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2015年10月17日 (土)

今週の読書は『インフラ・ストック効果』ほか小説も新書も読んで計5冊!

今週の読書は国土交通省の公認本『インフラ・ストック効果』ほか、フィクションの小説や当然ながらノンフィクションの新書も含めて計5冊、以下の通りです。

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まず、インフラ政策研究会『インフラ・ストック効果』(中央公論新社) です。著者の団体はほぼ国土交通省そのものと見なして差し支えないような気がします。ということで、インフラに関してその建設や施行の実施を担当する官庁の公式見解と考えて読み進むべきです。逆から見て、ダマされないようにする必要もあります。英国ケンブリッジ大学のロビンソン教授の有名な言葉に、「経済学を学ぶ目的は、経済の問題に対して一連の出来合いの答えを得るためではなく、どうしたらエコノミストに騙されないかを学ぶことである」 "The purpose of studying economics is not to acquire a set of ready-made answers to economic questions, but to learn how to avoid being deceived by economists" というのがあります。本書とか、あるいは、政府の経済政策について解説するこのブログの記事を読む場合、こういった心がけが必要かもしれません。というのは冗談としても、標準的なマクロ経済学に関する解説もあり、インフラに関して、短期的なフローの需要面だけでなく、中長期的なストックとしての供給面に大きな焦点を当てた解説です。もちろん、市場がすべての経済問題を解決してくれるわけではありませんが、逆に、すべてのインフラが公共財であるともいえません。公共財の範囲には入らないようなムダな公共事業が存在するのも事実でしょう。また、本書が主張するように、一方的にマーケットインでインフラを整備するのが常に正しいとも限らず、政策的に市場の均衡点を歪める必要も否定できません。最後に、「安心安全のインフラ」が途中からまったく忘れ去られているのは、どうしたことなんでしょうか?

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次に、保坂渉/池谷孝司『子どもの貧困連鎖』(新潮文庫) です。著者は2人とも共同通信のジャーナリストです。通信社から配信されて地方紙などに掲載された取材結果を2012年に単行本化した内容を今年2015年に文庫本で出版しています。豊かな生活を享受できる経済大国ニッポンとはとても思えないような子供の貧困生活が明らかにされます。いくつものアルバイトをかけ持ちしても生活費の足りない定時制高校生の貧困状態の取材から始まって、中学校の給食が財源不足の一言で廃止されたり、母子家庭や父子家庭の不安定かつ貧困な生活、保健室でしかまともな食事を得られない貧困家庭の子供、そして、虐待に等しい扱いしか受けられない子供、一貫して観察できる事実は子供の貧困とはすなわち親の責任であり、親の所得が少なかったり不安定だったりするために子供が貧困に陥っているという事実です。そして、子供の「居場所」のひとつである学校や保育園などでも「財源不足」を錦の御旗に子供に対する予算が大きく削られています。本書では取材の結果のケーススタディしかなく、統計的なエビデンスは出て来ませんが、私の知る限り、特に日本では教育の家庭負担が大きく、米国との比較はともかく、少なく見積もっても欧州諸国と比較してGDP比で1%は少ないと記憶しています。実額に換算すれば5兆円あまりです。これを高齢者・引退世代への手厚い社会保障経費を削減することにより捻出することができません。投票行動におけるシルバー・デモクラシーのためです。そして、私は2009-12年の3年間の民主党政権時に、安全保障政策や外交政策などでいろいろと疑問を感じないでもなかったんですが、少なくとも「子ども手当」だけは高く評価しています。このブログでも、学術論文としても、その旨は明らかにしてきたつもりです。本書を読めば、シルバー・デモクラシーを乗り越えて、子供や家庭へ振り向ける社会保障財源の確保が何としても必要だということを実感します。

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次に、大塚柳太郎『ヒトはこうして増えてきた』(新潮選書) です。著者は私でも名前を知っているくらいの著名な生物学者であり、20万年前に5000人から始まったホモ・サピエンスの生物としての歴史を最近時点まで跡付けています。7万年前の50万人の時代のいわゆる Out of Africa から始まった移動、さらに定住と農耕を開始した1万2000年前には500万人に達し、5500年前の文明に到達した時代に1000万人を数え、18世紀半ばの人口転換と産業革命の時代に7億2000万人の人口が、とうとう今年2015年に72億人に達したものの、先進国では人口減少の時代に入りつつある、という長い長い歴史をひも解いています。基本は19世紀初めのマルサス『人口論』まで、食料生産が人口増加の最大の制約条件であったことは確かなんでしょうが、その後、20世紀における農業上の技術革新、いわゆる「緑の革命」に支えられて人口が爆発的に増加し始めた一方で、本書でも原因は不明とされつつも、我が国をはじめとして、移民受入れの少ない先進国において人口減少の初期段階を経験しようとしています。最後の点に関しては、p.197 の図5-1のイングランドとウェールズにおける人口転換の模式図がとても示唆に富んでいると私は受け止めました。また、別の視点から、社会科学的な人口の歴史、すなわち、マルクス主義的な原始共産制、奴隷制、封建制、資本制の発展形態についても、こういった明示的な表現ではないものの、きちんと踏まえられており、生産に余裕ができた段階で交易や戦争が始まるとの正しい認識が示されています。

