予想に反して増産となった鉱工業生産指数をどう評価するか?
本日、経済産業省から9月の鉱工業生産指数が公表されています。ヘッドラインとなる鉱工業生産の季節調整済みの前月比は+1.0%増と3か月振りの増産となり、基調判断が上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
9月の鉱工業生産、1.0%上昇 基調判断「一進一退」に引き上げ
経済産業省が29日発表した9月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比1.0%上昇の97.3だった。3カ月ぶりに前月を上回った。QUICKがまとめた民間予測の中央値は0.5%低下で、市場予想を大きく上回った。足元の販売が好調な化粧品やスマートフォン(スマホ)向け電子部品が指数を押し上げた。
経産省は生産の基調判断を「弱含んでいる」から「一進一退で推移している」に引き上げた。10月の予測指数は4.1%の上昇となり、今後は自動車での新車投入などにより回復を見込む。もっとも7-8月の落ち込みが響き、7-9月期は前期比1.3%の低下となった。2期連続の減産となった。
9月の生産指数は15業種のうち8業種が前月から上昇し、7業種が低下した。化粧品などの化学工業は5.4%上昇した。電子部品・デバイスもスマホ向けを中心に6.0%上昇した。その一方、はん用・生産用・業務用機械は4.8%低下した。
出荷指数は前月比1.3%上昇の96.7だった。在庫指数は0.4%低下の113.5、在庫率指数は2.9%低下の115.8だった。
いつもながら、網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。
繰り返しになりますが、季節調整済みの系列の前月比で見て、生産が+1.0%増の増産である上に、出荷も+1.3%増、このため在庫調整が進んで在庫率指数は▲2.9%の低下、さらに、製造工業生産予測調査では10月の生産は+4.1%の増産、ただし、11月は▲0.3%の減産、と並べると、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスが▲0.5%の減産であっただけに、統計作成官庁である経済産業省の基調判断が「弱含み」から「一進一退」に上方修正されたのも是認できる内容のように見えますが、この基調判断を勝手に進めて、生産から見て日本経済が回復に向けた動きにあるかどうかはやや疑問だと私は考えています。というのは、ひとつには8月の生産指数が速報から確報で大きく下方修正された影響もありますし、製造工業生産予測調査の信頼性の問題もありますが、極めて単純に univariate に上のグラフの上のパネルを見て、一進一退に戻ったとも思えないから、という理由もあります。
基調判断をどれくらいの頻度で変更するかは統計作成官庁の判断次第なんでしょうが、引用した記事にもある通り、四半期ベースで2四半期連続の減産ですから、まだ生産の先行きに明るい展望を持つのは時期尚早だという気もします。特に、上のグラフの下のパネルを見ても、資本財と耐久消費財の出荷がともに単月では大きな振れを伴いつつ、資本財でやや回復基調が見られなくもないという程度なのに対して、耐久消費財はまだ下落基調を脱していない可能性が高い、と考えるべきです。賃金をはじめとする所得が必ずしも上向かず、政府が旗を振っても企業の投資は進まず、ということでは景気の本格的な回復までもう少し時間がかかりそうな気もします。もちろん、「一進一退」であって回復ではないのかもしれませんから、それはそれで正確であるとの主張も理解できますし、ほぼ横ばい状態が続いていて回復まで届かないという現状認識は同じなのかもしれません。
なお、ついでながら、久し振りの9月のシルバー・ウィークは、単純に、需要にはプラス、供給からはマイナス、と私は考えていて、生産統計のような供給サイドの指標には逆風と予想していたんですが、この結果を見る限り、需要面から生産にプラスの影響を及ぼしたのかもしれません。
次に、7-9月期の四半期データが利用可能となりましたので、いつもの在庫循環図を書いてみました。上の通りです。縦軸は出荷の前年同月比を、横軸は在庫の前年同月比を、それぞれプロットしています。ただし、ややトリッキーなんですが、季節調整済みの指数の前年同月比です。昨年10-12月期から今年1-3月期、そして、直近の7-9月期まで4四半期連続で第4象限にあり、在庫調整局面を示しています。ただし、通常は時計回りを描くところが、この4四半期は反時計回りの動きを示しており、踊り場的な停滞局面を脱することができれば、もしそうならば、第1象限に戻るんではないかと私は予想しています。
ついでながら、7-9月期のGDP統計1次速報、いわゆる1次QEが11月16日に内閣府から公表される予定ですが、この生産統計を見る限り、4-6月に続いて2期連続のマイナス成長ながら、マイナス幅はかなり縮小されるんではないかという気もします。ただし、在庫調整の進み具合で在庫のマイナス寄与がどこまで大きいかにもよりますし、信頼性や正確性で必ずしも評判の高くない明日発表の家計調査の結果にも左右されます。
最後に、今週になって注目している金融政策なんですが、米国の連邦準備制度理事会(FED)は連邦公開市場委員会(FOMC)でゼロ金利政策の変更はしませんでした。果たして、明日の日銀金融政策決定会合やいかに?
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