4-6月期法人企業統計に見る企業の設備投資やいかに?
本日、財務省から4-6月期の法人企業統計が公表されています。季節調整していない原系列のベースで統計のヘッドラインを見ると、売上高は前年同期比+1.1%増の318兆5957億円、経常利益は円安などに助けられ+23.8%増の20兆2881億円、設備投資は+5.6%増の9兆385億円を、それぞれ記録しており、収益をはじめとする堅調な企業活動がうかがえます。ただし、設備投資は季節調整済みの系列で前期1-3月期から▲2.7%の減少を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
4-6月期設備投資、前年比5.6%増 法人企業統計
財務省が1日発表した2015年4-6月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比5.6%増の9兆385億円と、9四半期連続で増えた。円安や原油安などを背景に企業業績が好調で、一定の資金を投資に振り向ける動きが続いた。もっとも市場の事前予想では伸び率が1-3月期(7.3%増)を上回るとの見方も多かった。前四半期から勢いは鈍った。
産業別の設備投資の動向は、製造業が11.6%増と4四半期連続で伸びた。非製造業は2.6%増で9四半期連続のプラスだった。製造業では新型車向けの生産能力増強や研究開発(R&D)、スマートフォン(スマホ)向け電子部品の増産投資などが伸びた。非製造業では娯楽業や飲食サービス業の新規出店拡大に向けた投資も寄与した。
一方、国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となり、注目度の高い「ソフトウエアを除く全産業」の設備投資額は季節調整済みの前期比で2.7%減った。1-3月期(6.0%増)から一転マイナスとなり、12年4-6月期(季節調整済みで3.4%減)以来、3年ぶりの減少幅を記録した。非製造業が4.4%減、製造業は0.4%増だった。
経常利益は前年同期と比べ23.8%増の20兆2881億円と、比較可能な1954年4-6月期以降の最高額を記録した。プラスは14四半期連続。うち製造業は29.6%増、非製造業は20.8%増だった。円安効果に加え、原油価格の下落に伴う原料コストの低減などが寄与した。
全産業の売上高は前年同期比1.1%増の318兆5957億円と、2四半期ぶりに増収となった。製造業が1.2%増、非製造業は1.1%増だった。
併せて発表した14年度の法人企業統計では、金融機関を除く全産業の設備投資が前年比7.8%増の39兆8228億円となった。経常利益は8.3%増の64兆5861億円で過去最高を更新。売上高は2.7%増えた。
同統計は資本金1000万円以上の企業の収益や投資動向を集計。今回の15年4-6月期の結果は、内閣府が8日に発表する同期間のGDP改定値に反映される。
かなり長いんですが、よくまとまった記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。
上のパネルの季節調整済みの売上げについては、今年2015年1-3月期に前期比▲0.7%減の後、今日公表された4-6月期も▲0.0%減とほぼ横ばいが続いていますが、経常利益については4-6月期は前期比で+14.8%増と大きく伸びました。円高効果が大きいと見られ、製造業が+23.8%増、非製造業が+10.3%増を示しています。季節調整済みの経常利益は産業別では公表されていないので、季節調整していない原系列の経常利益を産業別に増減で見ると、前年同期比+13.6%増の輸送用機械や+67.4%の情報通信機械では自動車・関連部品が好調だったほか、+38.5%の伸びの化学では原材料費の低下で利益率が改善し、さらに、外国人観光客によるインバウンド消費により化粧品の購入も増益につながっています。また、電気業は前年同期比で5倍超の伸びだったんですが、原油価格の下落に伴う料金改定により売上げは減ったものの、原油価格の差益により経常利益は増加しています。これらを総合すれば、引き続き、企業活動の水準は高いと私は評価しています。
下のパネルの設備投資については、季節調整済みの系列で製造業は前期比+0.4%増とほぼ横ばいだったんですが、非製造業が▲4.4%減と大きく減少しています。中国をはじめとする新興国経済の低迷や金融市場の混乱などから、企業がかなり先行き不透明感を感じ始めており、要素需要、すなわち、雇用と設備投資に慎重な姿勢が現れ始めている可能性が考えられます。ただ、経常利益の大きな伸びに比べて設備投資がこの程度ですから、人件費に回る可能性もなくはないですし、この先、世界経済が安定感を増すと設備投資も伸びを高める可能性も残っています。
続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出しています。このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。いずれも、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下しました。また、最初にお示ししたグラフでは季節調整済みの設備投資はこの4-6月期にやや減少したため、キャッシュフローとの比率で見れば設備投資は50%台後半で停滞が続いています。これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。雇用の量的な増加や質的な改善のひとつである賃上げ、もちろん、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないかと私は期待しています。
最後に、これらの法人企業統計を大雑把に見て、来週9月8日公表予定の4-6月期2次QEでは設備投資が素直に下方修正されるものと予想しています。近く、2次QE予想がシンクタンクなどから出そろったら、日を改めて取り上げたいと思います。
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