減少を続ける機械受注と50を割って低下する景気ウォッチャーと安定的に推移する経常収支から何を読み取るか?
本日、内閣府から8月の機械受注と9月の景気ウォッチャー、さらに、財務省から8月の経常収支が、それぞれ公表されています。まず、各統計のヘッドラインを報じる日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
機械受注、8月5.7%減 外需落ち込む、基調判断2カ月連続下げ
内閣府が8日発表した8月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の受注額(季節調整値)は、前月比5.7%減の7594億円だった。減少は3カ月連続。QUICKが事前にまとめた市場予想は3.0%増だった。2カ月連続で市場予想に反してマイナスとなり、7月(3.6%減)よりも減少幅が広がった。3カ月連続の受注減は09年3-5月以来となる。
受注額は14年6月以来、1年2カ月ぶりの低水準にとどまった。内閣府は機械受注の基調判断を「足踏みがみられる」とし、従来の「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から引き下げた。7月に続く下方修正となり、2カ月連続の判断引き下げは14年5-6月以来となった。
主な機械メーカー280社の製造業からの受注額は前月比3.2%減の3479億円と、3カ月連続で減った。業種別では、電気機械から半導体製造装置や運搬機械のほか、鉄鋼業や自動車・同付属品からの受注が減った。非製造業は6.1%減の4221億円で、マイナスは2カ月連続。金融業・保険業や運輸業・郵便業などからの引き合いが減った。
外需は26.1%減の8723億円と大きく落ち込み、4カ月ぶりにマイナスとなった。内閣府は「中国の景気減速が一部民需や外需に影響した可能性がある」としている。
内閣府は8月、7-9月期の受注額(船舶・電力除く民需)が前期比0.3%増えるとの見通しを示していた。9月が前月比43.5%増えなければ当初見込みは達成できない。内閣府は「データをさかのぼれる05年度以降、これまで単月の最大の伸び率は前月比15%(08年1月)で、達成は現実的ではない」としている。9月が前月比横ばいだった場合、7-9月期の受注額は前期比12.2%減にとどまるという。
街角景気、現状判断は2カ月連続悪化 9月
先行きは4カ月ぶり改善
内閣府が8日発表した9月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は前月比1.8ポイント低下の47.5だった。悪化は2カ月連続。8月に続き好況の目安となる50を下回った。家計と企業動向、雇用関連の全部門の指数が前月より下がった。ただ内閣府は基調判断について「中国経済に関わる動向の影響などがみられるが、緩やかな回復基調が続いている」との見方を据え置いた。
家計動向は小売りと飲食、サービス、住宅関連の全項目が前月より悪化した。家計に関しては「9月は例年に比べ残暑が厳しくなく、飲料やアイスが不振で全体の売り上げも前年を大きく下回っている」(東海のコンビニ)との声があった。企業動向では、中国の景気減速の影響で「海外向けの受注が減っているため受注量が少ない」(南関東の金属製品製造業)との見方も出た。9月下旬のシルバーウイークについて内閣府は「地元の客が遠ざかるといった声もあり、必ずしもプラス要因となったわけではない」としている。
一方、2-3カ月後の景気を占う先行き判断指数は0.9ポイント上昇の49.1となり、4カ月ぶりのプラスに転じた。年末商戦やボーナス支給などへの期待感から、家計関連が改善した。景気減速に揺れる中国への不安は根強く「中国経済の不安定さからくる、株価の低下やインバウンド需要の減少などのマイナス材料による影響が懸念される」(近畿の百貨店)との声も聞かれた。内閣府は街角景気の先行きについて「プレミアム付き商品券への期待などがみられるものの、中国経済や物価上昇への懸念などがみられる」とまとめた。
経常収支、8月は1兆6531億円の黒字 海外投資先からの配当金増
財務省が8日発表した8月の国際収支状況(速報)によると、モノやサービスなど海外との総合的な取引状況を表す経常収支は1兆6531億円の黒字だった。黒字は14カ月連続で、前年同月の2494億円の黒字から大幅に拡大した。QUICKがまとめた民間予測の中央値(1兆2339億円の黒字)を上回った。企業が海外子会社や投資先から受け取る配当金収入の増加が増えた。旅行収支の改善などにより、長年赤字基調だったサービス収支が黒字になったことも寄与した。
8月の貿易収支は3261億円の赤字だった。赤字幅は前年同月の8526億円から縮小した。米国向けの自動車販売などが伸び、輸出額が5兆8579億円と、2053億円(3.6%)増えた。一方、輸入額は6兆1841億円と、3212億円(4.9%)減った。原油などの資源価格の下落で、輸入額が減少した。
旅行や輸送などのサービス収支は578億円の黒字だった。統計をさかのぼれる1996年以降、長らく赤字が続いていたが、今年に入って3度目の黒字になっている。旅行収支の黒字が大きく寄与している。海外で生産した自動車や医薬品が売れることによって得られる「知的財産権などの使用料」の黒字額が3314億円と、単月として過去2番目の黒字幅になったことも寄与した。
海外子会社や投資先からの配当金収入などにあたる第1次所得収支の黒字は前年同月比5325億円増の2兆518億円となった。債券の利子収入などの増加が目立った。
