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2015年1月31日 (土)

今週の読書はグレン・ハバード/ティム・ケイン『なぜ大国は衰退するのか』ほか

今週の読書は経済史を扱ったグレン・ハバード/ティム・ケイン『なぜ大国は衰退するのか』ほか、以下の通りです。

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まず、グレン・ハバード/ティム・ケイン『なぜ大国は衰退するのか』(日本経済新聞出版社) です。本書のタイトルから、その昔に流行ったポール・ケネディの『大国の興亡』を思い出す人も少なくないと思いますが、本書でもローマ帝国から始まって、 中国、オスマントルコ、スペイン、大英帝国、EU、そして日本、もちろん、最後に米国まで幅広く取り上げられている点は同じですが、私が重要と考えるに3点ほど方法論的な違いがあります。第1に、「経済力」を国内総生産(GDP) × 生産性 × (GDP成長率の平方根)と定義し、この指標に基づく定量的な議論を展開しています。第2に、マンサー・オルソンの「公共選択モデル」が幅広く活用されている点です。レント・シーキングによる国家の弱体化、経済的なインセンティブを歪める政府の規制、などなど、エコノミストにはおなじみの議論が盛り込まれています。しかし、第3に、私がもっとも特異な点として指摘したいのは、現代の国家を見る際に、戦後の1970年代までの黄金期の経済成長に基づいて、社会保障をはじめとするエンタイトルメントが充実されたことが国家財政を圧迫し、国家の衰退につながったとする財政原理主義です。もちろん、ラインハート=ロゴフ『国家は破たんする』のように、累積債務がGDP比で一定の閾値を越えると成長が鈍化する、といった議論も散見しますが、こういった財政至上主義は私にはとても異様に感じます。ということで、私のようなエコノミストから見れば、財政均衡主義的な右派のステレオタイプの論調でしかないんですが、一定の賛同者を得ているようにも見えます。エンタイトルメントなる視点を重視するがゆえに、戦後史に入って急に論調が変化する点を読み逃すべきではありません。

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次に、宮部みゆき『悲嘆の門』(毎日新聞社) です。この作者の前作が『荒神』であり、昨年2014年9月7日付けのこのブログのエントリーで取り上げていますが、朝日新聞に連載されていた作品です。そして、この作品『悲嘆の門』はサンデー毎日に連載されていたもので、毎日新聞に連載されていた『英雄の書』の続編に位置づけられるファンタジーです。時代小説で怪奇的というかホラーがかった作品、あるいは、パイロキネシスなる超常現象が出てくる『クロスファイアー』などの現代小説の作品を別にして、この作者の本格的なファンタジーは、私が読んだ範囲で大きく3分類され、ひとつは『ブレイブ・ストーリー』です。ふたつめがゲームの原作的な『ボツコニアン』のシリーズです。そして、この『英雄の書』と『悲嘆の門』の連作があります。もちろん、タイムトラベルの『蒲生邸事件』もあれば、ファンタジーというよりもSFと見なすべき『ドリームバスター』のシリーズなど、極めて多作な作者のことですから、いろんな作品で現代の物理法則を無視した小説を書いているのも事実です。この『悲嘆の門』ではシリーズ前作『英雄の書』の主人公ユーリが小学5年生から高校1年生に成長して登場しますが、主人公は大学生の三島孝太郎であり、主たる活動は大学の学生生活ではなくアルバイトのサイバー・パトロールが舞台となります。『英雄の書』と同じでスッキリしたラストではありませんし、主人公の孝太郎やバイト仲間の森永はユーリの兄と同じで「憑りつかれます」し、途中段階でもこの作者らしく人間の裏側に淀む汚い面をさらけ出すようなストーリーで読者に迫ります。『英雄の書』よりかなりいい終わり方だと私は思いますが、さわやかなハッピーエンドではないことを覚悟して読み進む懐の深さが求められる作品です。

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最後に、乾くるみ『セブン』(角川春樹事務所) です。私はこの作者の作品は『イニシエーション・ラブ』しか読んだことがないんですが、この『セブン』はタイトル通りに数字の「7」にまつわる短編集として、7つの短編作品から編まれています。女子高生の間のゲームを中心に据えた最初の作品「ラッキーセブン」から、戦場でのサバイバルをかけたゲームを扱った最後の作品「ユニーク・ゲーム」まで、その昔の京大ミス研などの新本格派が重視した論理的に唯一の解決策にたどり着く、というタイプのミステリではなく、確率的にどのような回答が導かれるか、という点も重要な要素となります。さらに、最後の「ユニーク・ゲーム」では単純な確率論ではなく、捕虜となった王室の王子が生き残る確率にウェイトを持たせるという必要性を導入し、ある意味で、とてもトリッキーな結果をもたらしています。そのあたりは理学部数学科出身の作者らしい作品ともいえます。でも、エコノミスト的な事後確率を導入したベイジアン的な確率論は出て来ません。当然でしょう。軽く読み飛ばすエンタメな文学作品ではなく、ゲームのルールをしっかりと頭に叩き込むべく、しっかりと読みこなす読解力が要求される作品です。なお、どうでもいいことながら、この作者の代表作『イニシエーション・ラブ』は松田翔太と前田敦子/木村文乃の主演で映画化され、5月23日に封切り予定だと聞き及んでいます。映画「イニシエーション・ラブ」のサイトはコチラ、何らご参考まで。ネタバレですが、2人の「たっくん」は映画でどう演じ分けるんでしょうか。

年度末で仕事が忙しくなっており、なかなか読書が進みませんが、さて、来週の読書やいかに?

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2015年1月30日 (金)

いっせいに発表された政府統計に景気回復の兆しは見えるか?

本日は、今月の最終閣議日で主要な政府経済統計がいっせいに発表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、さらに、総務省統計局から消費者物価が、それぞれ発表されています。まず、各統計の結果を報じた記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

12月の鉱工業生産指数、前月比1.0%上昇 基調判断を上方修正
経済産業省が30日発表した2014年12月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調節済み)速報値は前月比1.0%上昇の98.9だった。上昇は2カ月ぶり。スマートフォン向けの輸出が好調な電子部品・デバイスをはじめ幅広い業種で生産が前月を上回り、在庫も2カ月ぶりに減少した。経産省は生産の基調判断を前月までの「一進一退にある」から、「緩やかな持ち直しの動きがみられる」へ上方修正した。判断の引き上げは14年9月以来、3カ月ぶり。
生産指数は15業種のうち11業種が前月比で上昇し、4業種が低下した。上昇業種では「電子部品・デバイス」が前月比5.2%上昇し、6カ月連続のプラスとなった。自動車を含む「輸送機械」は1.0%上昇し、2カ月連続でプラス。設備投資などで使われる「はん用・生産用・業務用機械」は0.9%上昇し、2カ月ぶりのプラスとなった。
出荷指数は前月比1.1%上昇の98.3と、2カ月ぶりのプラスだった。在庫指数は0.4%低下の112.0、出荷に対する在庫の割合を示す在庫率指数は4.1%低下の112.2だった。
製造工業生産予測調査によると、15年1月に前月比6.3%上昇、2月は1.8%低下を見込む。1月の予測について経産省は、自動車メーカーがモデルチェンジを控えて増産する動きや、はん用・生産用・業務用機械などの業種で「昨年11-12月に計画していた生産の一部が1月にずれ込んだ可能性がある」ことを理由に挙げている。
同時に発表した14年10-12月期の鉱工業生産指数は前期比1.8%上昇の98.4と、3四半期ぶりのプラスとなった。14年通年の鉱工業生産指数(原指数)は前年比2.1%上昇した。プラスは2年ぶり。昨年4月の消費増税を前にした駆け込み需要で生産が伸びた影響が出た。
有効求人倍率、12月1.15倍に改善 失業率3.4%に低下
厚生労働省が30日まとめた2014年12月の有効求人倍率(季節調整値)は1.15倍と、前月より0.03ポイント上がった。改善は3カ月連続で1992年3月以来、22年9カ月ぶりの高さだ。企業の求人が伸びている一方、就業が進んで新たに職を探す人が減っているため。総務省が同日まとめた完全失業率は3.4%と同0.1ポイント改善した。17年4カ月ぶりの低水準。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人1人に対して、企業から何件の求人があるかを示す。正社員の有効求人倍率は0.71倍と同0.02ポイント上がり、04年以降の最高を更新した。
ハローワークが12月に受け付けた新規求人数(原数値)は前年同月より5.6%増えた。宿泊・飲食サービス業や医療・福祉、教育で10%以上増えた。新たに職を探す人は4.7%減った。少ない求職者を多くの企業が奪い合う構図になっている。
総務省の労働力調査によると、就業者は6357万人と前年同月より38万人増えた。伸びの内訳は女性が27万人、男性が11万人。女性は40代後半-50代前半が大きく増えた。雇用者に占める非正規雇用の割合は38.0%で同0.5ポイント伸びた。
12月消費者物価、上昇幅縮小続く 原油安がガソリンなど押し下げ
総務省が30日朝発表した2014年12月の全国の消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、生鮮食品を除く総合が前年同月比2.5%上昇の103.2と19カ月連続で上昇した。宿泊料やハンドバッグなど輸入品が上昇した。ただ原油相場の大幅下落を受け、4月の消費増税の押し上げ効果(2%)を除くと3カ月連続で上昇幅が1%を割った。
ガソリンが1年7カ月ぶり、灯油が2年4カ月ぶりに下落に転じており、総務省は「原油価格の大幅下落でCPIの上昇幅がかなり抑えられている」と分析していた。上昇幅は5カ月連続で縮小している。
14年平均は前年比2.6%上昇の102.7だった。2年連続で前年を上回るのは3年連続でプラスとなった1996年-98年以来で、上昇幅は91年(2.9%)以来の大きさだった。消費増税や円安進行に伴う輸入物価の上昇、夏まで高水準だったエネルギー価格が指数を押し上げた。総務省の試算によると、消費増税の押し上げ分(1.5%)を除くと1.1%の上昇になるという。
同時に発表した15年1月の東京都区部のCPI(中旬の速報値、10年=100)は、生鮮食品を除く総合が2.2%上昇の101.2だった。

いずれも網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、これだけの記事を並べるとそれなりのボリュームになります。これだけでお腹いっぱいかもしれません。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。景気後退期のシャドーについては雇用統計も同様です。

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生産は前月比で+1.0%の増産を記録しましたが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの+1.3%をやや下回って、物足りない気がしないでもないんですが、引用した記事にもある通り、製造工業生産予測調査では1月の生産計画は前月比+6.3%、2月は▲1.8%と減産に転じるものの、1月の増産幅が極めて大きく、ならせば生産は増加基調と見なして差支えないように受け止めています。ですから、統計作成官庁である経済産業省でも基調判断を前月までの「一進一退」から、「緩やかな持ち直しの動き」へ上方修正しています。現時点から昨年を振り返ると、年後半に少し停滞感があったものの、消費増税後の生産動向は総じて昨夏を底に回復基調にあるように見えます。鉱工業生産指数だけで考えると、2014年8月が底を記録しています。その前に2014年1月がピークですから、半年余りのこの期間を景気後退期と判定するかどうかはビミューなところかもしれませんが、私はどちらかといえばネガティブです。

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ついでながら、12月の生産統計が利用可能になりましたので、四半期ベースで作成している在庫循環図を書いてみました。上の通りです。緑矢印の2008年1-3月期から始まって、リーマン・ショックを経て、黄色矢印の2014年10-12月期まで時計回りに循環しています。昨年7-9月期と10-12月期は出荷が前年比プラスの在庫率がマイナスですから、出荷・在庫バランスは第2象限にあって、内閣府の「鉱工業の在庫循環図と概念図」に従えば、景気の山を越えて在庫調整を行っている景気後退期にあることになります。

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次に、雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。12月統計では先月11月に比べて、失業率は低下し、有効求人倍率は上昇し、新規求人数も増加しています。失業率は雇用の遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と見なされており、いずれの観点からも雇用は堅調であり改善を示していると受け止めています。リクルートジョブズによる昨年12月度の「派遣スタッフ募集時平均時給調査」「アルバイト・パート募集時平均時給調査」も、そこそこ上昇を示しており、来週発表の毎月勤労統計では12月の賃金が上がっているのではないかと楽しみです。

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最後に、消費者物価のグラフは上の通りです。折れ線グラフが全国の生鮮食品を除くコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが1月中旬値です。いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とは微妙に異なっている可能性があります。ということで、12月のコアCPI上昇率+2.6%のうち、日銀の「金融経済月報」2014年3月号に掲載された「消費税率引き上げ(5%→8%)が消費者物価に与える影響」に従えば、フル転嫁で全国コアCPI上昇率には+2.0%ポイントの押上げ効果があると試算されていますので、消費増税の影響を除く実力としては+0.6%ということになります。ただし、消費者物価上昇率が縮小した大きな要因として、国際商品市況における原油価格の下落があり、丸めた指数を基にした私の試算では、昨年2014年におけるエネルギーの寄与度は5月の+0.94%から12月には+26%まで、ほぼ0.7%の消費者物価上昇幅がエネルギー価格の下落により失われています。日銀の物価上昇目標の達成が厳しいどころか、消費税の影響を除くベースで近く消費者物価上昇率がマイナスに陥る可能性も否定できません。日銀がインフレ目標達成のために何らかの追加緩和策を取るかどうかに注目しています。

本日、政府から発表された主要な経済指標は、生産の増産や雇用の改善など、物価上昇の鈍化を別にすれば、総じて景気の回復ないし拡大を示唆する結果であったと私は受け止めています。想定を超えた原油価格下落というショックに遭遇した物価の先行きの動向だけが気がかりです。

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2015年1月29日 (木)

原油価格下落の影響は商業販売統計にどのように現れているか?