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次に、岩城けい『Masato』(集英社) です。太宰賞を受賞したデビュー作『さようなら、オレンジ』に続く第2作です。なお、前作のデビュー作については2013年11月22日付けのこのブログのエントリーで取り上げており、メタ構造を批判する三浦しをんに対抗しつつ、何と、今年もノーベル文学賞を逃した村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』や経済書のダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』上下などと並べて、「今年のマイ・ベストに近い」と私は絶賛しています。本作についても、著者の住むオーストラリアを舞台にして、日本の自動車会社の駐在員の男の子を主人公に、とても力強く前向きなストーリーを編み出しています。英語を理解できずに小学校でいじめられつつもサッカーに居場所を見つける少年が、両親のいさかいや愛犬の死に悲しみ悩みつつも力強く人生を歩み続けます。愛する我が子が日本人でなくなってゆく一方で、現地に対応しきれない母親の哀しみ、また、ある意味で、現地に適応しすぎて会社を辞めて中古車店をオーストラリアで開業しようと考える父親、高校受験で早々に帰国してしまった姉、さらに日本から連れてきた柴犬の家族の物語を少年の目から描き出しています。そして、最後は少年は秀でも指折りの名門ハイスクールに入学するサクセス・ストーリーとして完結しています。私自身も独身時代にチリで経済アタッシェとして大使館勤務を、結婚して2人の倅が幼稚園児のころにジャカルタでODAの専門家を、それぞれ経験していますが、異文化に囲まれて周囲と十分なコミュニケーションを図れない外国での駐在員生活、さらに日本とは大きく異なるシステムの下での子供の教育、いろいろとネガティブな要素がいっぱいある環境ながら、力強くたくましく前向きに生き、そして母親から自立しようともがく少年の青春前期、すなわち、本格的な異性との恋愛を経験する前の段階の青春物語です。とても読後感のさわやかな傑作小説です。

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最後に、中野晃一『右傾化する日本政治』(岩波新書) です。実に、私が普段から感じて恐れていることについて、政治学を専門とする上智大学教授の著者が正面から取り上げています。冒頭に振り子の図解があって、現在の日本政治の右傾化は振り子が右に振れているんではなく、そもそも振り子の支点が右にシフトしているのであると解き明かしています。もちろん、日本単独の政治現象ではなく、1980年前後に米英で成立した英国サッチャー内閣、米国レーガン政権といったニュー・ライト=新右派政権の台頭があり、少し遅れて日本でも中曽根内閣が政権の座に就いて、国鉄などの民営化を進めて労働組合運動の弱体化につながったのは歴史的事実です。そして、日本の新右派の政治的な目標は2点あり、いわゆる自主憲法の制定ないし現憲法のカギカッコ付きの「改正」、そして、歴史修正主義ないし歴史観や道徳観の国家主義化です。当然ながら、マルクス主義的な上部構造と下部構造ではないんですが、経済においても1980年前後から米国もフリードマン教授らの右派的な経済学がケインズ経済学を押しのける形で政策に関与し始めます。今世紀に入ってからは、政府が経済や市場に関与する部分が特に小さくなり、規制緩和などで企業が自由に利潤を追求し極大化した上で、国民や労働者への分配が大きく滞る、といった現象が見られるのは衆知の通りです。その上で、本書を私が高く評価するのは、正しく講座派的な視点で政治経済を分析している点です。すなわち、戦後の吉田ドクトリン以来、安全保障の観点からは大きく米国に従属し、日本国内で軍事費を最小化した上で経済発展を目指した路線の上で、例えば、今年の集団的自衛権の議論としても、単に日本が戦争をできる国に変えたわけではなく、米国に従属し米国を補完するする形で戦争を出来るように集団的自衛権を設定したと、本書では正しく指摘されています。この対米従属の観点を忘れて、独立した軍事大国としての集団的自衛権に関する労農派的な議論は、私はどこまで有効なのか疑問に受け止めるくらいです。私の専門外ながら、とても重要なテーマを論じている良書だと思います。

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