今週の読書はスティグリッツ教授の『世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠』ほか
今週の読書は、ノーベル賞経済学者であるスティグリッツ教授の『世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠』や『学び直し ケインズ経済学』など、以下の7冊です。諸般の事情により、今週は手短な読書感想文です。
まず、ジョゼフ E. スティグリッツ『世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠』(徳間書店) です。米国経済についての分析であり、雑誌や新聞に寄稿したコラムなどを取りまとめた本です。格差是正については教育と医療において政府の果たすべき役割の重要性を強調しています。なお、本書に収録されているアベノミクスについてべたホメしたニューヨーク・タイムスのコラムへのリンクは以下の通りです。ご参考まで。
次に、ピーター・テミン/デイヴィッド・ヴァインズ『学び直し ケインズ経済学』(一灯舎) です。ケインズ以前のヒュームやマーシャルの経済学から解き起こして、ケインズ経済学を平易に解説した入門書です。『雇用、利子および貨幣の一般理論』だけでなく、『平和の経済的帰結』などのパンフレットも併せて取り上げて、いわゆるマクロ経済を理解する上で、ケインズ経済学がいかに有効かを理解できます。ケインズがもう10年生きていたら、国内均衡に関する『雇用、利子および貨幣の一般理論』に加えて、国際経済学に関する著作をものにしていたであろう、という指摘には感動を覚えました。
次に、ウィリアム・ダガン『ナポレオンの直観』(慶應義塾大学出版会) です。表紙とタイトルだけを見ると、延々とナポレオンについて書いた本かと思わないでもないんですが、著者はコロンビア大学ビジネススクールの研究者であり、その観点から「戦略」について議論を展開しています。原書は2002年の出版です。ナポレオンは取り上げられている10人のうちの1人に過ぎないんですが、ナポレオンの戦略を研究したジョミニ流の計画や構想を重視する見方とフォン・クラウゼヴィッツ流のひらめきや直観を重視する見方を対比させ、後者に軍配を上げています。頂点を当てているのは、画家のピカソとか、あるいは、ライオン・キングとマリ帝国、エラ・ベイカーと公民権運動、アリス・ポールの女性参政権獲得、また、日本人からは明治維新期の福沢諭吉であり、こういった歴史上の人物がナポレオン的な直観に従ったサクセス・ストーリーが解き明かされています。
次に、ベン・マッキンタイアー『キム・フィルビー かくも親密な裏切り』(中央公論新社) です。今さら、フィルビーについて論じる意味は不明ですが、何となく借りてしまいました。フリビーが英国諜報部MI6に入ったころからソ連に亡命するまで、周囲のMI6やMI5の同僚、あるいは、米国CIAのカウンターパートなどとフィルビーの友情などとともに、フィルビーの活動が跡付けられています。特にアルバニアの反革命への関与が印象的です。
次に、真梨幸子『5人のジュンコ』(徳間書店) です。今週の読書の唯一の小説です。イヤミスの女王によるいやらしいミステリです。なお、7月4日付けの読書感想文で同じ作者の『お引っ越し』を取り上げましたが、順序が逆になりました。今年3月に出版された『お引っ越し』に先立って、昨年12月に本作品『5人のジュンコ』は刊行されています。タイトル通りに5人の「ジュンコ」という名を持つ女性にからんだミステリで、とても意外な結末が用意されています。
次に、満薗勇『商店街はいま必要なのか』(講談社現代新書) です。著者は北海道大学経済学部の研究者で流通史の専攻なんですが、ご出身は文学部の歴史学科だったりします。ということで、消費者に直接商品を販売する小売業について、百貨店、通信販売、商店街、スーパー、コンビニの5業態に分けて、決してタイトルのように商店街に焦点を当てることなく、淡々と議論を展開しています。私は著者が論ずるように、現金販売とか、対面販売かセルフか、などの販売方法ではなく、特にコンビニがそうなんですが、小売業を裏から支えるロジスティックス、物流の技術革新がその川下たる小売業の展開のカギとなっているような気がしてなりません。いかがでしょうか。
最後に、鵜飼哲夫『芥川賞の謎を解く』(文春新書) です。著者は読売新聞の文芸気shで芥川賞ウォッチャーであり、膨大な芥川賞の選評を読みこなして、いわゆる純文学の登竜門たる芥川賞の選考や作家・作品のその後について、1935年の第1回の太宰事件から解き明かそうと試みています。第3章では、戦後の価値観が大きく変化した中で登場した安部公房の衝撃的なデビューが冒頭に取り上げられ、今さらながらに、現在の村上春樹よりも当時の安部公房の方がノーベル文学賞に近かった可能性に思いを馳せてしまいました。2011年を最後にして私は芥川賞をフォローしていませんが、又吉直樹『火花』は読みました。そのうちに芥川賞ウォッチャーに復帰したいとも思っています。
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