本日、経済産業省から昨年2014年12月の商業販売統計が公表されています。ヘッドラインとなる小売販売の季節調整していない前年同月比は+0.2%増の13兆5240億円、季節調整済み指数では前月比▲0.3%の減少となりました。また、2014年通年の小売業販売額は141兆2330億円で、前年比+1.7%の増加を記録しており、3年連続の増加となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

小売業販売額、14年は1.7%増 3年連続で増加
経済産業省が29日発表した商業販売統計速報によると、2014年の小売業の販売額は前年比1.7%増の141兆2330億円で、3年連続で増えた。4月の消費増税直後は落ち込んだが、増税前に駆け込み購入が盛り上がったほか、増税後も飲食料品など生活必需品の販売が下支えした。
小売業の業態別では、飲食料品が2.2%増えた。織物・衣服・身の回り品は2.8%、医薬品・化粧品は2.9%それぞれ増えた。業態別にみると、スーパーが前年比1.8%増、百貨店が1.6%増だった。コンビニエンスストアは5.6%増えた。
小売業全体では3月の販売額が前年同月比11.0%増となるなど増税直前は好調だったが、4月には4.3%減と落ち込み、6月までマイナスが続いた。7月以降は飲食料品や衣料品、医薬品・化粧品が持ち直し、おおむね小幅なプラスで推移した。
同時に発表した12月の小売業販売額は13兆5240億円で前年同月に比べ0.2%増えた。プラスは6カ月連続。気温が低かったため、鍋料理に使う食材やコートなど冬物衣料の販売が伸びた。大型小売店はスーパーが1.0%増、百貨店が0.2%増だった

やや通年統計に偏った印象はありますが、いつもながら、コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、商業販売統計のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期です。

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いつかのエントリーに書いた記憶がありますが、1997年の3%から5%への消費税率引上げ時には、商業販売統計の小売業は季節調整していない原系列の前年同月比で見て、1997年4月から12か月連続で伸び率マイナスを記録しました。もちろん、消費税率引上げなどの影響から1997年5月を山にして景気後退局面に入ったことも消費を押し下げた要因ですが、今回の消費増税後の消費の動向では、小売業販売額で見て4-6月こそ3か月連続で前年割れを生じたものの、引用した記事にもある通り、年央7月以降は6か月連続で前年比プラスを続けています。しかし、またまたしかしで、その前年比プラスの増加幅も昨年2014年9月の+2.3%をピークに12月の+0.2%まで縮小を続けています。この複雑な動きは季節調整指数にも見られ、上のグラフは2枚のパネルとも最近時点ではよく似た動向を示しているのが読み取れると思います。
マクロの小売業から業種別に少し詳しく、季節調整していない原系列のベースで見て、昨年2014年4月の消費増税以降、電機などの耐久消費財を含む機械器具小売業の販売額は4月から12月まで9か月連続の前年割れを記録し、自動車小売業も9月を除いて4-12月の9か月のうち8か月が前年割れのマイナスでした。また、最近の国際商品市況における原油価格下落の影響から、燃料小売業の販売額は、前年同月比で10月▲1.1%減、11月▲5.3%減、12月▲4.4%減となっています。12月の減少率は機械器具小売業の前年同月比▲6.1%減に次ぐ大きな減少幅となっています。もっとも、原油価格の下落率はこんなものではなく、名目値である燃料小売業の販売は原油価格の下落にタイムラグ伴って先行きさらに下がる可能性を否定できません。乗数効果などを別にして単純に考えると、原油価格下落はエネルギー消費を押し下げる一方で、その減少=節約分に限界消費性向を乗じた額の消費支出の増加をもたらします。限界消費性向が1を下回る限り、消費額は全体で増加しないこととなりますが、家計にとっては資金的な余裕ができることになり、次の段階の消費増税に対する防衛的な姿勢が緩む可能性はあります。賃上げが見込まれるのであれば、なおさら、消費者マインドは改善する可能性が高くなります。

明日は鉱工業生産指数、雇用統計、家計調査、消費者物価など主要な政府統計がいっせいに発表される予定です。ちなみに、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産は増産、雇用統計のうち失業率と有効求人倍率は前月と横ばいで同じ水準、消費者物価上昇率は前月からやや上昇幅が縮小、といった予想が示されています。

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2015年1月28日 (水)

博報堂「アジア14都市における和食・日本酒・緑茶の浸透度 (経験度)」にみる和食の経験度やいかに?

ひと月余り前の昨年2014年12月19日付けのこのブログのエントリーでホットペッパーによるアンケート調査を取り上げ、日本食を楽しむことが我が国への観光のひとつの眼目になっているとの結果を紹介しましたが、一昨日の1月26日に博報堂から観光で日本に来る外国人ではなく、主としてアジア各国の現地における日本食事情に関するリポート「アジア14都市における和食・日本酒・緑茶の浸透度 (経験度)」が公表されています。まず、博報堂のサイトから調査結果のポイントを3点引用する以下の通りです。

アジア14都市における和食・日本酒・緑茶の浸透度 (経験度)
  1. 食べたことがある和食は寿司がダントツ1位。次いで高いのはラーメンと天ぷら。
    和食経験は台北、香港、ソウルが突出。次いで高いのはシンガポールとメトロマニラ。
  2. 日本酒経験はアジア12都市計12.5%にとどまるものの、香港とソウルは40%前後。
  3. 緑茶の飲用経験は、アジア14都市計で52.2%。
    台北、香港、中国3都市、ソウルは70%以上。バンコクとシンガポールは60%強。

と言うことで、今夜のエントリーではこの博報堂の調査結果と全文リポートのpdfファイルから図表を引用しつつ、簡単に紹介したいと思います。

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まず、上のグラフはアジア14都市における食べたことのある和食に対する回答結果です。寿司が群を抜いてトップになっていますが、12月19日付けのエントリーで取り上げたホットペッパーの調査結果と整合的に、ラーメンが2位に食い込んでいます。また、12月19日付けのエントリーでは11位に焼きうどんが入っていたんですが、博報堂の調査結果ではうどんが堂々の4位となっています。なぜか、カレーライスは入っていません。選択肢に入れ忘れたのかもしれないと勘ぐったりしています。都市別に見ると、食べたことのある和食メニューの合計値で、台北、香港、ソウルが突出しており、シンガポールとメトロマニラの東南アジア都市がこれに続いています。

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次に、上のグラフは、最近3か月間に日本酒を飲んだことがあるかどうかとの問いの結果です。アジアからは12都市にとどまっており、宗教上の理由からジャカルタとクアラルンプールは除かれています。また、シンガポールの一部も入っていません。イスラム教は飲酒を禁じているからです。1位香港、2位ソウル、3位台北は和食の経験度でもトップスリーでしたから、日本の食文化を広く取り込んでいるのかもしれないと受け止めています。

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最後のグラフは、最近1年間の緑茶の飲用経験を問うた結果です。なぜか、日本酒が最近3か月で、緑茶が1年なんですが、この期間の設定は私にはよく理解できません。それはともかく、緑茶については中国系の都市が上位を占めています。これは分かる気がします。アジアの都市ではないんですが、ニューヨークとサンパウロに着目すると、日本酒ではサンパウロのほうが経験度が高かったんですが、日本酒ではニューヨークが逆転して3人に1人とかなり割合が高くなっています。最近の流行だったりするんでしょうか?

1月20日に政府観光庁から発表された「訪日外国人消費動向調査」によれば、2014年における1人当たり訪日外国人旅行消費額は前年比+10.7%増の15万1,374円、また、その総額は前年比+43.3%増の2兆305億円と推計され、どちらも過去最高額と推計されています。私は日本が世界に誇る文化はアニメであり、すなわち、ドラえもん、ポケモン、ガンダム、ジブリ作品だと長らく思っていたんですが、日本の食文化もアジアや世界の売れ筋なのかも知れません。あんまり関係ありませんが、久し振りに「海外生活の思い出の日記」に分類しておきます。

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2015年1月27日 (火)

原油価格低下でも横ばいを続ける企業向けサービス物価上昇率は人手不足の影響か?

本日、日銀から昨年2014年12月の企業向けサービス価格指数 (SPPI) が公表されています。前年同月比上昇率は+3.6%、消費増税の影響を除いて+0.9%を記録しました。いずれも、11月の統計から上昇率で見て横ばいです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

12月の企業向けサービス価格、前年比3.6%上昇 増税除く0.9%上昇
日銀が27日発表した12月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は102.9と前年同月に比べて3.6%上昇した。伸び率は前月と比べて横ばいだった。消費税率引き上げを除く伸び率は0.9%と前月と変わらなかった。
労働者派遣サービスの上昇率が1.2%と前月(0.9%)から拡大した。ソフトウエアの開発の受注が活発だった。広告もテレビ広告の伸びなどで0.5%上昇と前月(0.2%)から上げ幅が拡大した。
一方、運輸・郵便は1.2%上昇と前月(1.6)から上げ幅が縮小した。外国貨物輸送で不定期船の市況が悪化した。国内旅客航空で割引運賃の適用が増えたことも響いた。
企業向けサービス価格指数は運輸や通信、広告などが企業間で取引される価格水準を示す。調査対象の147品目のうち、上昇が87品目に対し、下落が33品目だった。
同時に発表された14年の企業向けサービス価格指数は、前年比2.7%上昇だった。上昇するのは2008年以来6年ぶり。消費税率引き上げを除くベースでは0.7%上昇だった。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネルはサービス物価 (SPPI) と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価 (PPI) 上昇率もプロットしています。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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2014年後半から国際商品市況における原油価格の急落があったにもかかわらず、12月の企業向けサービス物価(SPPI)の上昇率は鈍化を見せません。財で構成される企業物価(PPI)が上昇幅を大きく鈍化させ、消費税の影響を除くベースで前年同月比がマイナスに落ち込んだのとは対照的であり、上のグラフに見られる通り、青い折れ線グラフの国内物価が急激に上昇率を鈍化させている一方で、赤の企業向けサービス物価(SPPI)や緑の国際運輸を除くコアSPPIが上昇率でほぼ横ばいを続けているのが見て取れると思います。引用した記事の中でも取り上げられている通り、労働者派遣サービスやテレビ広告が上昇幅を拡大している一方で、原油価格の下落とどこまでリンクしているのかは不明ですが、運輸・郵便などが上昇幅を縮小させています。先月の統計発表時も書いた一般論ですが、企業物価のうちの財で構成される国内物価が原油価格の下落とともに上昇幅を大きく鈍化させ、消費税の影響を除けばマイナスに転じた一方で、人手不足に起因する賃金上昇の影響によりサービス物価の上昇幅はほぼ横ばいを続けています。さらに、必ずしも実証的な分析ではありませんが、調達範囲が地理的にかなり広いと考えられる財の価格に比べて、調達地域が限られていることもサービスの価格の粘着性につながっている可能性は否定できないと私は考えています。ともかく、原因が何であるにせよ、昨年後半に財とサービスの物価上昇率がかなり乖離したことは、上のグラフで見る通りです。

総務省統計局による「財・サービス分類別品目数及びウエイト」によれば、消費者物価指数において財のウェイトは約49.3%で、サービスは残りの約50.7%ですから、必ずしも消費者物価がSPPIに連動するわけではないんですが、需給ギャップの指標としてもSPPIは注目されるところです。

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2015年1月26日 (月)

2014年に最大の赤字幅を記録した貿易収支は早期に黒字転換するか?

本日、財務省から昨年2014年12月の貿易統計が発表されています。ヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない系列の前年同月比で+12.9%増の6兆8965億円、輸入額は+1.9%増の7兆5572億円に上り、差引き貿易収支は▲6607億円の赤字でした。また、2014年を通じた年間の貿易赤字は▲12兆7813億円を記録し、4年連続の貿易赤字、統計を取り始めて以来最大の赤字額を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字最大、14年12兆7813億円 下期は22.2%減
財務省が26日発表した2014年の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は12兆7813億円の赤字だった。貿易赤字は4年連続。赤字額は13年(11兆4683億円)を上回り、現行基準で統計を遡ることができる1979年以降で最大となった。昨年4月の消費増税前の駆け込み需要などで上半期に輸入額が膨らんだことが影響した。
貿易赤字が過去最大を更新するのは12年以降3年連続。ただ14年下期(7-12月)は輸出に持ち直しの動きが出てきたほか、原油価格の下落で輸入額の伸びが抑えられ、貿易赤字額は前年同期比で22.2%減少した。半期ベースで赤字幅が縮小したのは10年下期以来となった。
14年の輸入額は前年比5.7%増の85兆8865億円だった。5年連続で増加し、これまで最大だった13年(81兆2425億円)を上回り、2年連続で過去最大を更新した。昨秋以降の原油価格下落の影響で原粗油は2.6%減ったが、液化天然ガス(LNG)が11.2%増、半導体等電子部品が17.4%増、パソコンなど電算機類が10.1%増と伸びが目立った。
地域別では米国からの輸入額が5年連続で増加したほか、欧州連合(EU)、アジアからの輸入額は過去最大となった。為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=105円30銭で、前年比8.7%の円安。輸入全体の数量指数は0.6%の微増にとどまったが、円安進行が輸入額を押し上げた。
輸出額は4.8%増の73兆1052億円で、2年連続で増えた。自動車が4.9%増、液晶デバイスを含む科学光学機器が9.6%増、金属加工機械の17.7%増などが目立った。地域別では対アジア、米国、EUのいずれも前年比で増加した。輸出全体の数量指数は0.6%増だった。
地域別の貿易収支は対米国が前年比0.1%減の6兆1077億円の黒字。対EUは3年連続赤字の5721億円となったが、赤字幅は縮小した。対アジアは貿易黒字を維持したものの、黒字額は51.3%減の9234億円と4年連続で黒字が縮小した。とくに、対中国の貿易赤字が前年比14.9%増の5兆7862億円と、過去最大となったことが影響した。中国とは輸出入額とも過去最大を更新した。
同時に発表した14年12月の貿易収支は6607億円の赤字だった。赤字は30カ月連続となったが、前年同月と比較した赤字幅は3カ月連続で縮小した。
輸入額は前年同月比1.9%増の7兆5572億円で、12月としては過去最大。輸出額は12.9%増の6兆8965億円だった。原油価格が低下した影響で、原粗油の輸入額は前年同月比22.0%減少。輸入額の伸びが抑えられ、貿易収支の改善につながった。

