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2015年1月 3日 (土)

今週の読書は角田光代『笹の舟で海をわたる』ほか

年末年始休暇の新刊書読書は、昨日取り上げたトマ・ピケティ『21世紀の資本』は別にして、角田光代『笹の舟で海をわたる』ほか、以下の3冊です。

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まず、ロドニー・スターク『キリスト教とローマ帝国』(新教出版社) です。カルト論などに関する宗教社会学者として著名なスターク教授が専門外であろう宗教史に挑戦した本書は、誤解はないと思いますが、20年近く前の著書であり、原書の出版は1990年代半ばの1996年かと記憶しています。ユダヤ教のカルトとして始まったキリスト教が4世紀にローマ帝国の国教になるほどまでに広まった要因について、可能な限り定量的な分析も含めて考察を加えています。従来から、キリスト教は虐げられた下層民の間で広まったと考えられていましたが、この学説をコペルニクス的に大きく転換し、キルスト今日は比較的裕福な層、特にディアスポラで離散したヘレニズム的なユダヤ人、ディアスポラの結果としてユダヤ教の律法による束縛が緩んだ人々の間に広まったのではないかとの研究結果を明らかにしています。さらに、キリスト教は都市や女性の間で広まり、中絶や出生時の間引きを禁じたことから人口増加率が相対的に高く、さらに、疫病の流行の際などに看護や食事などが割合と行き届いていたことから生存率が高いというか、死亡率が低いため、相対的に人口に占めるキリスト教徒比率が高まるとともに、疫病に対する治癒の奇跡のような見方もされて入信者が増加した可能性を指摘しています。もちろん、キリスト教徒のスターク教授がキリスト教の普及について論じているんですから、かなり後付の美化された見方も含まれていることとは推察されますが、このテーマに関するひとつの見方を提供していることは事実です。ただし、ローマ皇帝からのキリスト教徒への迫害と殉教については、特に美化の傾向が強いような気がします。私の大学時代のやや古い宗教論の講義では、本書の p.208 でも言及されているように、「精神障害」の可能性が示唆されていたように記憶しています。

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次に、角田光代『笹の舟で海をわたる』(毎日新聞社) です。まず、何はともあれ、とても素晴らしい文学作品です。私はこの著者の作品はそれほど多く読んでいるわけではなく、『八日目の蝉』、『紙の月』、『平凡』、『私のなかの彼女』くらいで、直木賞を授賞された『対岸の彼女』も読んでいないので、大きなことは言えませんが、それでも、私が読んだ中では角田光代の最高傑作であると感じました。私が読んだほとんどすべての角田作品は、映画化された『紙の月』を例外として、とてもビミョーな母娘関係を軸に据えていて、この作品もある意味ではそうなっています。大学の教員を亭主に持つ平凡な専業主婦の左織を主人公にし、1935年生まれくらいのこの主人公の学童疎開から、50年余りの人生でガンにより亭主を亡くした後の60代半ばくらいまでの人生を淡々と跡付けています。学童疎開先で浅い関係を持ち、亭主同士が実の兄弟という不思議な縁の義理の妹である風美子との濃密な人間関係を軸に、破綻した長女との母娘関係、可愛がっていながら男色に走った息子との親子関係、極めて淡々とした会話の少ない亭主との夫婦関係、などなどの人間関係を綿密に描き出し、私のようなエコノミストから見れば、東京オリンピックのような例外がなくはないものの、よくもここまで経済社会の時代背景と無関係な人間模様が文学作品になるものだと感心するくらい、人間だけを純文学の小説にしています。私はこの著者の作品は好きではあっても、それほど、世間ほどには評価していなかったんですが、少し見方を変えつつあります。角田作品のファンであれば出来る限り読んでおくべき小説です。逆に、この小説を読んで長さを感じなければ、立派な角田ファンといえるかもしれません。

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最後に、ロジーナ・ハリソン『おだまり、ローズ』(白水社) です。ご夫婦ともに新大陸はニューヨーク生まれのアスター子爵夫人にお付きのメイドとしてお仕えするヨークシャ女性の回想録です。著者の明らかな記憶の間違いは訂正されていますし、ほぼノンフィクションだと思うんですが、まるで小説のようなお話です。繰返しになりますが、新大陸生まれの子爵ご夫妻は宗教的にも英国国教会の教徒ではなく新大陸的で、すなわち、クリスチャン・サイエンスの信者ですから、おそらく、医者の診療行為や薬の服用などはしていないでしょうし、英国の貴族としては必ずしも伝統的な慣習にはそぐわない思考や行動があったものと考えられます。、戦間期から戦後のベル・エポックの1960年代まで、30年余りにおける貴重な英国貴族の生活の記録かもしれません。ただし、子爵夫人と著者のメイドとの人間関係については極めて特殊なケースと考えるべきであり、英国貴族制度下で一般化するには躊躇します。逆のケース、というか、見方によれば同じようなケースと見なす人もいるかもしれませんが、同時期の英国を舞台にした P.G. ウッドハウスの手になるジーヴス・シリーズほかの小説も使用人から見た貴族のやや滑稽な生活を極端な方法により描き出していることは広く知られている通りです。私は新興国・途上国での海外生活の経験がありますから、自動車の運転手やハウス・メイドを雇った経験がありますが、もちろん、私自身が貴族であるハズもなく、淡々とした雇用関係だったかもしれません。21世紀を生きる日本人からは、なかなか想像しがたい世界かもしれませんが、それに触れることが出来るのが読書のひとつの魅力だという気もします。お付きのメイドになるためにフランス語を勉強する必要があったというのは知りませんでしたし、執事=バトラーと従僕や下男の違いはいまだによく分かりません。そう言えば、外交官をしていたころ、大使館には下男がいて掃除をしたり、お客さんにお茶を出したりしていましたし、大使の居宅である公邸には執事がいました。そのころの我が家のメイドさんは主として洗濯と掃除をお願いしていた記憶があります。家で働くメイドとオフィスの秘書は当然に異なる役割を果たしていました。

いよいよ年末年始休暇も明日までです。実は、ほとんどの区立図書館は来週5日か6日からの開館で、私の手元にはほとんど新刊書を借りられていません。ということで、ご用始めから来週の読書やいかに?

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