いっせいに発表された政府統計に景気回復の兆しは見えるか?
本日は、今月の最終閣議日で主要な政府経済統計がいっせいに発表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、さらに、総務省統計局から消費者物価が、それぞれ発表されています。まず、各統計の結果を報じた記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
12月の鉱工業生産指数、前月比1.0%上昇 基調判断を上方修正
経済産業省が30日発表した2014年12月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調節済み)速報値は前月比1.0%上昇の98.9だった。上昇は2カ月ぶり。スマートフォン向けの輸出が好調な電子部品・デバイスをはじめ幅広い業種で生産が前月を上回り、在庫も2カ月ぶりに減少した。経産省は生産の基調判断を前月までの「一進一退にある」から、「緩やかな持ち直しの動きがみられる」へ上方修正した。判断の引き上げは14年9月以来、3カ月ぶり。
生産指数は15業種のうち11業種が前月比で上昇し、4業種が低下した。上昇業種では「電子部品・デバイス」が前月比5.2%上昇し、6カ月連続のプラスとなった。自動車を含む「輸送機械」は1.0%上昇し、2カ月連続でプラス。設備投資などで使われる「はん用・生産用・業務用機械」は0.9%上昇し、2カ月ぶりのプラスとなった。
出荷指数は前月比1.1%上昇の98.3と、2カ月ぶりのプラスだった。在庫指数は0.4%低下の112.0、出荷に対する在庫の割合を示す在庫率指数は4.1%低下の112.2だった。
製造工業生産予測調査によると、15年1月に前月比6.3%上昇、2月は1.8%低下を見込む。1月の予測について経産省は、自動車メーカーがモデルチェンジを控えて増産する動きや、はん用・生産用・業務用機械などの業種で「昨年11-12月に計画していた生産の一部が1月にずれ込んだ可能性がある」ことを理由に挙げている。
同時に発表した14年10-12月期の鉱工業生産指数は前期比1.8%上昇の98.4と、3四半期ぶりのプラスとなった。14年通年の鉱工業生産指数(原指数)は前年比2.1%上昇した。プラスは2年ぶり。昨年4月の消費増税を前にした駆け込み需要で生産が伸びた影響が出た。
有効求人倍率、12月1.15倍に改善 失業率3.4%に低下
厚生労働省が30日まとめた2014年12月の有効求人倍率(季節調整値)は1.15倍と、前月より0.03ポイント上がった。改善は3カ月連続で1992年3月以来、22年9カ月ぶりの高さだ。企業の求人が伸びている一方、就業が進んで新たに職を探す人が減っているため。総務省が同日まとめた完全失業率は3.4%と同0.1ポイント改善した。17年4カ月ぶりの低水準。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人1人に対して、企業から何件の求人があるかを示す。正社員の有効求人倍率は0.71倍と同0.02ポイント上がり、04年以降の最高を更新した。
ハローワークが12月に受け付けた新規求人数(原数値)は前年同月より5.6%増えた。宿泊・飲食サービス業や医療・福祉、教育で10%以上増えた。新たに職を探す人は4.7%減った。少ない求職者を多くの企業が奪い合う構図になっている。
総務省の労働力調査によると、就業者は6357万人と前年同月より38万人増えた。伸びの内訳は女性が27万人、男性が11万人。女性は40代後半-50代前半が大きく増えた。雇用者に占める非正規雇用の割合は38.0%で同0.5ポイント伸びた。
12月消費者物価、上昇幅縮小続く 原油安がガソリンなど押し下げ
総務省が30日朝発表した2014年12月の全国の消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、生鮮食品を除く総合が前年同月比2.5%上昇の103.2と19カ月連続で上昇した。宿泊料やハンドバッグなど輸入品が上昇した。ただ原油相場の大幅下落を受け、4月の消費増税の押し上げ効果(2%)を除くと3カ月連続で上昇幅が1%を割った。
ガソリンが1年7カ月ぶり、灯油が2年4カ月ぶりに下落に転じており、総務省は「原油価格の大幅下落でCPIの上昇幅がかなり抑えられている」と分析していた。上昇幅は5カ月連続で縮小している。
14年平均は前年比2.6%上昇の102.7だった。2年連続で前年を上回るのは3年連続でプラスとなった1996年-98年以来で、上昇幅は91年(2.9%)以来の大きさだった。消費増税や円安進行に伴う輸入物価の上昇、夏まで高水準だったエネルギー価格が指数を押し上げた。総務省の試算によると、消費増税の押し上げ分(1.5%)を除くと1.1%の上昇になるという。