やや通年の統計に重きを置き過ぎているきらいもありますが、いつもの通り、とてもよく取りまとめられている記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、2014年通年では過去最高の貿易赤字だったかもしれませんが、上のグラフの下のパネルの季節調整済みの系列のグラフを見れば明らかな通り、昨年2014年の後半から足元にかけての最近時点の月次の統計では、輸出が伸びて輸入が減少するという形での貿易収支の赤字幅の減少が生じていることが読み取れます。輸出の増加は、特に12月統計では、価格面と数量面の両方で生じています。輸入額の減少は国際商品市況における原油価格の大幅な下落に起因する部分が大きいと受け止めています。ですから、昨年2014年通年で見た統計史上最大の貿易赤字からの静学的な期待をもって先行きを見ると大きく見誤ることになりかねません。例えば、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは12月の貿易赤字が予測の中央値で▲7351億円、レンジで▲9414億から▲6016億円でしたから、実績の貿易収支は市場の事前コンセンサスからはかなり上振れしています。逆に、気の早いエコノミストは、現状の原油価格と為替が続けば2月にも貿易収支は黒字転換する、との見通しを明らかにしている人もいたりします。現時点で利用可能な情報から、原油安の日本への波及が私はやや遅いと感じており、そこまで急速に貿易収支が黒字化するとは考えていませんが、月次の統計で見て2015年中に貿易赤字を脱却する可能性はあると予想しています。

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次に、輸出の動向は上のグラフの通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額指数の前年同月比を数量指数と価格指数で寄与度分解したものであり、下のパネルは輸出数量とOECD先行指数(OECD/CLI)のそれぞれの前年同月比をプロットしています。ただし、OECD先行指数は1か月だけリードを取っています。下のパネルに見る輸出数量はOECD/CLIの伸びが低下してゼロ近傍になりながら、我が国からの輸出のウェイトの高い米国経済の好調な動向を受けて、最近時点では前年同月比でプラスを記録することが多く、価格面では円安が輸出額の押上げに寄与しています。米国経済がこのまま好調を持続させ、欧州経済が欧州中央銀行(ECB)の量的緩和政策により上向くと仮定すれば、我が国からの輸出に所得面からプラスに寄与することは明らかです。価格面では円安の効果がありますが、昨年のハロウィン緩和に伴うJカーブ効果はまだ少し残るかもしれません。

まだ3週間先ですが、2月16日には昨年2014年10-12月期のGDP速報1次QEが公表される予定となっています。GDPコンポーネントの外需は貿易統計だけで決まるものではありませんが、輸出入の動向だけ見ると、これだけで+2%近い外需寄与がありそうに見えます。

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2015年1月25日 (日)

ドラマ「最後の証人」を見る!

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昨夜9時から放映のテレビ朝日のドラマ「最後の証人」を見ました。原作は柚月裕子、佐方貞人シリーズの第1作であり、佐方が検事を辞めて弁護士になってからの物語で、やや倒叙型のミステリ、あるいは、リーガル・サスペンスに仕上がっています。当然、私は原作を読んでいます。ミステリですので詳細は触れないとして、原作の小説と明らかに違う点が2点だけあります。まず、佐方の部下の小坂は原作では弁護士を目指す事務員ですが、ドラマではすでに弁護士になっているようです。また、高樹夫妻は原作では離婚していません。
そして、やや倒叙型の作品ですから、原作の場合は、誰が誰を殺しての裁判かはかなり後の方になるまで明らかにされません。しかし、ドラマの難しいところはこのあたりかもしれません。かつて、2010年暮れの放映で天野節子の『目線』を仲間由紀恵主演でドラマ化した時も、主人公のあかりが車椅子である点について、ドラマでは早々に明らかになって少し興を殺がれた気がしました。今回もやや同じ雰囲気がありました。でも、いずれも原作がかなりしっかりしているので、ドラマも楽しむことが出来ました。この柚月裕子の作品は私は大好きです。いくつか読んだ中でも、もっともドラマ化しにくそうなミステリでしたが、とても楽しめました。庄司検事役の松下由樹も見る前は心許ないような気がしていたんですが、なかなかの熱演でした。

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2015年1月24日 (土)

今週の読書はテミン+バインズ『リーダーなき経済』ほか

今週の読書は少し図書館からの本の回りが遅くて、経済書1冊と小説2冊だけでした。以下の通りです。

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まず、ピーター・テミン+デイビッド・バインズ『リーダーなき経済』(日本経済新聞出版社) です。タイトルだけ見るとブレマーの『「Gゼロ」後の世界』に近い印象ですが、実は、経済にやや重点が置かれていて、かなり違っています。著者たちの関心は失業率で代理される対内均衡と経常収支で代理される対外均衡であり、マンデル・フレミング・モデルにやや似たスワン・モデルとゲーム理論の囚人のジレンマの概念で解き明かされます。さらに、いわゆる覇権国を国際協調を促す能力の点から定義、というか、性格付けをしています。特に、実際に第2次世界大戦後の経済的な国際協調を目的とする国際機関の設立に奔走したケインズの理論や活動に本書は依拠しており、p.93 からかなり詳しくケインズの理論と国際的な活動について解説していたりします。その上で、2008年のいわゆるリーマン・ショックについては、米国が減税と金融業界の規制緩和と低金利により支出を奨励した結果として失業率の低下という対内不均衡は達成したものの、金融バブルを生み出した、と結論しています。そして、先行きのシナリオとして、pp.333-34において、(1)協調的なシナリオ、(2)一国主導型のシナリオ、(3)非協調的なシナリオ、の3点を展望し、当然ながら、(1)の協調的なシナリオ実現のために、世界のリーダーが取るべき戦略や政策を終章で提示しています。とても重厚な分析と展望が提示されており、その分析がケインズ的な理論と実践の上でなされていることから、私が高く評価するのは当然でしょう。

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次に、ジョン・ル・カレ『繊細な真実』(早川書房) です。調べると作者は1931年生まれですから、軽く80歳を超えているんですが、まだ新作が出るようです。敬服しています。しかも、実に日本の特定秘密保護法に合わせて書いたかのような作品です。英領ジブラルタルで遂行されるテロリスト捕獲作戦「ワイルドライフ作戦」の影で実に不都合な非人道的結果が生じ、その国家機密に接してしまったがために人生を狂わされる人々の物語です。すなわち、そのまま出世して爵位を授けられる公務員、民間軍事会社へのコネを活かす政治家、などがいる一方で、精神を病んでボロボロになる工作員もいたりします。それをスパイ小説の巨匠が重厚な筆致であぶり出します。ただ、私の単なる一読者としての感想なんですが、やっぱり、米ソ冷戦下でのスマイリー三部作のような真に迫った作品にはかなわないような気がします。それは作者の筆力というよりも、東西冷戦下で東側の国が比較的ながら日本の近くに存在したのに対して、イスラム国(ISIS)に日本人が囚われて身代金を要求されているとはいえ、日本が欧州や米国のようなテロの前線に位置しているわけではない、という日本の国の客観的な地政学的状況のせいなのかもしれません。

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最後に、誉田哲也『インデックス』(光文社) です。『ストロベリーナイト』に始まる姫川玲子シリーズ2年振りの最新刊で短篇集です。私はこのシリーズはすべて読んでいると思います。すなわち、このシリーズのファンだったりします。取込み詐欺にあった中小企業経営者の自殺、薬物と売春がらみの男の不審死、、「ブルーマーダー」事件の後に行方不明になったヤクザの親分の行方、外国人のからむ大地主殺人事件、育児のネグレクトや無戸籍児に端を発する路上刺殺事件など、専門性の高い本庁での捜査と違って、所轄では幅広い事件を解決していきます。相変わらずカッコいいです。そして、今は係長から昇進して管理官となった前の上司の今泉の肝いりにより、姫川玲子は所轄の池袋署から本庁に復帰して、解体してしまった警視庁捜査一課姫川班がいよいよ再結成されます。次作以降、新たに警視庁姫川班に加わる井岡の存在が不気味というか、私は楽しみでもあります。今年中に再結成された姫川班の長編が出版される予定とどこかのサイトで見た記憶があります。どうでもいいことながら、上の画像に見る表紙の後ろ姿の女性のイメージは、やっぱり、竹内結子なんでしょうか?

最後の最後に、下の画像は、見れば分かる通り、ケインズをモチーフにした風刺画です。『リーダーなき経済』の p.100 に見えるものです。British Cartoon Archive のサイトから引用しています。1933年10月28日付けの New Statesman に掲載されたデイビッド・ロー描くところのケインズです。印象的でしたのでネット上で探してみました。

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2015年1月23日 (金)

NTTコムリサーチ「インターネット選挙運動に関する調査」やいかに?

2013年4月19日にインターネット選挙運動解禁に係る公職選挙法の一部を改正する法律が議員立法により成立し、選挙活動にインターネットが活用され始めていることは広く知られているとおりです。総務省のサイト「インターネット選挙運動の解禁に関する情報」でも周知に努めているところです。と言うことで、NTTコムリサーチから昨年2014年12月に投票があった衆議院選挙に関して、「インターネット選挙運動に関する調査」の結果が1月13日に公表されています。インターネットコムとの共同調査のようです。今夜のエントリーではNTTコムリサーチのサイトからいくつかグラフを引用しつつ、簡単に紹介したいと思います。

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まず、上のグラフは「2014年の衆議院選挙で、インターネットによる選挙活動が行われていたのは知っていますか?」という問いに対する回答結果です。インターネット選挙運動に対する認知度は過半数を少し超えたくらいで、まだまだ高いとはいえないんではないかと私は受け止めています。

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次に、「インターネットで解禁された選挙活動も含めて、以下のうちどの方法で政党や候補者の情報を知りましたか」という問いに対する回答結果です。テレビや新聞といった伝統的なメディアがまだまだ大きな比率を占めていますが、ニュースサイトや各党ホームページなどのインターネット上の情報に加えて、政党や候補者の Twitter や Facebook などの SNS、また、YouTube などの動画からも情報を得ていることが明らかにされています。

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最後に、「各政党や候補者のホームページやSNSで、投票において最も有意義であったものはどれですか?」に対する回答が上のグラフの通りとなっています。一つ上の情報の入所元と、すぐ上のもっとも有意義な情報の入手元を比較すれば明らかなんですが、新聞が情報入手34.6%に対してもっとも有意義な情報入手の割合が23.7%となっているのに対して、テレビではこれが41.0%と20.0%と情報を入手する割にはもっとも有意義とは見なされない比率が上がり、各党ホームページや Twitter や Facebook になれば、情報入手のパーセンテージの半分以下の「もっとも有意義な情報源」認定を受けていないことが見て取れます。やっぱり、現段階ではまだまだ新聞からの選挙情報がもっとも広範に認知された上に、もっとも有意義と見なされている、と言えようかと受け止めています。

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2015年1月22日 (木)

今年の賃上げ予想やいかに?

かなり旧聞に属する話題かもしれませんが、今年の春闘賃上げに関して、先週1月14日に第一生命経済研究所から「春闘賃上げ率の見通し」と題するリポートが公表されています。昨年の+2.19%から、今年は+2.40%と昨年を上回るベースアップを予想しています。まず、リポートから春闘賃上げ率の推移のグラフを引用すると下の通りです。

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今春闘については、連合ではすでに12月2日に「2015春季生活闘争方針の決定について」と題するプレスリリースを発表しており、賃上げ+2%以上、定昇込みで+4%以上、との賃上げ要求を決め、時短及び政策・制度実現の取組みとともに3本柱とした春季生活闘争方針を決定しています。昨年の春闘の要求が+1.0%でしたから、かなり高い要求だと受け止めています。加えて、政労使の三者のうちの残る政府は昨年から賃上げには積極姿勢を見せていますし、企業サイドでも円安を受けて製造業では企業収益は改善を示しています。非製造業は内需の低迷で一部に収益悪化も見られますが、企業サイドの収益はまずまずと考えるべきです。さらに、規模の小さい企業では人手不足の影響も出始めているように聞き及びます。従って、賃上げのバックグラウンドはほぼ整った気もします。

3月いっぱいで消費増税に伴う物価上昇の影響は一巡しますし、昨年以上の賃上げが実現すれば、原油価格下落に伴う物価上昇率の鈍化もあり、家計における実質賃金ないし実質購買力はかなり高まることから、今年の消費が期待できるんではないかと受け止めています。

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2015年1月21日 (水)

今日から開催される世界経済フォーラムのダボス会議やいかに?

