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2015年10月31日 (土)

今週の読書は経済書も含めて6冊ほど!

今週は、何とか経済書を含めることができました。以下の6冊です。

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まず、ダイアン・コイル『GDP』(みすず書房) です。著者は英国出身のエコノミストですが、ジャーナリストの経験もあるようです。「GDPとはなにか」ということをテーマにして、経済をどのように捉えるかを考えるエッセイです。前世紀初頭のGDPや国民所得という概念がなかったころから話を説き起こし、大恐慌期のケインズによるマクロ経済分析の開始、第2時大戦後30年近くに及ぶブレトン・ウッズ体制下での経済の黄金時代、そして、1970年台の2度に及ぶ石油危機からの経済成長の屈折と米国のレーガン政権や英国のサッチャー政権などによる右派的な新自由主義に基づく経済運営、バブル崩壊後の日本を例外として1990年台から2000年代のリーマン・ショックまでくらいの大安定期とその後の金融危機によるさらなる成長の下方屈折、そして将来に及ぶ経済の把握のためのGDPのあり方、あるいは、経済や景気の把握のための指標について、経済学的な理論と歴史などをコンパクトに取りまとめています。本書でもGDPに代替する指標としての幸福度、特に主観的でない経済社会指標としての幸福度が言及されていますが、著者は幸福度をGDPに代替する政策目標とすることについては否定的な態度を取っていると感じられました。逆から見て、現時点では消去法によりGDPが政策目標としての経済変数として残っている、ということなのかもしれません。ただ、本書で著者はレベルとしてのGDP、あるいは1人当り所得とそれらの成長率は必ずしも厳密には区別していません。やや疑問を感じますが、いずれにせよ、エコノミストにとって、より望ましい経済指標の探求はまだ続くのかもしれません。

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次に、高橋琢磨『21世紀の格差』(WAVE出版) です。著者は野村総研の方なんでしょうか、出版社とともに私はよく知りませんでした。本書のタイトルはピケティ教授の『21世紀の資本』へのオマージュのようなタイトル付けをなされているような気がしないでもないんですが、中身の学術レベルはかなり違います。野村総研的な「創知・情報化社会」における産業創発ではアベノミクス的な対応は間違いだということをいいたいのか、なかなか興味深い議論を展開しています。アベノミクスについては基本的に第1の矢と第2の矢は量的な拡大路線であり、第3の矢についてはターゲティング・ポリシーでなければ質的な革新誘発の政策と私は考えています。でも、ケインズ政策への無理解などから量的な拡大路線は否定的に捉えられがちなことも事実で、見事に本書もその陥穽に陥っています。私はある経営者の発言を聞いて、為替によるコストダウンを否定し、血と汗を流すタイプのコストダウンを称揚する姿勢にびっくりした記憶がありますが、本書も同様の姿勢なのかもしれません。後、コンサル的な視点なのかもしれませんが、成功事例をすべてのケースに当てはめようとしている姿勢が垣間見えます。ですから、比較優位を無視しているというか、どの事例にも同じような金太郎飴的な対応策が適当と考えているのか、また、本書のテーマであるマクロの不平等に対する成功事例が世界的にも存在しない、という事実も本書の内容を充実させる上で障害になっている可能性も指摘しておきたいと思います。ただし、唯一私が共感したのは第1章終盤の第7節 若者を虐待する日本の雇用、第8節 悪化し続ける子どもの貧困、くらいかもしれません。やや壮大なタイトルに負けている内容かもしれません。

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次に、榎本憲男『エアー 2.0』(小学館) です。本作品と次はフィクションの小説です。著者は、私は知らなかったんですが、映画のプロデューサーや監督などをしていて、映画の世界の人のようです。小説の舞台は2020年東京オリンピックの準備の工事現場から始まります。いろいろあって、種銭を得た上で、経済学の理論に加えて人の感情をも計算して完璧な市場予測をはじき出す「エアー」というシステムを開発し、それを無料で日本政府に提供して15%のコミッションを取って、その資金をNPO法人まほろばから福島県内の帰還困難地区を特区に設定して企業誘致し、地域振興を図るというストーリーです。なお、政府からのエアーのコミッション15%のほかに、特区内では20%の消費税も財源とされています。それらの資金は円と等価の「カンロ」なる地域通貨で支払われ、途中でも、登場人物がつぶやくんですが、このNPO法人まほろばが、ほぼ特区地域の政府の役割を果たしてしまいます。当然、サステイナブルではないことは明らかで、どこかで終わりを迎えるんですが、ラストの迎え方が鮮やかです。エアーのシステムが極めて大きな電力を必要とし、例えるなら、地方都市、丸ごと1都市分くらいの電力を消費するという点がポイントになります。若手キャリア官僚のグループがまほろばを支えるというのが少し陳腐な気もしますが、とても面白い経済小説です。資本主義のリセット、特に信用乗数を発生させないという意味でバブルをもたらさないシステムとして設計されているものの、エアーのシステムそれ自体がバブルだという気もします。面白い上に、エコノミストの身としては、考えさせられる小説でもあります。

