今週の読書はテミン+バインズ『リーダーなき経済』ほか
今週の読書は少し図書館からの本の回りが遅くて、経済書1冊と小説2冊だけでした。以下の通りです。
まず、ピーター・テミン+デイビッド・バインズ『リーダーなき経済』(日本経済新聞出版社) です。タイトルだけ見るとブレマーの『「Gゼロ」後の世界』に近い印象ですが、実は、経済にやや重点が置かれていて、かなり違っています。著者たちの関心は失業率で代理される対内均衡と経常収支で代理される対外均衡であり、マンデル・フレミング・モデルにやや似たスワン・モデルとゲーム理論の囚人のジレンマの概念で解き明かされます。さらに、いわゆる覇権国を国際協調を促す能力の点から定義、というか、性格付けをしています。特に、実際に第2次世界大戦後の経済的な国際協調を目的とする国際機関の設立に奔走したケインズの理論や活動に本書は依拠しており、p.93 からかなり詳しくケインズの理論と国際的な活動について解説していたりします。その上で、2008年のいわゆるリーマン・ショックについては、米国が減税と金融業界の規制緩和と低金利により支出を奨励した結果として失業率の低下という対内不均衡は達成したものの、金融バブルを生み出した、と結論しています。そして、先行きのシナリオとして、pp.333-34において、(1)協調的なシナリオ、(2)一国主導型のシナリオ、(3)非協調的なシナリオ、の3点を展望し、当然ながら、(1)の協調的なシナリオ実現のために、世界のリーダーが取るべき戦略や政策を終章で提示しています。とても重厚な分析と展望が提示されており、その分析がケインズ的な理論と実践の上でなされていることから、私が高く評価するのは当然でしょう。
次に、ジョン・ル・カレ『繊細な真実』(早川書房) です。調べると作者は1931年生まれですから、軽く80歳を超えているんですが、まだ新作が出るようです。敬服しています。しかも、実に日本の特定秘密保護法に合わせて書いたかのような作品です。英領ジブラルタルで遂行されるテロリスト捕獲作戦「ワイルドライフ作戦」の影で実に不都合な非人道的結果が生じ、その国家機密に接してしまったがために人生を狂わされる人々の物語です。すなわち、そのまま出世して爵位を授けられる公務員、民間軍事会社へのコネを活かす政治家、などがいる一方で、精神を病んでボロボロになる工作員もいたりします。それをスパイ小説の巨匠が重厚な筆致であぶり出します。ただ、私の単なる一読者としての感想なんですが、やっぱり、米ソ冷戦下でのスマイリー三部作のような真に迫った作品にはかなわないような気がします。それは作者の筆力というよりも、東西冷戦下で東側の国が比較的ながら日本の近くに存在したのに対して、イスラム国(ISIS)に日本人が囚われて身代金を要求されているとはいえ、日本が欧州や米国のようなテロの前線に位置しているわけではない、という日本の国の客観的な地政学的状況のせいなのかもしれません。
最後に、誉田哲也『インデックス』(光文社) です。『ストロベリーナイト』に始まる姫川玲子シリーズ2年振りの最新刊で短篇集です。私はこのシリーズはすべて読んでいると思います。すなわち、このシリーズのファンだったりします。取込み詐欺にあった中小企業経営者の自殺、薬物と売春がらみの男の不審死、、「ブルーマーダー」事件の後に行方不明になったヤクザの親分の行方、外国人のからむ大地主殺人事件、育児のネグレクトや無戸籍児に端を発する路上刺殺事件など、専門性の高い本庁での捜査と違って、所轄では幅広い事件を解決していきます。相変わらずカッコいいです。そして、今は係長から昇進して管理官となった前の上司の今泉の肝いりにより、姫川玲子は所轄の池袋署から本庁に復帰して、解体してしまった警視庁捜査一課姫川班がいよいよ再結成されます。次作以降、新たに警視庁姫川班に加わる井岡の存在が不気味というか、私は楽しみでもあります。今年中に再結成された姫川班の長編が出版される予定とどこかのサイトで見た記憶があります。どうでもいいことながら、上の画像に見る表紙の後ろ姿の女性のイメージは、やっぱり、竹内結子なんでしょうか?
最後の最後に、下の画像は、見れば分かる通り、ケインズをモチーフにした風刺画です。『リーダーなき経済』の p.100 に見えるものです。British Cartoon Archive のサイトから引用しています。1933年10月28日付けの New Statesman に掲載されたデイビッド・ロー描くところのケインズです。印象的でしたのでネット上で探してみました。
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