本日1月21日、世界経済フォーラム World Economic Forum の年次総会、いわゆるダボス会議が始まります。土曜日の24日までと記憶しています。毎年、このダボス会議については同時期に公表される「グローバルリスク報告書」The Global Risks Report に私は注目しており、今年も Infographics のサイトからいくつか画像を引用して簡単に紹介すると以下の通りです。

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まず、Infographics のサイトから The Global Risks Landscape 2015 を引用すると上の通りです。いつもの通り、横軸がリスクの実現する蓋然性、縦軸がリスクのインパクトです。ですから、右上に位置しているほど要注意のリスクということになります。色分けは、青が経済、緑が環境、オレンジが地政学、赤が社会、紫が技術です。最も蓋然性高いのが国際紛争、もっともインパクト大きいのが水資源危機、ということになります。リポート p.16 では、地政学的なリスクとして、ロシアのクリミア半島、インドのナショナリスト傾向の進展、欧州の極右政党の動向などを例示しており、加えて、イランとシリアの国土の一部に実効支配地域を持つと言われるイスラム国(ISIS)の動向も取り上げています。

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次に、同じくInfographics のサイトから Economic Risks を引用すると上の通りです。エネルギー価格のショックが昨年から大きく右上にシフトしています。蓋然性はまだそれほど高くないものの、インパクトはかなり大きいと見込まれているようです。私の根拠ない直感では、そろそろ原油価格の下落も停止しそうな気がしないでもないんですが、原油価格とともに株価が下落するという市場動向を何度か見せつけられましたので、確かに、最近注目度を大きく増したリスクのひとつであろうと受け止めています。

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最後に、同じくInfographics のサイトから Global Risks of Highest Concern for Doing Business, for Advanced Economies and Emerging Market and Developing Economies を引用すると上の通りです。ここでも、財政危機と金融機関の倒産に次いでエネルギー価格が3番目にランクされています。

原油を始めとするエネルギー価格の動向はどうしても地政学的リスクと背中合わせで動きます。私はまったく専門外ながら、金融市場などの方向性を見極める上でも今後のエネルギー動向が気にかかるところです。

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2015年1月20日 (火)

国際通貨基金 (IMF) 「世界経済見通し改定見通し」World Economic Outlook (WEO) Update やいかに?

本日1月20日、国際通貨基金 (IMF) から「世界経済見通し改定見通し」 World Economic Outlook (WEO) Update が発表されています。副題は Cross Currents、すなわち、「相反する海流」とでも訳すんでしょうか。原油価格の下落にもかかわらず、また、米国経済が好調にもかかわらず、2015-16年の世界の経済成長は昨年10月時点での見通しからそれぞれ▲0.3%ポイント下方修正され、2015年+3.5%、2016年+3.7%成長と見込まれています。まず、IMFのサイトから成長率見通しの表を引用すると以下の通りです。なお、画像をクリックすると全文リポートのpdfファイルから総括見通しのページだけを抜き出したpdfファイルがブラウザの別タブで開くようになっています。

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ということで、下方修正の理由としてリポートでは "The revisions reflect a reassessment of prospects in China, Russia, the euro area, and Japan as well as weaker activity in some major oil exporters" と指摘しており、主要国で昨年10月の見通しから成長率が上方修正されたのは米国だけとなっています。日本経済については、昨年2014年10月の見通しから2015年▲0.2%ポイント、2016年▲0.1%ポイントの下方修正となり、成長率見通しは2015年+0.6%、2016年+0.8%と見込まれているのは上の表の通りですが、特に、2014年4-6月期と7-9月期が2四半期連続でマイナス成長を記録したことから、2014年第3四半期から「技術的な景気後退」 "technical recession" に陥ったものの、追加金融緩和と2段階目の消費増税の延期が、原油安と円安と相まって、2015-16年の成長はトレンドを上回って強化される、と以下の通り分析しています。

In Japan, the economy fell into technical recession in the third quarter of 2014. Private domestic demand did not accelerate as expected after the increase in the consumption tax rate in the previous quarter, despite a cushion from increased infrastructure spending. Policy responses-additional quantitative and qualitative monetary easing and the delay in the second consumption tax rate increase-are assumed to support a gradual rebound in activity and, together with the oil price boost and yen depreciation, are expected to strengthen growth to above trend in 2015-16.

最後に、注目の原油価格については、ダウンサイドにオーバーシュートしたかもしれない "oil prices could also have overshot on the downside" としつつ、原油価格のいっそうの低下は需要を拡大させることから歓迎すべきだが、一部には追加的な政策手段も必要となる可能性 "The boost to demand from lower oil prices is thus welcome, but additional policy measures are needed insome economies" を指摘しており、そのカギはさらなるインフレ期待の低下 "additional downdraft in inflation expectations" であると分析しています。私は個人的に日銀の金融政策については春ころにさらなる追加緩和が講じられる可能性が無視できないと考えていますが、IMFもよく似た見方なのかもしれません。

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2015年1月19日 (月)

5か月振りに改善した消費者態度指数は下げ止まりつつあるのか?

本日、内閣府から昨年2014年12月の消費者態度指数が公表されています。需要サイドの消費者マインドを代表する指標と言えます。12月の指数は5か月振りに改善を示して前月から+1.1ポイント上昇し38.8となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

12月の消費者態度指数5カ月ぶり改善 前月比1.1ポイント上昇
内閣府が19日発表した2014年12月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は38.8と、前月比1.1ポイント上昇した。改善は5カ月ぶり。内閣府は消費者心理の基調判断について前月の「弱い動きがみられる」から「下げ止まりの動きがみられる」に上方修正した。判断の引き上げは昨年6月以来、半年ぶり。
指数を構成する意識指標のうち、「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」4項目がすべて前月比で上昇した。全4項目の改善は昨年6月以来。昨年11月までは4項目すべてが3カ月続けて前月を下回り、消費者態度指数も4カ月連続で悪化していた。
1年後の物価見通しについては「上昇する」と答えた割合(原数値)は前月比1.8ポイント低下の87.0%と、7カ月ぶりに低下した。内閣府では「ガソリン価格の下落が消費者に意識された可能性がある」としている。
調査は全国8400世帯が対象。調査基準日は12月15日で、有効回答数は5471世帯(回答率65.1%)。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、新旧の系列の消費者態度指数のグラフは以下の通りです。いつもの通り、影をつけた部分は景気後退期を示しています。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。

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昨年年央2014年7月の41.5をピークにして4か月連続で低下を示していた消費者態度指数ですが、5か月振りに改善を記録しました。でも、水準としてはまだまだ40を大きく割り込んでおり、決して堅調とまでは言えませんが、統計作成官庁の内閣府が基調判断として示したように、「消費者マインドは、下げ止まりの動きがみられる」と言うことのような気がします。「下げ止まった」と言うほど確実ではありません。引用した記事にある通り、「暮らし向き」、「収入の増え方」、「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」の4項目のコンポーネントすべてが上昇していますが、単純に季節調整済みの系列で見た前月差で、もっとも大きな上昇を示したのが「雇用環境」であり、前月差で+1.3ポイントになります。また、基準日が12月15日ですから、ほぼボーナスが出たタイミングと考えられ、さらに、今冬の年末ボーナスはよかったんではないかと私は想像しているところ、「収入の増え方」は全体の消費者態度指数と同じ前月差+1.1ポイントの改善となっています。
いつも、このブログに書いているように、消費はマインドと所得で決まると私は考えています。所得が年末ボーナスあたりから徐々に上向き、明日にでも取り上げるつもりですが、今春闘の賃上げが昨年を上回って、消費増税の物価へのショックが3月いっぱいで一巡すれば、あるいは、恒常的な所得も上向いてマインドも下げ止まることとなれば、とっても仮定が多いのが気にかかるものの、そう遠くない時期に消費が上向く条件が整うような気がします。でも、次の段階の消費増税に備えた家計防衛的な消費の抑制なのだとすれば、もう少し時間がかかる可能性もあります。

明日は今春闘の賃上げ予想について取り上げる予定です。第一生命経済研究所からリポートが出ています。

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2015年1月18日 (日)

関東と関西における食べ物の呼び方の違いを考える!

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1月9日付けのJタウン研究所のサイトに「『おしるこ』はこしあん? 粒あん? アンケートの結果が東日本・西日本で全く違っていた!」と題する都道府県別のアンケート調査結果が発表されていました。地方により食べ物の中身や呼称がまったく異なるとの結果で、「おしるこ」については上の地図の通りです。
関西圏の中でも京都はおしるこがこしあんである比率が高い方なんですが、私は「おしるこ」はこしあん、「ぜんざい」が粒あんと区別していました。また、食べ物については関西と関東の呼称の違いが特に大きい印象を持っており、鶏肉は京都で「かしわ」、ゆで卵は「にぬき」、トウモロコシは「なんば」、たくあんは「(お)こうこ」と呼ばれます。他にもあるかもしれません。食べ物ではありませんが、その昔に使っていたであろう七輪は「かんてき」と言います。なお、鶏肉の「かしわ」は、おそらく「柏」であり、京都以外でも、馬肉を「さくら」、鹿肉を「もみじ」、猪肉を「ぼたん」と呼ぶ一連の動物の肉を植物で呼ぶ名称の中に位置づけられているような気がします。もっとも、四つ足動物の肉でもっとも消費量が多いであろう牛肉と豚肉はこういった植物由来の名称は聞いたことがありません。

まあ、何となく、京都出身でありながら東京に長らく住む者として、時折、こういったことは頭を去来します。

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2015年1月17日 (土)

今週の読書はアマトーリ/コリー『ビジネス・ヒストリー』ほか

今週の読書は、2011年の世界的なベストセラーである『ビジネス・ヒストリー』の邦訳本ほか、小説も文庫本もいっぱいあって、以下の通りです。

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まず、F.アマトーリ/A.コリー『ビジネス・ヒストリー』(ミネルヴァ書房) です。私の記憶が正しければ、2011年に出版されて世界中でベストセラーになった経営史の本です。著者はいずれもイタリアのボッコーニ大学の研究者で、関西大学商学部の先生方によって、ようやく邦訳が出版されたようです。本書はとても大きなタイトルなんですが、タイトル負けしていません。いわゆるポスト・チャンドラー主義に基づく正統派の経営史に仕上がっています。でも、さすがに、世界の経営史をすべて網羅することは出来ないわけでしょうから、いくつかポイントが置かれており、時期的にはいわゆる産業革命前後から始めるとともに、産業としては製造業中心であり、すべての規模の企業ではなく、大企業、すなわち、ビッグビジネスを中心に取り上げています。まず、企業経営の担い手である企業家については、「高額の報酬を得る新しいタイプの経営者」(p.31)と呼び、「官僚的な経営者は突然いなくなった」(p.31)と、トマ・ピケティなら反論しそうな経営者像を提示しています。その上で、機械制の工場が成立した第1次産業革命、鉄道を主体とする輸送網と電信を主体とする通信網が出来上がった第2次産業革命、そして、インターネットによる通信、飛行機による高速輸送、原子力の利用やバイオテクノロジーを用いた物理材料の展開で象徴される現在進行形の第3次産業革命のそれぞれをエポックとして経営史を跡付けています。第1次産業革命によりそれ以前の問屋制から工場が成立して、労働者をひとつの場所に集める生産様式が普及し、さらに、第2次産業革命により垂直的及び水平的な企業統合がビッグビジネスを生み出し、本書の対象外ですが、資金調達のための金融面を考えると、大陸欧州ではユニバーサル・バンキングが発達する一方で、英米では直接金融を行う投資銀行が活躍の場を見出します。そして、通信と輸送のイノベーションに伴って、ビッグビジネスのアウトソーシングが始まっています。国別の経営史概観も十分な考察がなされており、第1次産業革命をリードした英国、さらに第2次と第3次の産業革命を主導する米国に対するキャッチアップの動きが分析されています。もちろん、日本もこの中に入ります。戦後日本の経営モデルとしては、政府の産業政策、株式持合いや系列による企業の連携、独特の日本的雇用習慣で特徴付けられる労使関係、そして、金融はメインバンク制による資金調達、の4つの特徴を指摘しています(p.353)。実に適切と受け止めています。とても印象的で、私が最近読んだ経済経営書の中では出色の出来だと思います。その上で、細かな批判を2点だけ指摘すると、p.166に「ドイツ版の産業改革であった国家社会主義」なる表現が見られます。「国家社会主義」とは明らかにナチであり、日独とともに枢軸を組んだイタリアの研究者とはいえ、少し軽率な表現と考えます。それから、これは著者の責任ではないんですが、訳注の量が多いとともにセンスが悪過ぎます。「松下{現在のパナソニック}」なんて、ヤメて欲しい気がします。

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次に、佐藤正午『鳩の撃退法』上下(小学館) です。ベテラン人気作家の最新刊ですが、実は、私はこの作家の作品は読んだことがありませんでした。小説の舞台は地方都市であり、作者の済む佐世保が色濃く意識されているような気がしてなりません。長崎出身の作家としては、県南出身の吉田修一の人気が高いんですが、佐世保や県北作家も少なくない土地柄なのかもしれません。長崎県に2年間住んでいたものの、そのあたりは詳しくありません。この作品は作家が小説を書くという作業を小説にしたという意味で、まあ、ありがちな手法なのかもしれませんが、なぜか偽札が反社会的な存在とともに主人公の作家にまとわりついてきて、社会の裏側のストーリーになってしまいます。もっとも、この主人公の作家が直木賞作家らしいんですが、書き始めの時点ではデリヘルのドライバーで、終わりの時点でもバーのバーテンダーですから、夜の職業を転々としているといった雰囲気を出したいのかもしれません。極めてざっくりと言えば、偽札にまつわる謎と消えた家族にまつわる謎を重層的に解き明かそう、というか、必ずしも真実を明らかにするという意味ではなく、作家が小説を練り上げていく上で整合的に解決、というか、事実を組み立てるにはどうすればいいか、に着いて作家が悩む物語です。かなり複雑な構成を用いた小説であり、読者の側でも論理性が要求されます。別の場所で出会っていれば幸せに慣れたかもしれない、という表現に対して、それなら小説家は別の場所で出会わせるべきである、というのが私の印象に残っています。この作家の作品が好きであればこの小説も読んでおくべきかもしれませんが、まあ、パスしてもよさそうな気がします。

