貿易赤字が大幅に縮小した貿易統計の今後の動向やいかに?
本日、財務省から4月の貿易統計が発表されています。ヘッドラインとなる輸出額は前年同月比+8.0%増の6兆5515億円、輸入額は+4.2%減の6兆6049億円で、差引き貿易赤字は▲534億円となりました。3月の貿易収支は黒字を計上しましたが、4月は赤字となっています。なお、いずれも季節調整していない原系列の統計です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
貿易収支、2カ月ぶり赤字 4月534億円、赤字額は大幅縮小
財務省が25日発表した4月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は534億円の赤字(前年同月は8255億円の赤字)だった。貿易赤字は2カ月ぶり。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(3250億円の赤字)よりも赤字額は少なかった。春節(旧正月)の影響で中国での生産活動が鈍り、3月に中華圏からの輸入が減った特殊要因が一巡。ただ、原油安を受けて輸入額の減少傾向が続いており、前年同月に比べて赤字幅は9割以上縮小した。
輸出額は8.0%増の6兆5515億円と、8カ月連続でプラスとなった。米国や欧州連合(EU)向けの自動車や、アジア向けの電子部品などが伸びた。地域別では米国が21.4%、EUは0.8%増えた。中国を含むアジア向けは6.0%増で、輸出額は4月として最高を記録した。輸出全体の数量指数は前年同月から1.8%増え、2カ月連続でプラスとなった。
輸入額は4.2%減の6兆6049億円と、前年実績を4カ月連続で下回った。原油価格の下落で、原粗油の輸入額が34.6%減った影響が大きい。原粗油のマイナスは9カ月連続となった。半面、中国や韓国からのスマートフォン(スマホ)などの輸入が増加。アジアからの輸入額は2.0%増、うち中国は2.5%増えた。ともに4月としては過去最高だった。
為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=119円89銭と、前年同月より17%の円安だった。
かなり長いものの、適切に取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
今後の貿易収支の動向についてはなかなか不確定な要素が多いんですが、いくつか輸出入の先行きを決める要因を上げておくと以下の通りです。まず、輸出については、世界経済の動向です。米国経済については今冬の異常気象はもはや終了し、西海岸の港湾労使紛争も決着を見たようですし、今後は量的緩和政策やゼロ金利政策のテイパリングの影響を見極める必要がありそうです。欧州については、欧州中央銀行(ECB)による金融緩和の効果がこれから現れると考えられますが、ギリシア債務危機の影響もあって、先行きはいまだに透明感を欠く展開になる可能性が高いと私は考えています。アジアについても依然として中国経済の低迷が続いています。私は米国経済の回復とともに一定のラグを伴いつつ中国をはじめとするアジア経済は対米輸出をテコに回復が進むものと予想していますが、連邦準備制度理事会(FED)によるテイパリングの影響など、見極め難い要素も残されていることは確かです。資源国については原油価格の下止りが見られる中、緩やかながら回復を見せるんではないかと期待しています。他方、我が国の輸入については1-3月期のGDP速報で見られた通り、内需主導の景気回復が進んでおり、需要要因から輸入が増加する方向にあることは確かですし、さらに、国際商品市況における石油価格がさすがに今年1月ころを底にしてそろそろ下げ止まりつつあり、輸入額を引き下げる効果は縮小するものと考えるべきです。従って、輸入を増加させる国内景気の需要効果と石油価格の上昇の効果で輸入額は数量・価格要因とも増加する方向にあると考えられます。総合的に輸出入を考えると、どちらのサイドからも増加が予想されます。従って、しばらくは、貿易収支はゼロ近傍ないしやや赤字で膠着した推移を見せるんではないかと私は見込んでいます。逆にいえば、かつてのような貿易黒字を積み上げる姿からはほど遠いということになります。ただ、経常収支ほど典型的ではありませんが、対外収支は国内の貯蓄投資バランスの裏側で決まる側面もあり、もちろん、国内の貯蓄投資バランスだけでなく対外バランスも含めた総合的な結果ですが、少なくとも貿易赤字が日本経済に悪い効果を持つわけではないことは理解が浸透しつつあるような印象を私は持っています。
上のグラフはいつもの輸出の推移をプロットしています。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量汁宇都価格指数で寄与度分解しており、下のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同期比を並べてプロットしています。ただし、OECD先行指数は1か月のリードを取っています。輸出入の動向については前のパラで先行き見通しを書きましたので省略しますが、欧州経済の動向などから依然として先進国経済の回復の足取りが重いことが読み取れます。
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