いずれも、よく取りまとめられた記事だという気がします。でも、3つの経済指標を一気に並べるととても長くなってしまいました。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。景気後退期のシャドーについては景気ウォッチャーも同じです。
船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注を見ると、季節調整済みの系列で前月比▲5.7%減の7594億円でした。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは季節調整済みの前月比で+2.7%増でしたから、3か月連続の前月比マイナス、で8月▲5.7%減はちょっとびっくりです。コア機械受注のうち、製造業は▲3.2%減、船舶と電力を除く非製造業も▲6.1%減といずれもマイナスを示しています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」とし、先月の「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から引き下げています。業種別に細かく季節調整済みの前月比を見ると、製造業ではもともと単月での振れの大きい鉄鋼業▲55.1%減や非鉄金属▲51.4減%に加えて、一般機械▲6.8%減、情報通信機械▲20.0%減、自動車・同付属品▲16.1%減が7月の前月比プラスから8月にはマイナスに転じており、非製造業でも金融業・保険業が▲40.4%減のマイナスに転じています。ここ2-3か月の機械受注急減のひとつの要因として、「省エネ設備導入補助金」と称された設備投資促進策が3月に申請を開始し4月半ばに申請が予算額に到達したため受付終了となり、設備投資需要の先食いをしたと考えられています。省エネ設備の投資のうち2分の1から3分の1を補助するもので、最大3,000億円規模の設備投資に寄与すると考えられており、機械受注統計からみると電気機械や金融業・保険業では政策効果による急減と反落があったといわれています。さらに、情報通信機械ではスマホ対応などのLTE基地局投資のピークアウトが生じたとも考えられています。ただ、個別の業界の個別の事情はともかく、9月調査の日銀短観で示された設備投資計画に対して最近の機械受注統計が整合的ではないように私には見えます。日銀短観の設備投資計画は企業部門のキャッシュフローなどと整合的である一方で、最近の機械受注は中国をはじめとする新興国経済の低迷や株価の動向などと整合的です。もしも、無理やりに日銀短観の設備投資計画と機械受注を整合的に見ようとすれば、年度後半に設備投資が爆発するシナリオなんですが、エコノミストの経験からしてとても現実的とは思えません。ここは大きなパズルが生じているとしか私には見えません。どちらが正しいんでしょうか?
景気ウォッチャーのグラフは上の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。色分けは凡例の通りです。9月の現状判断DIは前月比▲1.8ポイント低下の47.5となった一方、先行き判断DIは前月比+0.9ポイント上昇して49.1を記録しています。現状判断DIのうち、家計動向関連DIは小売関連などが低下したこと等から低下し、企業動向関連DIは製造業・非製造業ともに低下し、雇用関連DIについても低下しています。基調判断は、「景気は、中国経済に係る動向の影響等がみられるが、緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、プレミアム付商品券への期待等がみられるものの、中国経済の情勢や物価上昇への懸念等がみられる」と据え置かれていて、私も霞が関文学について親しんでいるつもりではありますが、イマイチ読解力のないエコノミストには何がなんだかよくわかりません。ただ、マクロの統計としては8月に続いて低下し50を割り込んでいるのはDIとして何らかの転換点を示す可能性が高いと受け止めていますし、また、個別の景気判断理由でも、8月の猛暑に続いて9月のシルバー・ウィークは消費拡大の可能性があると見ていただけに、シルバー・ウィークに対する否定的な見方が示された点については少し驚いています。いずれにせよ、賃金の上昇が遅れているだけにマインドの方もなかなか上がりにくくなっている印象です。
最後に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。ただし、引用した記事は季節調整していない原系列の統計を基に書かれているようですが、グラフは季節調整済みの系列でプロットしていますので、少し印象が異なる可能性があります。ということで、上のグラフで見ても明らかな通り、最近時点では季節調背済みの経常収支は1兆円を少し超える水準で推移しています。サブプライム・バブル崩壊前の2006-07年ころまでと大きく異なるのは経常収支の構成であり、以前のように貿易黒字が積み上がっているのではなく、所得収支の黒字が大きくなっており、それ以外は貿易収支も含めてやや赤字ながらもほぼバランスしている、ということです。特に、長らく続いていたサービス収支の赤字もインバウンド消費による旅行収支などによりほぼ均衡に近くなっているのが見て取れます。石油などの国際商品市況の動向は何とも見通し難い一方で、為替の減価は貿易収支の黒字化圧力となり、また、TPP合意による関税率の引き下げは輸出入の双方向で拡大効果を持ちつつも、サービスや投資の自由化促進は投資収益収支の黒字幅の拡大やサービス収支の黒字化に寄与する可能性が高いと私は考えています。
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