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次に、高村薫『四人組がいた。』(文藝春秋) です。基本的に、この作者はミステリ作家であり、私も何冊か読んだ記憶があります。直木賞を授賞された『マークスの山』から始まる合田雄一郎のシリーズ、すなわち、『照柿』、『レデュ・ジョーカー』、『太陽を曳く馬』、『冷血』、さらに、映画化もされた『黄金を抱いて翔べ』などです。直木賞をはじめ、いくつかミステリの賞や文学賞なども授賞されているハズです。ということで、この作者の初めてのユーモア小説と銘打たれています。市町村合併で忘れ去られたような寒村に暮し、郵便局兼集会所に集まる元村長、元助役、郵便局長、そしてキクエ小母さんの4人の老人が繰り広げるホラ話、というか、与太話の短編集です。タヌキが人間に化けて登場したり、イワナがしゃべったり、見た目が30歳も若返る泉があったり、はたまた、タヌキのアイドル・グループTNB48とか、地元特産のキャベツが行進したり、最後は地獄の閻魔さまが登場したりします。まだまだ枯れたわけでもない欲深い高齢者が、自然あふれる純朴な田舎とはほど遠い地方から、現在の日本に対してシニカルに話題を提供しています。何とも評価に困る作品です。

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次に、深水黎一郎『最後のトリック』(河出文庫) です。2007年に第36回メフィスト賞を受賞し、講談社ノベルスより出版された『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』を改定して文庫に収録した作品です。私はこの作者の作品は初めて読みました。文庫収録前の作品タイトルからお分かりのように、この作品は読者が犯人というトリックです。最後までそれなりに注意深く読んで、この「読者が犯人」というトリックが成立するかどうかを私なりに判断すると非常にビミューなところなんですが、私としては成り立っている方に軍配を上げたいと思います。というのは、「殺人」という概念にいくつかのバージョン、すなわち、故殺から事故死やナントカ致死などがあるのを捨象して、あくまで人が死ぬという1点に絞って、それに対して読者がその人の死という結果に対する原因になるという意味では、読者が本を読むという行為を行う限り、このトリックが成り立っていると考えざるを得ないからです。逆から見て、このトリック以外に読者が犯人になることは私には考え付きません。ということで、ミステリの読書感想文ですから奥歯に何か挟まったような表現にならざるを得ないながら、この「読者が犯人」と言うトリックは成り立っていると私は考えています。しかし、ホントの「最後のトリック」かどうかは疑問が残ります。というのは、この作品はいわゆる倒叙ミステリなんですが、そうではなくて、殺人ないし何らかの事件という結果が先にあって、そこから時間をさかのぼって原因となる事実、しかもそれが「読者が犯人」という事実を解明するというミステリの通常の叙述が出来れば、私の考えるホントの意味での「最後のトリック」が完成すると言うべきです。そういったトリックをミステリ・ファンや私は待ち望んでいます。

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最後に、松岡圭祐『万能鑑定士Qの謎解き』(角川文庫) です。この作者のこの「万能鑑定士Q」シリーズの作品については私はすべて読んでいると思います。と言うか、この「万能鑑定士Q」シリーズは「事件簿」12冊、「推理劇」4冊、「短編集」2冊に、前作の「推理譚」とこの「謎解き」のすべてに加え、姉妹シリーズに当たる「特等添乗員α」のシリーズ5冊と合わせて、おそらく私はすべて読破しており、ついでながら、「事件簿」第9話の『モナリザの瞳』が綾瀬はるかと松坂桃李の主演で昨年年央に映画化されていますが、それも見ていたりします。要するに、私はこのシリーズのファンだということです。と言う前置きはともかく、この作品では大きな舞台として緊張感あふれる日中の国際関係を選び、唐三彩の壺と仏像の帰属すべき国を鑑定しつつ、その裏では大がかりな模造複製品を製造するグループが暗躍する、というストーリーです。最後は安倍晋三総理と習近平主席による和解の場面まであったりします。

今週も何冊か図書館で借りました。でも、年度末に差しかかって仕事が忙しいのと、どうも体調がすぐれないので、少し読書のペースは落とした方がいいのかもしれないと考えないでもありません。

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2015年1月16日 (金)

明日から始まるセンター試験、がんばれ受験生!

明日から大学入試センターによるいわゆるセンター試験が始まります。1月13日に志願者数が確定して記者発表されており、今年は559,132人が志願しているそうです。少子高齢化が進み、昨年から1,540人、0.3%の減少となっています。それでも、大学全入はまだ先のお話でしょうから、何らかの選抜試験は必要かもしれません。数年前まで、我が家でセンター試験と言えば私が試験監督をすることを意味し、英語のリスニングの機器に不具合が出ないように祈っていたんですが、今年は上の倅が受験するようになりました。決して親バカだからではなく、全力を出し切って欲しいと思います。

もちろん、我が家の上の倅も含めて、
がんばれ受験生!

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最後に、上の合格絵馬はいつものARTBANKのサイトから引用しています。

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2015年1月15日 (木)

伸びが鈍化した機械受注と消費税の影響を除き上昇率のマイナスが続く企業物価!

本日、内閣府から昨年11月の機械受注が、また、日銀から12月の企業物価 (PPI) が、それぞれ発表されています。ヘッドラインとなるデータを見ると、機械受注が電力と船舶を除く民需で定義されるコア機械受注が季節調整済みの系列で前月比+1.3%、7880億円を記録し、国内企業物価上昇率は前年同月比で+1.9%と上昇幅が大きく鈍化しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月機械受注、前月比1.3%増 基調判断は5カ月ぶり下方修正
内閣府が15日発表した2014年11月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の受注額(季節調整値)は前月比1.3%増の7880億円だった。製造業が減少したものの、非製造業が増加したことが寄与し、2カ月ぶりにプラスになった。しかし伸びは小幅で、QUICKが14日時点でまとめた民間予測の中央値(5.0%増)には届かなかった。
内閣府は機械受注の判断を前月の「緩やかな持ち直しの動きがみられる」から「持ち直しの動きに足踏みがみられる」へと5カ月ぶりに下方修正した。全体では2カ月ぶりのプラスでも製造業、非製造業ともに減少した業種の数が増加した業種より多かったことなどを踏まえた。
主な機械メーカー280社が船舶・電力を除いた非製造業から受注した金額は0.5%増の4449億円と2カ月ぶりに増加した。情報サービス業からのコンピューターやリース業からの建設機械の受注が増えた。
一方で製造業から受注した金額は7.0%減の3198億円と2カ月連続で減った。化学工業向けの化学機械や情報通信機械向けの半導体製造装置、鉄鋼業向けの運搬機械が10月に伸びた反動で減った。
企業物価2カ月連続下落 12月、増税の影響除き0.9%
日銀が15日公表した2014年12月の国内企業物価指数(2010年平均=100)は104.8と、前年同月に比べて1.9%上昇した。上昇幅は14年11月より0.7ポイント縮小した。前月比では0.4%下がり、3カ月連続で下落した。消費税率引き上げの影響を除くと前年同月比0.9%の下落で2カ月連続のマイナスだった。日銀が掲げる年2%の消費者物価の上昇目標達成に不透明感が強まっている。
消費増税の影響を除く下落幅は12年11月(マイナス1.1%)以来、2年1カ月ぶりの大きさだった。
原油安を背景とした石油・石炭製品の値下がりが全体を押し下げた。日銀は「前年同月に建築資材向けにスクラップ類などの価格が上昇した反動も加わった」(調査統計局)とみている。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの価格動向を示す。公表している814品目のうち、前年同月で上昇したのは384品目、下落したのは344品目だった。上昇した品目が下落した品目を上回るのは16カ月連続だったが、品目数の差は9月以降縮小傾向にある。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。影をつけた部分は、続く企業物価も含めて同様に、景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは1月9日時点で前月比+5.1%増、記事に従えば、1月14日時点で+5.0%でしたから、実績のコア機械受注プラスとは言え、決して堅調とみなせる水準ではなかったと考えるエコノミストは多かったと受け止めています。そして、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏み」に下方修正しています。10月の前月比▲6.4%に比べて、11月の反発はわずかに+1.3%でしたから、ならして見て弱い動きであることは言うまでもありません。コア機械受注としてのヘッドラインの動向だけでなく、中身も幅広い業種でマイナスに転じていたり、プラス幅を縮小させています。加えて、コア機械受注の外数ですが、先行指標と見なされている外需もマイナスに転じており、全体として物足りない内容です。コア機械受注を見る限り、消費増税後の景気のけん引役としての設備投資にはまだまだ力強さが欠けていると考えざるを得ません。他方、機械受注以外の設備投資の指標である鉱工業生産指数の資本財出荷は持直しの兆しが見られますし、日銀短観などに示された設備投資計画でも増加を維持していますので、設備投資はどこかで反転上昇する可能性はまだ残されているんではないかと私は考えています。おそらく、設備投資増に転じると仮定すれば、その大きな要因は人手不足なんではないかと想像しています。

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に、企業物価上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価と輸出入物価の上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。ヘッドラインとなる国内物価が上昇幅を縮小させているのは、引用した記事にもある通り、国際商品市況での原油安が石油・石油製品の価格下落を通じて企業物価全体を押し下げた結果と受け止めています。先月発表された11月の国内物価から消費増税の影響を除いて上昇率がマイナスに転じ、11月の国内物価の前年同月比上昇率は▲0.2%でしたが、12月は▲0.9%と下落幅を拡大しています。原油価格に起因する物価の下落に中央銀行はどう対応すべきか、国際的な動向にも注目ですが、私は日本の場合は日銀は何らか追加的な緩和策を取るような気がしています。直感であって根拠はありません。

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加えて、目を国際機関に転ずると、一昨日1月13日に世銀から「世界経済見通し」Global Economic Prospects が発表されています。上の画像はそのインフォグラフィックスです。世界経済の成長率は2015年+3.0%の後、2016年+3.3%、2017年+3.2%と安定的な成長を続けると見通されており、日本も2015年+1.2%、2016年+1.6%、2017年+1.2%と潜在成長率をやや上回る成長が見込まれています。第1章が世界経済の見通し、第2章が地域経済の見通し、第3章が財政政策の分析、そして、第4章は石油価格の動向、世界貿易の減速、送金流入(remittances)の安定性の3テーマが分析されています。私の興味の範囲ですが、石油価格の下落は中国やインドなど石油を輸入している新興国の経済成長に追い風になる一方で、インフレ率を低下させることから米国連邦準備制度理事会(FED)など先進国の中央銀行が金融引締めに転換する時期が遠のくと分析しています。この視点は私と同じです。

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2015年1月14日 (水)

マクロミル「2015年 新成人に関する調査」に見る今年の新成人やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週1月8日にネット調査大手のマクロミルから「2015年 新成人に関する調査」の結果が公表されています。私の記憶が正しければ、新成人に関する意識調査については、一昨年2013年はマクロミルを、昨年2014年はマクロミルの結果がまだ出ていなかったのでセイコー・ホールディングスの調査結果を、それぞれ取り上げたところ、今年はマクロミルに回帰しました。まず、マクロミルのサイトから調査結果のトピックスを8点引用すると以下の通りです。

トピックス
  • "日本の未来"は「明るい」と思う34%、昨年よりも10ポイントダウン
  • "自分の未来"は「明るい」と思う68%、昨年よりも5ポイントアップ
  • これからの日本の政治に「期待できない」81%
  • 7割が、自分たちの世代が"日本を変えてゆきたい"
  • 「国民年金は、将来、自分がもらえるか不安」91%
  • パソコンの所有率、昨年の新成人よりも大幅減
    スマホはiPhoneが43%で9ポイントの大幅増
  • 2015年新成人のSNS利用率96%、昨年に比べ 5ポイント増
    「LINE」は93%、「Twitter」は74%が利用
  • 今後の活躍に期待する新成人ランキング
    1位「羽生結弦」、2位「大谷翔平」、3位「佳子さま」、1-2位をアスリートが独占

なかなか興味深い結果だと思いますし、何となくですが、定点観測的に新成人の意識調査を見ていますので、ネット調査のサンプル500ですから、それなりにバイアスは大きいとは考えられるものの、今年もいくつかグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、マクロミルのサイトから 日本の未来 と 自分の未来 のグラフを合体させたのが上の画像です。昨年2014年と比較して、日本は明るくない方向に、自分は明るい方向に少し割合が変化しています。見れば明らかですが、「どちらかといえば」の層で「明るい」から「暗い」にスウィングしているのが見て取れます。これがそのまま10%ポイントのスウィングにつながっています。興味あるのは理由なんですが、暗いと思う理由では、「少子高齢化が進んでいるから」、「政治が良くないから」、「国の借金が膨らんでいるから」などが主な理由として上げられているようです。自分の未来に関する下のパネルの吹出しは「10ptダウン」となっていますが、どう見ても「5ptダウン」だと思います。上のパネルの吹出しを使い回した単純ミスと受け止めています。日本の未来に比べて、自分の未来は「どちらかといえば」のない「明るい」が大きく増加しています。単純に楽観的なだけかもしれませんが、今年の新成人には大いに期待したいと私は考えています。

