のサポートがどこまで有効かが気にかかるところです。法人税減税は賃上げにつながるんでしょうか。私はどちらかといえば懐疑的です。

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最後に、消費者物価のグラフは上の通りです。折れ線グラフが全国の生鮮食品を除くコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが12月中旬値です。いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とは微妙に異なっている可能性があります。ということで、11月のコアCPI上昇率+2.7%のうち、日銀の「金融経済月報」2014年3月号に掲載された「消費税率引き上げ(5%→8%)が消費者物価に与える影響」に従えば、フル転嫁で全国コアCPI上昇率には+2.0%の押上げ効果があると試算されていますので、実力としては+0.7%ということになります。もちろん、フルに転嫁されていない可能性もありますが、あと半年から1年でインフレ目標2%は達成できるのかどうか微妙と考えるエコノミストも少なくない気がします。しかし、上のグラフを見ても明らかな通り、年央以降の物価上昇幅の縮小に大きく寄与しているのはエネルギー価格であり、商品市況の石油価格の下落に起因しています。エネルギー価格の下落による物価上昇の鈍化について日銀の責任を問うのはやや酷ではないかと私は考えています。いかがなもんでしょうか。

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