3四半期振りに大企業製造業の業況判断DIが悪化した日銀短観をどう見るか?
本日、日銀から9月調査の日銀短観の結果が公表されています。統計のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは足元で+12、先行きも+10と、いずれも6月調査の+15からプラス幅を縮小しています。また、今年2015年度の設備投資計画は土地を含みソフトウェアを含まない大企業全産業のベースで6月調査の+9.3%増からさらに上方修正されて前年度比+10.9%を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
9月日銀短観、大企業製造業DIプラス12 3期ぶり悪化、先行きプラス10
日銀が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス12だった。前回の6月調査(プラス15)から3ポイント悪化した。悪化は3四半期ぶり。中国などの新興国の景気減速に伴い輸出や生産が伸び悩み、景況感が悪化した。もっとも訪日外国人の増加を背景に大企業非製造業の景況感は改善した。
3カ月先については、大企業製造業がプラス10の見通し。欧米経済の緩やかな回復は続いているが、新興国の景気減速や株式相場の下落が響いた。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。9月の大企業製造業DIは、QUICKがまとめた市場予想の中央値のプラス13を下回った。回答期間は8月26日-9月30日で、今回の回収基準日は9月9日だった。
2015年度の事業計画の前提となる想定為替レートは大企業製造業で1ドル=117円39銭と、前回の115円62銭よりも円安・ドル高方向に修正された。
大企業非製造業のDIはプラス25と、前回から2ポイント改善した。改善は4四半期連続で、1991年11月(プラス33)以来の高水準になった。訪日外国人の増加で宿泊・飲食サービスや小売りなどの上昇が目立った。
3カ月先のDIは6ポイント悪化し、プラス19を見込む。新興国経済の低迷や世界的な株式相場の下落が先行き不透明感につながっている。
中小企業は製造業が横ばいのゼロだった。国内の設備投資が下支えした。非製造業は1ポイント悪化のプラス3だった。先行きはいずれも悪化した。
15年度の設備投資計画は大企業全産業が前年度比10.9%増だった。6月調査の9.3%増から上方修正され、QUICKがまとめた市場予想の中央値(8.6%増)を上回った。大企業のうち製造業は18.7%増、非製造業は7.2%増を計画している。
大企業製造業の輸出売上高は前年度比3.3%増となり、6月調査から上方修正された。円相場は1ドル=120円近辺で比較的安定していたことなどを反映した。
大企業製造業の販売価格判断DIはマイナス7と、6月調査(マイナス4)からマイナス幅が拡大した。DIは販売価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」と答えた企業の割合を差し引いたもの。新興国経済の減速懸念で販売価格へコスト転嫁する姿勢がやや弱まった。
やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。
まず、日銀短観のヘッドラインと見なされている大企業製造業の業況判断DIは6月調査から▲3ポイント悪化の+12だった一方で、大企業非製造業は+2ポイント改善の+25を記録しています。非製造業のマインド改善は、国内消費がまだ本格回復に至らない中で、観光客によるインバウンド消費の増加や原油安による交易条件の改善などに支えられていると考えられます。シルバー・ウィーク効果も入っている可能性もありますが、これについてはサステイナブルではないと考えるべきです。ただ、製造業についても、新興国経済に対する懸念や不透明感からやや悪化したものの、もともと6月調査の時に妙に上振れていたものですから、実力はこんなものとも考えられ、かなり底堅いと評価すべきと私は考えています。先行きは大企業レベルでも製造業・非製造業とも悪化の方向は間違いのないところですが、非製造業のマインドがかなり高水準である点が、インバウンド消費も含まれるとはいえ、内需の堅調さを裏付けるといえ、タイムテーブルを別にすれば、物価上昇率のパスは上向きと見なすことも可能であり、その意味では日銀シナリオを変更する必要はなく、ましてや、追加緩和の必要性も否定されることになります。このあたりの現状分析や政策判断は10月末の「展望リポート」の見直しの中で日銀から示されるものと思います。少なくともそれまでは、追加緩和などの政策変更はない可能性が高いと私は考えています。
続いて、いつもお示ししている設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。設備については、後で取り上げる設備投資計画とも併せて見て、設備の過剰感は完全に払拭されたと考えるべきですし、雇用人員についても不足感が広がっています。特に、採用に苦労している中堅・中小企業では大企業よりも不足感が強まっています。といいつつ、それにしては、毎月勤労統計などで見る賃金が上がらないのが不思議なんですが、少なくとも、時間はかかる可能性はあるものの、賃金の上昇や正規雇用の増加などの雇用の質的な改善に向かうルートに乗っていることは事実であろうと私は受け止めています。
続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。今年2015年度の計画は黄色いラインと四角い大きな黄色いマーカで示されていますが、見ての通りで、大企業製造業の景況感とは逆に、6月調査からやや上方修正され、大企業全産業で前年度比+10.9%増と計画されています。また、大企業だけでなく、中堅・中小企業でも6月調査から上方修正となっており、全規模全産業で前年度比+6.4%増の設備投資計画となっています。特に、製造業は全規模を通じて+13.5%増と2ケタ増の計画となっています。人手不足感が強まる中で、雇用人員に代替する機械設備の需要が高まっている一方で、為替レートに応じた生産拠点の国内回帰がどれほどあるのかは不明です。ゼロではなく一定はあるものと私は期待しています。それにしても、現在まで判明しているGDPベースの設備投資は4-6月期だけながら、やや奮わない印象なんですが、この先、設備投資は爆発的に増加したりするんでしょうか?
9月調査の日銀短観は強弱入り混じった結果であり、基本的には底堅い企業マインドを反映していると私は受け止めていますが、中国をはじめとする新興国経済への不透明感などから先行きが楽観できないことも事実であり、いずれにせよ、我が国経済が上がるとも下がるとも方向感を欠いた踊り場にある現状の企業マインドを反映したものであることは間違いありません。
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