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次に、同じくマクロミルのサイトから 「日本の政治」への期待度 と 自分たちの世代が日本を変えていきたいか の2つのグラフを合体させています。カギカッコ付きの「日本の政治」には期待度低いものの、自分たちの世代が日本を変えていく気概は「やや」付きながら「そう思う」という割合が高いのは例年の通りです。この点でも私は新成人に毎年大きな期待を寄せています。それから、引用した8点のトピックスの5番目以下の詳細については省略します。でも、2点だけ図表なしで言及しておくと、デジタル機器の保有については、ネット接続という意味なんだろうと思いますが、パソコンが減ってスマホやタブレットが増加しています。そうなんだろうと思います。また、今後の活躍に期待する新成人については、2番目に日本ハムの大谷選手が入っているんですが、我が阪神タイガースの藤波投手も7位にランクインしています。

マクロミルのサイトにあるプレス・リリースだけでなく、調査結果詳細レポートPDFもアップされています。ご参考まで。

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2015年1月13日 (火)

久し振りに改善した景気ウォッチャーと原油価格下落で黒字を続ける経常収支

本日、内閣府から12月の景気ウォッチャーが、また、財務省から11月の経常収支が、それぞれ公表されています。景気ウォッチャーの現状判断DIは前月から3.7ポイント上昇の45.2を記録し、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+4330億円億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

12月の街角景気、現状判断指数5カ月ぶり改善 基調判断は据え置き
内閣府が13日発表した2014年12月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は前月比3.7ポイント上昇(改善)の45.2だった。改善は5カ月ぶり。年末商戦など消費の盛り上がりを反映した。
2-3カ月後の景気を占う先行き判断指数は前月比2.7ポイント上昇の46.7と、7カ月ぶりに改善した。「消費税増税の先送りにより、先行きの不透明感が薄れ、消費は上向く」(近畿・スーパー)との見方や、「総選挙後の経済対策や燃料価格の下落などにより、景気の回復が期待される」(九州・輸送業)など、円安対策や個人消費のテコ入れ策を盛り込んだ経済対策など政府の政策への期待を挙げる声があった。
その一方で、内閣府は基調判断を「このところ回復に弱さがみられる」とし、前の月から据え置いた。据え置きの理由については、円安進行が輸出企業にとってプラスに働く一方、輸入価格の上昇につながるなど「プラスとマイナスの要因が混在していること」などを踏まえた。
先行きについては、「物価上昇の懸念等が引き続きみられるものの、経済対策や燃料価格低下への期待等がみられる」と指摘。政府の経済対策や、原油安による燃料価格の下落への期待の表現を新たに加えた。
調査は景気に敏感な小売業など2050人を対象とし、有効回答率は89.3%。3カ月前と比べた現状や2-3カ月後の予想を「良い」から「悪い」まで5段階で評価して指数化する。
11月の経常黒字4330億円 第1次所得黒字が同月として過去最大
財務省が13日発表した2014年11月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は4330億円の黒字だった。黒字は5カ月連続。経常収支は13年11月の5969億円の赤字から改善し、QUICKがまとめた民間予測中央値(1255億円の黒字)を上回った。原油安を背景に輸入額の増加が小幅にとどまり、貿易赤字の縮小につながったことに加え、円安進行で企業の海外での投資収益を示す第1次所得収支の黒字が同月として過去最大となり、経常収支の改善につながった。
昨年11月の貿易収支は、輸送の保険料や運賃を含まない国際収支ベースで6368億円の赤字。赤字額は前年同月比42.4%縮小した。貿易赤字は17カ月連続。輸出額は半導体等電子部品や金属加工機械などの増加が目立ち、全体で前年同月比10.8%増の6兆3221億円となった。輸出額が前年を上回るのは21カ月連続。
一方、輸入額は2.2%増の6兆9590億円。6カ月連続で前年を上回ったが、増加率は小幅にとどまった。前年は高止まりが続いていた原粗油が輸入数量、金額ともに減少した。14年1-11月の貿易赤字の累計は、通年で過去最大だった13年(8兆7734億円)を上回った。11月の輸入額は品目別ではスマートフォン(スマホ)を含む通信機などが増加した。
サービス収支は1063億円の赤字で、赤字額は前年の2481億円から縮小した。「知的財産権等使用料」の黒字額が11月として過去最大となったほか、訪日外国人観光客数の増加などで旅行収支の黒字が続いたことなどがサービス収支全体での赤字幅の縮小につながった。
第1次所得収支は1兆2760億円の黒字。黒字額は前年同月比44.4%増と大幅に伸び、11月としては比較可能な1985年以降で最大となった。第1次所得収支の黒字は14年1-11月の累計で、通年で過去最大の2007年(16兆4818億円)を上回った。

いつもながら、やや長い気はするものの、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いつもの通り、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは5か月振りの改善となり、その改善幅もまずまずでした。先行き判断DIに至っては7か月振りの改善だったりします。現状判断DIを構成する家計、企業、雇用の3つのコンポーネントともに改善を示しましたが、家計の改善幅が最大で+4.7ポイント、企業は半分以下の+2.0ポイント、雇用はもともとの水準が高いとはいえ改善幅はさらに小さく+1.4ポイントでした。軽く想像される通り、企業の中でも製造業よりも非製造業の方の改善幅が大きい結果となりました。その要因として、景気判断理由集(現状)では、引用した記事にもある通り、経済対策への期待であるとか、原油価格下落に伴う燃料価格低下の予想などが上げられています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「景気は、このところ回復に弱さがみられる。先行きについては、物価上昇への懸念等が引き続きみられるものの、経済対策や燃料価格低下への期待等がみられる」と示しています。先行き判断は少し変更されたようですが、現状判断では「回復に弱さ」ということで据置きなんだろうと私は受け止めています。

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経常収支のグラフは上の通りです。季節調整済みの系列をプロットしていますので、季節調整していない原系列に基づく引用記事とは少し印象が異なるかもしれません。青い折れ線グラフが経常収支を示しており、積上げ棒グラフがそれに対する寄与となっています。色分けは凡例の通りです。季節調整済の系列で短期的に見た経常収支は、直近では2014年年央、具体的には2014年7月をボトムに黒字幅が拡大しています。足元では相反する2つの方向に働く動きがみられます。ひとつは短期的に経常赤字をもたらす円安であり、日銀のハロウィン緩和に起因します。もうひとつは、言うまでもなく、昨年後半から大きく進んだ原油安です。割合としては、数%ないし10%程度の円安よりも、50%に届きそうな原油安の方が経常収支へのインパクトは大きく、価格面から経常黒字を拡大する方向となっていると受け止めています。需要面からは、米国経済が堅調な他は、日欧とも景気はほぼ停滞しており、新興国も中国などは冴えない展開となっていますから、にわかにはどちらに作用するかは判断できかねます。少し前までは海外経済の天体による需要面が我が国経常収支の赤字をもたらしていたと考えられますが、短期的には足元の経常黒字は価格面の効果が強いと考えるべきです。

景気ウォッチャーに現れた供給サイドのマインドは底を脱したように見えなくもないですが、来週発表の需要サイドの消費者態度指数とも見比べながら、今年の景気を占う材料としたいと考えています。

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2015年1月12日 (月)

TC Candler による 100 Most Beautiful Faces 2014 やいかに?

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私はこの週末は3連休だったんですが、そういうサラリーマンの方なども少なくないと思います。ということで、休日のヒマネタです。とても旧聞に属する話題ですが、昨年2014年12月27日に、TC Candler から 100 Most Beautiful Faces 2014 が発表されています。私はこの分野に馴染みがないんですが、日本人ではNo.7に桐谷美玲が入っています。上の画像では右から3人目ではないでしょうか。それから、石原さとみがNo.25に、このランキングのおなじみの佐々木希がNo.43に、それぞれランクインしていたりします。昨年もこの3人だったと記憶していますが、順位は忘れました。下は、YouTube にアップされている関連動画だったりします。

それから、私は何の興味もないんですが、というか、100 Most Beautiful Faces 2014 もそれほど興味あるわけではないものの、さらに興味を持てない 100 Most Handsome Faces 2014 も公表されていたりします。ご参考まで、下の通りです。

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普通の日記 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年1月11日 (日)

先週の読書は文庫本を中心に小説ばかり4冊ほど!

この週末に何冊か新たに図書館から借りましたが、取りあえず、先週の読書は小説ばかり4冊で、そのうち3冊が文庫本だったりします。しかもしかもで、その3冊の文庫本のうち、2冊が買ったものだったりしますので、買った本が半分を占めるのは最近ではめずらしいような気がします。買ったのはシリーズものの最新刊で、居眠り磐音の江戸双紙シリーズ最新刊48話『白鶴ノ紅』とビブリア古書堂シリーズ最新刊第6話『ビブリア古書堂事件験手帖 6 栞子さんと巡るさだめ』です。

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まず、福田和代『ユダの柩』(朝日新聞出版) です。何と申しましょうか、この作者のデビュー作の『ヴィズ・ゼロ』とか、その次の『TOKYO BLACKOUT』に戻ったようなカンジで、天下国家のようなとても大きな物語を中途半端に展開しています。とても大きな物語の日本の政府開発援助 ODA とアフリカの架空の小国マムリアの独裁政権の動きについて、追いかけていて、日本でアフリカから来たマムリア人が次々と死んでいく事件だか、事故だかについて、日本の公安警察の方からと、アフリカ駐在の商社マンやメディア特派員の両方向から追っています。小説としてはよくある方法論なんですが、どうしようもなく深みに欠けていて、最後に明かされる一連のアフリカ人の死亡の裏にある因果関係についても、何やら上っ面を引っかいただけのような気がしてしまいます。しかも、そのアフリカやODAなどの国際感覚に沖縄や米軍基地まで盛り込んで、ともかく大きな物語にしようという作者の心意気は買えますし、それはそれでスラスラと手早く読めていいんですが、それにしてはスケールが小さすぎます。ハラハラドキドキもしないし、感情移入して読むのもナンですし、心に残る何かがありません。読後2-3か月ですぐに忘れてしまいそうな内容です。でも、エンタメ小説とはそんなものかもしれません。後の世で古典と見なされることもなく、20-30年後には跡形もなく消えている気もしますが、現時点で楽しく読めれば全然OKという気もします。

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次に、ピエール・ルメートル『その女アレックス』(文春文庫) です。この作者の作品は初めて読んだんですが、パリ警視庁のカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの第2作だそうです。タイトル通りのアレックスなる女性にまつわるミステリなんですが、3部構成になっています。以下、ややネタバレっぽいので自己責任で読み進んで下さい。ご注意です。ということで、第1部では主人公たるアレックスが誘拐されてしまいます。第2部では脱出したアレックスが実はシリアル・キラーだったのではないか、しかも、江戸川乱歩の「石榴」とは違う趣向で硫酸を飲ませて殺しており、かなり猟奇的な殺人犯ではないのか、といった具合に話が進み、最後の方で思いもしなかった結末が控えています。ジェフリー・ディーヴァーとはまた違った雰囲気でありながら、次々と意外な展開が待ち構えていて最後にどんでん返しがあり、それはそれで面白かった気がします。でも、最後の最後は何が真実なのかは明らかにされません。読者の解釈次第という面もありますし、余韻を残したいという作者の意図なのかもしれません。このシリーズがもっと出版されたら日本でも人気が出るような気がしないでもないんですが、ディーヴァーの作品ほどには評価が上がらないように私は受け止めています。その理由は主人公とその相棒のキャラ設定の差であろうと私は考えています。カミーユ・ヴェルーヴェンとルイ・マリアーニよりもリンカーン・ライムとアメリア・サックスの方に私は軍配を上げます。

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次に、三上延『ビブリア古書堂事件験手帖 6 栞子さんと巡るさだめ』(メディアワークス文庫) です。シリーズ第6話となり、あと1-2巻で終了と作者ご自身があとがきで書いています。この第6話は太宰特集です。すなわち、太宰治の稀覯本をめぐる盗難事件や謎解きとなっています。小中学生にも有名な『走れメロス』、さらに、『駈込み訴へ』、『晩年』の3冊をめぐるミステリです。今回は栞子の母親である智恵子は登場しません。妹の文香も大学受験を控えてなのか、とても影が薄いです。かと言って、栞子と大輔の仲が急に進むわけでもなく、最初に戻りますが、太宰の稀覯本をめぐるミステリに明け暮れます。一応、ミステリですので、詳細は明らかにしませんが、2点ほど気になっている点について取り上げると、まず、なかなかストーリーが進みません。この作品の中では、まだ2011年の震災から数か月というカンジで、年末に映画の「海月姫」を見に行った際の感想文にも書きましたが、フィクションの小説やマンガにはよくありそうな気もしますが、連載ではなく書下ろしなんですから、何とかならないものかとも考えてしまいます。それから、話が進むにつれて、古書業者だけの間のストーリーになっている恐れはないでしょうか。その元祖ともいうべき田中敏雄、すなわち、栞子を石段で突き落として大怪我を追わせた犯罪者、から手紙が来るところからこの第6話が始まりますし、何としても手段を選ばずに稀覯本を入手するという登場人物も少なくありません。読後感が悪いので、何とかならないんでしょうか?

