貿易収支はこのまま赤字が続くのか?
本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。ヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.6%増の6兆4174億円、輸入額は▲11.1%減の6兆5318億円、差引き貿易赤字が▲1145億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
貿易収支、9月赤字1145億円 市場予想に反し赤字、対中輸出低迷
財務省が21日発表した9月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1145億円の赤字だった。QUICKが事前にまとめた市場予想(1000億円の黒字)に反し、6カ月連続で赤字となった。原油安に伴う輸入減や円安を支えとした輸出額の増加などで赤字幅は前年同月(9619億円)から約9割縮小した。ただ景気が減速する中国向け輸出が低迷し、対世界の輸出数量は3.9%低下。財務省は輸出を巡り「中国の動向は注視していかなければならない」と指摘した。
輸出額は0.6%増の6兆4174億円と、13カ月連続のプラスを保った。米国向けに乗用車の輸出が増えた。もっとも、輸出額の増加は円安が支えとなった面が大きい。輸出額の増減率は14年8月(1.3%減)以来の低水準。数量指数の低下幅は対中で5.7%、対米でも4.7%だった。
輸入額は11.1%減の6兆5318億円と、9カ月連続でマイナスとなった。原油価格の下落を主因に、中東地域からの原粗油などの輸入が減った。9月の原粗油の輸入額は4割超減り、減少は14カ月連続だった。
併せて発表した4-9月期の貿易収支は1兆3086億円の赤字だった。貿易赤字は半期ベースで9期連続。赤字幅は上半期で過去最大だった前年同期(5兆4585億円の赤字)から約8割減った。輸出額は5.2%増の37兆7590億円と、円安をテコに増勢が続く一方、世界全体の数量指数は1.7%低下。同指数は対中で4.4%、対米で2.5%下がった。輸入額は5.5%減の39兆676億円だった。
なかなかコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、貿易黒字=輸出超過額が+1000億円、レンジで見ても▲1500億から+3215億円との結果が示されていましたから、貿易赤字を記録した9月の貿易統計はやや意外感をもって受け止められているんですが、ほぼ収支均衡ということで大きな違いはないようにも考えられます。まあ、貿易収支が赤字か黒字かで神経質になる市場参加者の心理は理解できなくもないんですが、マクロ経済を見るエコノミストとしては大差ないと受け止めています。決して縮小均衡というわけでもないんですが、輸出が新興国経済の景気停滞により伸び悩む一方で、輸入は国際商品市況の低迷で原油価格などが下落した結果、輸出入ともに伸び悩みないし減少となった結果、貿易収支が均衡近傍で推移していると考えています。ひょっとしたら、新興国を含めて世界景気が本格的な回復軌道に戻れば、我が国の輸出が所得効果で伸びる一方で、国際商品市況も中国などの新興国経済が回復に向かえば上昇することから我が国の輸入額も増加するのかもしれません。ただ、国際商品市況の動向は不透明です。

上のグラフはいつもの輸出の推移をプロットしています。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同期比を並べてプロットしていて、一番下のパネルは本邦初公開かもしれませんが、OECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の終了指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っていますし、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、新たなグラフもあってグラフのやや解説が長くなりましたが、我が国からの輸出については円安による価格効果が増加の方向で下支えしつつも、中国をはじめとする新興国を含む世界経済の低迷に伴う所得効果により伸び悩み、ないし、数量が減少を示していると私は受け止めています。今日発表の貿易統計に見る輸出の推移は、明らかに、世界経済の停滞ないしは海外需要の低迷を裏付ける結果となっていますが、倍国経済はハッキリと回復を示していますし、欧州経済も欧州中央銀行(ECB)の量的緩和政策などに支えられて最悪期を脱しており、中国経済についても預金準備率の引下げをはじめとする金融政策の発動により底打ちの兆しが見え始めていることなどから、我が国の輸出に対する所得効果も上向く可能性が出始めていることも確かです。もちろん、世界経済、特に新興国経済の持ち直しとともに国際商品市況は上昇する可能性が残るものの、ESPフォーキャストでまだ「数年内に黒字転換しない」が過半数を占めている貿易収支なんですが、当面は収支均衡の近傍で推移すると考えられるものの、需要からの所得効果だけを考慮すると、1-2年のうちに黒字基調に戻る可能性があるんではないかと私は予想しています。
いずれにせよ、我が国の貿易収支は急速に赤字幅を縮小し均衡に向かい、当面は棒s木収支均衡近傍で推移するとの見方がエコノミストの間でも多くなっているように感じています。貿易だけでなく経常収支を考える必要がありますが、4-6月期にマイナス寄与だった外需は7-9月期にはほぼゼロとなるんではないかと私は予想しています。
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