同時に発表した15年1月の東京都区部のCPI(中旬の速報値、10年=100)は、生鮮食品を除く総合が2.2%上昇の101.2だった。
いずれも網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、これだけの記事を並べるとそれなりのボリュームになります。これだけでお腹いっぱいかもしれません。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。景気後退期のシャドーについては雇用統計も同様です。
生産は前月比で+1.0%の増産を記録しましたが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの+1.3%をやや下回って、物足りない気がしないでもないんですが、引用した記事にもある通り、製造工業生産予測調査では1月の生産計画は前月比+6.3%、2月は▲1.8%と減産に転じるものの、1月の増産幅が極めて大きく、ならせば生産は増加基調と見なして差支えないように受け止めています。ですから、統計作成官庁である経済産業省でも基調判断を前月までの「一進一退」から、「緩やかな持ち直しの動き」へ上方修正しています。現時点から昨年を振り返ると、年後半に少し停滞感があったものの、消費増税後の生産動向は総じて昨夏を底に回復基調にあるように見えます。鉱工業生産指数だけで考えると、2014年8月が底を記録しています。その前に2014年1月がピークですから、半年余りのこの期間を景気後退期と判定するかどうかはビミューなところかもしれませんが、私はどちらかといえばネガティブです。
ついでながら、12月の生産統計が利用可能になりましたので、四半期ベースで作成している在庫循環図を書いてみました。上の通りです。緑矢印の2008年1-3月期から始まって、リーマン・ショックを経て、黄色矢印の2014年10-12月期まで時計回りに循環しています。昨年7-9月期と10-12月期は出荷が前年比プラスの在庫率がマイナスですから、出荷・在庫バランスは第2象限にあって、内閣府の「鉱工業の在庫循環図と概念図」に従えば、景気の山を越えて在庫調整を行っている景気後退期にあることになります。
次に、雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。12月統計では先月11月に比べて、失業率は低下し、有効求人倍率は上昇し、新規求人数も増加しています。失業率は雇用の遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と見なされており、いずれの観点からも雇用は堅調であり改善を示していると受け止めています。リクルートジョブズによる昨年12月度の「派遣スタッフ募集時平均時給調査」も「アルバイト・パート募集時平均時給調査」も、そこそこ上昇を示しており、来週発表の毎月勤労統計では12月の賃金が上がっているのではないかと楽しみです。
最後に、消費者物価のグラフは上の通りです。折れ線グラフが全国の生鮮食品を除くコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが1月中旬値です。いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とは微妙に異なっている可能性があります。ということで、12月のコアCPI上昇率+2.6%のうち、日銀の「金融経済月報」2014年3月号に掲載された「消費税率引き上げ(5%→8%)が消費者物価に与える影響」に従えば、フル転嫁で全国コアCPI上昇率には+2.0%ポイントの押上げ効果があると試算されていますので、消費増税の影響を除く実力としては+0.6%ということになります。ただし、消費者物価上昇率が縮小した大きな要因として、国際商品市況における原油価格の下落があり、丸めた指数を基にした私の試算では、昨年2014年におけるエネルギーの寄与度は5月の+0.94%から12月には+26%まで、ほぼ0.7%の消費者物価上昇幅がエネルギー価格の下落により失われています。日銀の物価上昇目標の達成が厳しいどころか、消費税の影響を除くベースで近く消費者物価上昇率がマイナスに陥る可能性も否定できません。日銀がインフレ目標達成のために何らかの追加緩和策を取るかどうかに注目しています。
本日、政府から発表された主要な経済指標は、生産の増産や雇用の改善など、物価上昇の鈍化を別にすれば、総じて景気の回復ないし拡大を示唆する結果であったと私は受け止めています。想定を超えた原油価格下落というショックに遭遇した物価の先行きの動向だけが気がかりです。
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