久し振りに貿易黒字を計上した貿易統計の先行きをどう見るか?
本日、財務省から3月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインとなる輸出額は前年同月比+8.5%増の6兆9274億円、逆に輸入額は▲14.5%減の6兆6981億円を記録し、2012年6月以来とても久し振りに貿易黒字+2293億円を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
貿易収支、2年9カ月ぶり黒字 3月は2293億円 14年度は4年連続赤字
財務省が22日発表した3月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2293億円の黒字(前年同月は1兆4501億円の赤字)だった。2年9カ月ぶりに貿易黒字に転じた。QUICKがまとめた民間予測の中央値(479億円の黒字)を上回った。米国向けの自動車輸出などが伸びたうえ、原油価格の下落で輸入額が減った。
輸出額は前年同月比8.5%増の6兆9274億円と、7カ月連続で前年実績を上回った。主な増加品目は自動車や半導体等電子部品、金属加工機械。地域別では米国向けが21.3%増で、自動車や原動機、建設用・鉱山用機械の増加が目立った。欧州連合(EU)は英国向けの自動車などが伸び9.1%増だった。中国を含むアジア向けは、半導体等電子部品の増加などで6.7%伸び、輸出額は3月として過去最大。対中国のみの輸出額は3.9%増で、3月としては2番目の高水準だった。輸出全体の数量指数は前年同月から3.3%増え、2カ月ぶりにプラスとなった。
輸入額は14.5%減の6兆6981億円と、3カ月連続で減少した。原粗油の輸入額は50.7%減と、8カ月連続のマイナスとなった。前年同月は14年4月の消費増税前に駆け込み需要に対応するための輸入が増え、この反動も出た。
地域別の輸入額をみるとアジアは10.7%減で、うち中国からは19.6%減った。2月の春節(旧正月)に生産活動が停滞した影響で、中華圏から完成品などの輸入が減った。輸入全体の数量指数は10.3%減り、2カ月ぶりに前年実績を下回った。為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=119円86銭と、前年同月と比べ17.2%の円安だった。
同時に発表した2014年度の貿易収支は9兆1343億円の赤字(13年度は13兆7563億円の赤字)だった。年度ベースの赤字は4年連続。東日本大震災後の原子力発電所の稼働停止に伴い、火力発電向けの燃料輸入が膨らんだ影響が残った。ただ、14年度後半から原油安の影響で収支が改善傾向となり、単年度の赤字幅は、過去最大だった13年度の約3分の2に縮小した。
輸出額は5.4%増の74兆6709億円と、2年連続のプラスだった。自動車や金属加工機械などの品目で増加した。国別では、米国(7.6%増)やEU(6.4%増)、中国含むアジア(5.0%増)などで前年実績を上回った。輸出全体の数量指数は1.4%増えた。
輸入額は1.0%減の83兆8051億円だった。原油安で中東からの原粗油の輸入が減り、前年度実績を5年ぶりに下回った。一方、円安で円建ての金額が膨らんだ影響もあり、EUからは1.5%増、中国を含むアジアは2.8%増(中国のみでは3.2%増)と、いずれも過去最大となった。
かなり長いものの、適切に取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
繰返しになりますが、季節調整していない原系列の統計では2012年9月以来、2年9か月振りの貿易黒字の計上です。また、季節調整済みの系列でも黒字に転換しており、コチラは震災前の2011年2月以来、実に4年余り振りの黒字ということになります。傾向を見るために季節調整済みの系列のグラフを確認すると、2014年年央くらいから輸出金額が横ばいから増加に転じた一方で、輸入額は消費増税直前の2014年3月をピークに反動減が現れ、さらに、2014年後半から国際商品市況における原油価格の下落などにより、今年2015年2月の春節効果によるジグザグした動きを経て、3月統計では貿易黒字を記録しています。もちろん、日銀の異次元緩和による為替相場の円安傾向も貿易収支の黒字化に寄与していることは言うまでもありません。ただし、この貿易黒字が今後も続くかどうかは不透明だと私は受け止めています。
ならして見れば、上のグラフのように輸出額は増加傾向にあると私は受け止めていますが、貿易収支の見通しがそれほど安定的ではないひとつの要因は国際商品市況における原油価格の動向です。そして、輸出の動向も海外経済のゆくえに依存する部分が大きく、やや不透明な部分が残ります。上のグラフは季節調整していない輸出額の前年同月比伸び率を輸出価格と数量で寄与度分解したグラフと、下のパネルは輸出指数とOECD先行指数のそれぞれのの前年同月比をプロットしています。ただし、OECD先行指数は1か月のリードを取っていま。OECD先行指数の伸びがここ数か月で再びマイナスに低下しているのが見て取れると思います。目先のトピックでは、米国の異常気象と西海岸港湾の労使紛争の影響が我が国輸出を下押ししている可能性がありますし、ギリシア問題を抱える欧州経済の動向や中国における成長率低下の容認など、世界経済全体がIMF「世界経済見通し」にあったように、潜在成長率の低下の影響を受けている可能性があります。我が国金融政策も追加緩和がウワサに上っている一方で、いつまでも円安の進行が続くはずもないですし、今後、年央にかけて輸出が伸び悩む可能性も否定できません。
我が国の貿易収支は方向としては黒字に向かっていると従来から私は考えていましたが、目先、ここ数か月くらいで貿易黒字が定着するかどうかについてはまだ不透明と言わざるを得ないと受け止めています。
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