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最後に、佐伯泰英『白鶴ノ紅』(双葉文庫) です。「ビブリア古書堂」シリーズと同じで、この「居眠り磐音の江戸双紙」シリーズも作者ご自身が50巻までと明らかにしていますので、この48巻の後は2冊ということになります。ですから、話の進みが早いです。以下、またまた、ややネタバレっぽいので自己責任で読み進んで下さい。ご注意です。ということで、年末に発売された前作の47話で佐野政言が老中田沼意次の嫡男意知を城中で殺害したんですが、この48巻ではその後2年を経ています。この2年間に、磐音の許嫁だった奈緒が山形から江戸に到着し、紅屋を開いて商いも順調に進み、武左衛門の次女昭世と次男市造が紅関係で奉公に上がっています。武左衛門と勢津の子供4人は長女早苗が尚武館に、長男修太郎が研ぎ師になるために鵜飼百助に弟子入りしており、すべて巣立ちます。尚武館道場の2人の高弟が祝言を上げて、重富利次郎が霧子と結ばれて豊後関前藩に召し抱えられて江戸藩邸におり、松平辰平は箱崎屋の三女杏とともに黒田藩博多城下で暮らしています。さらに、鎌倉の尼寺に入っていた関前藩主福坂利高の正室お代の方が還俗して江戸藩邸に戻ります。後は、歴史的な事実なんですが、本作品でも大いに進みます。十代将軍家治が死去して御三家と御三卿が推す一橋徳川家の家斉が将軍を就位します。田沼意次は失脚して老中を罷免され蟄居しますが、相変わらず、磐音には刺客が送り込まれたりします。また、磐音は田沼の次の時代の幕閣を支えるであろう白河藩主松平定信の性格ややり方にも一抹の不安を覚えたりします。いよいよ最終巻に向かって大急ぎで物語が進みます。

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2015年1月10日 (土)

米国雇用統計は好調な米国経済を反映しているのか?

日本時間の昨夜、米国労働省から12月の米国雇用統計が公表されています。ヘッドラインとなる失業率は11月の5.8%から0.2%ポイント低下して5.6%を記録し、非農業部門雇用者は前月から+252千人増加しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから記事を最初の4パラだけ引用すると以下の通りです。

December Caps a Strong Year for Jobs, but Wages Dip
Capping the best year for job growth since 1999, employers added 252,000 jobs in December, the Labor Department reported Friday, and unemployment fell to 5.6 percent.
The number of new people put on payrolls last month was above what economists had forecast, consistent with the view that the recovery was finally gaining traction after years of only modest growth. In addition, the number of jobs created in November was revised upward to 353,000, from 321,000. That month, the unemployment rate was 5.8 percent.
The pace of overall job growth averaged 246,000 a month last year, up from 194,000 a month in 2013.
But the good news on job creation was tempered by a poor showing in average hourly earnings, which fell 0.2 percent in December after rising 0.4 percent in November. Many economists had thought the increase signaled the start of a trend that wages were finally improving.

まずまずよく取りまとめられている印象があります。この後に、エコノミストへのインタビューなどが取り上げられていますが、長くなりますので割愛します。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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11月の+353千人増からはかなり減速しましたが、それでも+252千人増はかなり堅調でいいペースの雇用増だと受け止めています。季節調整されているとはいえ、12月は何と言ってもクリスマス・シーズンですし、消費が盛り上がる時期であることは言うまでもなく、この雇用の増加は逆から見て消費もそれなりに堅調であった、と言えそうな結果だと受け止めています。失業率も米国連邦準備制度理事会(FED)がひとつの目安と公表していた6%台半ばを超えて、とうとう5.6%まで低下しています。FEDは昨年の段階で量的緩和の終了を決定しましたが、今年の4月から利上げ時期を探る議論を開始するとされており、早ければ今年年央にも利上げが始まる可能性が出ています。この米国金融政策動向を見通せば、さらに為替で円安が進む可能性もあり、我が国経済への影響も無視できません。

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また、日本の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。逆に言えば、サブプライム危機前の+3%超の水準には復帰しそうもないですし、12月統計で少し落ちたのも気にかからないわけではないんですが、まずまず、コンスタントに2%のライン周辺で安定していると受け止めており、少なくとも、底割れして日本のようにゼロやマイナスをつけて、デフレに陥る可能性は小さそうに見えます。

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2015年1月 9日 (金)

将来のミスター・タイガース鳥谷選手は阪神に残留!

海外FA権を行使し、去就が注目されていた鳥谷敬選手なんですが、阪神タイガースのサイトに残留が報告されています。

鳥谷敬選手の残留決定について
海外FA権を行使していた鳥谷敬選手ですが、残留することが決まりましたのでお知らせ致します。

これで、鳥谷選手がミスター・タイガースに大きく近づいた気がします。ほかに、ニッカンスポーツとサンスポの記事のリンク先です。ご参考まで。

今年はリーグ優勝と日本一目指して、
がんばれタイガース!

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11月の景気動向指数はCI一致指数、CI先行指数ともに低下を示す!

本日、内閣府から11月の景気動向指数が発表されています。ヘッドラインとなるCI一致指数は前月から▲1.0ポイント低下して108.9を記録しています。低下は3か月振りです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の景気一致指数、1.0ポイント低下 3カ月ぶり悪化 景気判断は維持
内閣府が9日発表した2014年11月の景気動向指数(CI、2010年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比1.0ポイント低下の108.9だった。低下は3カ月ぶり。中小製造業の出荷が落ち込んだほか、自動車など耐久消費財の販売も振るわず、指数を押し下げた。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断は「下方への局面変化を示している」とし、昨年8月の判断引き下げ以降、3カ月連続で据え置いた。
数カ月後の先行きを示す先行指数は0.7ポイント低下の103.8。低下は2カ月連続。企業の在庫率指数の悪化や消費マインドの低下が影響した。景気に数カ月遅れる遅行指数は1.3ポイント上昇の119.9だった。
指数を構成する経済指標のうち、3カ月前と比べて改善した指標が占める割合を示すDI(最高は100)は一致指数が60.0、先行指数が55.6だった。

いつもながら、簡潔によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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CI一致指数は10月の109.9から11月の108.9へ▲1.0ポイントの、また、CI先行指数は先月の104.5から今月は103.8へ▲0.7ポイントの、それぞれ低下を示し、統計作成官庁である内閣府は基調判断を先月と同じ「下方への局面変化」で据え置きました。3か月連続です。「『CIによる景気の基調判断』の基準」に従えば、「下方への局面変化」の定義は、「7か月後方移動平均の符号が変化し、1か月、2か月、または3か月の累積で1標準偏差分以上逆方向に振れた場合。」を基準とし、定義としては、「事後的に判定される景気の山・谷が、それ以前の数か月にあった可能性が高いことを示す。」とされています。「局面変化」に続く段階は「悪化」になります。「悪化」の定義は、「原則として3か月以上連続して、3か月後方移動平均が下降した場合。」を基準としているんですが、昨年2014年9月から直近で統計が利用可能な11月まで、3か月連続でCI一致指数の3か月後方移動平均はプラスですから、この定義からはまったく「悪化」ではないということになります。もっとも、景気が「悪化」しなかったのか、それとも、「悪化」がすでに終わったのかはビミョーなところです。後者だという気がするんですが、「悪化」の期間が短くて景気後退の同定はしない可能性も十分あるように受け止めています。
11月のCI一致指数の対する寄与を見ると、大口電力使用量や有効求人倍率がプラスを示している一方で、中小企業出荷指数、耐久消費財出荷指数、輸送機械を除く投資財出荷指数、商業販売額(卸売業)などがマイナス寄与となっています。また、CI先行指数のマイナス寄与を見ると、鉱工業生産財在庫率指数と最終需要財在庫率指数に続いて、需要サイドの消費者マインドを示す消費者態度指数が3番目に大きなマイナス寄与を示しています。もっとも、東証株価指数は逆のプラス寄与を先行指数に示していますから、株価とともにマインドが上向くことも期待できるかもしれません。しかし、基本的には、このブログでも何度か繰り返した通り、消費者のマインドは次の段階の消費増税に向けて、家計防衛の意識が強そうな気がしないでもありません。

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2015年1月 8日 (木)

日経BPコンサルティング「食の安全・安心企業ブランド調査2014-2015」の概要やいかに?

今日もやや旧聞に属する話題なんですが、昨年2014年12月26日に日経BPコンサルティングから「食の安全・安心企業ブランド調査2014-2015」と題する調査報告書が発行・発売されています。標準版で500,000円+税ですから、明らかに事業者向けであり、私にはとても手がでないんですが、それなりに興味がありますので、日経BPコンサルティングのニュースリリースのサイトからいくつが図表を引用しつつ、簡単に紹介したいと思います。

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まず、上の表は日経BPコンサルティングのニュースリリースのサイトから 表1. 食の安全・安心企業ブランド総合スコアTOP20 を引用しています。昨年に続いて、食の安全・安心に関するブランドとしてサントリーがトップなんですが、キューピーが昨年よりも肉薄しています。なお、この調査は、インターネットによるいわゆるオピニオン・ポールなんですが、総務省の「人口推計」によりウェイトバックして母集団を復元していますので、インターネット利用者に偏ったバイアスとサンプルが少ないことによる誤差はかなりあるんでしょうが、それなりに統計的な処理はキチンとされているような印象を受けました。ということで、昨年、キューピーが食の安全安心の企業として名を挙げる機会があったのかどうか、私には不明ですが、結果としては、トップのサントリーに迫っています。また、日清製粉や生協がかなり順位を上げています。

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次に、日経BPコンサルティングのニュースリリースのサイトから 表3. 食の問題に対する不安度 のグラフを引用すると上の通りです。上位3項目は食品偽装、食中毒、農薬となっています。少し前に真山仁『黙示』とか、篠田節子『ブラックボックス』なんて小説を私も読みましたし、『沈黙の春』的な農薬や異物混入に関する消費者の意識は確実に高まっているような気がします。

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2015年1月 7日 (水)

昨年後半に大きく低下した原油価格の見通しやいかに?

昨年後半の経済面でのひとつの話題は原油価格の大幅な下落でした。指標となるWTI価格で見て、リーマン・ショック直後の2008年末から2009年初のバレル40ドルのレベルまではさすがに低下しませんでしたが、2014年央の100ドル超から年末には50ドル台の半ばまで大きく下落しました。やや旧聞に属する話題かもしれませんが、みずほ銀行の産業調査部から昨年12月29日付けで「短期原油価格見通し」と題して、2015年度までの価格見通しを明らかにしたリポートが公表されています。まず、リポートから要旨を2点引用すると以下の通りです。

【要旨】
  • 世界の石油需要が弱含む中、石油生産が堅調に推移してきたため、需給緩和を主要因として、原油価格は2014年夏場以降下落基調となり、12月には$60/bbl を割れ込む水準にまで急落した。
  • 世界の石油需給緩和状況が短期的に解消する可能性は小さい。然しながら、足許の供給増加を支える米国シェールオイルの生産拡大が鈍化する可能性を踏まえ、2015年度後半にかけて、需給バランスが次第に是正されることに伴う原油価格の緩やかな上昇を予想する。

と言うことで、私は原油などの商品市況については専門外の上、帰りが遅くなりましたので、今夜のエントリーはこのみずほ銀行産業調査部のリポートからいくつかグラフを引用して、簡単に紹介しておきたいと思います。まず、ここ数年の原油価格の推移をリポートから引用すると以下の通りです

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上にリポートから引用した原油価格の推移に示された通りで、サブプライム・バブル崩壊の前後、すなわち、2008年年央のピークから2008年末-09年始のボトムまでのすさまじいまでの振幅ほど現時点では大きくありませんが、それでも、昨年2014年後半には原油価格が大きく下落しているのが見て取れます。ただし、もちろん、この原油価格の下落は日本経済に追い風となることは言うまでもなく、例えば、みずほ総研のリポートでは実勢に基づく40%の原油価格下落は中小企業の収益を+1.8兆円改善すると試算していたりします。

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ただし、今後の原油価格の動向については、米国シェールオイルの生産拡大が鈍化するとともに、上にリポートから引用した長期的な石油需給見通しの通り、新興国の需要拡大に伴って増加することは確実であり、短期的にはともかく、中長期的には原油価格は上昇傾向に戻る可能性が高いと結論しています。なお、リポートでは、指標となるWTIの価格についてバレル当たり2014年度上半期の実績100.1ドルに対して、下半期の見通しは66.7ドル、2015年度見通しは上半期59.5ドルの後、下半期には63.8ドルとやや反転する可能性を示唆しています。

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2015年1月 6日 (火)

経団連による「昇給、ベースアップ実施状況調査結果」やいかに?

今夜もまた旧聞に属する話題ですが、昨年12月26日に経団連から2014年1-6月実施分の「昇給、ベースアップ実施状況調査結果」が公表されています。経団連加盟の一部上場などの大企業中心の調査であり、かなり偏りはあると思いますが、それでもここ何年かの調査結果を時系列で見ることにより、それなりの特徴が浮かび上がる可能性もありますので、いくつか図表を引用しつつ、簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、リポートから 図表3 昇給およびベースアップの実施状況の推移 (2001-2014年) を引用すると上の通りです。さすがに、経団連加盟の大企業だけあって、と言うか、何と言うか、2001年以降も昇給だけでも実施ている企業が大部分なんですが、昨年2014年上半期の1-6月には昇給に加えてベアを実施した企業が過半に上りました。グラフを見る限り、2001年以降ではもっとも高い比率のようです。

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さらに、その詳細を見るため、リポートから 図表4 月例賃金の引上げ額および引上げ率の推移 を引用すると上の通りです。さすがに経団連加盟企業だけあって、毎月勤労統計に見る賃金上昇からは想像も出来ない高い賃上げ率なんですが、それでも2014年は+2.2%と11月の全国消費者物価指数(CPI)のヘッドライン上昇率が+2.4%、生鮮食品を除くコアCPI上昇率が+2.7%でしたから、この程度の賃上げでは実質賃金上昇率はマイナスということになります。

最初に書いた通り、経団連加盟の大企業中心の調査結果であり、その上、定昇やベアの実施企業の方が回答率が高いであろうバイアスは当然に存在すると思いますので、どこまで統計的な判断が可能かは疑問が残ります。加えて、経団連に加盟していない規模の小さい企業ではここまで賃上げを実施していない可能性が高いと考えるべきです。でも、リーマン・ショック後のここ数年で考えると、2014年はそれなりに賃上げの実りがあった年だったのかもしれません。

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2015年1月 5日 (月)

今さらながら、@nifty 何でも調査団で振り返る2014年やいかに?