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次に、内館牧子『終わった人』(講談社) です。著者は売れっ子のシナリオ・ライターにして、最近は小説も何冊か出版していますので、私ごときが紹介する必要もないでしょう。少し前の小説『十二単を着た悪魔』は私も読んでいて、ほぼ3年前の2012年10月16日に読書感想文をアップしています。この『終わった人』は東大法学部卒でメガバンクに就職しながら、派閥争いに敗れて出世コースから外され、しがない子会社に転籍されて、結局、そのまま63歳の定年を迎えた男性の物語で、その定年の日から始まります。エリート・コースを走りながら50歳を前に窓際族となって、完全燃焼できずに定年を迎えるところが味噌です。そして、最後は思いっ切りのハッピーエンドですべてが丸く収まるようなストーリー展開なんですが、決してそうはなりません。ある意味で、リアルさを求める著者の小説進行上の工夫なのかもしれません。でも、この小説の主人公ほどのエリート・コースに乗っているわけではありませんが、私も京大を出たキャリアの公務員で定年も近いながら、やや体力的な不足があるとはいえ、ここまでやりがいや仕事や社会貢献に執着する気持ちはありません。その意味でリアルさは感じられず、東大卒のメガバンク出身者というだけで、何か特殊かつ一般的でない人物像を描く人も多いかもしれません。どうでもいいことながら、『十二単を着た悪魔』より簡単そうですので、この作品はドラマ化されたりするんでしょうか。

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次に、池上彰[編]『日本の大課題 子どもの貧困』(ちくま新書) です。編者については私がこのブログで紹介する必要もないほどの有名時であり、NHK出身のジャーナリストであることはいうまでもありません。本書は2部構成であり、児童保護施設の所長さんへの編者のインタビューが第1部、第2部は有識者によるリポートないしは学術論文に近いエッセイとなっています。私が何度もこのブログなどで主張している通り、そして、すぐ上の『終わった人』の読書感想文にもある通り、我が国は高齢者や引退世代には極めて優しい国であり、手厚い社会保障を敷いているんですが、どうしても財源の観点から子どもや家族などの世代には十分な財政リソースが行き渡っていない、という私の見方を裏付けるような本でした。第1部のインタビューでは、何度かキーワードとして児童施設の子どもを「良き納税者」に育てる重要性が指摘されています。私が以前の読書感想文のブログで指摘した通り、サバイバル問題を別にすれば、高齢者は10年たっても高齢者なんですが、児童は10年たてば「良き納税者」に育てられている可能性が十分あると実感させられる良書でした。何とか、シルバー・デモクラシーを乗り越えて、社会保障政策における世代間の平等が実現され、恵まれない子どもを「良き納税者」に育てることが可能な社会になるように私は強く願っています。

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最後に、清水真人『財務省と政治』(中公新書) です。著者は日経新聞のジャーナリストであり、今まで『官邸主導』や『消費税 政と官との「十年戦争」』などの著書があります。後者についてはこのブログでも取り上げており、2年前2013年9月16日付けのエントリーで朝日新聞のジャーナリストである伊藤裕香子『消費税日記 検証 増税786日の攻防』とともに論評を加えています。この著者のノンフィクション本を私が好きなのは、ジャーナリストの著作にありがちな事実を果てしなく羅列するという手法ではなく、観察された事実の背後にある科学的な法則性を導こうという姿勢があるからではなかろうかと感じています。すなわち、多くのジャーナリストのルポはニュートン的にいえば、いっぱいリンゴが落ちるのを書き下しているだけのような気がする一方で、この著者のルポはリンゴが落ちるのはなぜかを考えて万有引力の法則に迫っている気がします。ということで、本書は最強の官庁ある財務省について、そのパワーの源を通常指摘される予算編成権限ではなく、情報収集のインテリジェンスの能力に求めています。とても興味深い観点だという気がします。私が属する官庁ではインテリジェンスという感覚はまったくなく、経済合理性とか論理性を重んじるようなところがあり、それだけに本書でいう最強官とはやや違った存在ではなかろうかという気もします。それはともかく、予算編成という表の顔ではなく、インテリジェンスという裏の顔に着目するのであれば、個々の官僚の組織に対する忠誠心を引き出すためのインセンティブを考える必要があり、そのひとつとして天下りについても考察の対象とすべきではなかったか、と私は考えます。最近時点での財務省のパワーの減退の原因もそのあたりにありそうな気もしないでもありません。ホントはおそらく著者はそのあたりにも詳しいような気がするんですが、私の推測ながら、意図的に天下りのトピックを外したのはどうしてなのか、やや興味をひかれるポイントかもしれません。

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