とても、今さらながら感が強いんですが、年始早々のご用始めの本日は特に取り上げるべきテーマもなく、昨年12月26日に公表されている @nifty 何でも調査団の「年末年始についてのアンケート・ランキング」の調査結果から、グラフを引用しつつ、昨年2014年を振り返る話題を2点だけ取り上げたいと思います。

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まず、「2014年を表す漢字」の調査結果は上の通りです。このブログでも12月16日付けの記事で紹介した日本漢字能力検定協会による「今年の漢字」は「税」で、第2位が「熱」、第3位が「嘘」だったところ、@nifty 何でも調査団では少し異なる結果が出ています。1位が「苦」、2位は「税」でかなり共通ですが、3位「辛」となっています。@nifty 何でも調査団の昨年の調査結果のトップ3は「苦」、「変」、「忙」となっており、何と、「苦」は @nifty 何でも調査団では3年連続のトップだったりします。

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次に、「2014年の記憶に残った社会的な出来事」の結果は上の通りです。これも分かる気がします。でも、わたし的には阪神タイガースのクライマックス・シリーズ制覇と日本シリーズ出場も大きなインパクトを持っていたんですが、誠に残念ながら入っていませんでした。ちなみに、昨年のアンケートではこの調査項目はありませんでした。ご参考まで。

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2015年1月 4日 (日)

年末年始休暇を終えて明日から仕事が始まる!

私のようなサラリーマンは年末年始休みで9連休という人も少なくなかったような気もしますが、それでも明日からは通常通りのお仕事が始まります。役所ではご用始めです。昨年は12月に総選挙があり、予算関連の業務が進まず年明けにズレ込んでいます。その昔ののどかな時代は、1月4日のご用始めの日はろくに仕事もせずに、女性が着物姿で出勤したり、男はお酒だけ飲んで酔っ払ったりと、いろいろとあったんですが、今では通常勤務です。当然です。

お国のために、明日からがんばってお仕事します。

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2015年1月 3日 (土)

今週の読書は角田光代『笹の舟で海をわたる』ほか

年末年始休暇の新刊書読書は、昨日取り上げたトマ・ピケティ『21世紀の資本』は別にして、角田光代『笹の舟で海をわたる』ほか、以下の3冊です。

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まず、ロドニー・スターク『キリスト教とローマ帝国』(新教出版社) です。カルト論などに関する宗教社会学者として著名なスターク教授が専門外であろう宗教史に挑戦した本書は、誤解はないと思いますが、20年近く前の著書であり、原書の出版は1990年代半ばの1996年かと記憶しています。ユダヤ教のカルトとして始まったキリスト教が4世紀にローマ帝国の国教になるほどまでに広まった要因について、可能な限り定量的な分析も含めて考察を加えています。従来から、キリスト教は虐げられた下層民の間で広まったと考えられていましたが、この学説をコペルニクス的に大きく転換し、キルスト今日は比較的裕福な層、特にディアスポラで離散したヘレニズム的なユダヤ人、ディアスポラの結果としてユダヤ教の律法による束縛が緩んだ人々の間に広まったのではないかとの研究結果を明らかにしています。さらに、キリスト教は都市や女性の間で広まり、中絶や出生時の間引きを禁じたことから人口増加率が相対的に高く、さらに、疫病の流行の際などに看護や食事などが割合と行き届いていたことから生存率が高いというか、死亡率が低いため、相対的に人口に占めるキリスト教徒比率が高まるとともに、疫病に対する治癒の奇跡のような見方もされて入信者が増加した可能性を指摘しています。もちろん、キリスト教徒のスターク教授がキリスト教の普及について論じているんですから、かなり後付の美化された見方も含まれていることとは推察されますが、このテーマに関するひとつの見方を提供していることは事実です。ただし、ローマ皇帝からのキリスト教徒への迫害と殉教については、特に美化の傾向が強いような気がします。私の大学時代のやや古い宗教論の講義では、本書の p.208 でも言及されているように、「精神障害」の可能性が示唆されていたように記憶しています。

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次に、角田光代『笹の舟で海をわたる』(毎日新聞社) です。まず、何はともあれ、とても素晴らしい文学作品です。私はこの著者の作品はそれほど多く読んでいるわけではなく、『八日目の蝉』、『紙の月』、『平凡』、『私のなかの彼女』くらいで、直木賞を授賞された『対岸の彼女』も読んでいないので、大きなことは言えませんが、それでも、私が読んだ中では角田光代の最高傑作であると感じました。私が読んだほとんどすべての角田作品は、映画化された『紙の月』を例外として、とてもビミョーな母娘関係を軸に据えていて、この作品もある意味ではそうなっています。大学の教員を亭主に持つ平凡な専業主婦の左織を主人公にし、1935年生まれくらいのこの主人公の学童疎開から、50年余りの人生でガンにより亭主を亡くした後の60代半ばくらいまでの人生を淡々と跡付けています。学童疎開先で浅い関係を持ち、亭主同士が実の兄弟という不思議な縁の義理の妹である風美子との濃密な人間関係を軸に、破綻した長女との母娘関係、可愛がっていながら男色に走った息子との親子関係、極めて淡々とした会話の少ない亭主との夫婦関係、などなどの人間関係を綿密に描き出し、私のようなエコノミストから見れば、東京オリンピックのような例外がなくはないものの、よくもここまで経済社会の時代背景と無関係な人間模様が文学作品になるものだと感心するくらい、人間だけを純文学の小説にしています。私はこの著者の作品は好きではあっても、それほど、世間ほどには評価していなかったんですが、少し見方を変えつつあります。角田作品のファンであれば出来る限り読んでおくべき小説です。逆に、この小説を読んで長さを感じなければ、立派な角田ファンといえるかもしれません。

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最後に、ロジーナ・ハリソン『おだまり、ローズ』(白水社) です。ご夫婦ともに新大陸はニューヨーク生まれのアスター子爵夫人にお付きのメイドとしてお仕えするヨークシャ女性の回想録です。著者の明らかな記憶の間違いは訂正されていますし、ほぼノンフィクションだと思うんですが、まるで小説のようなお話です。繰返しになりますが、新大陸生まれの子爵ご夫妻は宗教的にも英国国教会の教徒ではなく新大陸的で、すなわち、クリスチャン・サイエンスの信者ですから、おそらく、医者の診療行為や薬の服用などはしていないでしょうし、英国の貴族としては必ずしも伝統的な慣習にはそぐわない思考や行動があったものと考えられます。、戦間期から戦後のベル・エポックの1960年代まで、30年余りにおける貴重な英国貴族の生活の記録かもしれません。ただし、子爵夫人と著者のメイドとの人間関係については極めて特殊なケースと考えるべきであり、英国貴族制度下で一般化するには躊躇します。逆のケース、というか、見方によれば同じようなケースと見なす人もいるかもしれませんが、同時期の英国を舞台にした P.G. ウッドハウスの手になるジーヴス・シリーズほかの小説も使用人から見た貴族のやや滑稽な生活を極端な方法により描き出していることは広く知られている通りです。私は新興国・途上国での海外生活の経験がありますから、自動車の運転手やハウス・メイドを雇った経験がありますが、もちろん、私自身が貴族であるハズもなく、淡々とした雇用関係だったかもしれません。21世紀を生きる日本人からは、なかなか想像しがたい世界かもしれませんが、それに触れることが出来るのが読書のひとつの魅力だという気もします。お付きのメイドになるためにフランス語を勉強する必要があったというのは知りませんでしたし、執事=バトラーと従僕や下男の違いはいまだによく分かりません。そう言えば、外交官をしていたころ、大使館には下男がいて掃除をしたり、お客さんにお茶を出したりしていましたし、大使の居宅である公邸には執事がいました。そのころの我が家のメイドさんは主として洗濯と掃除をお願いしていた記憶があります。家で働くメイドとオフィスの秘書は当然に異なる役割を果たしていました。

いよいよ年末年始休暇も明日までです。実は、ほとんどの区立図書館は来週5日か6日からの開館で、私の手元にはほとんど新刊書を借りられていません。ということで、ご用始めから来週の読書やいかに?

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2015年1月 2日 (金)

トマ・ピケティ『21世紀の資本』(みすず書房) を読む!

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トマ・ピケティ『21世紀の資本』(みすず書房) を読みました。昨年から話題になっていた経済的な格差に関する本です。邦訳は主として英語版から翻訳されているようです。600ページ余りの学術書であり、経済的な格差を長期にわたって分析していますので、比較的短期の経済現象を数量的に分析した学術論文とは異なり、フォーマルな定量分析よりもより規範的な分析が展開されており、ある意味で、数学的なモデルの提示などが少ないので一般読者にも取っ付きやすいかもしれませんが、かなり深い理解を求められる部分も少なくありません。今日のエントリーでは、邦訳版の図表一覧からいくつかグラフを引用しつつ、必ずしも定番から外れるかもしれませんが、私なりの読解の結果をお示ししたいと思います。

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上のグラフは、p.303 図8.5. 米国の所得格差1870-2010年 を邦訳版の図表のサイトから引用しています。米国における100年余りの間の所得格差の推移です。グラフのタイトルとグラフの横軸のタイムスパンがあっていないんですが、ご愛嬌です。経済的な格差に関する時系列的な分出来でよく知られたクズネッツの逆U字曲線は1950年そこそこに公表されており、この『21世紀の資本』でいうところの1914-45年の平等化が進んだ時期を見た分析といえます。言うまでもなく、20世紀前半で大きく平等化が進んだ要因は2度にわたる大規模な戦争です。ソヴィエト・ロシアにおけるレーニン的な戦時共産主義だけでなく、「すべてを戦線へ」が実行された結果、配給制が実施されたことに象徴されるように、著しく平等化が進みました。その後、フランス的なベル・エポックの30年間を経て、1980年ころから格差が大きく拡大しているのが見て取れます。

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通常、クルーグマン教授らのリベラルなエコノミストは、この1980年ころから始まる格差拡大について、同時期に米英で成立したレーガン政権のレーガノミクスやサッチャー政権のサッチャリズムによる新保守主義的な経済政策の帰結であると指摘しています。ひとつの傍証として、上のグラフは、p.521 図14.1 最高所得税率1900-2013年 を邦訳版の図表のサイトから引用しています。明らかに、高所得層の最高税率を引き下げて、所得税率をフラットにしたことが格差の拡大につながったと私も考えています。と言うのは、政府の財政活動のうち、支出面は失業手当などのごく一部を除いて格差を縮小する方向での所得再分配に寄与しておらず、1970年代までの格差の小さい経済社会では累進所得税による再分配こそが主役だったからです。

格差に関しては、本書ではあと2点ほど興味深い結論を引き出しています。第1に、サブプライム・バブルの発生と崩壊に伴う金融危機については、「米国における格差拡大が金融不安の一因となったのはほぼまちがいない」 (p.308) と結論しています。当然ながら、格差拡大のために中流ないし下層に属する家計における実質購買力が低下し、借入れに対する依存が高まったことを重視しています。第2に、米国の経営者のとんでもない高額報酬については、第9章で、限界生産性や教育と技術の競争といった理論では1980年以降の米国の格差拡大は説明できない (p.343) とし、「重役たちがレジに『手を突っ込んでいる』」(p.345) に近い印象を持っているような記述を見かけます。そして、「コーポレート・ガバナンスの失敗と、極端に高い重役報酬に対して生産性に基づくまともな説明などない」(p.348) とか、「ツキに対する報酬」といった表現がそれを示していると思います。

本書について、ラインハート-ロゴフの『国家は破綻する』ほどのインパクトをエコノミストの業界にもたらしたとは私は考えていませんが、サブプライム・バブルに伴う金融危機から一段落した現時点で、エコノミストや多くのビジネスパーソンの目を経済的格差に引き付けるという意味で、それなりの影響力をもった学術書だと受け止めています。話題の書であることは確かですから、機会があれば目を通すことも一案かもしれません。

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2015年1月 1日 (木)

一家で初詣に行く!

改めまして、
あけましておめでとうございます。

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我が家の恒例の初詣に行きました。破魔矢を買っておみくじを引き、元旦の記念写真を撮って来ました。帰宅すると年賀状が届いていました。

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昨年や一昨年の写真とも見比べましたが、私は同じようなダウンコートを着ています。実は、高校生のころに京都の親に買ってもらったもので、40年近く着ています。最近流行のウルトラライト・ダウンではなく、ヘビーです。その昔はこういったヘビー・デューティーなのが主流だった気がします。なお、我が家で一番背が高いのは、下の倅のようです。今年は私や上の倅のO脚が目立たないように上半身の写真をアップしておきます。

本年もよろしくお願い申し上げます。

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謹賀新年

あけましておめでとうございます。

新しい年2015年が先ほど明け、エコノミストの端くれとして、少しでも日本と世界の経済が上向き、国民生活が豊かになることを祈念しています。
それでは、そろそろ寝ます。おやすみなさい。

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